2009年10月 1日

有機農業推進と有機JAS規格(続)

 

偉そうに長々と書いちゃった手前、自分の有機JASに対する評価と、

大地を守る会が進めようとしている " 監査 "  の考え方について、

触れないわけにはいかなくなってしまった。

まあ別にモッタイつけるほどのものでもないし、もう進めているものでもあるので、

話の流れ上、記しておくことにする。 各方面からのご批評を賜れば幸いである。

 

まず有機JASについて。

僕の認識をひと言で言っちゃえば、こういう感じかなぁ。

「有機JAS規格と認証制度は、自己を証明するひとつのツールであって、

 それ以上でも以下でもない。」

 


自身が持っている栽培基準が有機JASの規格に等しい、あるいはそれ以上だと考えるなら、

それを誰に対しても証明できる管理体制を整え、第3者の監査も受けてみることは、

決して悪いことではない。

むしろ他流試合を挑むくらいの気持ちでトライしてみるといい。

自分の思い込みや甘い部分が指摘されたりして、自己診断や改善にもつながる。

大地を守る会でも独自に産地の監査を実施しているが、

第3者の認証機関やオーガニック検査員の視点を盛り込んで進めている。

そこでは、有機JASの認定を受けている生産者は管理の基本ができている、

というのが我々の評価である。 したがって証明も早い。

もちろん文書管理は増え、認証費用もかかることになるのだが、

このご時勢、コストや労力がかかりすぎるからという理由で、

栽培履歴が証明できない (=トレーサビリティの体制がない) では、次に進めない。

 

一方で、有機JASなんか不要だ、という頑固な生産者もいる。

農薬・化学肥料は有機JASで許容されているものですら一切使わないし、

国のお墨付き (JASマーク) もいらない、という方々だ。

これはその人の考え方や哲学のようなものなので、それはそれでよし、とする。

しかし、大地を守る会の監査は受けてもらう。

そこでは、有機JASの監査で要求される管理の仕組みは、

ひとつのスタンダードとして活用する。

つまり 「有機JAS農産物」 は認証の結果による表示であって、

それだけが 「有機農産物」 なワケではない。

 

もうひとつの動きとしては、新たに有機農業にチャレンジする生産者には、

有機JASはひとつの登竜門的機能を果たしてもいる、ということもある。

そこは生産者の努力の結果として正当に評価しなければならないだろう。

 

したがって当然のことながら、

大地を守る会の監査の対象は、当会に出荷する農産物すべてが対象となる。

監査が自己証明の手法であるとするならば、

農薬を使用せざるを得ない場合も同じであって、

記録や資材管理は有機JASの認証を受けた方々と同じレベルを要求することになる。

有機JASの認証を取得して、その後 「大地の監査でいい」 とJAS認証を撤退した

誇り高き生産者を、僕は知っている。

 

したがって、有機JAS制度が有機農業の推進を阻害している、とは

僕らの感覚では正確な分析ではない。

「有機農産物」 と表示した国内の農産物が増えてないだけなのだ。

批判するにせよ評価するにせよ、有機JASに執着すればするほど、

呪いにかけられたように表示規制に呑まれてしまうような気がする。

これは常に戒めなければならないことだし、僕らは

有機農業の世界を豊かに進められているかどうかをこそ、検証しなければならない。 

 

そのために必要なことは、自らの 「基準」 に有機農業の推進を据えられるかどうか、だろう。

基準とは、自らの生き方の指針でもあり、監査の 「ものさし」 ともなるものだから。

「ものさし」 が単純な資材の使用可否や文書管理のマニュアルでしかないのなら、

それだけの監査しかできない。 

有機JAS制度を批判ですますことなく、

実体をもって進化させられるかどうか、ではないだろうか。

 

豊かな認証制度をつくるには、有機農業の基準と物差しが進化しなければならないのだ。

国も認めざるを得ないような物差しが欲しい。 

僕が感じている課題は、前回書いた通りである。

 

ただし各種の研究をただ待ってもいられないわけで、

僕らは僕らで、自分たちの基準 (ものさし) に従って、監査を進化させなければならない。

栽培にあたって行なわれた行為を確認するだけでなく、

生産者個々の課題への取り組みや、それによってどんな価値が生まれたかを

監査できるシステムをつくりたい。 その手法はまだ手探りだけど、

いつか生産者とともに誇れるようなモデルをつくりたいと思うのである。

それは監査を続けるなかでしか獲得できないだろう、そう思って模索を始めている。

そのために、有機JASの認証機関や検査員の力もお借りする。

彼らが、海外のオーガニック農産物の認証で生計を立てるのではなく、

しっかりと国内での有機農業の推進のために仕事ができる、

そんな環境づくりにもつながるものとして。

 

有機JAS制度が海外のオーガニック製品の流入を後押ししたとかいって批判しても、

実にせんない気がする。

自分たちの力の弱さだと自己批評しなければ、運動は発展しない。

 

さて、前回の冒頭の話に戻れば、

農水省の有機農業推進班の方々が意識しつつある課題は、

有機農業推進法の制定とモデルタウンの進捗によって、生産が拡大するとともに

販路の確保が重要になってきている、ということ。

「大地さん、何かいい知恵はないですか。」

どーんとこい、と言い切れないところが弱いところだが、

僕の答えは、この2回の話に尽きる。

鍵を握るのは、消費者の理解なんだけど、

そのためにはそれぞれの立場で  " 創造的な "  仕事を進めなければならない。

創造を伴わない批判は、その運動の質も停滞させる。

 

運動家なら、創造に賭けよ。

研究者なら、真実を探求せよ。

耕作者なら、土をこそ守ろう。

流通者なら、健全な人々のネットワークに心血を注ごう。

監査や認証は、そのためのツールである。

 


Comment:

エビちゃん

相変わらず熱くて、良いことを語ってくれますね。
私たちの組織もJAS認証を取得していますが
当初からこの制度には批判的でした。
しかし認証取得もせずに批判するのはアンフェアだと思い
認証取得をしたのです。

日本の有機農産物はまだまだほんの一握り。
本当に有機農産物を増やしたいと思うのであれば
国は制度で縛るのではなく、どのようにしたら日本で
有機栽培が増えるのかを考えるべきであると思う。

過去に農業試験場の方をお呼びし、有機栽培の野菜の栽培方法の勉強会をしたが
その講師は、私は有機栽培のことは全く分かりません。
農薬、化学肥料で育てるのが基本だと思います。
と、のたまわれた。

国民が共に生活者として食の安全や日本の環境などを
どのようにして次の世代へバトンを渡すのかを
真剣に考えなければ行けない時期にとっくに来ていると思う。

政府は来年から米などの所得保障をするらしいが
それとは別に、この問題をきちんと正面からとらえ、
頑張って貰いたいものである。

生意気なことを書いてごめんなさい。
でもこれが生産者の本音です。

from "天下無敵の百姓" at 2009年10月 7日 11:47

うちも農産物に自己満足のオリジナルシールを考えています。

JASのシールより…
県認証のシールより…
NOAでしょうって(笑)

結局自己責任ですからね。
色々ややこしい事ばかりですが、何とかしますよ。

Eco-Friendlyです。

from "noaのこせがれ" at 2009年10月 8日 20:54

天下無敵様。 noaのこせがれ様

有り難うございます。今回のコメントはホント、嬉しいです。制度論争ばかりやってる場合じゃなく、具体的に栽培技術を高めながら周りに広めていくことで、制度(世の中)を変えていきたいと、つくづく思っています。またいずれ、じっくりと作戦会議を。これからもヨロシク、です。

from "戎谷徹也" at 2009年10月16日 18:35

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