2008年4月 8日

"厳しいチェック" と "信頼" の間

 

これはTV局の取材風景。

東京12チャンネル 『カンブリア宮殿』 という番組のカメラ・クルーが入った。

3月28日(金)。 場所は埼玉県岡部町、黒沢賢一さんの畑。

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僕はここで、生産者の栽培内容を確認する大地職員として、取材に応じたのだが、

進めていくうちに、立場によって視点が大きく異なることを感じさせられることになったのだった。


取材の意図は、ギョウザ事件など食に対する不安な事件が続く中で、

消費者からの信頼を増している団体として、大地を守る会を紹介したい、というもの。

そのように評価されることは大変嬉しくもあり、誉れではある。

 

番組のコンセプトは個人に焦点を当てる形になるようなので、

藤田会長をメインに、あちこちと取材が始まって、

物流センターから内部の書類審査の場面など、いろんなところにカメラが入り、

そして、実際の生産現場をチェックしているところを撮らせてくれ、ということになった。

 

あんまり深く考えずに出かけた私も呑気ではあったが、

生産者の記録書類やら伝票やらを確認し、畑で状況を見たりしているうちに、

TV局の方の期待と、自分がやっている作業に、大きなギャップがあることに、

気づかされることになった。

 

つまりTV局としては、「どこよりも厳しく」 栽培内容をチェックしている大地、を撮りたいのだ。

たしかに資材の購入伝票まで見せろという取引先は、そうないだろう。

しっかり撮られた。

しかし彼らの期待からすると、私と生産者の会話が、どうも生ぬるく見えたようなのだ。

 

「よく (記録を) つけてるじゃないですか。」

「ここも大地に報告された内容と一致してますね。

 でもここのところは、次から正確な数字も一緒につけておくようにしましょう。」

「ああ、だいぶ (害虫に) やられてますねぇ。

 出荷まであと半月くらいあるよね。 どうする? う~ん、我慢するしかないのか・・・」

 

私にとっては、生産者の農薬を使わない " 姿勢 " や " 対処する技術 " を確かめている

作業なのだが (作業日誌の 「草取り」 記録もさりげなく、しっかり確かめていたし)、

しかし、テレビカメラにとっては、これは 「厳しいチェック」 には映らない、のだ。

 

「今は、何をチェックしたんですか?」

「それで、何が分かったんですか?」

さすが、マスコミの方の突っ込みは厳しい。

 

そうか。 僕が今期待されているのは、疑いを基点にした作業なのかもしれない。

「ここまで細かく大地は見ているし、その裏づけをトコトン調べ上げようとしている」

という絵を。

いや、納得したかったのだ。 撮っている映像の意味を。

でも何だか、いちいち意味を説明するのも、だんだん億劫になってくる。

 

藤田会長も心配になって、フォローの説明をしてくれる。

お手数おかけしました。すみません。 

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大地は、たしかに細かい報告や情報開示を求める。

しかし、それをいちいち疑って、ここに来ているわけではない。

まずもって信頼できる人であること (そこには長年の蓄積もあるんだ)。

その上で様々な記録や畑の状況に整合性があるか、を見せていただく。

疑惑の感覚で書類を漁っても、かえって見えるはずのものが見えなくなる可能性がある。

 

細かい書類確認もするし、農薬の使用に対して、ああだこうだと意見を出すこともある。

しかし、僕らが自慢したいのは 「チェックの厳しさ」 以上に、

「生産者との信頼関係の強さ」 でありたいと思っている。

嘘をついたり、隠す必要のない関係づくりがないと、「信頼」 はただの呪文でしかなくなる。

ただこれは極めて人間的な判断になってしまうがゆえに、それをカバーするものとして、

生産者を前面に出した情報誌があり、消費者との交流 (人そのものの開示) があり、

大地独自の制度である第三者認証機関の監査がある。

それに実際の厳しいチェックというのは、

今日の聞き取りの前に相当にやり合ってきたことなのだ。

言いにくいが、それが過去の失敗から学んできたことでもある。

ゼロから出発してここまできた32年の重みと自負は、伊達ではないと思っている。

 

前回の日記で紹介したまっちゃんが、

大地は "性善説" に立っていると言ってくれることは、とても嬉しいことだ。

僕らの間には隠すべき必然性がないことを、生産者が語ってくれていることだから。

でも、まっちゃんが有機の認証を受けたように、

それを証明する手立てとなれば、とても細かい記録と自主管理が必要になる。

 

性悪説に立たないと人が信じられないとしたら、

その団体の目と、生産者との関係性は相当に痩せたものになるだろう。

しかし証明はとても難しい。 

ギョウザ事件で 「検査を強化する」 と語った生協の重役さんがいたが、

はっきり言って、抜き打ち検査をどれだけ増やしても、すべての行為は証明できない。

これは食に携わるものとして、充分気をつけておかなければならないことだと思う。

 

「資材屋さんの請求書、見せてもらうよ」

「あいよ」

この会話にこそ、我々の奥義があったのだが、

しかし、今の時代にとって、

性善説という判断姿勢は極めて説得力の弱いものになってしまっているのだ。

このことも、心して考えなければならない。

 

テレビ局の人から教えられた。

彼らはただ、厳しい大地を見たかったのだろう。

それに対して、僕は 「信頼」 の根拠を説得力をもって語れなかった。

 

結果的に、テレビ局の方の期待に沿った行動はできなかった。

そのことを  "世間の風"  と受け止めたい。

 

終わり頃にはだんだん黒沢さんは不機嫌になってきて、

これでは監査失敗である。

その後もう一軒、本庄の瀬山明さんのところも回ったのだが、

ここはもう甘く見えてしまうやり取りを続けるより、

ぽんぽんと瀬山さんの無農薬栽培の極意を語ってもらうことにした。

 

放映日は、5月5日に予定されたらしい。

どんなふうに編集されるか、今からドキドキしている。

 

まっちゃん、ネタにしてごめんね。

"性善説" もつらいんだよ、けっこう。

 






大地宅配の社長がTV出演
大地宅配のお試しセットも購入してみた。 これについてのレビューはまた書きたいと思...
from "有機野菜のこころ" at 2008年4月29日 12:49
Comment:

再開、大変嬉しく思います。

山では枯木も息を吐く あヽ今日は
好い天気だ 路傍の草影があどけない愁みをする

今月三日の誕生日に息子から中原中也の全詩歌集(上下巻)が届きました。
中也を知るきっかけを作って下さった戎谷様に感謝しています。

以前投稿しました時に、ひょうたん島のヒントを頂きましたが、大変残念な事にいつの間にか消えていました。パソコンに詳しくないので、解からないのですが、ひょっとしたら「この情報を登録しますか?」にチェックしなかったからでしょうか? ご多忙故お手が空きました時にご教示下さいますようお願いします。

花冷えの季節、お体ご自愛下さいませ。

from "チッチ" at 2008年4月10日 01:02

チッチ様

コメント有り難うございます。お誕生日に息子さんから中也の詩歌集なんて、素敵な話ですねぇ。私からも、おめでとうございます。
帰郷の際の感傷的な話がきっかけとは恐縮しちゃいますが、でもそれは私ではなく中也の魅力ですね。中也の詩は挫折と死の匂いがして若い頃は離れていましたが、最近は素直にその哀切と付き合えるようになりました。
「思へば遠く来たもんだ」 の心境です。

  此の先まだまだ何時(いつ)までか  生きてゆくのであらうけど ~
                              (「頑是ない歌」-『在りし日の歌』所収)

ところで ‘ひょうたん島’ ですが、コメントの返信はアーカイブ(8月14日付) で確認できます……と書いて改めて開いてみたら、「あれ?」……たしかに消えてました。バージョンアップ作業の際に消してしまったのか、よく分かりません。調べてみます。いずれにしてもこちらの問題です。申し訳ありません。

島は、四国の東海岸を下り、和歌山寄りに突き出た蒲生田岬からもう少し南に行った所にあります。あの辺ではありきたりの風景で、たいしたものではありません。もちろん私にとっては別な意味がありますが。

これからも、どうぞよろしくお願いします。

from "エビ" at 2008年4月12日 10:57

チッチ様

すみません。私バカよね~、でした。
ひょうたん島に関するコメントは、日記を書いた8月14日ではなく、12月8日(タイトル=「上堰米」)の日記にアップされています。失礼しました。エビ

from "エビ" at 2008年4月12日 15:36

エビちゃん、取り上げてくれて、ありがとう!こうしてまた、このブログが読めて、楽しみが増えました。ほんと、エビちゃんの言うとおりなんだよね。何で、こんなことで人を疑うのかなあ?と思うこと、しばしば。でも、これがこの人たちの仕事なんだから、しょうがないかと思ってもみたり・・・。さりとて、性善説も結構しんどいということになると、安全を担保するには、しんどいのは避けられないということでしょうか?ただでさえ、難しい有機農業に、しんどい作業がついて回ると、これから有機農業に取り組む人が減りはしないかと心配になります。

from "松田博久" at 2008年4月16日 23:36

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