2007年10月30日

米国・コーン視察レポート(1)-カーギル本社から

 

さてと、時差ボケも何とか落ち着いてきたところで、

アメリカでのトウモロコシ(以下、コーン)生産現場の視察報告とまいります。

 

日程は10月21日から26日の、5泊6日(うち一泊は機中泊)。

一行は、Non-GM(非遺伝子組み換え、以下N-GMと略す)の飼料用コーン・ブランドである

「センチュリーコーン」 を実際に使っている生産者2名を含む6名。

うち1名は「北浦シャモ」の生産者、下河辺昭二さん。


今回の視察は、実は下河辺さんからのお誘いだった。

 

出入国の手配から現地ガイドまで通してお世話になったのが、

カーギル・ジャパン穀物油脂本部の堀江さんと高橋さんのお二人。

 

では、まずはミネソタ州ミネアポリス郊外にあるカーギル本社訪問から。

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世界66カ国に販売組織を有し、従業員の数は15万8千人。

年商750億ドル(≒約9兆円。ちなみに07年は880億ドルを見込んでいる)は、

非上場企業では世界最大の売上高を誇る。

独自の人工衛星まで持って、世界の情勢分析を怠らない、

まさにアメリカの穀物戦略を担うメジャー中のメジャーである。

 

その本社は、日本でいえば軽井沢の別荘地のような、

しっとりと落ち着いた、紅葉も見ごろの森の中にあった。

 

別名 「シャトー」 とも呼ばれる、これが本社の外観。

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昔の大富豪から買い取ったものだという。

廊下の一角に、建物の模型が置かれている。

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邸宅を改造したものなので、間取りもそのまま残されている部分がある。

最近までここも事務所として皆が働いていたという部屋。

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すごいね。

この写真の時だけは、OKが出るのに一瞬の間があった。

たしかにこういうのは人に見せびらかすものではないし、

こちらもあんまり品のいい振る舞いではないように思う (でも撮っちゃう)。

広く取ってある受付玄関には、企業ポリシーが掲げられている。

日本語で、こうある。

「人々の食生活と健やかな暮らしをはぐくむ」

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さて、羨むような写真を並べても空しくなるばかりなので、次に進む。

我々は役員棟の会議室に案内され、

カーギル社の概況や、アメリカでのコーン生産の現状について説明を受ける。

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説明してくれたのは、

スペシャリティ・プログラム開発マネージャー、クリス・ラドウィッグ氏。

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様々なデータによって、

コーン価格の急騰やバイオエタノールの急激な増産状況などが示される。

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五大湖の南側を東から西へ、

オハイオ、インディアナ、イリノイ、アイオワ、ネブラスカといった各州に広がる

ベルト状の地域を、コーン・ベルト地帯と呼ぶ。

 

このコーン産地で、さらに急激にコーンの作付けが増大している。

06年の8000万エーカーから、07年は9300万エーカー(※)にまで増えた。

 

背景には、国策として進められているエタノール生産がある。

そこには政府や州からの補助金が落ちる。

コーンベルト地帯に重なって、どんどんエタノール工場が建設されている。

 

すでに国が予定した数字の倍近いエタノール生産量に達しているそうだ。

そして今年、ついにエタノール原料に回るコーン量が輸出量を上回った。

いま建設中のエタノール工場の半分が稼動すれば、

アメリカ国内で必要な飼料の量に匹敵する量が燃料用に回ることになる。

 

まさにレスター・ブラウンの言っていた

「ガソリンスタンドとスーパーマーケットが穀物を奪い合う」 様相である。

 

当然のことながら、コーン価格は激しく急騰しているわけだが、

それに拍車をかけているのが、アジアの巨大な胃袋-中国の輸入である。

 

コーン価格の高騰 (+エネルギー政策からの補助金) は、

コーン生産農家に支払われていた農業補助金を不要にさせるまでに至っており、

これでアメリカは、WTOの農業交渉でさらに優位に立つことになる。

「農業補助金の削減」を実現した国として、圧力はますます過激になるだろう。

 

この流れは、GMかN‐GMかに関係なく共通することだが、

現状ではGMとN‐GMの収量には差があって、生産者は今、

なだれを打ってGM品種への作付けに移行している (その辺は、あとで詳述)。

 

加えて、中国が輸入国に転じたことで、

中国からの輸出に依存していた韓国が買い付けにやってきた。

韓国は、N‐GM品種の確保では金をいとわず、高値で買い取っていっている。

ここでも日本が競り負けているわけだが、

作付けの減少+韓国の参入=需給の逼迫 ⇒N‐GM価格高騰

という図式があっという間に出来上がってしまった。

 

貿易の自由化推進論者は、外交と円の力で安い食料は安定的に手に入ると

豪語するが、果たして何を見て仰っているのだろう。

卵や鶏肉の餌というベーシックなところで敗北しつつあるのだが・・・。

おそらくは、そう言い切らないとご自身の論が成立しないからなのではないか。

しかも穀物を輸出できる国は限られているというのに。

この状況はまた、

「高品質の産物はアジアのお金持ちに売って、国内は安さで勝負する国」

と揶揄されつつある今の構造すら、危うくさせることになるだろう。

 

そしてもっと怖いのは、

急激な需要増を賄っているのは作付け面積の増加だけでなく、

ここ数年、アメリカのコーンが豊作で推移してきたことによる、ということだ。

しかも作付増は、大豆からの移行が大きい、ときている。

大豆の動きもまた、日本にとってはとても危険な話である。

 

けっして穀物は余ってはいない。

 

カーギルは、これら 「エタノール景気」の見込みや

需給の油断ならない状況を冷静に読んでいる。

 

すみません。終わりませんね。

今日は時間切れ。明日に続く、とさせてください。

 

(※)1エーカーは約4047㎡。

   数字を聞いて、下河辺さんは 「約4反か」 と換算した。僕もそれで覚えることができた。



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