2008年3月18日

3月18日。 忘れないと決めた日。

 

3月18日がやってきた。

忘れない、忘れてはならない、と決めた日である。

3年前のこの日、千葉県市川市塩浜にあった大地の物流センターで

火災を起こしてしまった日だ。

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職員にとっては、二度と見たくない画像だけど、

あの日の、あの思いを、今日は振り返って、反省の日としたい。


以下、手元の記録から-

2005年3月18日(金) 12時15分頃、物流センター資材保管倉庫にて火災発生。

物流センターでの金曜日は、世間でいえば土曜日にあたり、

人が少なく、発見が遅れてしまった。

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延焼面積はセンター全体の5分の1ですむも、

隣接する区分けラインおよび冷蔵・冷凍設備が使用不能となる。

緊急対策会議で、21(月) ~22(火) の二日間の配送停止と、突貫での再建作業に入ることを確認。

人海戦術開始。

生産者への連絡。 会員への緊急連絡文書を作成し、発送。

19日(土)、消防署・警察による現場検証。 「漏電の可能性」 の指摘あるも、原因は特定できず。

倉庫での作業再開には消防署の許可に時間がかかると判断し、代替倉庫の手当てに入る。

20日(日)、埼玉県和光市に代替倉庫を確保。 水曜日からの野菜セットのお届けを手配。

21日(月)、代替倉庫の調査継続。 常温・冷凍・冷蔵の区分けを分散しても行なうことを決定。

22日(火)、和光センターにて野菜セットの作業開始。 会員からの問い合わせ1000件を超える。

23日(水)、ベジタ、緊急野菜セット、卵の配送再開。 南船橋に冷蔵・冷凍用倉庫確保。

       至急設備とライン設置に入り、28日より品目限定ながらも配送再開を決定。

24日(木)、八王子のマゴメさんからの米の直送に社員応援派遣。

       物件交渉継続しつつ、区分け再開の準備を進める。

27日(日)、一部常温品・冷蔵品・雑貨の区分け再開。

28日(月)、配送開始。

 ・・

 ・・

その後、順次、品目を拡充しながら、復旧を進めていったのだった。

 

仕入、物流、会員対応など、必死の作業が続く。

しかし、毎夜の緊急会議で状況を確認しつつも、

動きが早まるほどに、社内の認識に誤差が発生し、不安や苛立ちの空気が流れ始める。

社長に呼ばれ、各所の情報を整理して全体化するように指示される。

徹夜でまとめ、気力を無理やり前面に出した社内報を出す。 3月25日(金) になっていた。

『 大地復活!情報 ‐今こそ見せよう!大地の底力‐ 』

 

ここで俺たちの底力を見せなかったらどうする。

多大な迷惑をかけているにもかかわらず、心配し、励ましてくれる生産者や消費者に、

やっぱり大地は頑張ってくれた、と言わせてみせる。

そんな決意をひとつにしなければと思った。

 

会社の方針や他部署の動きを批判した後輩を叱ったこともあった。

その部署で今働いている人は、

たとえ自分がそこにいてもそれ以上にはできない、それだけのことをやっているのだ。

そう信じて、自分もやれるだけのことをしよう。 指示を待てと言われれば待つ。

ここでの信頼は無条件である。 個人的な行動は慎め。

今思えば、僕もフツーじゃなかった。

 

「復活情報」 で、社長の心情を伝えた。

  -本当に申し訳ないという、心からのお詫びの気持ちで再出発しよう。

    我々の責任を自覚し、お詫びの心で、全力で復旧にあたって欲しい。

 

その夜、寝不足なはずなのに眠れず、寝床でやたら泣いてしまった。

なんだか、やけに悔しくなってしまったのだ。

日々欠かすわけにはいかない食べものを運ぶのが僕らの任務なのに、

運べない悔しさが、腹の底から込み上げてきたのだった。

こんな職業意識が自分にあったんだろうか、と思ったとき、思い出したことがあった。

 

大地に入って最初の冬だったか、2度目の冬だったか......82年か83年のことだ。

神奈川の葉山方面に配送に出た日、とんでもない雪に見舞われた。

葉山といえば、高台である。

巻いたチェーンも利かず、高台の下で立ち往生して、ついに登れなくなった。

手に息を吐きながら、これは無理だと観念したとき、

この山の上で、「今日はあるものですませましょ」 と話している家族がいることを想像してしまった。

しばし思案したあと、ここは根性だよね、と

一回に20~30キロくらいの荷物を担いで、山の上まで往復した。

共同購入のステーションが2ヶ所あったから、10往復はしたと思う。

あの時の決意は、職業意識というより、今ここにいる自分への意地のようなものだった。

荷台にあの家族の食い物を積んだまま、おめおめと帰れるか。 ゼッタイに届けてやる。

黒澤明の映画 『天国と地獄』 、あるいは八甲田山死の行軍のような気分でもあったけど......

最後の配達先である鎌倉の会員さん宅に着いたのは夜の11時を過ぎていた。

ドアを開けた奥さんの、まるで亡霊でも見るような眼差し。

常識はずれのことをしている自分を悟ったのだった。

 

会社に戻ったのは日付が変わって1時くらいだったか。

それでもみんな待っていてくれて、また僕より遅く帰ってきたトラックもあった。

皆、やり切った満足感があった。

 

非常識だったかもしれないけど、それでも運んだのだ。

しかし今回は、火災の二文字に、手も足も出ない。

こんなことは二度と起こしてはならない。

 

「大地復活!情報」 は火災から1ヵ月後、4月18日発信でその任務を終了した。

最後は、火災の一週間前に地鎮祭を行なった習志野市茜浜のセンターの建設が

急ピッチで進んでいる報告で締めさせていただいた。

 

今思い返しても、あれ以上に早くはできなかったと思う。

しかし、事前のリスク対策が弱かったことも、たくさんのお叱りも受けたことも、

忘れてはいけない。

 

昨日、僕は宮城に出張していなかったけど、

習志野の物流センターでは、防災訓練が行なわれた。

 

忘れないようにしよう。

あの悔しさを。 そして人の優しさにたくさん感謝したことを。

 


Comment:

1990年から1997年まで大地でおいしく頂きました。(まだ株券持ってます)イギリスに住み11年になります。こちらの有機宅配でミス(ドライバーのパンの配り忘れ)が続いていて、ふと大地を懐かしく思い出しWebのぞいていました。センターの見学に行かせて頂いたことがあります。確か見学後の質疑応答に戎谷さんがおられたと記憶しています。目を三角にしたおばさんの質問にリラックスした様子で答えておられたのをおぼろげに思い出します。火事があったとは・・・読みながらちょっと感動してしまいました。11年前、こちらに来た時は有機栽培なんて無く、Webでみつけた宅配で細々と食べていましたが、ここ3,4年でOrganic、FareTradeは当たり前になりました。狂牛病などで食に対する考えも変わり、国内産の食物の重視又今は野菜作りが流行っていて公共の貸し農園は10年待ちとか。私も庭を耕し始めました。今日こちらでは食物の高騰がトップニュースでした。これからも大地の存在が大切になってくると思います。あんしんはしんどい、でも、おいしくて、楽しくて、うれしい。ご活躍、楽しみにしています。

from "はつみ" at 2008年4月24日 05:39

はつみ様
コメント有り難うございました。お返事遅れてすみません。
イギリスにまでわが株主がおられるなんて、嬉しいような、不思議な感じです。ちゃんと株主総会の案内は届いていますでしょうか。心配になったりして。
イギリスの有機宅配でもパンの配り忘れがあるというお話には、とても親近感が湧きました。それで大地宅配を思い出された、は複雑な思いですが……すみません、まだ格闘の日々なんです。はつみさんが日本に戻られることがあった時には、少しは成長した大地宅配をお見せできるよう頑張ります。
食物の高騰は世界じゅうの動きですね。また何かありましたら、トピックお知らせください。
11年も経つとすっかり生活にも慣れたことでしょうが、地球の気候は変動期のようでもありますので、どうかお体に気をつけて、お元気でお過ごしくださいませ。ではまた。

from "えび" at 2008年4月26日 15:46

共同購入からの会員です。大地とはもう20年程のお付き合いになるでしょうか。
火事のことはよく覚えてます。心配しておりました。大変だろうからと、電話は控えてHPを見ていましたが、たいしたことは記されておらず、配送される品物についての情報も少なかったように覚えています。この火事の写真や実情などを、あの当時知らせて欲しかったなあと思いました。
単なるいち消費者かもしれませんが、20年も付き合えば親戚のようなもの。よい事も悪いことも共有していいのになあ、と思ったのものですがいかがでしょうか。多少のことでは動じませんよ。
それにしても大地はずいぶん立派になりましたね。品物の質、種類はもちろん、電話やメールの対応の丁寧で的確なことといったら天下一品。こちらまで誇らしくなります。

from "にしの" at 2008年6月11日 20:01

にしの様

コメント有り難うございます。ご指摘の通りです。あの時は、僕らの精神状態も尋常ではなくて、最低限の事実を伝えることで精一杯でした。リスク管理のトレーニングもできていませんでしたね。数々の反省と悔しさ、そして生産者・消費者の方々から教えられた感謝の心を忘れずに、皆さんの期待に応えられるよう精進を重ねなければなりません。
「天下一品」とは、いくらなんでも褒めすぎです。もっとよくしなければなりません。頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

from "戎谷徹也" at 2008年6月16日 23:18

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