2008年8月 8日

「有機JASをやめる」 と阿部ちゃんは言う。

 

「今年で有機JASの認証をやめようと思う」

茨城県石岡市(旧八郷町)の生産者、阿部豊さんがそんなことを言ってます

 -との報告を担当から受けたのが一ヶ月ほど前。

 

阿部ちゃんが・・・・・予感は、なくはなかった。 

とにかく会って話をしようよ。 ということで、やってきた。

 

e08080701.JPG

右が阿部豊さん。 八郷で有機農業を始めて20年。

左は新しい仲間、桑原広明さん。 この地に入植して4年。

今年から二人で 「阿部豊グループ」 として野菜を出荷している。

二人とも有機のJAS認定農家だ。

特に阿部ちゃんは、有機JAS制度がスタートした最初の年 (2001年)

から認証を取得してきている。

 


その阿部ちゃんが語る。

「有機JASには、意義を感じられないんだ」

 

俺は付加価値を得たくて有機の認証を取ってきたんじゃない。

自分がやっていることを明らかにして、消費者との信頼関係を維持するためだ。

変更したって自分のやることは何も変わらない。

記録や書類の管理などトレーサビリティの体制はこれからもちゃんとやる。

しかし結局、お金をかけてまでの認証には意味を見出せなかった。

有機JASは国内の有機を増やせてないし、輸入のものばっかりが増えている。

もうやめる。

大地を守る会がこれからやろうとしている監査の方がいいと思ったんだよね。

有機認証の経費をそっちに回しても、その方がいい。

 

どうも阿部ちゃんをその気にさせてしまったのは、私の文書のせいでもあったようだ。

月に一回生産者に送っている 『お知らせ』 で、6月7月と連続して、

僕は今期からの新しい監査の仕組みについて書いた。 

(5月には社内での勉強会も開催した。)

会員に届ける野菜が大地を守る会の生産基準に合致していることを確認する

だけにとどまらない、生産者が取り組む様々な努力の過程を大切にして、

その進化を評価し、支援できる監査システム。

僕はこれを勝手に 『大地を守る会の有機農業運動監査システム』 と呼んで、

そんな体制づくりに向かいたいというような話を書いたのだ。

 

エビちゃんの文章を読んで、そうしようと決めた、なんて言われてしまう。

しかし僕に、このような面倒くさい仕組みに進ませた原動力は他でもない、

阿部豊の叱責である。

「有機農業推進室は、有機農業を推進しろ!」

もう何年も前のことだが、この台詞はずっと腹のどっかに刺さったままである。

 

おととい開かれた農水省の有機JAS制度の検討会で、

生産者の委員から一貫して出されていたのは

 「記帳やら文書管理やらが煩わしすぎて、このままではやる人は増えない」

という意見だが、この本音は、たんに 「負担が重い」 ということよりも、

おそらくは 「苦労が報われない」 感があるのだ。

さすがに阿部ちゃんは 「負担が重い」 とは言わないが、この報われない感

は共通するところのように思えた。

 

有機の認証を取ったから値上げしてくれとは言わない。

しかしトレーサビリティの作業は相当なコストになっていることは、分かってほしい。

とも阿部ちゃんは言う。

 

私の答えは、

「いま構築しようとしている監査体系がもう少し整理されるまで待ってくれ。」

 

阿部ちゃんは、有機JASを卒業したがっている。

そんな彼の期待に対応できるシステムに進化させることができるか。

有機JASに対する評価も含めて整理が求められていて、さて

僕と阿部ちゃんのこれからのやり取りは、どの辺に着地するだろうか。

 

阿部豊のナス畑には、ウグイスが巣を作っていた。

巣の中には2個の卵があった。

e08080702.JPG

 

ウグイスは、ここが安心できる場所だと思ったのだろうか。

阿部ちゃんには、有機JASマークよりもずっと自慢したいことのようだった。

 


Comment:

有機JAS、生産者にはものすごくご苦労をかけていることだと思います。
でも、私が、大地以外で農産物を購入するときに、これがついているとやはり安心して購入できます。ものすごく大変な思いをして、苦労もして、お金もかけてとっている有機JASなのを知っているから、市販の有機JAS農産物の価格はちょっと安いかなーとおもっているくらいです。
でも、そういう消費者が主流ではないし、大地で買うときは“大地ブランド”を担保して買っているから、大地にしか卸していない生産者には有機JASはあまり意味がないかもしれないですね。
でも、現行有機JASが割に合わない、と感じたのはきっとそのとおりなんでしょうね。
近所の自然食品店では、有機JASなしで、パンチの効いた値段で売っています。でも、売れているようです。あそこまで高いと、なんかよさそう、って感じでうれるのか?!とも思ってしまいました。

from "てん" at 2008年8月12日 01:22

いつもブログを拝見させていただいております。私は沖縄の認証機関で認定員資格を取得し、以前は普及のボランティア、今は数件の農家さんとお付き合いをさせてもらっています。
私が資格を取得した団体はNPO法人です。ですので、栽培作物数、作付面積に関わらず農家一軒あたりの認定料は年間5万円(年会費)です。しかしこの5万円という価格であっても、農家からすると軽視できない額です。
外からの意見で恐縮ですが、大地の場合、大地職員が中心になってNPOを立ち上げ、認証を行うということもありだと思います。NPOは基本的に会費制ですから、会員に少しだけ会費をお願いしていけば、大地規模であれば、農家の負担は年間5万円以内でおさまるのではないでしょうか?

※現在、大地がどの認証機関を利用しているか知らないで好き勝手に書いています。どうぞお許し下さい。

from "T.Akita" at 2008年8月20日 09:16

てん様 T.Akita様

コメント有り難うございます。暫しの夏休みを頂戴して復帰したところ、例によっての宿題とメールの山で、反応が遅れましたこと、お詫びします。

てんさんのご指摘は、まさに、でしょうか。相手が見える団体との取引で完結している場合と一般小売店(不特定多数)に販売される場合では、やはり外部認証の必要性に対する感覚も異なってくると思われます。てんさんのように、その価値を認めてくれるお客さんばかりだと張り合いも出ますが、現状では小売店さんも「値段」優先の圧力が強いようで、そういう意味でも有機JAS制度の認知度がイマイチという問題と、燃料や資材高騰の折ということも相まって、認証取得の生産者は深い悩みの中にあります。

T.Akitaさんの仰る認定料5万円というのは、検査に掛かる実費などを加えても、生産者にとっては有り難い金額のように思われますね。ただ、今ほとんどの認証機関が「経営の維持」で苦しんでおられるようで、ここら辺も問題を複雑にさせています。阿部さんの認証機関もNPOですが、費用はその倍は掛かっているようです。
また大地を守る会でNPOの認証機関をつくるという意見も、実は、これまでもたまに頂戴してました。ただ、どうも流通・販売組織を持つ団体が別法人を立ち上げて公正に運営したとしても、どうしても色眼鏡で見られるのではないか(販売との利害関係で)、という意見が根強かったのと、ここは潔く第三者に委ねておこうという気持ちで、具体化には進みませんでした。私は今、さらに独自路線を追究しつつあって、阿部さんもそれやこれやで、かえって悩ませてしまっているところです。

この問題は否応なく引きずっていくことになりますので、またコメントいただけると嬉しいです。有り難うございました。

from "戎谷徹也" at 2008年8月22日 19:09

コメントを投稿



大地を守る会のホームページへ
とくたろうさんブログへ