2008年9月 2日アーカイブ

2008年9月 2日

「チャルジョウ農場」 と若者たち

 

飯豊山登山をやめて、麓や低山の小屋でただ酒盛りばかりやっていた、

という噂が何処からともなく流れたものだから (全否定できないところが悔しい)、

言い訳だけはしておきたいと思う。 ちゃんと仕事もしたんです。

 

喜多方市山都 (旧・耶麻郡山都町) は、飯豊山の登山口がある山間地で、

毎年5月に行なわれる堰 (棚田を守る水路) の補修作業には、

「種蒔人基金」 による応援という形で、昨年からボランティアとして参加している。

その経過は、これまでも報告してきた (5月6日付昨年12月8日付 参照)。

 

この地で都会から研修生を受け入れ、新規就農者を育てている方がいる。

小川光さん。

元東北農業試験場の研究者で、自らの理論で有機農業を実践し、

かつ農業者を育てるために、ここ山都に移り住んだ。

下の写真前列中央の人。

e08090201.JPG

 


小川さんは、西アジアの国トリクメニスタンの農業科学研究所で、

乾燥地帯での無かん水 (水をやらない) 農業技術の開発研究に携わった

という経歴の持ち主。

そのトリクメニスタンのチャルジョウという、ウズベキスタンとの国境にある町が好きで、

自らの農場を 「チャルジョウ農場」 と名づけている。 よほど惚れたんだね。

実際にトリクメニスタンのメロンの原種や、日本のウリと掛け合わせた

小川光オリジナルのメロン品種を無農薬で育てているのだから、

名乗るだけのことはやっている。

 

また小川さんは都会から研修生を積極的に受け入れ、育てている。

定住希望者には住まいの斡旋までする。

小川さんの世話で山都に定住した家族がこれまでで40世帯、約100名。

ここで生まれた子どもが14人、だとか。

この村の空き家情報は小川さんが一番よく知っている、とも人から聞いた。

山間地でも有機農業で暮らしてゆけることを、彼は粘り強く実証してきたのだ。

 

上の写真で小川さんを囲んでいる若者たちが、今年の研修生。

一人一人の取材まではできてないけど、

それぞれにしっかりした意思と誠実さを感じさせてくれる若者たちだった。

そして後列右端が、堰の清掃ボランティアを仕掛けた浅見彰宏さん。

彼も小川さんの世話でこの地に根づいた。 14人の子どものうち2人は浅見家なのかな。

 

さて話を急ぐと、昨年の5月、堰の清掃ボランティアに参加した翌日、

僕は浅見さんに連れられて小川光さんの農場を訪ねた。

小川さんは日本有機農業研究会メンバーで、僕も名前だけは知っていたし。

その時は、いわばただの見学で終わったのだが、

今年5月の作業あたりから、研修生の自立のための受け皿づくりという話が

具体的なものとして動き始めたのだった。

こういうのって、何かのサインとかタイミングを感じるときがある。

東京に出てきた小川さんと大手町で会い、

次に取締役・長谷川を山都まで案内し、小川さんと会って栽培方法も見てもらい、

「進めていいんじゃないか」 とのアドバイスで下地をつくり、

そして先週の28日、山に登る前にチャルジョウ農場を訪ね、

研修生たちも集まってもらって、

彼らが作った野菜を大地を守る会の会員に届ける企画のイメージを話し合った。

これはただの野菜の売り買いではない。

山間地で農業を学んでいる彼らのメッセージを、

野菜に託して届けられる仕組みをつくっていく作業。

それは棚田やそれを囲む水路や森の環境を守る作業につながっている・・・・・

 

29日、大雨・洪水・雷注意報を聞きながら、待機中の間に企画書第1稿を書き上げる。

そして今日 (9月2日)、部署内の会議に提出。概ね了承される。

来週の火曜日が最終関門の会議である。

何とか今年のうちに、彼らに希望の道筋を提供できるかもしれない。

 

有機農業のひとつの技術を確立させ、次の担い手を育てようとする小川光さん。

山間地の農業基盤 (インフラ) を守ろうとする浅見彰宏さん。

そしてチャルジョウ農場で、農業での自立を目指す若者たち。

そんな彼らが持ち寄って、一個一個思いを詰めた野菜セットを完成させたい。

企画そのモノは簡単シンプルなのものだけど、

うまく流れるためのシステムづくりは結構細かい調整が求められる。

何とか間に合わせたい。 今年の収穫物で、来年につながる一箱でも。

 

山から降りれば下界は騒然となっていて、

産地担当諸君は、週の頭から畑の被害状況の確認作業である。

幸い全滅というような話はなかったが、水浸しになるとこれからの品質に影響が出る。

また全般的に作業が遅れつつあり、これは後々の出荷のずれにつながる。

だいたい時間雨量が80ミリとか100ミリって、とても尋常じゃない。

これじゃ 「ゲリラ」 じゃなくて、「大空襲」 豪雨だ。

田んぼが湖のようになってしまった映像も流れている。 収穫前に・・・なんと切ない。

 

異常気象に油や餌や資材の高騰と、生産現場は火の車状態だ。

畜産現場では、離脱する生産者が増えていると聞く。

一触即発ならぬ 「一食即発」 状態だ。

本気こいて、資材依存ではない、資源の地域循環 (自給) をベースにした

有機農業社会を打ち立てる必要があるように思う。

その意味でも、地域資源を基本とする山間地有機農業は、キーワードだと思っている。

 

で・・・これで言い訳になったんだろうか。

 



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