2007年7月18日

「食の輸入は外来生物の輸入」という視点

 

米生産者会議での桐谷圭治さんの講演については、

15日付「ただの虫を~」の項で紹介させて頂いたが、

講演のなかで、桐谷さんはもうひとつ重要なことを話されているので、

やっぱりここでお伝えしておきたいと思う。

常識のようで、あまりちゃんと語られてないような気がする、という類いの話。

 

食料の輸入は、それにくっついて外来生物も運んできている、ということ。

食料にくっついて、あるいは船のバラスト水(※)に入って、

地球のあちこちから運ばれてくる。

 

侵入害虫はいつの間にか自然界に出て、人知れず繁殖して、ある日突然発見される。

同種の在来種を駆逐しながら広がるものもいれば、

国内に天敵がいない場合は、一気に繁殖域を拡大するものもある。

 

そしてこれが農薬散布を増やすひとつの要因になっている。


農薬使用の増加は、先に書いたResistance(抵抗性の出現)によって、

農薬耐性の発達(?)も促すことになる。

'農薬と耐性のいたちごっこ'の矛盾は、輸入の増加によって後押しされている。

 

新しい害虫の増加は、有機農業の現場をも悩ませる厄介な問題である。

例えば、1976年、愛知県で初めて発見されたイネミズゾウムシ。

inemizu-a.jpg(※)

 

カリフォルニアから干し草に潜んで密入国したといわれていて、

10年余で全国に拡がった。

この虫のために相当な量の農薬が散布されているし、

有機の稲作現場でも結構悩ましい虫となっている。

輸入食料の増加は、経済面だけでなく、環境と農業技術の面でも、

国内での安全な食糧生産を阻害している、ということになる。

 

そして温暖化が拍車をかける。

虫の生息域がどんどん北上しているのだ。

北上スピードは植物より速く、その地の生物バランスを変化させる。

また越冬昆虫が増えている。

 

輸入農産物の増加は、その食品自体の安全性という問題だけでなく、

国内の生産における安全性確保、環境、生態系(生物多様性)の安定といった

人の健康に関わる側面からみて、何らいいことはない。

 

オーガニックなら輸入でもいい、という立場には、私は立てない。

やむを得ず選択するにしても、そこは謙虚でありたいと思っている。

 

桐谷さんはまた、カメムシが'害虫化'した要因に水田の減反政策を挙げていた。

これも気になるテーマであるが、これはいずれ検証した後に報告したいと思う。

 

(※)バラスト水......船を安定させるために入れられる海水。到着した港で捨てられるため、世界で年間約百億トンのバラスト水が移動している(国際海事機構調べ)。バラスト水と一緒に生物も放出され、生態系の攪乱や養殖魚類への害、細菌の蔓延、有害プランクトンによる貝毒の発生などが問題となっている。

2004年にはバラスト水規制条約がつくられている。

(※)イネミズゾウムシの写真は、茨城県病害虫防除所のHPよりお借りしました。

 



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