2009年6月 8日

有機農業推進委員会

 

東京・九段下にある農水省の分庁舎まで出かける。

ここで農水省が主催する第4回 「全国有機農業推進委員会」 が開かれる。

大地を守る会会長の藤田が委員になっている会議だが、

この日は出られず、また代理出席の予定だった野田専務理事も出られなくなり、

代理の代理というお役目。

官庁はクールビズだろうと思ったけど、普段する機会があんまりないこちらは、

逆に気分を変えて、ネクタイを締めて行く。

 

農水省の生産局農業環境対策課や消費・安全局の方々に、

大臣官房審議官が事務局として出席し、

生産者、消費者、流通者、学者、認証団体などから選出された委員が15名。

座長は茨城大学の中島紀一教授。

埼玉県小川町の金子美登さん、茨城県八郷町の魚住道郎さん、

高知・土佐自然塾の山下一穂さん、ノンフィクション作家の島村菜津さんらの顔ぶれが並ぶ。

かつてアウトサイダーと言われ、存在さえ無視された有機農業者や我々のような団体を、

国が招いて有機農業の推進を謳う時代になった。

去年は有機JAS制度の見直しの検討委員会に出させていただいたが、

今回席に座って、顔ぶれを眺めながら、改めて時代の変化を感じさせる。

 


まずは事務局 (農水省) からの報告を聞く。

農水省が立てた有機農業推進の政策目標によれば、

平成23年までに全都道府県で推進計画が策定されることになっているが、

現時点で策定されているのは30都道県。

残りの17府県も、23年度までには策定予定で進められているとのこと。

さらに市町村レベルでは、50%以上で推進体制がつくられることを掲げているが、

23年度までに推進体制を設立する予定にあるのは、

すでに設立済みを含めて148で、全市町村の8%という厳しい数字である。

そこで農水省は新たに、有機農業推進のモデルタウン地区の増設や

技術支援の拠点整備のために2億円の予算を追加した。

 

また昨年度から始まったモデルタウン事業で助成を受けた45地区を対象に

アンケートを実施したところ、有機農業者数は18%増加。

慣行栽培からの転換は顕著に進んだが、

新規就農者の伸びは前年比+24名に留まっている。

有機栽培面積は40地区で増えたが、減少した地区が2件あった。

有機農産物の地元学校給食への導入は18件で増え(2件で減少)、

モデルタウンの一定の効果が見て取れる。

学校給食への導入推進については、第2回の検討会議で野田代理が主張している。

子どもたちに安全な食材を供給するだけでなく、食育の推進や、

地域の理解を深める、あるいは自給率の向上にもつながるものだ。

そして爆発的に増えているのが、新規参入に関する相談件数と研修参加者である。

これは今の閉塞した社会情勢も影響しているのだろう。

 

委員からの意見は多岐にわたった。

新規就農支援は、入口はできつつあるが出口が整備できていない (山下委員)。

つまり研修生を育てても、就農先が見つからない、あるいは条件の悪いところに限られる。

村の閉鎖性に縛られるなど、簡単に就農できない仕組みがある。

しかも先達が成功して地元から信頼されていることが鍵になっている、

という状態は変わっていない。

加えて、せっかく就農できても販路が見つからなくて苦しんでいる。

有機農業の技術の確立も急がれる。

各地に有機農業の普及員を養成する必要がある (魚住委員)。

 

流通側からは、有機農産物を増やせない生々しい実情が語られた。

小売店での消費動向は、安全性よりも価格、という潮流に一気に変わってきている。

外食では、品質の安定が優先だ、と。

 

僕は3つのことを主張させていただいた。

モデルタウンは有機農業団体に自治体やJAなども含めた地域での協議会の設立

が条件になっているが (たとえば千葉・山武では、さんぶ野菜ネットワークを中心に、

山武市・山武郡市農協・ワタミファーム・大地を守る会で構成されている)、

協議会を作れない個人や団体への支援の仕組みも必要ではないか。

僕がイメージするのは、喜多方市山都の小川光さんと若者たちである。

山間地に暮らし、水路 (=水源) を守り、子どもを産んで活性化の役割も果たしている。

彼らには有機農業推進事業からの助成は一切ない。

なくったってやることはやるのだが、制度の課題ではあるだろう。

 

もうひとつは、有機農業の持っている社会的価値 (外部経済) の整理が必要だ。

有機農業の拡大とともに販路が求められるが、流通・小売の現場は価格圧力が厳しい。

地域で有機農業が広がることによって支えられる価値、貢献しているものがある。

それは環境や水系の保全であったり、生物多様性の安定であったり、

食育や健康や自給力への貢献であったりする。

それらを含めての  " 値段 "  というものを、

説得力のある形で消費者に伝えられなければならないと思う。

(僕の本音は、そういう貢献が認められるものには消費税を免除しろ=その分の

 税金は消費者が負担している、なんだけど・・・まだ言えないでいる。)

 

三つ目は、遊休地 (耕作放棄地) 対策と就農支援のリンクである。

時間がなくて本意をちゃんと話せなかったが、

農水省内には、有機農業推進事業とは別に、

耕作放棄地対策、農村活性化人材育成派遣事業 (『田舎で働き隊』 事業という)、

里地環境づくり、農地・水・環境向上対策事業、などがそれぞれに動いている。

農林水産省生物多様性戦略なるものもあって、こちらは環境省が全体をとりまとめる

形になっている。

これらをもっとうまくつなげて、総合的な施策・ヴィジョンとしてまとめてはどうか

と思うのだが、いかがなものだろうか。

現状では、それぞれの部署が同じような理念を掲げて予算を奪い合っている

(結果として膨れ上がっている) としか思えないのだ。

国の財政はすっかり破綻しているというのに。

 

ついでに言えば、

経済産業省には 「農商工等連携対策支援事業」 というのがある。

その目的は、「企業と農林漁業者が有機的に連携し、それぞれの経営資源を

有効に活用して、中小企業の経営の向上および農林漁業経営の改善を図る」

というものだ。

農村の活性化や環境対策にいったい全部でいくらの税金が投入されているのだろう。

それらは本当に効果を上げているのだろうか。

 

有機農業の推進はよしだが、

使うなら最も有効な形で使ってもらいたいと願うばかりである。

 



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