2010年2月 4日アーカイブ

2010年2月 4日

「野鳥との共存」 はそう簡単なことではない

 

宮城県合同新年会が明けた翌日、

千葉孝志さんの車に便乗して蕪栗(かぶくり:旧田尻町) へと向かう。

千葉さんが設置しようとしている  " 冬水田んぼ "  のための太陽光発電装置

の現地を見ておきたいと思ったのだ。

 

当地にある伊豆沼・長沼地区、そして蕪栗沼や化女沼という湿地帯は、

渡り鳥の貴重な休息地であり、餌の補給地となっている。

しかし日本列島から湿地がどんどん消えていくなかで、

飛来する鳥の数も年々増えてきているようなのだ。

さすがにその受容力にも限界があるし、

かといって野鳥を人の手で餌付けするわけにはいかない。

 

冬に田んぼに水を張ることで渡り鳥たちの餌場を確保する冬水田んぼの取り組みは、

農家が自ら骨を折って渡り鳥との共生を目指すことの宣言である。

しかし、それといえども簡単なことではない。

用水の水位が下がる季節、どの田んぼでも水が引けるわけではないから。

 

そこで千葉さんが今やろうとしていることは、井戸を掘って、

太陽エネルギーの力で水を揚げよう、というものだ。

この構想に、太陽光発電の普及事業を進める日本エコシステムという会社が

名乗りを上げてくれた。 やるからにはこの冬の間に完成させようと、

ようやく設置工事の着工まで漕ぎ着けてきたところである。

 

ここが現地。

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千葉さんの田んぼでは、蕪栗沼と一番離れた所にある。

「なんで、ここにしたの?」

 


鳥たちは昼間、餌を探してあちこち飛んでいるのだから (もちろん一定距離の範囲内で)、

ある場所だけに集中してあるんじゃなくて、分散させてつくっておきたい、

というのが千葉さんの考えだ。

 

上の写真の手前右にあるのが、すでに掘ってある井戸。

そしてこちらが太陽光パネルを設置する場所。

盛土がされ、柱となる杭が立てられている。

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いま千葉さんが悩んでいる最後の選択は、水を揚げる動力装置をどれにするかで、

それが決定すれば、一気に工事に入る手はずである。

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太陽光パネルはエコシステムさんが提供していただけることになっているが、

それでも井戸を掘ったり、付属設備や設置工事まで考えると、その費用はバカにならない。

「まあ、やるしかねえから」 と千葉さんは笑う。

この地で、鳥と共生するということは、温かく見守るということではないのである。

 

千葉さんの倉庫には、すでにパネルが到着している。

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24枚のパネルを、畦に設置する。

角度を何度にするかも重要なポイントである。 千葉さんの悩みは尽きない。

「何たって誰もやったことないもんだから、お手本がないんだよね。」

先駆者とはつらいものだ。 

成功しても得られるものは賞賛くらいで、苦労は続く。 

逆に失敗したら、物笑いのタネにされかねない。

その時は呼んでください。 ガツンと一発、かましましょう。

いや待て待て、これは成功するんだから。

 

そんなお忙しい千葉さんに、もうひとつお願いして、登米市中田町まで走ってもらう。

昨夜飲みながら、高橋伸くんを尋ねる約束をしたのだ。

電話をすると、「エッ、本当に来るんですか」 と驚いている。

さすがに夕べの約束だからね。

それにお父さんの良さんにも会いたくなった。 もう10年以上、会ってない。

 

良さんも元気で迎えてくれた。

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開口一番、「太ったなや。顔が丸くなってる。偉くなって楽してるなぁ 」 と、きつ~い洗礼。

良さんは牛が好きで、今でも宮城牛にこだわっている。

しかもこんなご時勢にもかかわらず、牛を増やし、牛舎まで建て替えている。

地域での米の転作をまとめて引き受け、管理するほ場がすでに100町歩(ha) を超えた。

それらを有機栽培ほ場にして、大豆、麦をつくる。

しかしその規模拡大も、良さんにかかれば

牛の餌の確保と堆肥をつくる必要から、となる。 何事も牛中心で生きてきたような方だ。

畜産経営は大変だと思うけど、こうやって環境保全型の農業をベースに

地域資源の循環に貢献しているわけだ。 誇りを持ってやってきたのだろう。 

倅も立派に育って、前より自信が漲っているような感じですよ。

 

高橋さんに挨拶して帰らねば、と思ったのにはもうひとつ理由があった。

実は夕べ、僕は忘れかけていた重要な視点を、伸くんから思い起こされていた。

「鳥たちのお陰で、こっちはタイヘンっすよ。」

来年に向けて蒔いた大麦の新芽が食べられている、というのだ。

かなりやられているようで、すでにもう 「来年は間違いなく減収です」 だと。

 

周辺地域の農家にとっては、鳥による食害は大変に迷惑な話であって、

ラムサール条約登録で浮かれている場合ではないのである。

加えて、畜産家の良さんは、今でも鶏インフルエンザに渡り鳥が絡んでいると睨んでいる。

伸くんはまだ 「まあ、仕方ないっすねぇ」 と言ってくれるが、

千葉さんたちは、地域のこういう目や圧力と日々対峙しているということなのだ。

米価がまだまだ下がりそうな時代にあってなお、

自らの田んぼを使って、さらに金や労力をかけてまで、離れた所々に餌場を用意するとは。

高橋父子のお陰で、逆に千葉さんが考えている真意の一端を

少しはつかめたような気がしたのだった。 

ラムサール条約や生物多様性の視点だけでは、やっぱ地域の全体像は見えない。

 

地域内に生まれる利害対立は、ちょっとしたことで情けない争いを生んだりする。

相互理解と知恵が発揮できれば、どんな問題も止揚 (高い次元に発展させる形で解決)

できるはずなのだが、いつも腹を決めた個人のたたかいから始まる、のはしんどい。

だから人はつながらなければならない。

 

最後に、高橋伸くん。

突然お邪魔したことで、土づくり研修会に遅れてしまったようで、スミマセンでしたね。

今度は、親父さんも含めて、農業政策についてじっくり語り合いたいと思ったよ。

 



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