2010年6月10日

麦秋の産地から

 

陰暦で言えば4月28日。 麦秋の季節。

ここは栃木県河内郡上三川町。 稀少ともいえる有機栽培の小麦畑。 

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栽培に取り組んでいるのは 「日本の稲作を守る会」 代表の稲葉光圀さん。

その会の名が示すように、基本は稲作の発展を目的とした会であるが、

稲葉さんが確立した有機稲作技術とは、麦-大豆-米の輪作体系の確立でもあって、

米だけでなく、大豆や麦も安定的にさばけることが求められる。

大地を守る会は、2年前から麦の販売という形で応援するようになった。

「有機」 に転換する期間中の小麦を引き受けたのがきっかけだった。

 

すでに収穫も始まっている。

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ただ春先の天気の悪さも響いてか、今年の麦は全体的に 「半作かなあ」 と

稲葉さんの口ぶりも何となく歯切れが悪い。

 


一方、こちらはまだ青さが残る、隅内俊光さんの麦畑。 

ここは田んぼではなくて畑。 前作は2年続けて大豆とのこと。

「これはいい!」 と稲葉さんも絶賛している。

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素人目にも、たしかに実の入りがいい。 粒が大きく、はじけそうだ。

 

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隅内さん(左、右が稲葉さん) も相当な手応えを感じている様子。

しかし問題はこのあと。 収穫まであと2週間くらいだろうか。

梅雨に入れば、難敵・赤カビ病が心配になる。 

なんとかこのまま持ってほしい。

 

「日本の稲作を守る会」 は有機栽培の実践と販売を担う有限会社なのだが、

もうひとつ、稲葉さんが理事長を務めるNPO法人 「民間稲作研究所」 では、

有機農業推進法によるモデルタウン事業を活用して研修施設を建設した。

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有機農業技術支援センター、研修棟。 昨年6月に完成した。

しかもただの宿泊施設ではない。

雨水を地下に貯め、室内に循環させながら、その気化熱で冷房効果を出す。 

この日は暑かったのだが、たしかに室内は爽やかな感じなのである。

冬は発酵肥料の発熱を活用して暖房する。

屋根には太陽電池を据え、電力もできるだけ自給する。

稲葉さんがモニターを見ながら、「今日は売電できてます。」

 

立派な会議室も設えている。 

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収容人員40人。 こういうスペースを大事にするあたり、元学校の先生らしい。

 

しかし有機農業推進法が求めているのはエコハウスではない、

というのが国の論理である。

環境配慮の部分は助成対象外。 結局、自力資金でやるしかない。

「有機農業の思想でやるからにはさぁ、これくらいこだわりたいじゃない。」

頑張ったですね、稲葉先生。

 

モデルタウン事業は、昨年の事業仕分けで廃止寸前になり、

「収益力向上支援事業」 として形を変えて存続した。

しかし本来の有機農業支援とは質が違ってきていて、

新規就農希望の研修生向けの宿泊施設費用などは助成対象外となってしまった。

稲葉さんは申請の継続をやめ、

「もう自力でやりますよ」 と腹を決めている。

 

そこではからずも、稲葉さんと僕の主張が合致したりするのだった。

経営破たんした国の財政に依存することなく、国民の健康と環境は自力で守るのだ。

自力とは、生産者と消費者の連携しかない。

たとえば食の安全・安心や環境に配慮した農業を支援するなら、

その国産農産物を購入する消費をこそ支援すべきである、ということだ。

僕は今の政治が持っているカードに頼るなら、消費税率のアップは避けて通れないだろう、

と踏んでいるのだが、自国で維持しなければならない主要産物については、

加工品も含めて消費税免除とかいう形で消費支援をしたらどうだろうか。

徴税を強化して生産支援をするのか、賢い消費を応援するのか、

議論する価値はあるんじゃないか。

僕らは、稲葉さんたちの有機小麦を、再生産を維持できる値段で買い取って、

結局、高い醤油を必死で売るわけだけど、

なんか二重に負担させられているようなカラクリを感じざるを得ない。

食べる人たちを支援してくれないと、俺たちもうまくいかないよね・・・と頷き合うのだった。

誰か、このカラクリを 「見える化」 してほしい。

 

傾斜地の草は、山羊が処理してくれている。 

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ヒトが自然循環に配慮してくれるなら、

こういう家畜に生まれ変わってもいいなあと思う。

ワタシ、だいぶ疲れてるかしら・・・。

 

さて、稲葉さんが本当に見せたいのは、実は田んぼである。 

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アミミドロに覆われた田んぼ。

発酵させた米ヌカ肥料で繁殖する。 これで強害草・コナギを抑える。

右側は小動物のためのビオトープか。

稲葉光圀の米・麦・大豆の総合技術への模索は、まだまだ続いているのだった。

 

上三川まできたので、宇都宮を越えて那須まで足を延ばしてみる。

那須有機研究会の田んぼも見ておこうかと。

こちらは合鴨を使っての有機稲作。

民間稲作研究所の認証センターで有機JASの認証も取っている。

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那須疏水の清流の恩恵を受けて、

食味も品質も安定した米を作ってくれている。 

合鴨水稲同時作の課題は食味なのだが、ポイントはミネラルとのこと。

 

田んぼに入ったばかりの合鴨。 元気で活躍を始めている。

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米の産地担当・海老原が生産者のビデオレターを求める。

代表の栗原重男さん(写真中央) が真面目に応じてくれるのが、嬉しい。 

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生産者の声だと、鴨たちも寄ってくるのだった。

秘かに嫉妬を感じるときである。

 

どこも生育が遅れがちな今年の状況。

加えて米価の下落が進む中、みんなの努力が報われる秋になるかどうか。

麦は麦だけの話ではすまず、米は米だけの話ではすまず、

僕はただただ彼らの笑顔に 「逃げられない」 思いを強くさせられるのである。

 



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