2009年8月15日

「有機農産物=安全」 は間違い?

 

川里賢太郎から送られてきた写真が嬉しくて、つい、はしゃぎ過ぎたか。

賢太郎くん、ごめんね。 ほんと、嬉しかったんだよう。

 

さて、前回予告した「記事」 について、話をしてみたい。

掲載された媒体は未確認なので 「不明」 とさせていただくとして、

会員さんから 「こんな記事を見て驚いている・・・」 とコピーが送られてきたものだ。

 

『食卓の安全学』 と題して連載されているもので、

この号では 「有機農業の本当の意義」 というタイトルで語られている。

筆者は科学ライターの方で、我々の業界ではよく知られた方である。

冷静な分析をされる方だと、ぼくも思っていた。

しかし、この記事について言えば、どうにもいただけない。

 

こんな出だしから始まる。

「 有機農業で育てられた農産物は安全・・・。

 そう信じていませんか?

 科学的にみると、それは間違いです。 」

 


え?? じゃあ、危険なの? という短絡的な反応をしそうになったが、

真意はというと 「一般栽培との安全性上の優劣はない」 である。

要するに、 「安全性はどれも一緒」 と言いたいわけなのだが、

「 『有機農産物=安全』 は間違い」  とはちょっとイヤらしい小見出しだ。

 

ま、それはともかく、「間違い」 の根拠は次のようなものである。

1.有機農業で利用される有機質肥料やたい肥は、土壌中の微生物などで分解されると

  化学肥料と同じ成分になるので、化学肥料と変わらない。

2.有機農業でも使われている農薬はある。

3.一般の農産物でも、農薬は残留していない場合が多く、また残っていても

  基準値を下回っていれば健康への影響はない。

  したがって一般の農産物と有機農産物の安全性に優劣はつけられない。

4.日本だけでなく、国連食糧農業機関(FAO) や諸外国でも

  「有機農産物=より安全」 とは認めていない。

 

これが 「科学的」 根拠だというわけだ。 

う~ん・・・・・科学者の皆さん、これでいいのでしょうか。

 

筆者はその上で、有機農業の意義とは、

石油などを使って作られる資材を極力使わず、周辺にある家畜糞尿などの「資源」を用い、

多品種を少量で、なるべく旬の時期に栽培することで、

大地や自然の持つ力を最大限に引き出し、環境負荷が低い生産を目指している

という点にある、と説かれている。

 

この意義についてはまあ良しとして (北海道など多品種少量とはいかない地域もあるが)、

上記の 「間違い」 の根拠については、やはり反論しておかなければならない。

以下、順番に私の見解を会員サポート職員に伝えた次第である。

1.たしかに 「有機」 から 「無機」 に (分かりやすく言えば元素に) 分解されれば、

  化学肥料と同じ成分ではあるが、植物は有機の状態でも吸収していることは

  すでに科学的研究でも明らかになってきていることだ

   (先日の米の生産者会議のレポートでも触れた)。

  また筆者が言う 「意義」 として書かれている資源循環の側面は化学肥料にはなく、

  化学肥料は即効性が高く、余分な肥料分による地下水や河川の汚染を招いている

  との批判もある。

  そもそも有機肥料の役割は、単なる栄養分の補給といった化学肥料的役割だけでなく、

  土壌の物理性(排水性、保水性、根の伸長性など) の改善、養分保持力・供給力の向上、

  土壌の生物相の向上など、多面的な効用がある。

  つまり、その施用の意味から環境への影響まで含めて考えるのが 「科学的」 見方

  というもので、分解されたら化学肥料と同じという当たり前の理由だけで同一とは、

  あまりにも有機農業を理解されてない発言である。

2.「有機農産物のJAS規格」 において使用を認められている農薬はたしかにあるが、

  数は限定されており、相対的に安全性の高いものと言える。

  またその使用にあたっては 「あくまでもやむを得ない事情による場合」 に限る、

  とされており、けっして 「有機農産物も農薬を使用している」 わけではない。

  しかも有機農業=「有機JAS規格に則ってつくられた農産物」 というわけでもない。

  日本の有機農業はすでに40年に及ぶ歴史があり、2000年にJAS規格がつくられる

  以前から、化学合成農薬を使わない、というのが有機農業の基本姿勢である。

  やはり有機農業の世界をあまりご存知ない、と言わざるを得ない。

  ついでに言えば、減農薬栽培の方々の間でも、農薬を選択する際には

  できるだけリスクの低い有機JAS許容農薬を選ぶ、という現象も生まれている。

3.「農薬が残っていても基準値を下回れば健康への影響はない」 については、

  あとで見解をまとめさせていただくとして、困ったことに、基準値を上回る農産物は

  今でもしばしば発生している。 それらは消費された (食べられた) 後に判明する。

  この方のような立場からいえば、それは使用基準を守らなかった例外的ケース、

  ということになるようなのだが、実際には一般的防除 (農薬使用) を前提にした栽培

  が常に抱えているリスクであろう。

4.たしかに、各国の公的機関の文書で 「有機農産物=より安全」 と明記したものは、

  ぼくも見た記憶はない。 どの国も農薬や化学肥料の使用は認めているし、

  その安全性評価は、この方同様 「基準値未満であれば安全(健康危害はない)」 という

  前提に立っているのだから (その意味で基準値がある) 、

  特段に 「有機の方が安全性が高い」 とは公式的には謳えないだろう。

  この観点から言えば、「どちらも安全」 なのだ。

  

  しかし有機農業(オーガニック) は、日本だけでなく世界の各地で推進されている

  のも事実である。 そこでは 「土壌の保全」、「環境汚染の低減」、「生物多様性の保全」

  といった観点から有機農業の優位性が語られている。

  つまり農薬と化学肥料に依存した農業は、その逆の負荷をかけているわけであり、

  土壌・環境・資源・生物多様性を守る農産物と、どちらが 「より安全」 かは、

  推して知るべし。 本音はちゃんと語られているのである。

  食は環境の賜物だと考えないとするなら、 

  要するに、「安全性」 に対する考え方の幅が違う、ということになろうか。

 

  また、単純に 「食品への残留と健康への影響」 という観点からのみ考えたとしても、

  土壌に蓄積されていく農薬は、将来にわたってその 「安全」 を保証するものと言えるだろうか。

  この単純皮相的な 「安全」 視点には、時間の座標軸がない。

  有機農業には、未来の子供たちの健康を守るためにも、という観点が土台にある。

 

  「科学的」 を重視されるなら、2004年のユネスコ会議で出された

  「パリ・アピール」 についてはどうなんだろう。

  ここで市民だけでなく多くの医者や専門家ら20万人に及ぶ署名が提出され、

  「化学物質による環境汚染が人体に悪影響を及ぼしている」 と宣言された。

  署名した専門家は、ガン研究者や細胞生物学研究者、医学博士、環境衛生学、

  食品衛生学など幅広い分野の科学者たちであり、

  彼らは 「早急にオーガニックへの転換が必要である」 と主張しているのだが。

  

長くなってきたので、今回はここまで。 

続く、とさせていただきます。

 


Comment:

エビちゃん

久々にエビ節を見た気がする!

確かに書かれているとおりだと私も思う!

単純に農産物の安全性だけで有機農業を
行っている農家は少ないと思う。

未来に引き継げる豊かな環境や自然を次代の子供達に渡したい。

これ以上土地を痩せさせたくない。

などなど。

いろんな思いを持って、ノンケミカルで
大変な思いをしながらも日々農作業をしているのだ。

それをこんな形で批評されると言うことは
筆者に有機農家が否定されたようで何とも悲しい・・・。

この方にだけは有機農産物を食べて貰いたくないと思ってしまう。

農業とは、天の恵みと地の恵みに感謝しながら、農家は日々農作業をしている。

こんな当たり前のことが分からない学者がいるかと思うと
正直無性に腹が立つし、悲しい気持ちになる。

俺も負けない!

エビちゃんと共に戦い続ける!!!

from "天下無敵の百姓" at 2009年8月18日 09:17

このライターの方が一体どういう意図で書いたのかはわかりませんが、GM作物を「実質的に同等」とした考えに通ずるようなニュアンスを受けてしまいました。

有機農業に取り組んでいる方とお話させていただいたり、その現場を少しでも見たことがあれば、そんなことは言えなかったのではないかと思いました。
それこそ、命がけ、人生かけて皆さんやっていらっしゃいます。

消費者として、そんな姿に本当に手を合わせたくなることが度々あると共に、私たちにできることは何だろう、と常に考えさせられます。

最近、子供がとにかくたくさんお金があるといいなあ、というので、お金=責任だよ、と教えました。
「たくさんお金がある人はそれだけたくさんの責任を負うことになるんだよ。正しい使い方をしなければ、結局自分の身を滅ぼすことにつながるんだよ。」と教えました。
それからは、「ちょっとだけあるといい。」と言っています。

都市に住む消費者の一番のできることは、買い支えることではないでしょうか。
大地の生産者の方々のものを、その質を理解し、また、理解するように勤め、買い支えること。まずはそれからだと思います。

大地には、生産者が立ち行く値段での提供をお願いしたいところです。
かといって、あまりべらぼうでも困りますが、そうしないと、この商品は生産できないんですよ、というところも説明してくださると助かります。
ちゃんと価値を知ると、大地の商品、決して高くないですよ〜。(と思っています。)

from "てん" at 2009年8月24日 22:45

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