2008年6月25日
ケント・ロックがやってきた。
これまで何度か紹介してきたアメリカのノンGMコーン農家、
ケント・ロック氏が日本にやってきた。
去年秋の視察でお世話になって、来日の折にはぜひ大地を守る会を見に来てほしい、
とお願いしていたのだが、
16日夕方の成田着から20日までという短い日程の中で、
何と3度も大地を守る会関係の場所に足を運んでいただくことになった。
遅れてしまったけど、
ここで改めて、私のケント週間を記しておきたい。
まずは6月17日 (火) の夜、幕張本社でのスペシャル・ナイト。
社員向けの 『ケント・セミナー』 を開催する。
普段は違和感なく過ごしていたが、
こうやって見ると、うしろにカゴ車や段ボール箱が無造作に置かれていたりして、
飾らないというか、飾れないというか・・・・・
ま、それはともかく、夜6時半からのセミナーに大地社員50人ほどが聞きにきてくれた。
改めて紹介すると-
Mr.ケント・ロック、44歳。
奥さんは中学校の物理の先生で、中学生と小学生の娘さんが二人。
ご両親は近くの別なお家に住んでいて、普段から行き来している。
イリノイ州エイボンという地 (※) で、約680haの農地を持つ、
" ここいらでは平均的規模の農家 " である。
日本の平均的農家のざっと500倍 (北海道だと約36倍) ってところか。
日本で 「規模拡大!」 と叫んだところで、
その線でたたかうこと自体が土台無理、いや無意味ではないか、というレベルだ。
(※) 地図でいうと、シカゴとセントルイスの中間にあるピオリアという町のあたり。
そこでケント家は、トウモロコシと大豆を育て、肉牛を飼っている。
(右はずっと通訳で同行していただいたカーギル・ジャパンの堀江勉さん
ケント家は家族農業である。
ケントは農業が好きだからやっている。 自分の農地と牛に誇りを持っている、と語る。
彼のポリシーは、土壌と環境を大切にして、娘に良い土地を残すことだ。
だから子どもたちにも早くから農業を体験させ、理解させようとしている。
実際に娘のマリーさんもレネちゃんも、"自分の牛" を育て、
コンテストで入賞したりしている。
こういう姿勢こそ競争すべきところだと思うが・・・
彼はカーギル社が持つノンGMOトウモロコシのブランド 「センチュリーコーン」 を栽培している。
しかし、だからといって遺伝子組み換えに反対している農家ではない。
GMコーンも植えている。
私の知る限りでは、どうもオーガニック系以外は、
米国内でGM作物への疑問を持っている農家はほとんどいないようだ。
それでも彼がセンチュリーを植えるのは、彼の輪作プログラムにフィットしているからである。
ケント農場の現在の輪作体系は、
ノンGMコーン → GMコーン → 大豆 ( → ノンGMコーン) となっている。
センチュリーコーンを植える理由のひとつは、
「2年以上同じものを連作しない」 という考え方による。
しかも土壌保全を考え、不耕起栽培で行なう。
前年の大豆の残渣を残して、表土が風雨で流されるのを防ぐのだ。
不耕起は燃料代の節約にもなる。
ノンGMコーンの栽培は、GMに比べてリスクが高く、コストもかかる。
( というより、GMのほうが作業が省力化できることと、雑草を効率よく枯らせるから、
経営上のメリットが目に見える、ということなのであるが。 )
ノンGMは虫食いで穂が落ちやすいという比較デメリットもある。
しかしそこでケントは、牛を放すのである。
落ちた穂やコブは牛の餌になる。 無駄にはならない、と。
またGMコーン栽培のあとで、除草剤耐性を持った種が畑に残ったら、
翌年の大豆では、それは除草剤が効かない雑草と化してしまう。
そこで牛を放せば、種子や草をクリーンアップするフィルターの役割を果たしてくれる。
牛は肉だけでなく、肥料も生産してくれる。
彼の牛は、輪作体系に組み込まれた貴重な役割を負っているのだ。
経営はあくまでも合理的で、しかも持続性を意識して計算されている。
周りの農家はほとんどGMコーンに切り替わって、しかも連作に走っている。
すでにケントの考え方自体が変わりものになってきているらしい。
一方で、組み換え技術の進化 (?) は加速度を増していて、
最初は除草剤 (例えばラウンドアップ) 耐性、あるいは殺虫毒素といった
1品種に1因子の導入だったものが、それらの組み合わせが進み、
今では4種類の因子が組み込まれているものが出回ってきているという。
たかが10数年の歴史で、である。
しかし生命とは常に多様性に向かうがために、
自然の対応能力も追っかけながらついてゆくことになる。
以前にも書いたけど、このいたちごっこの行き着く先は、まだ誰も知らない世界だ。
いや、シングルからダブル、そしてトリプル、さらにクワッド(Quad)と、
これほどに早足で進まなければならないほど、
相手 (土壌と生態系のバランス) が壊れてきている、とは言えないだろうか。
加えて、コーンは肥料を食う作物だ。
化学肥料の原料も実は枯渇しつつあって、値段も高騰していることを、
彼は慎重に見ている。
「肥料代は3倍になった。 水質汚染など環境への問題もある。
使い方に注意が必要だ。」
肥料依存度の強い作物を連作しては、エタノール工場に流れてゆく。
その生産効率 (=収益) を支えているのがGMO、遺伝子組み換え作物である。
未来はあるか・・・・・誰も分からない。
すみません。 今日はここまで。 明日に続けます。
ケント講座のあと、おなかも空いたし、ということで居酒屋で一杯やる。
職員の質問が延々と続く。 10時を回って、ケントが目をこすり始めた。