2008年8月27日

西オーストラリア報告会から

前回の話をすぐにも続けようと思っていたのに、

気がつけばもう四日も経ってしまっている。 なんてことだろう。

月曜日は、千葉・山武で開かれた有機農業推進法のモデルタウン事業についての

生産者向け説明会に出席。

火曜日は有明ビッグサイトでの「アグリフードEXPO」に出向き、

何名かの生産者・メーカーさんと接触してから、六本木で理事会。

そして今日、水曜日は会議に来客対応にメール処理。

その合い間に雑務と宿題 (本来の仕事)、という順番で時が過ぎていく。

そんな中で一番楽しい時間は、夜中にごそごそやる

週末の飯豊山 (いいでさん) 登山の準備だったりして。 

あ~、だからブログの更新を忘れてたんだ。 

 

さて、休み中にDVDで見せてもらった、職員のオーストラリア出張社内報告会の話。

報告者は、加工食品の開発に携わる商品グループの谷口麻紀嬢。

報告会は1ヶ月も前のことで、

オーストラリア訪問自体は6月9日から13日にかけて行なわれている。

 


訪問先は西オーストラリア州。

目的は、遺伝子組み換えしていないナタネの存続を州政府に要請し、

生産現場の視察とともに生産者と交流してくる、というもの。

 

オーストラリアでは現在、遺伝子組み換え (GM) のナタネ栽培は行なわれておらず、

栽培の解禁を留保するモラトリアム期間にある。

そのモラトリアムの期限切れが今年の12月で、

西オーストラリア州は現在、モラトリアムを継続するかどうかをめぐって、

GM推進派と反対派の攻防が続いているという状況である。

東部ではすでにモラトリアムの解除 (=栽培の解禁) が決定された州がふたつ現れている。

そこで、ナタネの主要な輸入国である日本として、消費者の多くが

GMでないナタネ (を原料とした菜種油) の存続を強く求めていることを

州政府や農民に伝えよう、ということでの訪問となった。

今回の訪問団は生活クラブ生協さんと大地を守る会。

他の州を回った団体もある。

つまり遺伝子組み換え食品に反対するネットワークで、

役割分担して訪問している、という格好である。

 

さて、西オーストラリア州では首相も農業大臣も、GMには反対の立場なんだそうだ。

日本からのGMモラトリアム継続を求める署名も快く受け取ってくれ、

首相は日本の訪問団にこのように語ったという。

「安全性が証明されていないGM作物を日本などの消費国に輸出することはできない。

 推進派は適切な研究を行なっていない。 反対派には検体を渡さず、

 情報も不正や偏りがある。」

「消費者は、手にとった商品にGM作物が使われているかどうかを知る権利がある。」

頼もしい限りである。

州で行なわれたアンケート調査では、8割の消費者がGM食品を食べたくないと答えたそうだ。

 

首相は訪問団に州議会の傍聴まで許可して、案内してくれた。

反対派に対するある種の示威行動として活用したフシもあるようだが、

反対派からは 「これは自分たちの問題だ。 なんで外国の人間を傍聴させるのか!」

という声があがり、日本人に対しては、

通訳の人が 「とても訳せない」 という野次も飛んだという。

栽培は自国の問題かもしれないが、何たって生産量の90%を輸出しているわけだから、

輸入国にも物言う権利はあるよね。 どの国にも下品な政治家はいるようである。

 

そんな西オーストラリア州だが、首相はすでに次の選挙には出ないことを表明していて、

その先はどうなるか分からないらしい。

 

一行は次に、ウィリアムズという町で、GMに関する討論集会に参加する。

賛成派の人たちの主張は、作業効率が上がる (楽になる)、農薬が減らせる、

生産量が上がる、GM品種はバイオ燃料に代替できる、といったように

いずこも同じ理屈である。 要するに " 儲かる " というわけだ。

また推進派のパネラーの発言の中には、こんなのもあったとか。

「日本の企業は (GMだろうが) 気にしていない。 表示義務がないから。

 我々が輸出先を失うことはない。」

さすがにこういうパネラーに対しては、「あなたの態度が気に入らない」 という

会場からの指摘もあったようだが。

 

反対派はこんな解説を試みている。

GM作物の栽培にあたっては、モンサントの計画に基づいて生産し、かつ

販売を行なわなければならなくなる。

非GM農家は、栽培前に種子が非GMであることの証明とトレーサビリティの保証を

求められるようになる。

非GM農家は、0.9%の種子汚染 (交雑や混入) を受け入れるか、

汚染回避のための厳しい管理が求められる。

つまりGMを受け入れると、なぜか非GMの方だけが保証や分別管理責任を

求められるようになり、結局、農家は強制的にGMへの移行を余儀なくされてゆく。

種子のターミネーター (「自殺」 と訳したい) 技術は、

農家が種子を更新できなくされていて、

生命特許による種子の支配は、土地の支配、そして食糧の支配へとつながる。

GMと非GM栽培の緩衝地帯は5メートルとなっているが (この狭さは信じ難いが)、

ナタネの種子は小さく、風でどこまでも飛んでゆく。

共存は不可能だ。

 

要するに、このような農家の主体性や品種の多様性が奪われてゆく方向に身を委ねてよいのか、

ということだが、集まっていた農民たちはどう考えただろうか。

 

一行は、夫婦で意見が分かれているという農家と出会っている。

夫は推進派、妻は反対派。

夫の論理は上記の推進派の論理そのままで、

「農薬が減らせるんだから、安全性も高くなる」 と日本人に説明している。

妻の反対理由は、「理屈は分からないけど、とにかく不安感が拭えない」 というもの。

感性派は、こういうテーマでは科学という名の論理に弱くなってしまうけど、

自分の内にある " 不安 " の根底を掘り下げていってほしいと、切に願う。

単純であっても、整理した理由がたとえば、

 「面倒でも、種は農民の手 (あるいは信頼できる輪の範囲) で守っておきたい」

という価値観のようなものなら、それは一人の農民の信念として、

最低限、フェアな形で共存を求める権利がある。 それを奪う権利は誰にもない。

GM作物は、フェアな関係を許さない、という危惧を僕は強く持っている。

 

少なくとも、このご夫婦が離婚の危機を迎えることのないように、

まだ当面はモラトリアムを設定しておく方がいい。

お二人は 「大丈夫。ちゃんと話し合っているから」 と言っているようなので、

ここは、科学と倫理のひとつの見識である 「予防原則」 (リスクの可能性がある場合は避ける)

に立って考えるのが、どう考えても賢明な選択ではないだろうか。

 

またここでも思うのは、GM作物は農薬の使用量が減るので安全である、

という論の狡猾 (こうかつ) さである。

彼らはけっして、安全性のためにGM作物を選んでいるのではない。

作業負荷が軽減でき、なおかつ都合よく雑草や害虫対策が打てて、

結果として歩留まりがよくなる (生産性が上がる) という効率を重視しているワケで、

消費者に向かって納得させるために、安全性という言葉を使っている。

だって彼らは普段、農薬の使用が作物の安全性を損なわせる、とはけっして言わない。

なんでこういう時だけ使うんよ、と言いたくなる。

語るに落ちている、とはこのことだ。

 

農薬が危険なものだと思っているなら、

除草剤とセットになってしまっている種は避けようではないか。

モンサントから除草剤を買わなければならない、除草剤を使わなければならない、

そんな種なのだから。

加えてすでにGM技術は、除草剤耐性+殺虫剤A耐性+殺虫剤B耐性・・・・・・と

果てしのない組み合わせに向かって進みつつある。

 

モラトリアムは必要である。

 

遅ればせながら、オーストラリア訪問団の方々、お疲れ様でした。

 



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