2010年9月14日

ミツバチと農業

 

ようやっと夜が涼しくなってきて、

この夏ハマってしまった省エネ・水シャワーも終わりかな、という今日この頃。

日々先送りしていた気がかりな宿題を片づけておきたい。

8月26日(木)、東京は神宮球場の隣にある日本青年館にて開催した

「ミツバチと農業」 勉強会の報告を。

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数年前からミツバチに異変が起きている、そんな話を聞いた方も多いことかと思う。

ミツバチが不足して農業生産に影響を与えている、

あるいは原因不明の大量死が発生している、

あるいは突然女王蜂を置き去りにしてハチが姿を消す蜂群崩壊症候群(CCD)・・・など。

しかしどうも情報は錯綜していて、やや短絡的な報道も見受けられる。

中には 「いい加減にしてよね」 と言いたくなるような論評もあったりする。

 

冷静に事態を見つめ直し、私たちのとるべき方向性を見定めていきたい。

そんな問題意識で、大地を守る会の生産者会議のテーマとして初めて設定された。

 

お願いした講師はお二人。

まずはミツバチ研究60年の歴史を有する玉川大学ミツバチ科学研究センター

教授、中村純さん。 

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中村さんは養蜂専門の学者らしく、

ミツバチを取り巻く現状と農業とのかかわりを概括的に説明してくれた。

蜂の巣を連想させる絵柄のシャツを着てきたところに、

ひそかなツカミのねらいも感じられたりして。

 


まず 「養蜂 (ようほう)」 といわれる産業は、日本においては畜産分野に位置づけられている。

つまり動物を飼育して生産物を得る分野という意味で、

ミツバチは昆虫ではあっても 「家畜」 なのである。 

しかしこの家畜は、餌を生産物に転換する、たとえば穀物を与えて肉をつくる、

というような他の動物とは決定的に異なる。

彼らは自然の資源 (植物の花) から蜂蜜という 「生産物」 をつくる (濃縮させる)、

という  " 働き "  によって我々に貢献してくれている。

養蜂業とは、蜜や花粉を集めて回るという、ミツバチが生きるための行為を

うまく管理しながらその生産物を頂く、という共存のシステムによって成り立っている。

 

ところが今日においては、実はミツバチはもう一つの役割のほうが

経済的には重要になってしまった。

ミツバチは、花粉を採取する際の行動によって、

おしべについていた花粉がめしべに移る 「花粉交配」 を助けている。

植物が花の形や色や匂いなどで動物を呼ぶシグナルを発し、

訪れた動物は蜜や花粉をもらっては交配を助けるという、

これこそダーウィンが  " 忌まわしき謎 "  と呼んだ、

億年単位の時間をかけて創りあげてきた植物と動物の共存共栄の仕組みなのだが、

この宿命的提携関係を利用しているのが、今日の農業というわけなのである。

人間がハチを使って野菜や果物を効率よく生産する技術は、

この半世紀近くのうちに実にいろいろな作物に利用されるようになった。

イチゴを筆頭に、メロン、サクランボ、スイカ、トマト、ナス、キュウリ、カボチャ、

タマネギ、リンゴ、モモ、ナシ、ウメ、マンゴー、ブルーベリー ・・・・・

農業に利用するとは、花粉交配用にミツバチが売買 (あるいはレンタル) されるということである。 

 

そして今や直接養蜂生産物 (蜂蜜、ローヤルゼリー、蜂ろう) より

花粉交配による経済貢献 (交配によって得られる作物総生産高) のほうがおよそ5倍、

全体の98%に達する、という具合だ。

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ミツバチによる交配の助けがないと、クリスマス・ケーキにイチゴは乗らない。

それどころか農産物の供給は年じゅう不安定になるだろう。

ましてやミツバチが滅んでしまったら ・・・

アインシュタインが言ったと伝えられている言葉がある。

「ミツバチが絶滅したら、人類は4年で滅亡する。」

実際にアインシュタインが言ったという文献的根拠はないのだが、

それくらいミツバチの働きは重要なのだという警告だと思えば、伝承されるのも頷ける。

 

ま、学者である中村さんに言わせれば、

「主要穀物は風媒花かイネのように自家受粉する作物なので、食料危機には直結しない」

ということになるのだが (ちょっとつまんない?)、

しかしそれも、あくまでも 「ミツバチ利用作物がなくても、それだけでは死ぬことはない」

という食料生産量の数字上の話である。

ミツバチをめぐる今日の状況は、" アインシュタインの警告 (予言と言う人もいる) "

がまことしやかに語られるだけの不安な兆候を見せてきているのはたしかなのだ。

 

ただ、ミツバチの 「不足」 と 「大量死」 と 「働き蜂の失踪(CCD)」 が

ごっちゃになって語られ、また不安を煽る論評もあって、

中村さんたち専門家を苛立たせてしまっている。

 

「不足」 の原因はといえば、最大のきっかけは2007年11月、

オーストラリアから輸入していた女王蜂に

ノゼマ病という病気 (監視伝染病) が発見されたことによる輸入停止である。

それによってイチゴ農家などの需要に対してミツバチの欠品が発生し、

価格の高騰=農業生産コストの上昇 - 採算割れ (=生産の減退) という現象が生まれた。

またハワイから輸入していた女王蜂からは

バロア病という伝染病の原因となるダニが発見され、こちらもストップされたのだが、

国内でも発見され、新たな被害が拡大している。 これも要因のひとつらしい。

さらには気候変動による影響も指摘されるが、因果関係は未解明の世界である。

そもそもなぜ輸入なのか、についてはあと回しにして先に進みたい。

 

一方で5年前に、岩手県で大量に死んだミツバチから農薬が検出されたことによって、

農業生産現場での農薬散布が原因でミツバチの 「大量死」 が発生している、

という事例が報告されるようになった。

岩手で検出された農薬は、「ネオニコチノイド系」 農薬のクロチアニジン。

ネオニコチノイド系農薬は、人への毒性が (これまでの農薬に比して) 低いということで、

90年代から使用が増えてきた新しい系統の農薬群である。

しかし花粉交配昆虫への影響度の度合いにより、

使用にあたっては 「ミツバチへの影響」 の注意喚起がされている農薬がある。

クロチアニジンはそのひとつである。

具体的な話はあとに回して次に進みたいが、記憶しておいてもらいたいことは、

ネオニコチノイド系農薬にも多種あって、ミツバチへの影響度は個別に異なるという、

ある意味であたり前の前提である。

 

さらに話をややこしくさせたのは、2006年の秋から

(現実にはその前から予兆的に発生していたのだが)、

北米大陸で原因不明の 「ミツバチの失踪」 が多発したことである。

それは女王蜂を残して働き蜂が忽然といなくなる (巣に戻らない) という現象で、

「蜂群崩壊症候群(CCD)」 と名づけられた。

 

「2007年の春までに、実に北半球のミツバチの四分の一が失踪したのである。」

    (ローワン・ジェイコブセン著 『ハチはなぜ大量死したのか』 文芸春秋刊 より )

 

原因はまだ諸説紛々なのだが、大量 「死」 も確認できないという不気味な現象は、

" アインシュタインの予言 "  を想起させるに充分な要素を持って

私たちの視界に出現したのである。

 

日本でも経験した養蜂家はいる。

しかしその原因は農薬とはまだ断定できない、というのが今の調査研究段階なのだが、 

日本国内では、「不足」 も 「大量死」 も 「CCD」 も、すべてネオニコのせい、

という論調に支配されようとしている。

中村さんにしてみれば、それぞれの原因が何によるのかを正確に見極め、

あるいは複合的な要因ならその問題も整理して有効な対策を立てていかないと、

かえって取り返しのつかないことになる、という感覚がある。

でなければ養蜂家だけでなく、農家にとっても不幸なことだ、と。

 

そこで次は現場の養蜂家の登場となるのだが、ここまでで話が長くなってしまった。

このテーマに関しては、とても慎重になっている自分を自覚する。

視野脱落が怖い。。。

冒険的な断言も避けなければならないと思っている。

だからといって、 「いい勉強会でした」 で済ませたくもない。

続きは明日 (もしかしたら数日後) に。 すみません。

 


Comment:

元養蜂業者で愛媛の女王蜂の輸入業者 越智です。
2007年11月26日に私の輸入が止まりました。その後、農林水産省のミツバチ不足に関わる有識者会議で間違ったミツバチ不足の経緯を発表されました。
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/gijutu/mitubati/pdf/siryou.pdf

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%82%BC%E3%83%9E%E7%97%85

2年あまり、訂正を農林水産省に求めています。ミツバチ不足と腐蛆病に関係する話を探して、戎谷様のブログに着きました。
玉川大 中村教授の説明には間違いがあります。実際のことを知らないで話しています。下記が間違い部分の抜粋です。

「不足」 の原因はといえば、最大のきっかけは2007年11月、 オーストラリアから輸入していた女王蜂に ノゼマ病という病気 (監視伝染病) が発見されたことによる輸入停止である。

発見されたことによる輸入停止である。は間違いで、正しくは、豪州との間ですでに締結されていた家畜衛生条件のうち、ノゼマ病 が豪州において届出伝染病(監視伝染病)である旨が 規定されていたところ、NSW州やQueensland州などにおいて届出対象から外され、両国間の衛生条件不一致が生じたことが判明、豪州政府がみつばちの輸出を自主的に停止。

戎谷様にはニホンミツバチの話がしたかったのに玉川大のことが先になり、申し訳ありません。


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