2009年7月 6日

八郎潟から白神へ (Ⅱ)

 

二日酔いの最高の良薬は、うまい空気と清い水だ。

念願の白神山地を、黒瀬さんたちと歩く。 

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広葉樹林の森の中でもブナ林帯は、いつも水に覆われているようで、

最高の森林浴だと思う。

 

白神山地は、青森・秋田両県にまたがる標高1000~1200m級の山々で構成される。

人為の影響を受けず、分断されていないブナ原生林としては世界最大級で、

ほぼ純林として残っている。 ブナ林は保水力が強く、数々の川の源にもなっていて、

多種多様な動植物を育む。 もちろんヒトの生活水も賄ってくれている。

 

世界自然遺産に指定された区域のコアゾーン (核心地域) は約1万ヘクタール。

この地域にヒトが入るのは指定のルートに限られ、かつ届出が必要となる。

しかも秋田県側は学術調査や取材に限って許可が出る、入山禁止エリアである。

その周辺にバッファーゾーン (緩衝地域) が約7千ヘクタール。

僕らが今回歩いたのは、その外にある田苗代湿原 (たなしろしつげん:秋田県藤里町)

という地帯。 世界遺産区域から見れば麓にあたる位置だが、

紛れもない白い神の宿る山系の一角である。

 

水の涌く山を歩く。

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藪を越えると、突然、ここは涅槃 (ねはん) の地かと思わせるような湿原が現われた。

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ニッコウキスゲの群落だ。

 


黒瀬さんは、この時期を選んで誘ってくれたんだね。

草取りで忙しいっていうのに。 

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花弁を思いっきり広げて虫を呼ぶ。 この行為には意思がある。

この形も、色も、香りも、必要とする虫を集めるためにレベルアップさせてきたのだ。

虫たちに花粉を運ばせて、性質の違う個体と受粉させることによって、

植物は自然界への対応力 (多様性) を豊かにし、種を繁栄させようとする。

数億年の時間をかけて、花 (植物) と虫 (動物) が築きあげてきた共進化の形がある。

 

ドウダンツツジ。 -だと教えてもらう。

こういう姿を可憐だと表現したりするけど・・・ ああ、日本語をもっと究めたい。

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若い頃は、花の名などには興味がなかった。 

エコロジストっぽい講釈垂れたりしながら、

山はただ逞しい自分が欲しくて登っていただけだったように思う。

だから続かなかったのかな。

 

今は、何だろう・・・

こんな樹々の葉にも、素直に畏怖し、仰げるようになった気がする。 

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圧倒する緑を美しいと思う。 生命の美しさ以外の何ものでもない。

これは成長したのだろうか。 それとも、社会生活に疲れたのだろうか。。。。

 

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老木の風情は、山の守り神のようだ。

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熊や鹿や小動物に齧(かじ) られながら、何百年も大らかに皆を見守っている。

くそ! スゴすぎる。

そんな力強さにヒトも畏敬の念を抱き、その木に名前をつけたりするんだ。

 

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岩の上にタネが落ちたばっかりに大変だったろうが、

しっかり岩を抱え込み、根づいた者もいる。

苔むした岩に草が生え、土になるのにはまだ数百年はかかるか。

植物は、微生物も育てながら、一緒にこうやって土を作ってきた。

ヒトはその表土という名の地球の薄皮の栄養分で生きているのだけれど、

何でか痛めつけるのを気にとめないでいる。

 

ギンリョウソウ。 -だと教えてもらう。

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こいつも何かの役割を果たしているに違いない。

 

ホオノキ (朴の木)。 -だと、これも教えてもらう。

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これがホオノキか。 たしか下駄とか楽器とか、色々と使われている木だよね。

今はどうなんだろう。

 

樹々の葉っぱや枝や幹を伝って落ちながら、雨や雪は大地に蓄えられる。

水はゆっくりと地下に染み込み、沢から谷に落ち、川をつくる。

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この川が、青森の田も秋田の田も潤してくれる。

途中で汚れなければ、近海の海も、だ。

魚は上流の状態を感じとりながら生きている。

 

何度でも言いたい。

水と水を育む生態系はコモンズ (公共のもの) であり、未来のものでもある。

誰の手にも渡してはならないし、今の世代でダメにしてよいという権利もない。

 

この白神山地を世界自然遺産にするには、議論もあったようだ。

世界遺産になるとかえってヒトが入って荒らすことにならないか (このままでいい)。

いや、ちゃんと伝えて残す意味を分かってもらう必要がある。

このまま美しく残すには、残す意思が共通遺産にならなければならない、

ということで登録に動いたのだという。

やっぱり自然の天敵はヒトなのか・・・。 

 

ま、心洗われた、黒瀬さんに感謝の白神体験でした。

 


Comment:

いやぁ〜黒瀬さんかっこいいっすね〜!
こういうポリシー持ってやっていらっしゃる方(大地の生産者ほとんど全員でしょうけど。)って本当にかっこいい!
それから、暑い中除草をしてくださっているおばちゃんたちもかっこいい!昔、潮干狩りに80台のおばあちゃんと一緒に行ったことがありますが、3時間近くしゃがみっぱなしでがりがりやっていて、ダウンしたのは若い私のほうで、おばあちゃんはまったく平気で翌日も朝4時から畑に出ていたそうです。
そういうおばちゃんになりたいと思っているのですが、あいかわらず程遠い状態です。

それから神々しい山の写真の数々、思わず生命の大合唱が聞こえてきて、涙が出てきました。戎谷さん、よいもの見せていただいてありがとうございます。

実際に目で見るともっと感動するのでしょうけど、みんながみんなそれをしたら自然は壊れてしまうでしょう。だから写真で十分です。
なんか今回は感動的でした!

あ、行っておきますが昼間からカステラにブランデーをかけて食べながら書いているせいではないと思います!

from "てん" at 2009年7月17日 11:54

てんさん。

写真、喜んでいただいて光栄です。もっとうまくなりたいと思ってるんですが、まだまだです。
黒瀬さんのすごいのは、すごいことを関西弁で笑いながら軽〜い感じで実践されているところでしょうか。なかなか、ああはいきませんね。ホント、すごい人です。

from "戎谷徹也" at 2009年8月10日 20:21

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