2008年6月30日

有機農業第2世紀の宣言

 

6月28日(土)、29日(日)の二日間にわたって、

有機農業の広がりを目指した集会が催された。

 

国が有機農業の発展を支援するという、ひと昔前にはとても想像できなかった法律

「有機農業推進法」 が施行されたのが一昨年の12月のこと。

昨年4月には推進のための国の基本方針が告示された。

そして今年4月から、有機農業の普及啓発や参入促進事業に加えて、

45ヵ所の地域が有機農業推進のモデルタウンとして指定された。

まだ形ばかりとはいえ、

農水省の担当部局 (環境保全型農業対策室) もやる気になっている。

 

そこで、これからの時代を 『有機農業第2世紀』 と位置づけて、

新しいスタートの宣言をしようというわけだ。

 

28日(土)、大手町・JAビルで開かれた 「地域に広げる有機農業フォーラム」。

e08063001.JPG

 

この日は、モデルタウンに選ばれた、あるいは選に漏れた人たちによる

情報交換と交流の場として呼びかけられ、全国から約100名の参加者があった。


上の写真は、コモンズという出版社の代表をされている大江正章さんによる

「地域の力 -食・農・まちづくり」 と題しての記念講演。

大江さんとは、彼が以前に勤めていた出版社時代からの古い付き合いだが、

実は今年の2月、演題と同名の著書が岩波新書から出されて、

この手の本では異例の売れ行きを示しているという。

 

地方が疲弊していっている、と言われて久しい中で、

地元企業と住民と自治体が共同で知恵を出し合って、

活気ある地域づくりを進めている町や村がある。

そんな事例を紹介しながら、地域の力を引き出してきたポイントと、

有機農業の果たす役割について、大江さんは語ってくれた。

講演で紹介されたのは、以前(12月2日)このブログでも紹介した木次乳業のある町、

島根県雲南市と、徳島県上勝町、そして東京・練馬での都市農園の実践例。

「 畑は地域のカルチャーセンターであり、コミュニティセンターである 」

の言葉が印象に残った。

ここでの説明は簡単に済ませて、ぜひ本を読んで欲しいと思う。

あっちこっちの地域おこしの現場をていねいに取材して、

大江さんらしい温かい目で語られている。

これは読みようによってはヒントの宝庫のような本である。

地域の環境や資源を見直し、また地域福祉を考える上で。

あるいは、社会起業や転職を考える人にもおススメです、とも言ってみたくなる。

そして何よりも、有機農業の今日的な力を感じ取れる格好の手引書になっている。

オマケに大地を守る会の関係者もチラホラとお目見えしてくれるし-。

『地域の力-食・農・まちづくり』 (岩波新書)、値段は700円 (+消費税) です。

 

後半では、各地からの有機農業推進事業 (モデルタウン) の取り組みが発表された。

e08063002.JPG

 

助成対象となった45のうち、17ヵ所の方々からの報告を聞いたが、

やはりまだ、どこも器をつくったばかりで、これからの方向性を模索中といったところだ。

出た不満は、行政の知識と理解のなさである。

いかに地方行政が有機農業を無視してきたかを、つくづくと感じさせる。

でも、我々は今、たしかに機運をつかんでいる。

この5年間でどれだけ形あるものにするか、地域を変えられるか、

みんなの知恵と想像力を結集させて、未来を切り開いて見せたいものだ。

立派な形は残せなかったとしても、

大江さんの本の中で紹介されている、80歳でもみじの種を播いたという

徳島のおばあちゃんの台詞のように進んでみたいと思う。

「生きとるうちには採れんかもしれんけど、これは私の夢を播っきょんじゃあ。

 子や孫が継いでくれることを信じてな」

 

二日目は、場所を隣のサンケイプラザに移して、

『 有機農業宣言 東京集会 ~みんなで広げる有機農業~

  食・農・環境の未来を 「ゆうきの一歩」 から 』 という長いタイトルの集会。

 

午前中には観たいと思っていた映画 「土の世界から」 が上映されたのだが、

間に合わず、午後からの参加となる。

予想以上の参加者にびっくりした。 400人は入っている。

e08063003.JPG

                        (ここ数年、大地を守る会の東京集会で使っている会場)

 

シンポジウムでは、全国有機農業推進協議会代表の金子美登さんはじめ

5人の方が、それぞれに有機農業の未来像を語った。

-有機農業の土作りは温暖化対策としても有効である。

  家庭から出されている年間5トンのCO2 は、3haの農地で吸収できる。

  消費者と生産者のつながりこそが環境を守り、

  再生産できる (作り続けることができる) 関係は、村を元気にさせる。

  元気になった村は、美しくなる。

-食の地域自給にとどまらず、エネルギーの自給も考えたい。

  日本という国は、草・森・水・土・太陽というエネルギー資源の宝庫である。

  資源を使いこなせず、どんどん痩せていっている・・・・・

 

今年の5月25日、G8環境大臣会合に対応した形で、

「環境と農業にかんする国際シンポジウム」 が神戸で開催された。

そこで採択された 「神戸宣言」 が会場で読み上げられ、

この宣言を洞爺湖でのG8首脳会議に反映させるよう、福田首相宛に届けたい

とのアピールがあり、拍手で確認される。

e08063004.JPG

 

1.生産者・流通・消費者が連携する適正な規模の有機農業を推進すること。

2.農・食・環境を基本とする地域と生物多様性を育む政策を実現すること。

3.地域農業・食糧自給重視の地球環境保全型貿易ルールを確立すること。

4.自然循環・生命環境を基礎とした循環型・協同社会を形成すること。

 

続いて、4つの部屋に分かれて分科会となる。

第1分科会-有機農業への参入促進 「私も有機農業で生きたい!」 に参加する。

ここでパネラーで呼ばれたのが、

宮城県大崎市 (旧・田尻町) で有機米を生産する 「蕪栗米出荷組合」 代表、千葉孝志さん。

e08063005.JPG

 

千葉さんが米を作る蕪栗沼周辺は、

渡り鳥の貴重な飛来地・休息地であり餌場として、

世界で初めて田んぼも含めた地帯がラムサール条約に登録されたところ。

 

そこで有機栽培を始めたきっかけや、一般栽培から有機に転換する際の心構え

などを千葉さんは語った。

そして、リップサービス?

「私が取引している団体は、日本でも一番、農薬とか環境にうるさい組織だと思っている。

 だから絶対に間違いを起こさないように、有機JASも取って、仲間にもうるさく言っています」

・・・・・・・さすがに恥ずかしくなって、ついうつむいてしまう。

     でもちょっと、胸を張りたくなる。 生産者に言ってもらえるのが、何より嬉しい。

 

新規就農への支援はあちこちで取り組まれるようになったが、

忘れてはいけない問題は、今いるプロの農業者をどう導くか、である。

しかしそこで千葉さんが語ったことは、自分の問題だった。

「 自分たちが有機農業でやれるんだということを見せて、認められることかと思ってる。

 それ見たことか、と言われないためにも、意地でもやり続けるしかないです 」

他人の問題ではなく、自身の実践にかかっていると考える千葉さん。

よかったですよ。

 

国までが動くようになって、若者もたくさん参加してくるようになって、

本当に有機農業は 「第2世紀に入った」 と言ってもいいようだ。

しかし、思想と哲学、意地と根性で育ててきた第1世紀を経て、

今度は崖っぷちに立たされた地域と農業の再建を託されているわけで、

これはこれで、容易ではない。

 



大地を守る会のホームページへ
とくたろうさんブログへ