2010年4月 2日

農政はともかく、農は国の礎である。

 

4月1日午後、久しぶりに東京・霞ヶ関に出向く。

桜がもう満開に近い。

国会議事堂周辺の桜はいつも早くて短いように思うのは、気のせいかしら。

 

警備員に守られた議事堂を横目に、お隣の由緒ある 「憲政記念館」 に入る。

ここで、『 「農」を礎に日本を創る国民会議 設立総会 』 という集会が開かれた。

e10040203.JPG

「 農を礎 (いしずえ) に、日本を創る、国民会議 」

いかにも硬く、まるで右翼のようなタイトルだが、

「農」 を国民生活を守る大本として育て直さなければならないという強い問題意識での

「国民会議」 結成の呼びかけである。 ケチをつけるのは控えておこう。

大地を守る会会長・藤田和芳も、呼びかけ人の一人として名を連ねているし。

中心となった団体は、NPO法人ふるさと回帰支援センター、全国農業協同組合中央会

パルシステム生協連合会、生活クラブ生協連合会、そして大地を守る会。

 

「農」 は国の基(もとい)。

「農」 が生む 「食」 なくして国民の命の存続はない。

「農」 は国民の 「礎」 である。

 

気候変動や新興経済諸国の台頭によって、世界の食糧需給が逼迫してきているなかで、

日本は未だ食糧危機に極めて弱い状況にある。

にもかかわらず農業人口の減少と高齢化、耕作面積の縮小に歯止めがかからず、

市場原理主義の拡大と世界的不況は、農業経営をさらに悪化させている。

国の基である 「農」 を再生させ、日本の 「食」 を安定的に確保するために、

農業・農村を元気にすることが必要であり、市場原理主義と規制緩和を見直し、

食料自給率の向上をはかるとともに、

食料安全保障を国家戦略として明確に位置づけることが必要不可欠である。

                                  (「国民会議」設立趣旨から要約)

 

赤松広隆農林水産大臣が来賓として来られ、賛同のエールが贈られた。

設立趣旨や規約、活動方針案が提案され、承認を受ける。

活動方針案を読み上げる藤田会長。

e10040202.JPG

 


主な活動計画は、

1.食料安全保障政策を立案し提案すること。

2.それを社会のコンセンサスとするため、

  各界への働きかけやシンポジウムの開催等を展開する。

3.生産、流通、消費の各分野に 「国民会議」 への参加を呼びかける。

4.情報発信、メディア対策、出版の検討、など。

 

役員の選出では、

早稲田大学副総長の堀口健治氏はじめ6名の役員が選任された。

大地を守る会からは野田克己専務理事が入る。

役員会から委嘱の形で5名の顧問が選出され、藤田が常任顧問となる。

 

総会終了後、

首都大学東京(旧東京都立大学) 教授、宮台真司氏による記念講演が行なわれた。

テーマは、「日本の農業と食料安全保障 ~若者にとっての農村回帰の意味」。

e10040204.JPG

宮台真司氏。 サブカルチャーや若者文化論から天皇制まで語る気鋭の社会学者。

メディアにもよく登場し、著書も多い方である。

 

宮台氏は語る。

「農業の再生」 と言うが、社会はつまみ食いができない、ということを忘れてはならない。

「農業」 だけを切り取って 「再生」 するのは不可能で、

社会の様々な側面も同時に変えていかなければならない。

先進国最低水準の食料自給率は社会指標のひとつであるが、

他にも自殺率の高さ、労働時間の多さ(=社会参加の低さ)、

家族のきずな度、幸福度などの指標も、日本はかなりの低水準である。

幸福度調査では日本は90位以下。 

物質的に貧しい、将来的に危ない、といわれる国の人たちのほうが、

日本人より、シアワセ感が高いとはどういうことか。

この国の社会には大穴が開いている。

 

農業を保全しなければならない理由は3つだと思う。

国家の安全保障と、国民への  " 食の安全 "  の確保、そして国土保全、である。

日本では安全保障の概念が理解されておらず、

危機に対する思考を持った政策をつくれる人がいない。

食の安全の観点も、ただ有機栽培とか無農薬といったレベルで考えるのでなく、

食の安全思想の基本は、「みんなのために-」 というモチベーションではないだろうか。

ヨーロッパのスローフード運動には、共同体思想が根幹にある。

国土保全とは、単なる景観でも多面的機能とかでもなく、

社会のホームベース (人が帰れる空間) を分厚くする、ということだ。

日本は経済(お金) だけを追い求めてきた結果、

人や地域との絆、つまりホームベースを壊して、ただ便利なところに流れている。

 

アメリカだって、本当は市場原理主義の国ではない。

共同体的自己決定の思想と市場原理をどう折り合いつけていくかを考えているのが、

アメリカやヨーロッパである。

日本は市場原理主義こそが権威と勘違いして、生き残れるはずの思想を失った。

日本農業の再生の真の意味は、自給率や食の安全や就業人口を増やすことなどが

個々に課題としてあるのではなく、

" つながり・絆 "  をベースにした安心度の高い社会の再生、にあるのではないか。

 

僕流に解釈してしまったところもあるかもしれない、と断りつつも、

随所で、なるほど、そういうことか、と感じさせられた。 さすが、である。

 

「では、どうしたらいいのか」 という会場からの質問に対する宮台氏の答えは、

「単純な解はない」 と明快である。

まあ、これは俺たちが可視化していくしかない、ってことだね。

 

今日、地方紙の新聞記者さんが、

4月1日からスタートした戸別所得保障制度についての考えを聞きたい、と取材に訪れた。

この制度については、僕は一切のコメントを控えてきた。

「農業の再生」 という観点からはマイナスにしか見えない、と思いつつも

今後の動きが読めないし、とにかくよう分からんところがあり過ぎるのだ。

今日は宮台氏から頂いた視点をちょこちょこと拝借し、はぐらかしながら、

最後は持論で締めさせていただいた。

農業の外部経済 (生産された食べ物の値段以外のたくさんの価値) を理解できる

民意づくりこそが大切であり、そのための政策が必要である。

食の安全保障は、農民の所得を保証する前に、消費者の問題だからである。

 


Comment:

エビちゃん

またまた熱いエビ節を拝読しました。
読めば読むほど嬉しいです!

全てがそのとおり!
と、思うことばかり。

日本は農業を資本主義経済にぶち込んだ結果
今のようになってしまった一面があると思うのは
私だけでしょうか?

第一次産業は産業の中で一番資本主義経済に不向き
私はいつもそのように思っています。

日本に住む人たちの食に関しては
国民的議論をすべきで
それ無しに日本の第一次産業の再生はあり得ない
と、私は考えています。

自給率が下がって一番困るのは誰なのか
困る人に順番をあえてつけるとすれば
食べ物を生産、捕獲できない所得の低い人たちから
ではないでしょうか?

果たしてそのような日本でよいのか
皆で考えなければならないと思います。

ちょっとマジでカキコしました。

そんなことを考えながら
稲の種蒔き準備に追われる私です。

来週から種蒔きします。

from "天下無敵の百姓" at 2010年4月 6日 13:53

天下無敵さん

嬉しいコメント有り難うございます。
ここでかいた「消費者」については、ただの個人に留まらず、広い意味で「食べものを作れない」立場の人も想定しながら書いてしまいました。小売店だけでなく、流通や加工業者も含めて、低価格競争に煽られて、ただ原料のコストダウンに走っていってよいのか、という疑問があって。
みんなで「囚人のジレンマ」に陥ったら、自給率の向上も農家の所得保障もないだろう、という気分です。
ま、頑張りましょうね。

from "戎谷徹也" at 2010年4月13日 12:09

コメントを投稿



大地を守る会のホームページへ
とくたろうさんブログへ