2008年1月18日

食料の安全保障について考える

 

正月明けから穀物やら環境やらと、しんどい話題を続けてしまって、

少々心苦しいところもあるのだけれど、

その後も追い討ちをかけるような情報ばかりが入ってくる。

 

やっぱ、これは俺のせいじゃない。

 

小麦の値上げからフードセキュリティ論まで、一気に進めてみたいと思う。


 

今日の新聞報道によれば、

製粉最大手の日清製粉が、3月からパスタを値上げすると発表した。

業務用パスタが30~40%、家庭用パスタが15~20%の値上げ幅である。

 

昨年11月にも値上げしたばかりだが、

その後も原料のカナダ産小麦の高騰が続いているため、とある。

カナダ産デュラム小麦の国際価格は、昨年8月からすでに倍以上になっている。

 

業界2位の日本製粉も、3位の昭和産業も

「日清さんと同程度の値上げを検討している」 と。

どこも状況は同じであるからして、

まるで申し合わせたかのように、と言っては失礼なのかもしれないが、

業界内のバランスが図られているようではある。

 

いずれにしても過去最大の値上げ幅である。

 

カナダ産の小麦が高騰する背景には、

EUでのデュラム小麦の不作、バイオ燃料原料への転作、ロシア・中国などでの需要増

などが挙げられている。

奪い合いになっているわけだ。

 

一方で、中華麺や餃子の皮に使われるオーストラリア産小麦は、

2年連続の干ばつに見舞われている。

こちらは、06年度に28万トンあった輸入量が、今年は1万トン程度になる見通し。

 

そしていよいよ、小麦輸出国が相次いで輸出を規制し始めた。

ロシア、アルゼンチン、カザフスタン、中国、ウクライナ、セルビア、インド...

 

「価格上昇どころか、現物の確保自体が難しくなっている」

と農水省の幹部が語っている (1/9付朝日)。

 

危機感を強めた農水省は、4月から 「食料安全保障課」 なる部署を新設するという。

新たな輸入ルートの開拓を目指すほか、国際需給などの情報をこまめに発表し、

食料安保の必要性を訴える、とのこと。

 

これぞまさに 「泥縄」 ってやつだ。

 

「新たな輸入ルートの開拓」って、どこにあるんだろう。

米・豪・カナダ以外に輸出余力のある国は、ないはずだが。

「3カ国とのパイプを広げるのが現実的」 との意見も出されているが、

すでに奪い合いの状況下にあるっていうのに、「パイプを広げる」 とは???

 

別な形で金を積んで、無理やり引き出させようとでもするのだろうか。

みんな引き締めに入っている中で-。

とんでもない高い買い物になりそうだ。 しかもそれには税金が使われることになる。

私たちは別な形でツケを払わされるのか。

 

ここで、

グローバル化を唱えてきた偉い人たちの、

その主張されてきた論を振り返ってみたい。

こんな感じだ。

 

  世界の穀物価格が高騰しても、購買力の高い日本には危機となりえない。

 

  購買力が低い国のためには、国際的な緩衝在庫や緊急融資制度を用意し、

  先進国が輸入自由化を進め、国際市場の変動を吸収すべきである。

 

  輸出国の禁輸措置を防ぐためには、国際協調に沿って行動し、

  輸出国のよき顧客となるべきであって、農業保護に固守することはかえってマイナス。

 

  国内生産基盤の維持に必要なのは、潜在力としての生産力であって、

  平時から農業生産が維持されねばならぬわけではない。

 

  平時の自給率にこだわる必要はない。

  自給率に拘泥することは政策の自由度を狭め、改革の芽を摘むことになりかねない。

 

   <以上は、農林水産政策研究所・川崎賢太郎氏が論点整理をした論考-

    「グローバリゼーション下の食料安全保障」(『農業と経済』2007年8月臨時増刊号)

    から引用させていただいた。>

 

どう思われるだろうか。

ひとつひとつの論に、自分なりの言葉を対置していきたいと思う。

 

  ●購買力の高い日本。

   -あらゆる食品が数10%値上げしても日本の消費者は大丈夫って、誰のことよ?

     格差社会が広がる中で...

   -すでに国際市場では、買い負けたりしてるんじゃなかったっけ。

 

  ●先進国が自由化を進め、輸出国のよき顧客となる。

   -ブッシュさんの演説に、すでに答えがあるようだ。

     「食料自給は国家安全保障の問題であり、それがつねに保証されている

      アメリカはありがたい。」

     「食料自給できない国を想像できるか?

      それは国際的圧力と危険にさらされている国だ。」

 

     どこも自給率の維持は国家の使命だと考えている。

     'よき顧客' はありがたいが、国内需要を保証するのが先決だろう。

     各国の小麦輸出制限はそう語っている。

 

  ●必要なのは非常時の生産力で、平時から自給率にこだわる必要はない。

   -行を割くことすら腹立たしい。

     非常時の生産を保証するためには、平時の生産力が維持されなければならない。

     優良農地も、生産技術も、不断の営みによって保たれる。

     錆びついた刀は、抜けなくなる。

     抜けたところで、斬る力と技の衰えた者は、たたかうことすらできないだろう。

 

ここまでつらつらと書いてきて、ふと思い出したのが、1993年。

'平成の米パニック' が起きた年の冬、

テレビ朝日の 「朝まで生テレビ」 なる討論番組に呼ばれて、議論に参戦したことがあった。

 

ああ、あの時とおんなじ気分だ。

 (長くなってきたので、明日に続けます)

 


Comment:

先日、宇根豊さんが新潟で講演しました。
百姓が作ってきた田、畑、里山、自然。農を無くならせたら、日本は、日本人を育ててきた環境はどうなると言うのか。それはもはや日本人ではなくなる。
この国をどうしようとしているのか。

from "ちょう" at 2008年1月20日 22:36

ちょうさん

いつも読んで頂き、有り難うございます。
宇根さんは、ありふれた田園の風景にも命を感じる方ですね。2月24日の東京集会でも講演をお願いしました。私が司会を務めます。たくさんの方に聞いて頂けたらと思っています。エビ

from "エビ" at 2008年1月21日 12:14

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