2008年4月アーカイブ

2008年4月28日

ネットでつながる

 

昨年の6月末からこのブログを始め、何度かヘタリそうになるたびに

嬉しいコメントが届いては、励まされてきた。

ヘンな迷惑メールもままあるけど、それ以上の喜びもあって、

つくづくとインターネットの力のすごさを実感させられている

昨年からの 「わたしのブログ体験」 である。

 

程度が知れることを告白すれば、

外国からの反応が、突然パソコンのメール受信箱に飛び込んでくるのに驚いたりしている。

 

3月18日の、センター火災を振り返った日記には、イギリスから投稿があった。

英国に住んで11年。 元・大地の会員さん、いや今も株主という方である。

 

『イギリスの有機宅配で、パンの配り忘れが続いていて、ふと大地が懐かしくなって...』

 

"英国の有機宅配" に親近感を感じてしまった私。

ミスの連発で懐かしく思い出してもらった大地。

微笑ましくも、かなりトホホな話ではないか。 大地諸君! ガンバロー。 -なんてね。

はつみ様、すみません。 また楽しいお便りください。

 

その前は、ベトナムから反響があった。


ちょっと前の話になるけど、合鴨水稲同時作について書いたところ (3月12日)、

ベトナムで農民の自立支援のボランティア活動をしている方から投稿である。

 

合鴨農法も万能ではなく、問題点もある、というような一文に、

どういうことかという質問だった。

短いコメントではすまなくなって、直接メールでお応えしたところ、

実はその方は、合鴨ではなくアヒルを活用した米づくりに農民と一緒に取り組んでいる、

ということだった。

問題点は共通していた。 しかしこの水鳥を使った農法の可能性もお互い分かっていて、

話がはずんで (という言い方もヘンだけど)、先週、

一時帰国した際に会う約束までしたのだが、どうしても都合が合わずに流れてしまった。

I さん、スミマセンでした。

次の帰国の際には、また是非ご連絡ください。

色々とやりたいことが山ほどあるようでしたが、あまり無理をなさらずに、お元気で。

 

想定外の人とのつながりが、ある日突然生まれる。 これは感動もんだ。

いつも食のグローバリゼーション (結果としての支配や均一化) を批判しつつ、しかし

その上を行く (次の時代を拓く) ためには、コミュニケーションのグローバリゼーション (ネットワーク)

をモノにしなければいかん、と思う次第である。

 

油断ならないのは、アメリカのアイツだ。

昨年10月にノンGMコーンの視察で出会ったケント・ロック氏が、

どうも時々私のブログをチェックしていて、

カーギルジャパンのF氏に質問をしたりしているようなのだ。

彼は日本語が分からないので、またMr.エビスダニは英語ができないので、

直接の投稿は控えてくれているのだが (有り難い)、

興味を引いた写真を見ると、「なんて書いてるんだ?」 とF氏にメールが入るらしい。

Fさん、ケントの旺盛な好奇心に振り回されているらしい......

 

ケントは今年もノンGMコーンの作付けをしてくれた。

相場がどんどん上がって、GM (遺伝子組み換え作物) の圧力も強い中で、

「でもケントさんは今年もセンチュリーコーン (ノンGMの品種) を植えます」

といったジョークまじりのレポートを寄せてくれている。

反応しなければいけないのは、オレのほうだった。

 

Fさんから、そのケントが6月下旬に日本に来る、という連絡である。

歓待しないとね。

そしてたくさんの人に紹介したいと思っている。

 



2008年4月26日

春の総人足

 

日本列島の彼方此方 (あちこち) で、今年も米づくりが始まっている。

世界的に穀物が高騰する中で国内の米価は下がっても、

地球の反対側の熱帯林が大豆畑に変わってるのに減反を強化する国で、

当たり前のように田の準備に入ってくれる農民たちがいる。

 

福島県喜多方 (旧山都町) の棚田で米を作っている浅見彰宏さんから、

例の案内が届いている。

前にも紹介した、堰 (水路) の清掃作業、「春の総人足」 のお誘いである。

 

まるごと書き写してみたい。

このところ話題にしてきた有機JASよりも大切なものがここにあると思うのだ。


 

  喜多方市山都町本木および早稲谷地区は、町の中心部から北に位置する

  併せて100軒足らずの小さな集落です。

  周囲は飯豊山前衛の山々に囲まれ、濃緑の森の中に民家や田畑が点在する静かなところです。

  そんな山村に広がる美しい田園風景には、ひとつの秘密があります。

  それは田んぼに水を供給する水路の存在です。

  水路があるからこそ、急峻な地形の中、川沿いだけでなく山の上部にまで

  田んぼが拓かれ、田園風景が形造られているのです。

  その水路は本木上堰と呼ばれています。

  早稲谷地区上流部から取水し、早稲谷川右岸をへつりながら下流の本木地区大谷地まで

  山中を延々6キロあまり続きます。

  水路の開設は江戸時代中期にまで遡り、そのほとんどは当時の形、

  すなわち素掘りのままの歴史ある水路です。

  深い森の中を澄んだ水がさらさらと流れる様を目の当たりにすると、

  先人の稲作への情熱が伝わってきます。

 

  しかし農業後継者不足や高齢化の波がここにも押し寄せ、

  人海戦術に頼らざるを得ないこの山間の水路の維持が困難な状況となっています。

  水路が放棄されたとき、両地区のほとんどの田んぼは耕作不能となり、

  美しい風景も失われてしまいます。

 

  もっとも重労働である春の総人足 (清掃作業) のお手伝いをしてくれる方を募集しております。

  皆さん、この風景を守りつづけるために、是非ご協力ください。

 

 

浅見君からはじめてこの作業の話を聞かされたのは、昨年2月の 「大和川交流会」 の席だった。

米と水と人の手の和でつくられる日本酒を愛する者として、

「行くしかないね」 が僕の答えだった。

 

昨年の様子は過去の日記を参照いただくとして、

 (12月8日:http://www.daichi-m.co.jp/blog/ebichan/2007/12/08/ 

  7月10日:http://www.daichi-m.co.jp/blog/ebichan/2007/07/10/ )

今年も作業日は 5月4日に行なわれる。

浅見君からのメールによれば、

昨年は降雪量が少なかったものの、水路には雪折れの木や崩落ヵ所が多く、

昨年よりも苦戦しそうだとのこと。 ......ヤな予感がするが、行くしかない。

 

山あいの小さな集落の人々の手で守られている水路。

その水路があることによって、麓の田園も恩恵を受けている。 我らが 『種蒔人』 も-。

これこそ農業の外部経済 (それがあることによって得られている経済効果) =力そのものであって、

この維持は、この国 (列島) の資産を守ることに他ならない。

もちろん地元のお年寄りたちは、お国のために骨を折っているのではない。

水路の補修を終えたあと、

「ああ、これで今年も田んぼに水がくる」 と素直に安堵していた

地元の老生産者の表情を覚えている。

当たり前の営みが育んだ自然観が、この国の豊かさの土台であったし、

私たちの精神世界の源でもあったことを、彼らから教えられたものだ。

 

この日記を読んでいただいた方で、参加してみようかという方がいらっしゃいましたら、

どうぞお問い合わせください (今からでも大丈夫だよね、浅見さん)。

コメントで投稿していただければ、個別に対応させていただきます。

GWに暇をもてあましている大学生とか、いませんか?

もちろん女性でもOKです。 

 



2008年4月23日

有機農業推進のモデルタウンづくり

 

有機食品の認証に対するまっちゃん (お茶の松田君) の疑問と苛立ちは、

どうやら僕が想像してた以上に深そうだ。

コメントに返事を書いても、どこか自分の言葉が白々しくも感じたりして-

 

そんな折、ひとつの会合に出席した。

e08042201.JPG

 

4月21日(月)。 ここは千葉県山武市、JA山武郡市睦岡支所の会議室。

集まったのは、生産者団体 「さんぶ野菜ネットワーク」 から選出された8名に、

地元・山武市およびJA山武郡市 (の職員)、地区内で有機野菜の農場を運営するワタミファームさん、

そして大地を守る会から私。

 

実は農水省の公募事業によって、

有機農業の総合支援対策事業の実施地区 (これを 「モデルタウン」 と呼ぶ)

の候補として指定されたことで、

その推進母体となる 「山武市有機農業推進協議会」 を共同で設立する、

その総会が開かれたのだ。

殺風景な、どうってことない会議のようにしか見えないけど、

このご時勢に国から400万 (×5年) ほどの助成がおりる事業を進めるための

キックオフの会議である。


国は、2011 (平成23) 年までに、

有機農業を推進する体制が整備されている自治体 (市町村) の割合を50%以上にする、

ということを政策目標に掲げている。

知ってた? まっちゃん。

これが、我々が相当なエネルギーをかけてやった

「有機農業を広げるための政策をこそ、つくろう」 という運動の、ひとつの成果でもあるんだ。

 

有機農産物が 「JAS規格」 に収まってから、

これだけではダメだと言いながら、

何とか実現にこぎつけた、便秘の処方箋 (のひとつ) のようなものかもしれない。

いや違う。 本来の政策要求だ。

 

しかしこの補助事業は 「地域での推進」 が前提であるために、

まっちゃんのような個人農家がすぐに助成対象になるわけではない。

地元の行政がその気にならないといけない。 国には 「公共性」 という前提が必要なのだ。

逆に言えば、全国各地の有機農業者たちが行政を動かした所だけに

国の法律による支援が下りてきている、ということでもある。

 

有機農家が国の補助金なんかを求めてやっているわけではないことくらいは、重々知っている。

でもかつて、その存在すら認めなかった 「有機農業」 を法律で定め、

振興策までつくらざるを得なくなったことを、

僕はけっこう、運動の力以上に、世の流れと受け止めている。

だって、今の 「食」 の世界がそれを求めている、と思わざるをえないじゃないか。

 

公共性さえ担保できれば、「有機農業」 の振興を国が支援する、というところまではきた。

もちろん農業全体は、それどころではないくらい危機なんではあるけど。

 

で、山武の話だが-

この事業計画が、なんというか、まだ稚拙なのである。

計画策定に気楽に付き合ったつもりが、いやいや、大地の役割は重い。

これから意外な話に展開していく予感がする。

 

まあ、この地で有機農業をスタートさせる時から関わってしまった因果なのかもしれない。

ちゃんと結果を出せば、この何回かで書いてきた日記の答えにもなるだろう。

答えは数年後になるけど...... 

 



2008年4月20日

有機農業者の悲鳴?

 

4月5日と8日の日記で紹介した "まっちゃん" こと松田博久君から、

日記を読んでくれてのコメントが届いたのでアップした (8日付へのコメント)。

苦しい胸のうちが語られている。

 

  安全を担保するには、 "しんどい"  は避けられないことか?

  ただでさえ難しい有機農業に、しんどい作業がついて回ると、

  これから有機農業に取り組む人が減りはしないかと心配になります。

 

まっちゃんの言う通りなんだよね。

実際に、有機の認証を取っている生産者の多くが悲鳴を上げている。


三日前の4月17日、

農水省による3回目の 「有機JAS規格の格付方法に関する検討会」 が開かれたが、

生産者サイドから選任された二人の委員が、1回目から共通して訴えているのは、

記録や文書管理のわずらわしさであって、栽培の大変さではない。

(ちなみに二人とも、奇しくも大地の生産者会員である。)

 

「もっと記録とか管理の仕組みを簡便化しないと、やる人は増えない」

  (山形・庄内協同ファーム、志藤正一さん)

「実際に現場では、高齢の生産者などは脱落していっている。

 このままではいったい誰のための、何のための有機認証制度なのかと思う」

  (鹿児島・姶良町有機農法研究会、今村君雄さん)

 

しかし消費者サイドから出る意見は、検査の厳格さを求めるものだ。

そうでなければ制度への信頼性が薄れる、と。

 

国もまた、これが検査-認証の制度である以上、

農家が悲鳴を上げたからといって緩めるわけにはいかない。

しかも有機JASは国際基準との整合性を求められているのだ、との論理が立ちはだかる。

 

認証機関も同様である。

有機農業者は増えて欲しいが、生産者に甘い検査をしては自らの信用に関わる。

加えて、監査-認証には 「公正さ」 が求められるため、

監査の過程でのアドバイスや指導は許されない。

それでいて、認証機関の不適切業務が時折発覚したりするものだから、

彼らはますます襟を正して、厳格になろうとする。

 

生産者の憤懣は募る一方だ。

いったい誰のための......これでは 「制度のための制度」 ではないか......

 

検討委員を引き受けた以上、偉そうに制度を否定するだけではいけないことは分かっている。

ただ何とかして、みんなで手足を縛り合っているような、この閉塞感を突破したい、と思うのだ。

 

僕がこの委員会で仕事をしたと言えるかどうかは、

あと2ヵ月くらいの思考の整理にかかっている。

 

まっちゃんのお茶 (「松田さんのお茶」) でも飲んで、もう少し苦しんでみるか......

 



2008年4月16日

春の風物詩

 

そう間を置かず、カッコよく再開しようとねらったのだったが、

やっぱりそうもいかなかった。

農産物の仕入から発注、栽培管理まで、

とにかく今は全体を理解するのに追われてしまっています。

 

チッチさん。 コメント有り難うございました。 返事も書きましたので、ご確認ください。

前回のテレビ局の取材の話には、他団体の広報の方からもコメントをいただきました。

どうやらマスコミ取材に苦々しい思いをした経験があるらしい。

でも、それはちょっと生々しくもあり、アップできない旨、ご容赦いただいた次第。

 

このところは、文字通り三寒四温のような日々ですね。

桜が咲いたと思えば花嵐が吹き、なたね梅雨に入り、高気圧と低気圧の追っかけっこで、

三日と晴天は続きません。

冬から夏へと向かいはじめる不安定な時季こそ、春なのかも。

端境 (はざかい) 期とよばれる野菜の移行期に、天候はさらに出荷を不安定にさせます。

大地宅配の野菜セット 「ベジタ」 も予定通り組めず、値引きの判断を強いられました。

特定の生産者と契約しているがための宿命のようなものです。

 

若者も巣立つ季節。 いや我々にとっては若者を受け入れる季節か。

こんな一枚はいかがでしょうか。

e08041603.JPG


これは先週の土曜日、

4月12日に行なわれた 『大地合宿』 と呼ばれる職員研修での伝統行事、

新入社員による 「新人発表」 のひとコマ。

ヴァイオリン演奏を披露してくれた新人さんです。

 

幕張本社近くの研修施設と公園を借りて行なわれた今回の合宿。

幹事を担当した部署の配慮で職員の家族の参加も受け入れることとなり、

「家族への感謝」 をテーマに盛り込んだ、アットホームな合宿になりました。

幸いにして晴天の青空の下、こんな感じで。

e08041601.JPG

 

フィアンセを連れてきたヤツもいて、何だか今の若者が羨ましくもなって。

 

新人発表も、昔はスピーチ一本で勝負するヤツが多かったですが、

昨今はどうも一芸披露の傾向になっています。 その方が記憶されやすいということなのか。

下の写真は昨年秋に中途で入った職員。

こちらは自分がやってきた専門分野を使っての研究発表的で、

僕はどちらかというと、こういう方が好きです。

e08041602.JPG

 

個人の発表のあとに飛び出したサプライズ、の新卒3人娘による大根踊り。 

こいつら東京農大でもないのに? ......専務のウケを狙ったか。

物怖じしない世代が育っています。

e08041604.JPG

 

そして夜の懇親会 (宴会) 。 想定外の飛び入りが登場。

北海道・富良野の生産者、今利一さんです。

他の用事で東京に来たらしいのですが、大地の職員が合宿をやっているということで、

こっちに飛んできてくれました。 嬉しいことです。

e08041605.JPG

 

写真左が今さん。 右は大地の農産仕入担当取締役、長谷川満。

富良野でも麓郷 (ろくごう) という、ちょっと標高の高い土地で有機農業を営んでいます。

テレビドラマ 『北の国から』 の舞台となったところで、

ドラマの脚本を書いてきた倉本聡さんが開いた 「富良野塾」 の門下生の世話もしていたりして。

でも本人はそんなことを売りにしたくなく、「言うな」 とかたく禁じられているので、

僕らも言わないことにしています。

5年前からは、富良野市の市議も務めている。

みんなからおだてられ担ぎ上げられて、そんな心象をぜ~んぶ受け止めて頑張っている。

揶揄されても、笑いながら働く今さんが、僕は好きでたまらない。

 

酒の席で、若い職員が遠慮なく質問する。

「今さんの玉ねぎは何で小さいんですか?」

 

いやあ.........困ったなぁ、という顔をしながら、今さんは応える。

「僕も小さくていいと思ってないだけども、な~んでか、こいつら小さいんですよね。 何でだろ。

 でもですね。 大きい玉ねぎに負けないだけのエキスがギュッとつまってる、と僕は思ってるんだ」

 

今さんはこういうふうに言う人だらから、みんなに好かれるんだよね。

俺だったら、「お前に何が分かる」 とか言ってしまうだろう。

 

今グループのメンバー・菅野義則さんから聞いたことがある。

「有機に変える前、化学肥料を使っていた頃の今さんの玉ねぎは、そらぁ立派だったよぉ。

 選果場でも一番の評価だったね。 今さんは作る技術は持ってるんだよ」

 

有機農業の思想に触れて、今さんの苦労は始まったのかもしれない。

彼の玉ねぎは多少小さめだが、

「有機」 と決めたら 「有機一筋」 という彼の姿勢は骨太である。

僕らはその "意味"  に付き合っていることを知っておかなければならない。

しかも、金もないなのに、離農する農家の土地を引き受け、新規就農者にタダで貸し......

聞くたんびに、あんたの貸借対照表はどうなってんの、とか言いながら、

今さんのちっちゃな玉ねぎに、我々の苦労も重ねたりしている。

 

なんだかんだ言いながら、

合宿と聞いて飛んで来てくれたことに皆な嬉しい気分にもなって、

職員のアパートに連れていって一緒に泊まったりしたのでした。

 

翌日の朝、重たい頭で帰りの道すがらに出合った菜の花畑。 

e08041606.JPG

 

ああ、満開だ。

俺のウダウダした拘泥なんか関係なく、世界は摂理に基づいて流れています。

 

春は落葉の季節でもあります。

e08041608.JPG

 

常緑樹の葉の生え変わりを詩にした作品を、実は見たことがない。

浅学ゆえだと思うが、それにしても見ない。 何でだろう。

春の花開きの次は、若葉という気分か。

でも今時分は、相当に落ち葉の季節でもあるのです。

e08041609.JPG

 

放ったらかしていた雑草プランターで、レンゲの一番花が咲きました。

空気中のチッソを取り込んでくれる、昔からある優れもの。

e08041607.JPG

 

この花が枯れる頃には、田植えが始まる。

だんだんと、この日記のピッチも取り戻してゆきます。

 



2008年4月 8日

"厳しいチェック" と "信頼" の間

 

これはTV局の取材風景。

東京12チャンネル 『カンブリア宮殿』 という番組のカメラ・クルーが入った。

3月28日(金)。 場所は埼玉県岡部町、黒沢賢一さんの畑。

e08040601.JPG

 

僕はここで、生産者の栽培内容を確認する大地職員として、取材に応じたのだが、

進めていくうちに、立場によって視点が大きく異なることを感じさせられることになったのだった。


取材の意図は、ギョウザ事件など食に対する不安な事件が続く中で、

消費者からの信頼を増している団体として、大地を守る会を紹介したい、というもの。

そのように評価されることは大変嬉しくもあり、誉れではある。

 

番組のコンセプトは個人に焦点を当てる形になるようなので、

藤田会長をメインに、あちこちと取材が始まって、

物流センターから内部の書類審査の場面など、いろんなところにカメラが入り、

そして、実際の生産現場をチェックしているところを撮らせてくれ、ということになった。

 

あんまり深く考えずに出かけた私も呑気ではあったが、

生産者の記録書類やら伝票やらを確認し、畑で状況を見たりしているうちに、

TV局の方の期待と、自分がやっている作業に、大きなギャップがあることに、

気づかされることになった。

 

つまりTV局としては、「どこよりも厳しく」 栽培内容をチェックしている大地、を撮りたいのだ。

たしかに資材の購入伝票まで見せろという取引先は、そうないだろう。

しっかり撮られた。

しかし彼らの期待からすると、私と生産者の会話が、どうも生ぬるく見えたようなのだ。

 

「よく (記録を) つけてるじゃないですか。」

「ここも大地に報告された内容と一致してますね。

 でもここのところは、次から正確な数字も一緒につけておくようにしましょう。」

「ああ、だいぶ (害虫に) やられてますねぇ。

 出荷まであと半月くらいあるよね。 どうする? う~ん、我慢するしかないのか・・・」

 

私にとっては、生産者の農薬を使わない " 姿勢 " や " 対処する技術 " を確かめている

作業なのだが (作業日誌の 「草取り」 記録もさりげなく、しっかり確かめていたし)、

しかし、テレビカメラにとっては、これは 「厳しいチェック」 には映らない、のだ。

 

「今は、何をチェックしたんですか?」

「それで、何が分かったんですか?」

さすが、マスコミの方の突っ込みは厳しい。

 

そうか。 僕が今期待されているのは、疑いを基点にした作業なのかもしれない。

「ここまで細かく大地は見ているし、その裏づけをトコトン調べ上げようとしている」

という絵を。

いや、納得したかったのだ。 撮っている映像の意味を。

でも何だか、いちいち意味を説明するのも、だんだん億劫になってくる。

 

藤田会長も心配になって、フォローの説明をしてくれる。

お手数おかけしました。すみません。 

e08040602.JPG

 

大地は、たしかに細かい報告や情報開示を求める。

しかし、それをいちいち疑って、ここに来ているわけではない。

まずもって信頼できる人であること (そこには長年の蓄積もあるんだ)。

その上で様々な記録や畑の状況に整合性があるか、を見せていただく。

疑惑の感覚で書類を漁っても、かえって見えるはずのものが見えなくなる可能性がある。

 

細かい書類確認もするし、農薬の使用に対して、ああだこうだと意見を出すこともある。

しかし、僕らが自慢したいのは 「チェックの厳しさ」 以上に、

「生産者との信頼関係の強さ」 でありたいと思っている。

嘘をついたり、隠す必要のない関係づくりがないと、「信頼」 はただの呪文でしかなくなる。

ただこれは極めて人間的な判断になってしまうがゆえに、それをカバーするものとして、

生産者を前面に出した情報誌があり、消費者との交流 (人そのものの開示) があり、

大地独自の制度である第三者認証機関の監査がある。

それに実際の厳しいチェックというのは、

今日の聞き取りの前に相当にやり合ってきたことなのだ。

言いにくいが、それが過去の失敗から学んできたことでもある。

ゼロから出発してここまできた32年の重みと自負は、伊達ではないと思っている。

 

前回の日記で紹介したまっちゃんが、

大地は "性善説" に立っていると言ってくれることは、とても嬉しいことだ。

僕らの間には隠すべき必然性がないことを、生産者が語ってくれていることだから。

でも、まっちゃんが有機の認証を受けたように、

それを証明する手立てとなれば、とても細かい記録と自主管理が必要になる。

 

性悪説に立たないと人が信じられないとしたら、

その団体の目と、生産者との関係性は相当に痩せたものになるだろう。

しかし証明はとても難しい。 

ギョウザ事件で 「検査を強化する」 と語った生協の重役さんがいたが、

はっきり言って、抜き打ち検査をどれだけ増やしても、すべての行為は証明できない。

これは食に携わるものとして、充分気をつけておかなければならないことだと思う。

 

「資材屋さんの請求書、見せてもらうよ」

「あいよ」

この会話にこそ、我々の奥義があったのだが、

しかし、今の時代にとって、

性善説という判断姿勢は極めて説得力の弱いものになってしまっているのだ。

このことも、心して考えなければならない。

 

テレビ局の人から教えられた。

彼らはただ、厳しい大地を見たかったのだろう。

それに対して、僕は 「信頼」 の根拠を説得力をもって語れなかった。

 

結果的に、テレビ局の方の期待に沿った行動はできなかった。

そのことを  "世間の風"  と受け止めたい。

 

終わり頃にはだんだん黒沢さんは不機嫌になってきて、

これでは監査失敗である。

その後もう一軒、本庄の瀬山明さんのところも回ったのだが、

ここはもう甘く見えてしまうやり取りを続けるより、

ぽんぽんと瀬山さんの無農薬栽培の極意を語ってもらうことにした。

 

放映日は、5月5日に予定されたらしい。

どんなふうに編集されるか、今からドキドキしている。

 

まっちゃん、ネタにしてごめんね。

"性善説" もつらいんだよ、けっこう。

 



2008年4月 5日

春だよ。 再開しよう。

 

e08040501.JPG

 

幕張の桜も満開だ。

春だよ。

ぐちゃぐちゃ言ってないで、再開しよう。

 

もうちょっと落ち着いてから、なんて考えてたけど、

身に余るようなコメント (てんさん、ありがとうございました) に加え、

周囲からも 「続けるんだよね」 「再開はいつ?」 といった声をかけてもらったりして、

その気になってきたところに、

懐かしい奴からのコメントが飛び込んできた。


たいへんそうですね。でも、それは世の中における大地の存在が、日々大きくな
っている証ではないでしょうか。でも、過労死はしないでくださいね。実は今日、
有機認証の監査があり、「安全はしんど~い」を実感した1日でした。
言ってみれば、有機認証は性悪説を前提にした制度、大地は性善説を前提にした
制度といったところでしょうか?どっちが楽しく農業できるか、わかりますよね。
それでは、再開を楽しみにしています。

 

80年代の元大地職員。一緒に配送員時代を過ごした "まっちゃん" 、松田博久からだ。

立教大学を出て大地に入ってきた頃は、静岡の実家に戻るかどうか

迷っていたフシもあったように記憶しているが・・・いや、迷ってはいなかったか。

でも 「無農薬では、お茶はゼッタイ作れん」 とか言ってたよね。

それがいまや立派な、有機栽培によるお茶の生産者である。

勉強もしたんだろう。 そして今年も認証を更新したんだね。 お疲れ様。

 

生産者の努力が報われる社会を築きたい。

そして、つくる人と食べる人が信頼でつながることが、

食の安全と暮らし・環境を守る道筋であることを、僕は疑ってない。

世の中すべてがそうなることは難しいかもしれないけど、

そのモデルづくりに邁進してきたなかで、だいぶ変わってきたという実感はある。

どこまでいけるか分からないが、

やれるだけのことはやって、次につなげたいと思っている。

まっちゃん、ありがとう。 俺も弱音吐いてないで頑張ってみよう。

 

ところで、まっちゃん。

「有機認証が性悪説」 というのは、ある意味で仕方がないことかもね。

監査というのは、規格違反や隠し事がないことを確認する作業だから。

検査員だって本当は、生産者を支援したいと思ってやっているんだけど、

監査にミスや手抜きがあっては、認証を取っているみんなの信用に影響する、

そんな緊張感もあるんだ。

根掘り葉掘り聞かれて、ウンザリしたことだろう。

「こいつは、俺をずっと疑ってかかってきている」 なんて思うんだよね。

でも、それに耐えて誠実に対応したことで、君の栽培と管理の確かさが認められたんだ。

これはこれで勲章だ。 おめでとう。

 

 "性善説と性悪説" については、実は僕にも、考えさせられた出来事が、つい最近あった。

その話を次にしたいと思う。

e08040502.JPG

 

こいつは、ヒヨドリでしょうか。

小鳥も春の気分で嬉しそうだ。

 



大地を守る会のホームページへ
とくたろうさんブログへ