« 2007年11月20日 | メイン | 2007年11月25日 »

2007年11月22日

よみがえれ、ブナの森

ちょっと遡ってしまうけど、残しておきたい。
記録-その3

11月3日(土)、文化の日。
秋田は五城目町、馬場目川の上流部にて、ブナの植林が行なわれた。
毎年この日に開催され、今年で15回目となる。

e07112206.JPG

今では全国あちこちで聞かれる 「ブナの植林」 だが、
杉などの商業材が伐られた跡地をブナ (広葉樹) の森に戻す、という
直接的にお金にならない取り組みに先鞭をつけたのは、ここである。

馬場目川は、大潟村のある八郎潟に注ぐ川。
戦後最大の干拓事業と鳴り物入りで誕生した大潟村にとって、
村を囲む形で残された残存湖は、農業用水であるとともに生活用水でもある。
馬場目川は、彼らにとって文字通り生命線のような川なのだ。

その大潟村の米の生産者たちが、子々孫々まで八郎潟の水を守るために、
川の上流部を豊かな森として残そう、と始めたのがブナの植林活動である。
地元営林署はじめ、秋田県内の自然保護団体、ボーイスカウトなど
たくさんの団体が一緒になって活動を広げてきている。

大地が提携する生産団体 「ライスロッヂ大潟」(黒瀬正代表) もその主体団体のひとつで、
大地が応援して参加するようになったのは、黒瀬さんからの呼びかけによる。
たしか3回目の植林からだった。毎年少人数ながらお手伝いを続けてきた。

そして今年も、全国各地から約150名の支援者が集った。

e07112207.JPG
 

開会式の挨拶や説明もそこそこに、時折小雨がぱらつく中、植栽地に向かう。
黄葉したブナ林と清流が我々を迎えてくれる。
水は変わりなく、美味しかった。

e07112210.JPG


10班に分かれて、植林開始。

e07112208.JPG

下草が刈られ、植えるポイントごとに白い棒が立てられている。
道路の補修もされていて、これは事前の準備こそ大変だっただろうと思われる。

e07112209.JPG

親子で植えたブナ。
君がお母さんになった時にも、子どもを連れて訪ねて来るといい。
でっかい樹になってるはずだ。
その時も今と変わりなく、川には水が溢れるように流れていることだろう。
麓の田を潤し続けながら -と願わずにはいられない。

生産者の黒瀬正さんも、精を出している。

e07112205.JPG

植えたら植えただけですまなくなる。
夏の下草刈りなど、米作りの合い間に山の管理作業も入って、大変でしょう。

「ほら大変よ。ほなけど、しゃあないやんけ。将来のためやからなぁ」
関西弁丸出しの黒瀬さんは、滋賀県からの入植である。


15年で植えた数は、1万2,600本に達した。
もちろんブナという単一樹種だけでなく、ミズナラやカツラ、トチなどを植えた年もあって、
広葉樹の混交林として育てている。
14年前に植えた樹は、すでに幹周りは60センチ、高さ8メートルほどになっている。

若木の森では小鳥や野うさぎなど野生動物の姿も増えてきている。
ブナの実は熊の好物であるが、人間でも生で食べられるのだそうだ。

e07112211.JPG

水が豊富にある。しかも美味い。
これはすべての ‘安心’ の基盤である。

風景が心を癒してくれる。
この風景は、生き物たちによって構成されている。
生き物が多様であるほど、その風景は美しく輝くのだと、つくづく思う。

e07112212.JPG


植林後は、廃校になった小学校の体育館で昼食交流会となる。
餅つき大会に焼肉バーベキュー、汁物やおしんこがふるまわれる。

もうすっかり恒例になったソプラノ歌手・伊藤ちゑさんの 「ぶなっこコンサート」。
e07112201.JPG

我々もけっこう顔馴染みになっていて、いろんな方が
「今年も来てくれたんですね」 と声をかけてくれる。 嬉しいね。
事務局長の阿部さんから指名され、今年も挨拶をさせていただく。

最後は、これまた恒例となっている、「私の子供たちへ」の合唱。
日本でのフィールド・フォークの草分け、笠木透の名曲である。

   生きている鳥たちが 生きて飛びまわる空を
   あなたに残しておいてやれるだろうか 父さんは

   生きている魚たちが 生きて泳ぎまわる川を
   あなたに残しておいてやれるだろうか 父さんは

   生きている君たちが 生きて走りまわる土を
   あなたに残しておいてやれるだろうか 父さんは


e07112204.JPG

農業を営む人たちが、当たり前のことのように森を手入れする。
その結果として、当たり前のように手に入る ‘環境’ と ‘食’。

お米の値段には、山の作業費は含まれていない。
農業の再生産を支えられれば、
つまり農家の言う ‘当たり前の値段’ で食べてさえくれれば、水も守れる。
しかし世の中はそのように進んでいない。
今日の作業を税金で賄うより、ずっと楽なはずなのだが…

敷き詰められた落ち葉は、やがて土となる。
樹が、水をしっかりと蓄える土を増やしている。
みんな当たり前のこととして、静かに、生命を循環させている。

e07112213.JPG


本当に、奇跡の星だと思う。