2009年11月14日

舟の森を訪ねて -打瀬舟から山武杉の森へ

 

かつて東京湾には、昭和40(1965)年頃まで、動力ではなく、

帆(風) で走りながら漁をする打瀬舟(うたせぶね) の姿があった。 

 

その東京湾に、打瀬舟の復活を! 一口1万円の船主募集!

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そんな呼びかけのパンフレットをもらったのは数ヶ月前のこと。

くれたのは、大地を守る会理事の遠忠食品(株)専務・宮島一晃さん。

見れば、発起人代表に木更津の漁師・金萬智雄(きんまん・のりお) さんの名前がある。

NPO法人 盤州里海の会代表で、アサクサノリの復活にも挑んだ方だ。

「へぇ~、金萬さん、また酔狂なことを始めましたね。」

これが最初の感想だった。

「で、いくら集めるんですか?」 - 「目標2千万だって。」 ウ~ン・・・

 

興味は抱きつつも、話はそのままで終わったのだが、

今月に入って、おさかな喰楽部 (大地を守る会の専門委員会) のメーリングリストに、

金萬さんから案内が入ってきた。

11月14日開催  『打瀬舟建造プロジェクト 舟の森を訪ねて』

の参加申し込み締め切り日を過ぎましたが、まだ多少の空きがあります。 よろしかったら-

 

" 舟の森 "  -の言葉に響くものがあった。 そうか、そういうことか、みたいな。

打瀬舟を育てた千葉・山武杉の森を訪ねる。 これは行くしかない。

 


11月14日(土) 9時30分。 集合は東京駅鍛冶橋駐車場。

ここからバスに乗って、浦安から山武まで見学コースが組まれていた。

 

一行はまず、浦安市郷土博物館 に到着する。

ここで、本日のガイド役として大屋好成さんが合流する。

地産地消型の家作りを謳い、数奇屋建築や社寺建築を得意とする市川市の大工さんである。

打瀬舟など和船の建造技術にも詳しい。

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背中の壁には、古き良き時代の浦安風景を描いたレリーフが飾られている。

海苔や魚の干し台が並び、女たちが元気よく働いている。

小舟(ベカ舟という) の向こうには打瀬舟も見える。

 

打瀬舟にも、千葉の検見川型とか浦安型、神奈川の子安型といったタイプがあったそうだ。

小型のものは干潟のアマモ場での 「藻エビ漁」 などで活躍したが、

干潟の干拓や埋め立てによって藻場は消え、

この伝統漁法もついに博物館に眠ることになった。

打瀬網漁は、今では北海道・野付湾での北海シマエビ漁に残るのみとなっている。

(熊本・芦北の不知火海では観光船として操業されている。)

 

展示されている舟や漁具の数々を、駆け足で見て回る。 

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窓越しに撮影。 向こうからマキ船 (その中にベカ舟)、打瀬舟、小網船。

船大工道具なども展示されている。

 

「仮屋」 と称する木造船の製造場も。 

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ここでベカ舟製造の実演が見れる。

ベカ舟とは、一人乗りの海苔採り用の船で、東京湾では一番小さな船だったらしい。

遠浅の海で漁を営んだ浦安を代表する漁船として親しまれたのだろう。

山本周五郎の 「青べか物語」 も読んでみたくなった。

 

これらの木造船の本体には、房総の山武地方で古くから育てられてきた山武杉の、

赤身 (芯の部分。赤くて油分が多く、腐りにくい) が使われたのだそうだ。

金萬さんのねらいが、いよいよ見えてくる。

 

当時の浦安の風景が再現されている。

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館内には干潟のジオラマなどもあって、

今度は時間をとって、じっくりと見に来ようと思う。

 

途中、浦安市内を流れる境川沿いを歩く。

朽ちてゆく打瀬舟が佇んでいたりする。

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まだ使える状態の舟がつながれてあった。

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金萬さん-「形も美しいだろ。 オレ、こいつを狙ってんだよね。」

これは子安型なのだという。

 

金萬さんたち 「東京湾に打瀬舟を復活させる協議会」(略称:打瀬舟の会) は、

打瀬舟復活の意義を、次のように考えている。

〇 かつて東京湾に広範に存在していたアマモ場などの生物生息地の再生と、

   自然と人々とのかかわりの復活を象徴するものとして、打瀬舟を復活させる。

〇 日本の伝統である木造船技術を持つ舟大工の技術を継承する。 

   それは単なる復元ではなく、最先端の技術 (知恵) を取り入れながら発展させる

      ためにも必要なことである。

〇 木造の舟をつくるには、手入れされた森が必要である。

   打瀬舟の建造を通じて、東京湾とその流域のつながりを取り戻したい。

〇 自然エネルギーを利用した漁法の見直しと、漁業資源との共生を考える素材とする。

〇 子供たちへの打瀬漁体験などを通じて、森林と海のつながりや藻場干潟の大切さを

   学んでもらい、藻場の再生から豊穣の東京湾再生へとつながることを期待したい。

 

森は海に栄養を届け、その木材は魚貝類を取るために用いられ、

漁獲は海に流れた栄養を陸に返す。 

そんな循環を取り戻すための、打瀬舟の復活、ということか。

 

東京湾で生きてきた漁師の胸には、打瀬舟に対する深い郷愁もあるのだろう。

あの頃はみんな活きていた、みたいな。

その心に、" 東京湾 "  と聞くと血を騒がせてしまう人たちが共鳴しているわけだ。

遠忠食品・宮島一晃さんもその一人として、協議会の監事に名を連ねている。

みんな、熱いね・・・・・とか思いながら、

ウトウトとバスに揺られながら、山武杉の森へと移動する。

雨模様だった天気も回復してきた。 森も見られそうだ。

 

そして - 

山武杉の森で、僕は思わぬ人の名前を聞くことになったのだった。

                              (すみません。 明日に続く、で。)

 



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