2009年8月アーカイブ

2009年8月29日

四国のみち

 

閑話休題 -四国編 (続き)。

 

四国と言えば空海、そう、弘法大師の国である。

遡ること約1200年前、希代の神童・空海が四国88ヶ所に霊場を開いてより、

これまでいったいどれだけの数の人々が、彼の歩いた道を辿ったことだろう。

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8月末のまだ暑い日差しの残る中、昔からの遍路道を歩く青年を発見。

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同行二人 (どうぎょうににん)。

いつも弘法大師と一緒、という意味。

お大師さんと一緒に寝食をともにしながら、88のお寺を巡礼することによって、

煩悩が消え、願いが叶う。

実際に巡礼で願い事が叶ったという人には、ついぞお目にかかったことがないのだけれども、

それでも、歩けば一ヶ月はかかる道のり。

道々で人に触れ合い、 時に風雨にさらされながら自然と向きあい、

何かを会得しようと、人はこの道を歩くのだ。

この青年もきっと、人生への迷いか、肉食系女子から受けた失恋の深い傷を負って、

ここまでやってきたに違いない。 

ただの観光であっても、そう思ってあげるのである。

 

だから四国の人は、お遍路さんには殊のほか優しい。

さすがに今は、お米(生の米) を上げる人はいないと思うけど

(僕が子供の頃は米が 定番だった)、

5円 (ご縁)玉をいっぱい用意しているお婆ちゃんは、今もいたりする。

 

しかも世情を反映してか、お遍路さんは年々増えている、らしいのである。

人が待ちそうもないバス停に、まだ目新しい屋根がつけられていて、

そこでお遍路さんが昼寝していたのにも遭遇した。

世界がグローバル化する中で、妖しく人の心をつかむ、ただひたすら歩く道。

空海の霊験今なお。  恐るべき資源(?) である。

 


眼下に海を望む山道の中に、こんな祠もある。

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空海42歳の厄年を迎え、訪れたこの地で、

末世の衆生のあらゆる災難を救おうと誓願し、仏像を刻み、37日間の満願の日、

突然山は金竜の形を現わした。 空海、手にした五鈷(ごこ) で祈念するや、

金竜の岩間から浄水が湧き出でた。

以来、四季を通じて枯れることなく霊水を湛え、今も参拝者が絶えない。

-すごい謂われではないか。

そのわりには、なんてことはない、と言わんばかりの素朴な佇まいが、よい。

 

風の強い海沿いの峠には、波切不動明王である。

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唐の修行からの帰路、嵐に巻き込まれた空海を助けたとされる。

よって、旅と交通安全の守護神となる。

人生の長い旅の途上にある悩める青年どもよ、拝めよ。

 

てな感じで、いたるところ空海あり。

散歩がてら、お気楽に写真を撮りながら、ふと

深~く根っこをおろしている精神風土という言葉の片りんを見たようで、

空恐ろしくもなってくるのだった。

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青年・空海は、この砂浜に立ち、空と海に向かって何と叫んだんだろうか。

 

さて、海から一転して山中に入れば、こんな川もある。 e09082820.JPG

 

この川沿いに、数年前、カヌーイストの野田知佑さんが引っ越してきている。

著書でたしか、「こんな自然のまんまの川が残っていたとは」 と感激されていた。

開発からも見放された、いや対象にすらならなかったこの田舎の川が気に入って、

この地に居を構えたらしい。

見る人によっては、これもすっごい宝ものなんだね。

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野田さんについては、僕は何冊かのエッセイを読んだだけの小ファンでしかないので、

用もなく探し訪ねるのは遠慮したが、機会があればお話ししたいと思っている。

しかしどうも、地元の人はあまりご存知ないようだ。 隠遁生活かしら。

自分の古い付き合いネットワークとは世界が違うのかもしれない。

 

自然をビジネスの資源と考えるのは、ある意味で危険な思想である。

下手に場所を教えたり宣伝すると、人がやってきて荒れる、という意見もある。

一方で、その価値を知る人を増やすことが大事なのだ、という主張がある。

守るためには隠してはならない。 呼んで体感させようではないか。

 

僕の記憶が確かならば、野田知佑さんは後者のはずだ。

日本じゅうの川を巡ってきた方と、僕の郷里で、地域の資源について語れるのを、

次の帰省の目標にしたいと思っている。

もちろんお許しいただけるのであれば、の話として。

野田さんとともに長良川河口堰の建設反対でたたかったライターの天野礼子さんが、

先日有機農業推進法関係でお会いした折に

「体調がね・・」 と心配されていたのが、ちょっと気がかりなところ。

 



2009年8月28日

地域資源

 

閑話休題。 

24日から一週間の休暇を頂戴し、2年ぶりに南四国に帰省してきました。

2年前は、ちょっと感傷的な日記を書いてしまったので、

今回はちょっと自慢げに、きれいな南の風景をお届けしたい。 お許しを。

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こんなリアス式海岸の地形。

海と山がくっついていて、入江々々に漁村集落が固まってある。

これだけは子どもの頃から変わらぬ風景です。

 

30年以上も前、高橋和巳という作家がこの地を訪ね、その随筆の中で、

「 ひと口に言えば、豊かな停滞、楽観的非発展性」 と評したけど、

人々は今も見事に、過疎と停滞を嘆きながら、何をするでもなく安住している。

身近な金銭的利益ではけっこうセコく争ったりもしながら。

 

外は太平洋。

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僕はいつも海を眺めながら、水平線の向こうに憧れる少年でした。

 

山の所々に、誰が植えたのか、椰子や蘇鉄が茂っている。

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ここは生物的には熱帯の北限でもあって、これも昔々の話、

ある野心家がパイナップル栽培に挑戦して失敗したという話も残っています。

 

そんな地域で、先日の後継者会議の余韻を引きずりながら、

資源とニーズをマッチングさせるマップづくりを頭の中で描いたりしたのでした。

「地元学」 で言うところの、" ないものねだりから、あるもの探しへ " 。

 


たしかに資源も探せば色々と浮かんではくるが、

どれも海と山からの贈り物ばっかり。

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漁村留学と称して、都会から子どもたちを受け入れて有名になった地区もある。

こんな風景をボーッと見て、磯で遊ぶだけでも、癒しになる?

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2年前も紹介した、僕がひそかに狙っている無人島。 

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後継者会議のワークショップで僕が出したカードは、

なんてことはない、あれ以来ずっと温めているものだ。

 

資源=無人島、ニーズ=生きるための基本技術の習得。

そこで、この島を拠点に 『 未来に生きる、サバイバル塾 』 。

ダメでしょうか。

 

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日和の良い日に、この縁台に腰かけて海を眺めている年寄りたちも、

実はすっごい技を持っていたりするのを、僕は知っている。 

ボケている暇などなくさせてやりたいものだ。 

医療費のかかる厄介者なんかでなく、稼ぎ手に。 しかも楽しく、若者たちに尊敬されながら。

 

漁が年々細くなる、魚がおらんようになった、と嘆く漁師たち。

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僕が今年言えたのは、「海の底は見てるか?」 だけだった。 

でもね、誰も見ていないのですよ。 この海の底で何が進行しているのかを。

 

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今の時代、資源は 「守る意思」 がないと守れない。

海の美しい、豊かに見える漁村でも、その再生産力と持続可能性は、

静かに、そして確実に、痩せていってる。

 

都市のニーズをつかむとか言う前に、

自分たちの暮らしの原資を見つめ直す、大人向けの発見講座が必要か。

子どもたちには、どんどん海に潜らせて、アワビでもウニでも採らせればいいのに。

 

こんな看板が立っていた。

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アカテガニが希少種になりつつあるようなのだ。

僕が子供の頃は、バケツ一杯になるまで取る競争をしていたものだが・・・・・

産業からも見放された漁村で、生きものたちが撤退していってるなんて。

 

くそ! 寂しすぎる、今回も。

 



2009年8月23日

『未来の食卓』 -地元での自主上映はいかが?

 

天下無敵の百姓さん。

いつもコメントを寄せていただき、有り難うございます。

映画 『未来の食卓』 の地方上映なんて、採算合わなくて無理だろうなあ、

とは誰でも思うところですよね。

でもしかし、ところがいや待て、ホームページをよく見てみると、

自主上映の申し込みについてのページがあります。

  ↓

http://www.uplink.co.jp/film/howto.html

 

これによれば、なんと5万円 (+消費税) で上映が可能です。

最悪の場合、一人5万円、10人寄れば一人5千円の自腹を切る覚悟があれば、

上映できます。 50人が千円出せば、劇場で見るより安い勘定です。

もちろん、会場の確保から人集め、宣伝 (ポスターやチラシの配布など)、

といった多少の追加経費と労力が必要になりますが、

やる気になれば、手の届かない話ではありません。

黒字にさせることだってできるかもしれませんよ。

 

実は僕も何か考えたいとは思っているところです。

大地を守る会の生産者が中心になって、各地で自主上映が展開される、

てのはどうでしょうかね。

 

いずれにしても、周りの人に考えていただく素材として

充分使えるツールであることは間違いありません。

 



2009年8月21日

「地元資源を見直そう」-後継者会議。

 

島根県浜田市弥栄 (やさか) 町。 旧・弥栄村。

広島県との県境にある、標高400から600mの典型的な山間地の村である。

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8月20日、この村に、全国から若手生産者、次世代のリーダーたちが集まった。

「第7回 全国農業後継者会議」。

 

萩・石見空港からは約1時間の道のりだが、日に1便しかなく、

我々は広島からバスをチャーターし、2時間かけて現地に向かった。 

 

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会場となった 『 弥栄ふるさと体験村 ふるさと交流館 』 。

参加者55名。

 

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昨年は山形の庄内で開かれたこの会議で、来年の開催地として立候補したのが、

今回の受け入れ幹事団体、「やさか共同農場」 だった。

 

挨拶する佐藤大輔さん、28歳。 

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「いやあ、立候補したのはいいんですが、

こんな山奥に本当にみんな来てくれるのか、不安で一杯でした。」

 


みんな律儀なのである。

いや、それよりも、年に一度は会いたい仲間なのだ。

「オッス」 「やあ、元気だった?」

「〇〇ちゃんはどうしたの?」 「あいつは今日は〇〇作業で来れなくって...」

「今年 (の作物の出来) どうよ?」 「いやあ、厳しいなぁ」

・・・・とかいった会話が交わされる。

北海道から沖縄まで、全国に有機農業の友だちがいる。

忙しいけど、金もかかるけど、やっぱ行かなくちゃ、ってわけだ。

 

島根での開催ということで、有機農業運動の先達にご挨拶をお願いした。

出雲にある木次乳業元社長で、今は相談役の佐藤忠吉さん、90歳。

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1960年から、自然と共生する酪農と有機農業を実践してきた先駆者中の先駆者。

つねに農水省と反対のことをやってきた、と笑う。

「私の人生は失敗の連続でした。 戦争、災害、病気、ありとあらゆる艱苦を経験しました。

 しかし、だから今日がある。 いまも新しい発見だらけで、死ぬまで勉強ですな。」

聞いたか、若者。

農民の責任とプライドをかけて、ひたすら安全な食べものを作ろうと思ってやってきた。

いまも牛乳を配達するトラックのボディには

「赤ちゃんには母乳を」 のメッセージが掲げられている。

 

国の方針にいつも逆らってきたもんだから、警察の見張りまでついたとか。

「ウチとやさかさんには公安がついてくれとったです。」

 

やさか共同農場は現在こそ有限会社として法人化されているが、

大輔くんのお父さん、隆さん (やさか共同農場代表) ら4名が

弥栄村に入村したのは、1972年である。

学生運動がやや下火になりつつある時代、町からやってきた若者たちが、

コミューン (共同体) と称して休耕田を耕し、有機農業を始めた。

やっぱ相当に危険視されたことだろう。

共同体のそばに公安刑事のための小屋まで建てられたとか。

今では一緒に酒を飲むこともある、と隆さんは笑っている。

 

やさか共同農場の経営の柱、みそ製造所や畑を見学する一行。

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説明する堀江恵祐さん。 弥栄に来て20年以上になる。 

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隆さんたち先輩が、地元のおばあちゃんたちと一緒に、教えてもらいながら

つくってきた 「やさか味噌」。

今では年間250トンの味噌を仕込む。 原料大豆はすべて島根県産。

ざっくりと計算して60~80トンの県内の大豆を引き受けている勘定だ。

地元の産業を牽引する立派な食品加工メーカーに成長した。

 

今回の記念講演は、「農村の資源を宝に変えるコツとは?」。

講師は、「NPO法人 えがおつなげて」 代表の曽根原久司さん。

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山梨県北杜市を拠点に、都市と農村の交流事業を幅広く展開している。

農村ボランティアを募り、遊休農地を開墾し、地域の担い手を育成する。

企業との連携も積極的に仕掛け、新たな仕事 (商品) づくり、村づくり、人づくり、

そして環境再生へとつながっていく。

限界集落といわれるような農村には、宝物がいっぱいある。

日本の農村はいま、戦後最大のチャンスを迎えている、が曽根原さんの持論である。

 

曽根原さんは元金融機関の経営コンサルタントであったが、

バブル崩壊後の日本の行く末に危機感を感じて、農村の再生という仕事にチャレンジした。

夫婦で体をこわしたのも動機のひとつだったようだが、大地の食材で健康を取り戻したという。

「子どもは無理だろうと医者に言われましたが、今では3人の子どもがおります。」

こういう話も若者たちには聞いて欲しいところだ。

君たちのお父さん、お母さんは偉いのだ。

 

夜は古民家で宴会。 遅くまで飲みながら情報交換し、大いに議論する。

そして二日目は、曽根原さんのリードでワークショップ。

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各出身地域別に6班に分かれて、

各テーブルごとに、自分たちの地域にある資源を書き出す。

環境とか海とか抽象的・大雑把なものでなく、特産品名とか棚田とか、具体的に書く。

次に都市 (消費者) のニーズを思いつくだけ書いてゆく。

そして、資源とニーズを一つ選んで、ビジネスモデルを考案する、という展開。

出てきた案はこんな感じ。

・荒れつつある山武杉を使って木製家具をつくる。

・草刈しながらマムシ捕獲ツアー。

・ねぷた祭りを自分でつくる浅虫温泉癒しの旅。

 などなど。

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僕が参加した中国・四国チームで考案したのは、ミカンの木のオーナー制度。

一本=2万円/年。 毎年80~100㎏のミカンが届く。

子どもが生まれたら植える記念樹としてもOK。 お孫さんへのプレゼントにいかが?

普段の管理は農家がやるが、いつでも作業に来れる。 来れば農家民泊でタダ。 

夜は自慢の星空観察もあり。

 

まあ遊び半分のゲームだけれど、それぞれに自分たちの村の資源を再発見する

機会になったことと思う。 そう、俺たちの地域は資源に満ち満ちているのだ。

 

面白おかしく発表する若者たち。

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地域の資源を捉え直す。

これはきっと彼らにとっても刺激的だったのだろう。 

二日酔いをもろともせず、なかなかやる。

 

解散式。

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最後まで生き生きと闊達な連中。

来年の開催地は・・・・・なんと沖縄・宮古島から手が上がった。

行くしかないぞ、みんな。

 



2009年8月18日

未来の食卓

 

2回にわたって久しぶりに言いたい放題書いてしまったけど、

ぼくのカリカリした言葉よりも、もっと説得力のある映画が

タイミングよく上映されているので、紹介したい。

 

ジャン=ポール・ジョー監督  『未来の食卓』 。

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村内のすべての学校給食と、高齢者の宅配給食をオーガニックに切り替えた

フランスの小さな村の話。

1年にわたって村の変化を追った作品である。

 


舞台は南フランス、ラングドック地方。

ワインの産地でもあるガール県バルジャック村。

牧歌的な風景に教育番組的なストーリーが展開されるのかしら、

などと予断をもって劇場に足を運んだのだが、

ところがどうして、かなり刺激的な映画ではないか。

 

フランスで公開されたのは昨年11月。

当初20館で上映されたのが、56館まで広がり、

ドキュメンタリーとしては異例のヒット作になった。

 

学校給食をオーガニック (+地元の野菜) に切り替えたのは、

ショーレ村長はじめ10数人の村議会議員たちの決断だった。

当然、村内は賛成・反対入り乱れた議論が起こる。

特に一般栽培農家には面白くない事件に映ったことだろう。

しかし子どもたちの評判はいい。 もちろん 「嫌い」 という男の子もいるけれど。

 

村長が自信をもって村民に語りかけている。

「オーガニックに費用がかかる? 

 しかし代わりに払わされているものがあるんじゃないか。

 大事なのは人の健康である。 相談相手は、自分の良心だ。」

オーガニック農家と一般栽培農家を同じテーブルに招き、話し合いをさせる。

病気対策、害虫対策・・・・・オーガニック農家は代案を示してゆく。

「大事なのは土だ」 と。

対立ではなく、選択肢を示し、対話で進める。

 

農家の奥さんの証言が生々しい。

「農薬散布は夫の仕事だけど、撒いたあとに鼻血が出るし、排尿ができないの。」

農村でガンが多発するのを眺め、自身の体の不調が農薬によるものだとも感じながら、

生活のために 「やるしかない」 と思っている農民たち。

子どもがガンに侵され、悔いている母親。

 ・・・隣で観ていた女性の席から、微かに鼻をすするのが聞こえてしまった。

 

調理員たちの労働時間は増えた。 しかし、これからも続けたい、と語る。

「もう加工食品の缶詰は開けたくない。 後戻りはしたくないんだ。」

村長は、そんな彼らを教育者だと称えている。

ここでの給食の風景は、誰もがいいなぁと思うだろう。

 

そして映画の冒頭に出てくるのが、前回紹介したユニセフ会議のシーンである。

記者からの質問に対するガン研究者の答えがすごい。

「 (化学物質が病気の原因である) 証拠はあるかって?

 証拠は科学誌を読めばいい。 今は一刻も早く対策が必要な時なのだ。」

 

「小児ガンが確実に増えている。

 親よりも弱い子どもたちが増えている。 これは人類史の危機である。」

 

フランスは殺虫剤の使用量が世界一だという紹介がされていた。

しかし単位面積当たりの農薬の総使用量は日本の方が多いはずだ。

けっしてよその国の話ではない。

 

映画が上映された後、バルジャック村には全国から共感の声が寄せられ、

視察が殺到しているそうだ。

村役場では映画の反響に対応する担当者を置かなければならなくなったとか。

村の人々に先駆者としての誇りが生まれ、

オーガニックに転換する農家も現れてきている。

変えることは可能なのだと、この映画は教えてくれている。

「オーガニックは、環境のすべてだ」 -なんてカッコいいセリフだろう。

 

ちなみに映画の原題は 『 NOS ENFANTS NOUS ACCUSERONT 』

 " 子供たちは私たちを告発するでしょう "

そうならないためには、

私たちは 「未来の食卓」 を今から作り直さなければならないってことだ。

 

映画  『未来の食卓』 は現在、シネスイッチ銀座、渋谷アップリンクで上映中。

詳細は、下記ホームページで確認できます。

  http://www.uplink.co.jp/shokutaku/

映画のチラシを持参された方には、割引もあります。

地方の方は、ぜひ地元での上映の声を!

 



2009年8月16日

「有機農産物=安全」 は間違い? (Ⅱ)

 

天下無敵の百姓さん。

早々と力の入ったコメント、有り難うございます。

ではこちらも気合を入れて、続けますね。

 

「有機農産物=安全」 は間違いだという 「根拠」 についての

個別論点に対する反論は書いたとおりだが、

この方の論拠の大モトは 「農薬は適正に使えば (残留も基準内に収まり) 安全」

という考えにある。

だから有機と言えども 「安全性の面では一緒」 ということになるのだが、

欠落している視点がいくつかあるので、提出しておきたい。

 


1.まず、農薬はそれ自体が病原菌や虫を殺傷する効果を持つもので、

  必然的に 「毒性」(リスク) が存在する。 したがって 「毒性物質」 に対しては、

  たとえその残留が基準値以内であったとしても、

  「できるだけない方が良い」 という観点の方が大切だと思うのである。

  そのための栽培技術を追求しているのが有機農業であり、

  有機農業の技術が安定し、社会的にも供給体制が広く整うならば、

  それは 「より安全」 な食生活を支えるものとなるはずだ。

  未来の子供たちのためにも支援していただきたい。

 

2.「基準値以内であれば健康への影響はない」 と断定するのは、

  ある意味で健常者の発想で、ここには残留農薬にアレルギー反応を示す方や

  化学物質過敏症の方への配慮がない。

  この筆者にすれば、体の反応と農薬の間に因果関係が科学的に証明できないと

  「非科学的ないいがかり」 ということになるのかもしれないが、

  実際に食事を無農薬野菜に切り替えたことで体調が好転されるという事例は多く、

  また食と健康のつながりを重視するお医者さんが増えてきていることを、

  筆者はどう捉えておられるのだろうか。

  どうか科学者には  " いま現実に起きている・進行している "  事態にこそ

  探究心を持っていただきたいと切に願う次第である。

 

3.この方の文章からは、農薬の複合汚染的観点が見受けられない。

  農薬一つ一つをとれば、それなりに厳しい基準値が設けられている。

  ( 試験結果から一日の許容摂取量がはじき出され、それに100倍をかけるなどの

   工程を経て、基準値は設定される。)

  しかし同じ農薬でも作物によって随分と基準値が違うものがあるし、

  なおかつ農産物に使用される農薬は一種類だけではない。

  何種類もの農薬を、微量とはいえ同時に (しかも毎日) 摂取し続けた場合の影響は、

  科学的には立証不能である。

  「農薬が色々と使われている農産物による健康への影響は、正確には分からない。

   ただ、数が増えれば増えるほど、またその摂取回数に応じてリスクは高まる 」

  というのが正しい科学的立場ではないだろうか。

  

  ついでに言えば、農薬使用を指導される方々はよく

  「正しく使えば安全だから心配いらない」 といって農家の不安を取り除こうとするが、

  本来は 「農薬は危険なものだから、安全使用基準をしっかり守って、慎重に

  取り扱わないと消費者の信頼を得られませんよ」 と言うべきなのだ。

  これこそが、あるべきリスク・コミュニケーションだろう。

 

4.実はぼくが最も強く主張したいのは、「農薬は生産者の健康を損ねる」

  という点である。 当会の生産者の中にも、本人あるいは家族が

  農薬によって体を壊した経験を持たれている方が大勢いる。

  「農薬は危険なモノである」 は科学的に自明なことなのに、この筆者には

  残念ながら実際に使っている農家の健康は視野に入ってないようである。

  「消費者が (外見などを) 求めているから、つらい農薬散布も我慢してやってるんだ 」

  -そんな方々を前にしたとき、私たちはどんな仁義を切ればいいのだろう。

  「だから感謝して食べよう」 -でよいのか。。。

  生産者の健康を考える配慮を、科学ライターなら持ってもらいたい。

  あえて標題に重ねて言うなら、

  「有機農業=安全な農業」 であり、それを目指す農と消費の連携運動である。

  したがって 「有機農産物と安全」 は多様な意味合いで語られなければならない。

 

5.土壌への残留による問題は前回書いたとおりである。

  繰り返しになるが、農薬・化学肥料への依存は環境汚染を招き、

  生態系のバランスを失わせてきている。

  土壌の劣化、農薬による大気汚染、河川や地下水(=水)の汚染、

  生物相のバランスの喪失、こういった側面を科学的に捉えるなら、

  「(科学的に) 安全性の優劣はない」 といった安易な記事は書けないはずだ。

  何かを守ろうとしている、としか思えない。

  だとするならこれは 「科学」 ではなくて、政治的配慮というヤツである。

  PRTR法 (特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律)

  などによって多くの農薬が適正管理を求められている今日の状況を、

  「科学」 は自問しなければならない。

 

この記事で筆者は、最後に以下の点について触れておられる。

1.有機農業は生産性が高くないので高価になる。

2.地球上の農業をすべて有機農業に切り替えると、肥料が足りず

  病害虫の被害も大きくなり、世界の人口の3分の1から半分程度の人しか養えないだろう、

  というのが科学者らの一致した意見である。

 

これについては、次のように言っておきたい。

1.有機農業では、たしかに当初は、一般栽培に比べて単位面積当たりの収穫量は

  落ちる傾向がある。 しかし農薬・化学肥料に依存した農業では、

  長く続けることによって、土壌の疲弊も含めて生態系のバランスが悪化することで

  逆に病害虫の発生が抑えられなくなり、生産力が落ちてくると言われている。

  そうなるとさらに農薬と化学肥料に依存しなければならなくなる。

  安定的で持続可能性が高いのが有機農業であり、かつ土と生物相のバランスが

  整ってくれば病虫害は減少する、というのがぼくの知る有機農業の原理である。

  価格についてはいずれ整理したいと思うが、

  むしろ今の安い農産物の価格が何によって支えられているのかが問題だ。

 

2.これはすでに遅れた知見である。

  記事にも出てくるFAO (国連食糧農業機関) が一昨年に出したレポートでは、

  「有機農業の方針にしたがえば、地球における耕作可能な土地すべてを利用することで、

  全人類に食料を提供することが可能である」 と報告されている。

  森林破壊や砂漠化が進むなか、

  土地土地の資源を大切に循環させる有機農業

   (この意義は筆者も認めておられる。 肥料は足りなくはならない )

  こそが地球を救う、とぼくは信じるものである。

  これ以上耕地を失わないこと、そして地域と食のつながりを大切にする

  社会づくりが必要なことではあるが。

 

  むしろ、化学肥料の原料であるリン鉱石が枯渇しはじめ、アメリカに買占めされて

  いるといった情報こそ、ライターには追っかけてもらいたいところだ。

  世界は無気味に動いている。

 

書けば書くほど、言いたいことが募ってくるが、この辺で終わりにしておきたい。

間違いがあれば、ご指摘願いたい。

 



2009年8月15日

「有機農産物=安全」 は間違い?

 

川里賢太郎から送られてきた写真が嬉しくて、つい、はしゃぎ過ぎたか。

賢太郎くん、ごめんね。 ほんと、嬉しかったんだよう。

 

さて、前回予告した「記事」 について、話をしてみたい。

掲載された媒体は未確認なので 「不明」 とさせていただくとして、

会員さんから 「こんな記事を見て驚いている・・・」 とコピーが送られてきたものだ。

 

『食卓の安全学』 と題して連載されているもので、

この号では 「有機農業の本当の意義」 というタイトルで語られている。

筆者は科学ライターの方で、我々の業界ではよく知られた方である。

冷静な分析をされる方だと、ぼくも思っていた。

しかし、この記事について言えば、どうにもいただけない。

 

こんな出だしから始まる。

「 有機農業で育てられた農産物は安全・・・。

 そう信じていませんか?

 科学的にみると、それは間違いです。 」

 


え?? じゃあ、危険なの? という短絡的な反応をしそうになったが、

真意はというと 「一般栽培との安全性上の優劣はない」 である。

要するに、 「安全性はどれも一緒」 と言いたいわけなのだが、

「 『有機農産物=安全』 は間違い」  とはちょっとイヤらしい小見出しだ。

 

ま、それはともかく、「間違い」 の根拠は次のようなものである。

1.有機農業で利用される有機質肥料やたい肥は、土壌中の微生物などで分解されると

  化学肥料と同じ成分になるので、化学肥料と変わらない。

2.有機農業でも使われている農薬はある。

3.一般の農産物でも、農薬は残留していない場合が多く、また残っていても

  基準値を下回っていれば健康への影響はない。

  したがって一般の農産物と有機農産物の安全性に優劣はつけられない。

4.日本だけでなく、国連食糧農業機関(FAO) や諸外国でも

  「有機農産物=より安全」 とは認めていない。

 

これが 「科学的」 根拠だというわけだ。 

う~ん・・・・・科学者の皆さん、これでいいのでしょうか。

 

筆者はその上で、有機農業の意義とは、

石油などを使って作られる資材を極力使わず、周辺にある家畜糞尿などの「資源」を用い、

多品種を少量で、なるべく旬の時期に栽培することで、

大地や自然の持つ力を最大限に引き出し、環境負荷が低い生産を目指している

という点にある、と説かれている。

 

この意義についてはまあ良しとして (北海道など多品種少量とはいかない地域もあるが)、

上記の 「間違い」 の根拠については、やはり反論しておかなければならない。

以下、順番に私の見解を会員サポート職員に伝えた次第である。

1.たしかに 「有機」 から 「無機」 に (分かりやすく言えば元素に) 分解されれば、

  化学肥料と同じ成分ではあるが、植物は有機の状態でも吸収していることは

  すでに科学的研究でも明らかになってきていることだ

   (先日の米の生産者会議のレポートでも触れた)。

  また筆者が言う 「意義」 として書かれている資源循環の側面は化学肥料にはなく、

  化学肥料は即効性が高く、余分な肥料分による地下水や河川の汚染を招いている

  との批判もある。

  そもそも有機肥料の役割は、単なる栄養分の補給といった化学肥料的役割だけでなく、

  土壌の物理性(排水性、保水性、根の伸長性など) の改善、養分保持力・供給力の向上、

  土壌の生物相の向上など、多面的な効用がある。

  つまり、その施用の意味から環境への影響まで含めて考えるのが 「科学的」 見方

  というもので、分解されたら化学肥料と同じという当たり前の理由だけで同一とは、

  あまりにも有機農業を理解されてない発言である。

2.「有機農産物のJAS規格」 において使用を認められている農薬はたしかにあるが、

  数は限定されており、相対的に安全性の高いものと言える。

  またその使用にあたっては 「あくまでもやむを得ない事情による場合」 に限る、

  とされており、けっして 「有機農産物も農薬を使用している」 わけではない。

  しかも有機農業=「有機JAS規格に則ってつくられた農産物」 というわけでもない。

  日本の有機農業はすでに40年に及ぶ歴史があり、2000年にJAS規格がつくられる

  以前から、化学合成農薬を使わない、というのが有機農業の基本姿勢である。

  やはり有機農業の世界をあまりご存知ない、と言わざるを得ない。

  ついでに言えば、減農薬栽培の方々の間でも、農薬を選択する際には

  できるだけリスクの低い有機JAS許容農薬を選ぶ、という現象も生まれている。

3.「農薬が残っていても基準値を下回れば健康への影響はない」 については、

  あとで見解をまとめさせていただくとして、困ったことに、基準値を上回る農産物は

  今でもしばしば発生している。 それらは消費された (食べられた) 後に判明する。

  この方のような立場からいえば、それは使用基準を守らなかった例外的ケース、

  ということになるようなのだが、実際には一般的防除 (農薬使用) を前提にした栽培

  が常に抱えているリスクであろう。

4.たしかに、各国の公的機関の文書で 「有機農産物=より安全」 と明記したものは、

  ぼくも見た記憶はない。 どの国も農薬や化学肥料の使用は認めているし、

  その安全性評価は、この方同様 「基準値未満であれば安全(健康危害はない)」 という

  前提に立っているのだから (その意味で基準値がある) 、

  特段に 「有機の方が安全性が高い」 とは公式的には謳えないだろう。

  この観点から言えば、「どちらも安全」 なのだ。

  

  しかし有機農業(オーガニック) は、日本だけでなく世界の各地で推進されている

  のも事実である。 そこでは 「土壌の保全」、「環境汚染の低減」、「生物多様性の保全」

  といった観点から有機農業の優位性が語られている。

  つまり農薬と化学肥料に依存した農業は、その逆の負荷をかけているわけであり、

  土壌・環境・資源・生物多様性を守る農産物と、どちらが 「より安全」 かは、

  推して知るべし。 本音はちゃんと語られているのである。

  食は環境の賜物だと考えないとするなら、 

  要するに、「安全性」 に対する考え方の幅が違う、ということになろうか。

 

  また、単純に 「食品への残留と健康への影響」 という観点からのみ考えたとしても、

  土壌に蓄積されていく農薬は、将来にわたってその 「安全」 を保証するものと言えるだろうか。

  この単純皮相的な 「安全」 視点には、時間の座標軸がない。

  有機農業には、未来の子供たちの健康を守るためにも、という観点が土台にある。

 

  「科学的」 を重視されるなら、2004年のユネスコ会議で出された

  「パリ・アピール」 についてはどうなんだろう。

  ここで市民だけでなく多くの医者や専門家ら20万人に及ぶ署名が提出され、

  「化学物質による環境汚染が人体に悪影響を及ぼしている」 と宣言された。

  署名した専門家は、ガン研究者や細胞生物学研究者、医学博士、環境衛生学、

  食品衛生学など幅広い分野の科学者たちであり、

  彼らは 「早急にオーガニックへの転換が必要である」 と主張しているのだが。

  

長くなってきたので、今回はここまで。 

続く、とさせていただきます。

 



2009年8月13日

お詫びに補足・訂正 & 賢太郎Ⅱ

 

東北地方は梅雨が明けぬまま立秋を越し

(立秋を過ぎると梅雨明け宣言はしないんだってね)、

あっという間に残暑見舞いの時節となりました。

 

あちこちで豪雨が降り、台風が追い打ちをかけ、さらには地震と、

とんでもない夏になっています。

当会の生産者も苦戦していて、どこもかしこも雨と日照不足の報告。

千葉ではせっかく播いた人参の種が流されています。

お盆までに播き直しができたとしても、生育の遅れは避けられません。

果物産地からも、天に祈るような状況が伝わってきます。

しかも我々のシステムは、会員さんや取引先からの注文に合わせて出荷をお願い

している都合、品質への影響を心配しつつも、雨の中での収穫という

農家の常識ではありえないこともやってもらったりしています。

台風や地震の人的・物的被害はなくても、影響は甚大、といったところです。

これらは生産者と直につながることのリスクとも言えますが、

そのぶん支えあう力も強くありたいものです。

しっかり食べてくださいますよう、切にお願いします。

 

さて、てんさん、RのMさん、にいださん、天下無敵の百姓さん、

この間のコメント有り難うございます。 遅まきながらお返事をアップしています。

簡単でつまらないコメントですが。。。 いつも反応が遅くて申し訳ありません。

 

また、先日書いた記事の補足や訂正の連絡も頂戴しました。

おまけに前回紹介した賢太郎君からも、速攻で写真が送られてきて、

これはアップしないとまずい・・・・

というわけで、まとめてご報告させていただきます。

 


8月1日付の日記で紹介した、北海道・高野さんのジャガイモ畑。

エキ病にやられていたのは男爵ではなく 「わせしろ」 という品種でした。

隣の緑色の畑は 「さやあかね」 。

皮の赤いイモで、エキ病抵抗性の強い新しい品種です。

いけませんねぇ、勝手な思い込みで書いては。 

隣の生産者とお喋りしてたのまでバレちゃったかしら。

ちなみに、欧州からの研修生はイタリア人とのこと。 名前はシルビアさん。

日本からの研修生は佐賀から来た亀川さん。 本気で農業やる気です。

やっぱ日記と言えども、公開する以上ちゃんと取材は必要なのである! 猛省。

 

さて次に、川里賢太郎がブログを見て、ちょっとちょっとエビさん勘弁してよ、

とばかりに写真を送ってよこした。

「オイラの久美子です。 頑張って農作業もやってますよォ!」

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・・・・・って言いたいワケだな。

堆肥を切り返す妻。 よく分かった、頑張ってる、ウン。

 

東京は小平の花小金井という町で、無農薬で野菜づくりに励む若いカップル。

東京の食と緑を支えてくれ、なんてたいそうなことは言わない。

二人で仲良く、農業は楽しい! (つらい時もあるだろうけど)

を実践してくれると、ぼくらも嬉しいです。

 

前からの姿も見たい? 見たいでしょ。 じゃあこれも一緒に。 

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分ぁったよ、シアワセなのは。 ようく分かった。 楽しくやってくれ。

改めて、心から、

「おめでとうございます!

 久美子さん、くれぐれもケンタローをよろしくお願いします。」

 

 

さてさて、最後におまけの一枚。 こちらはコータローです。

届いて三日経ってしまったけど、食べる前に撮ってみた。

長野県南佐久郡佐久穂町に入植した元職員、遠藤幸太郎&優理子の作品。

無農薬で育てたトマトです。

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以前に紹介した時は、佐久の有機農家で修行中だった二人が、

就農して2年目を迎えた。

ご多聞にもれず、ハウスが浸水するなど雨に苦労させられたようだ。

それでもトマトは最盛期を迎え、元職場にも送られてきた (買ってくれ、という意味) 。

立派なトマトである。

今年は有機JASも取得した。 こちらも頑張っている。

「生産者になって、農薬を使わないということがいかに大変か痛感していますが、

これからも初志貫徹したいという所存です」 なんて書いてある。

 

末尾が憎たらしい。

「幸太郎、優里子、みのり ともに元気に毎日を楽しんでいます。

 皆様も誇り高き大地を守る会の仕事を楽しんで、体に気をつけて励んでください。」

 

 - 温かい励ましのお言葉、有り難うございます。 精一杯励ませていただきますよ。

 

・・・と、こんな楽しい日記を書いている脇で、

会員サポート・グループから相談を受けた一件に取りかかっている。

「有機農業で育てた農産物は安全 -というのは科学的にみると間違いです」

という記事に対する見解をまとめよ、というものだ。

整理でき次第、展開してみたいと思う。


 



2009年8月 9日

川里賢太郎を祝う

 

川里賢太郎。

東京都下は武蔵野台地の一角、小平市というベッドタウン地帯で、

葉物を中心に栽培する都市農家。

まだ30代半ばの、次世代を担う農業後継者の一人である。

親父さんの弘さんは東京有機のメンバーで、大地とは古くからの付き合いだ。

そのケンタローくんが今年の2月28日、大地を守る東京集会の日に挙式した。

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そこでだいぶ日にちが経ってしまったが、恥ずかしがって固持するご両人を説き伏せて、

遅まきながら大地職員で一席用意することになった。

昨夜、賢太郎を知る関係者が吉祥寺に集まる。

残念ながらお連れ合いの久美子さんは体調が悪くて来れなかったのだが

(「もしや・・」 とオッサンどもはすぐに別なことを考えるのだが、「それは、ないです」 )、

ま、それは仕方ないこととして、

こじんまりと、ゆるーい感じで談笑しながら、結婚を祝う。

 


実はケンタローくん、

農大を卒業した後、少しは社会勉強をしてから農業に就きたいと考えて、

縁あって大地を守る会の配送代理店に就職した。

宅配の配送員を勤めること2年。 けっこう会員さんからも人気があった。

バレンタインのチョコを貰ったり、「ホント、会員さんにはよくしてもらいました」。

退社するときにお礼の手紙を貰った感激は今も忘れないという。

好青年を絵に描いたような男。

 

みんなで色紙にメッセージを寄せて、順番にお祝いの言葉を述べる。

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立って喋っているのは広報室の大野由紀恵。

最近マスコミから近郊農家の取材依頼があると、

川里賢太郎の名前を挙げることが多い -ように思うのは、私だけだろうか。

もしや、ケンタロー結婚に、深くショックを受けた女性の一人か・・・・・

e09080908.JPG (大野が脇にくっつきすぎるのでカット)

 

さて、久美子さんは都下・秋川の方の出身で、和菓子屋さんの娘さんだとか。

結婚式の写真を見て、 「辺見えみりに似てる」 と誰かが言った。

笑顔の可愛い、快活な感じのお嬢さんだ。

まだ畑仕事はしてないけど、袋詰めとか出荷の手伝いをしてくれるので助かっている。

「彼女のことだから、いずれ畑に出ると言ってくれると思ってます。」

お父さんの弘さんも本当に喜んでいるらしく、家庭も賑やかになったようだ。

よかった、よかった。

 

東京有機の代表、阪本啓一さん。

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こちらはますますオヤジの吉五郎さんに似てきて、

すっかり貫禄がついている。

 

二人のために用意したささやかなケーキ。 

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しょうがないから賢太郎一人で消してもらう。

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おめでとう、賢太郎!

シアワセ一杯の家庭を築いて、ますますいい野菜が届くことを期待しております。

では賢太郎様よりひと言-

「 大地さん。 どうか配送員を大事にしてやってください。 」

くぅ、泣けてくるねー。

 

では、みんなからのお祝いは何がいい?

-扇風機をください。

 

ということで幹事の町田君が扇風機を買いに行くことになりました。

時節柄です、急ぐように。 

 

最後に、この場を提供いただいた吉祥寺のお店、『 Loft Dining 具u 』。

群馬県倉渕村 (現:高崎市) に入植した元職員、

和田裕之・岡佳子夫妻の野菜を取り寄せて、使ってくれている。

店長のさんとーさん。

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フレッシュな野菜中心の料理、美味しかったです。 ご馳走様でした。

つい、くつろいでしまいました。

またお邪魔させていただきます。

 



2009年8月 4日

スーパーマーケットにも大地の野菜

 

今年4月の社内の部署再編成により、

外販営業部隊 (営業チーム) が我が農産グループに編入されてきている。

量販店や自然食品店・レストラン・外食・給食などなど、

要するに宅配以外の卸し業務全般を担う部署だ。

したがってわたくしエビも、グループ長のメンツもあり、時には営業にも出ることになる。

 

ということで、本ブログでは初公開になるけど、

大地を守る会の野菜を販売していただいているスーパーさんをご紹介したい。

小田急線沿線中心に28店舗を構える 「小田急OX」 さん。

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写真は、さる7月24日に訪ねた狛江駅前のお店の外観。

ここから数分歩いたところに研修施設があり、

この日、各店舗の店長さんが集まっての研修会が開かれることになった。

そこで 「大地を守る会の野菜」 について話をしろ、というご指名を受けたので、

当社取締役の長谷川満とタッグを組んでやってきたのだった。

かなり頼りないコンビだって? 誰、そんなこと言うの。 もしかして大地通の方?


会議室に通され、

各店の店長さんに本部の方など合わせて30名ほどの方を前に、お話しする。

前に出て話した当事者なので、写真はなし。

 

店長さんなので、野菜専門とは限らない。

お肉分野から上がってきた方もいれば、雑貨畑でやってきたという方もいる。

「野菜はよく分からない、という方もいますので、小難しい専門用語は通じない

 と思ってやってください」 と事前にくぎも刺されていた。

 

まずは戎谷から、会の歴史と組織概要の説明、基本理念、農産物の自主基準と

トレサビリティや独自の監査の仕組み等をお話しし、

御社の販売する農産物の 「信頼」 に貢献できる自信があることを伝える。

続いて、人参・きゅうり・キャベツを生で試食してもらいながら、

長谷川から、大地を守る会の野菜の違いについての話。

栽培の特徴から野菜の具体的な " 目利き "  まで。

キャベツはここを見るのです。 きゅうりはこうなってないと、人参は・・・・

店長さんたちが一番興味を示したのもここで、やっぱり話は具体的なほうが面白い。

市販品との比較ではちょっとドキドキもしたが、

「うん、違うね、特に人参。 キャベツも甘い。 きゅうりは・・ちょっとわかんねぇなぁ 」

まずまずの好評で、ホッとする。

 

問題は表示である。

有機JASやら特別栽培やら〇〇農法やら、どうなってんの、ってな感じ。

僕も違いについて解説したが、どうもご納得いただけなかったようだ。

「もっと分かりやすくできないかねぇ、う~ん。」

課題ですね。

店長さんたちと忌憚なく会話ができ、

これからのサービスというかフォローのポイントも発見でき、

自分なりに、いい市場リサーチになったと思う。

本部の方曰く。

「今日はなんか、みんなリラックスして、けっこう質問が出ましたね。

 いつもはもっと静かなんですけど。」

これがこのタッグの力なんですよ。 まあ長谷川キャラに負うところ大だけど。

 

お店の大地コーナー。

自社製品といえども店内風景を撮影するには許可がいる。 挨拶して撮らせていただく。

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大地の野菜の特徴を一所懸命伝えてくれている。 有り難い。 

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お店から見れば、わが社が宅配していることは、営業上のデメリットになるのでは、

と思われる方が多い。

しかし、そんなことはないのです。

週一回の宅配で、足りなくなったとき、買い忘れた時など、

町々に一軒の取り扱い店があれば、そこに足を運んでくれる。

お店の方からも 「大地さんの会員さんらしき方も結構お見えになって、

それなりの相乗効果が出ているように思う」 とはよく言われることだ。

 

問題は、こういう不特定多数のお客様を相手にするお店では、

常に一定(以上) の見栄えも含めた品質が求められていて、

大地のように特定の生産者と契約した野菜というのは、

時に一般市場でははじかれるような形状のものも届いたりして、かなりリスキーなところだ。

会員さんからたまに 「こんなのスーパーじゃ置いてないわよ」

とお叱りを受けることがあるが、

そういうのはだいたいバックヤードではじかれていて、

誰に見られることもなく捨てられているワケなんですね。

生産者から見れば 「食べてほしい」 ものなんだけれど (もちろん、傷んでいるとかは別) 。

特定の生産者との契約とは、その時のその土地の結果が

ストレートに反映されたものが届く、ということである。

量販店で有機野菜と付き合うには、粘りと意思が必要になると思う。

そしてもうひとつ、大らかさも。

小田急OXさんとは、お付き合いをさせて頂いてもう20年になる。

 

以前、八百屋塾の話を書いたけど、

町の八百屋さんだって、スーパーさんだって、

" 日本の野菜(農家) を守りたい、支えたい " という思いを持っている人はけっこう多い。

こういう人たちとネットワークして、市場を開拓し変えていくことは大切なことだと、

ぼくは強く思っている。

有機のマーケットが広がり、食の安全の土台が強くなって、

消費者も手に入れやすくなって、農業全体が変わっていければいい。

 

有機農業推進法ができて3年になろうとしているが、

ぼくらは34年前からその精神を実践してきた自負がある。

仁義のひとつくらい切ってもらいたいものだ、農水省には。

そして町のスーパーさんに対しても、Gメンとかいって監視して回るだけでなく、

ちゃんとやっているところには頭を下げろ、と言いたい。

 

後日、OXさんから、

先日の話を社員向け小冊子に掲載したい、改めて原稿にまとめるので協力してほしい、

との連絡が入った。

実にありがたい話である。

 



2009年8月 1日

今年の北海道はキビシイ・・・

 

7月30-31日、北海道は積丹(しゃこたん) 半島に行ってきました。 

観光ではありません。

北海道の大地を守る会生産者による、年に一回の生産者会議が行なわれたのです。

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ウチの田舎(南四国) も似たような景観だけど、岬の山の格好が違う。

それに空気、というか印象が違う。 

寒くて岬の上に霧がかかっていたからなんだろうか、やっぱり厳しさを感じるのだ。

ウチの方は佇まい全体がのんびりしている。

 

早朝から船が出ている。 ウニ漁だね。

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そんな積丹町の総合文化センターに、生産者や事務局・理事含め総勢51名が集まる。

『第19回北海道生産者会議』 -始めてからもう19年になった。

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今年はちょっと参加者が少ないか...... 

どうやら会議どころではない雰囲気なのだった。


僕は事情により2便遅れて到着したので、最初の講演は聞けず。

「北海道の有機農業の実情とこれから」 というタイトルで、 

北海道農政部の中川秀弥氏から道内の有機農業事情が報告されたはずである。

中川氏の部署は、

「農政部  食の安全推進局  食品政策課  クリーン・有機農業グループ」 という。

しっかり有機農業を進めるための部署をつくっているのだけれど、

それにしても長いね。

 

講演の後は、今回の受け入れ幹事を務めた高野健治さんと5名の生産者による報告と、

それをもとにした意見交換の時間が持たれた。(僕はこの途中から参加)

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左から、大地の長谷川理事(司会)、道農政部の中川氏、

続いて高野健治、大作淳史、平訳優、徳弘英郎(どらごんふらいメンバー、元大地職員)、

瀬川守(当麻グリーンライフ代表)、柳沼雅彦(北斗会事務局)、の各生産者たち。 

それぞれに近況報告をされたが、共通していたのが今年の厳しい天候事情である。

6月から7月まで、雨ばかり続いていたという。 

7月だけでも、道全体で平年の270%(!!) を超える降雨量を記録した。

日照時間は65%程度、平均気温も1.8度下回っている。

ヤバイ・・・ ドキドキしてくるほどのヤバさだ。

収穫期を迎えた小麦が風雨で倒れているらしい。

 

「こんな年は今まで経験したことがない」 (平訳さん)

「父もそう言ってます」 (大作さん)

「せっかく北海道の米の評価が上がってきている時。

 何としても品質のいい米に仕上げたいのだが、とにかく心配です」 (柳沼さん)

 

折しも中国・九州の集中豪雨は人命まで奪う被害を出すなど、

ことは北海道だけではなく、すでに市場では野菜が急騰してきている。

 

二日目は高野さんの畑を見て歩く。

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小豆の畑。 ここはいいねぇ、と皆が言う。

今年でこれだけ良けりゃ万々歳だよ、とも。

それだけ各地は厳しいのだろう。

 

こちらはジャガイモ畑。 品種は「ワセシロ」。 

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手前から先にかけて真四角に茶色くなっているのがエキ病。

右隣はエキ病に強いと言われて植えてみた新しい品種-「さやあかね」。

見事に違いが出ている。

これがエキ病の姿。

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これでは収穫はかなり厳しい。

 

しかし高野さんは飄々と、「おれは農薬は撒かないからね」。

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トウモロコシは良さそうだ。 

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最近、ハチを見つけると、つい撮ってしまう私。 

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当地に入植してウン十年。

(すみません、思い出せません。。。 20年から30年の間だったと思うが・・・ ) 

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高野さんはいよいよ家を新築する。

頑張ってきたんだねぇ。 そうだよう~。

飄々さに自信のようなものを感じたのは僕だけではないのでは。

 

歳は伏せておこう。 

新婚なのだ。

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お連れ合いの美保さん。 そして生(いきる) ちゃん。

 

「まあ皆さん、良い年もあれば悪い年もある。 必ず良いことも巡ってきますから。

 元気出していきましょう。 」 

ある境地に到達しつつある、と見た。

 

最後に記念撮影。

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最前列の右端の女性は、え~と、どこだったっけ? スェーデンだったか・・・

とにかくヨーロッパからの研修生。 左から2番目の娘さんはニッポンからの研修生。

高野農場には研修生が絶えない。

 

かなり記録的にヤバい年になりそうな気配を抱きつつ、北海道をあとにする。 

高野さんのセリフに励まされながら-

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