2010年9月21日

ミツバチと農業 -優しい連携を取り戻したい

 

ミツバチと農業

- 先週中にまとめるつもりが書き切れず、イベント案内などはさんでしまったが、

  何とかまとめに入っていきたい。

  読んでいただいた方には、もうこちらの問題意識と立ち位置は

  ご想像いただけているのかと思う。

  もしかしたらガッカリされた方もいたりして。。。

 

勉強会のタイトル -ミツバチと農業- から察せられるように、

僕らがつかみたいのは、養蜂と農業の共存の世界である。

話題のネオニコチノイド系農薬に対する評価も、その文脈の中で考えたいと思う。

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まずもってはっきりさせておきたいことは、

日本における花粉交配用ミツバチの不足 (=農業生産への影響) と、

蜂群崩壊症候群 (ほうぐんほうかいしょうこうぐん:CCD) は別問題である、ということだ。

なおかつCCDの原因はまだ推測の域を出ていないのが現状であること。

という以前に、日本ではまだCCDと特定できる事例を抽出して

原因を調査できるレベルに達していない。

そもそもちゃんと実態を把握するための調査体制ができていないのだ。

中村教授の説明によれば、行政改革やコスト削減の影響で、

農業試験場が養蜂関係から撤退して研究者がいなくなったということである。

都道府県の家畜保健衛生所にも、「家畜」 であるミツバチの被害に対応できる

担当係官はいない、というのが実態のようなのだ。

 

農薬被害があっても現場を見に行く人がいない。

したがって被害の実態が行政に届かない。

農業生産を支える花粉媒介者が黙示録的な兆候を示し始めているというのに、

この国には 「農業に対する包括的な政策がない」(中村教授)。

 - これを事実を正確に知るための 「対策・その①」 としたい。

   CCDで騒ぐなら、ネオニコ糾弾の前に、「実態と原因調査を急げ」(その体制を整えろ)

    という要求にして欲しい、というのが僕からの 「提案・その①」 でもある。

   この現状を軽んじては、真実がつかめないまま結果的に対策を誤る可能性があるし、

   いたずらに論争を長引かせ、対立を深めてしまいかねない。

   問題を正しく区分けしたい、としつこく書くのもそんな思いからである。

 

(花粉交配用ミツバチの) 「不足」 は起きているが、

その原因はCCDと言われる 「働き蜂の失踪」 ではない。

国内での 「失踪」 の実態は明らかでない。

ということなのだが、とはいえ、ただ手をこまねいて傍観しているわけにはいかない。

 「事件は現場で起きている」 だけに、コトは複雑なのだ。

昨年4月に名古屋大学の門脇辰彦准教授が実施したアンケートでは、

CCDに似た現象を経験した養蜂家は約四分の1にのぼっており、

その多くは 「農薬が原因ではないか」 と感じ取っていることが浮かび上がっている。

 

原因は未解明としても、農薬の可能性は、否定できない。 

なぜなら農薬が 「大量死」 の原因のひとつ であることはほぼ間違いないからだ。

ここで 「大量死」 の問題が絡んでくる。

中村教授によれば、養蜂被害の30%は農薬が原因だという。

藤原さんは先に書いたとおり、「大量死とCCDは、つながっている」

と確信している (しかしそれを言い切っちゃうと反発も起きる)。

 

可能性があるのなら、現場サイドでも手は打っていかなければならない。

そこでネオニコチノイド系農薬も必然的に検討の遡上にあがるのだが、

僕らが前提としているスタンスは、

農薬は一つ一つの毒性によって判断しなければならない、である。

「○○○系」 といって十把一絡げにして扱うなんて乱暴なことは、したことがない。

現にミツバチへの影響のある農薬はネオニコ系だけではない。

有機リン系、カーバメイト系、ピレスロイド系・・・といった農薬のなかにもあるのだ。

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増野の熊谷さんのように、リンゴの減農薬栽培を進めるのに、

ただ防除の回数を減らすだけでなく、

人や環境への影響度の強いものを出来るだけ排除しようと努めた結果、

現状においてネオニコ系農薬も防除計画に組み込まれているというケースは、実は多い。

彼らの姿勢を批判の対象にしてはならないと思う。

ましてや、ハチが飛ぶ開花期には農薬散布をしない、という配慮をしている人たちである。

彼らとこそ連携を強固にして、前に進みたいと思うのである。

 

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(ハチの扱い方について質問する、茨城から参加した小野寺孝一さん。

 美味いメロンをつくる生産者である。)

 

そこで、大地を守る会のなかで定期的に開いている生産基準の検討会議では、

以下のネオニコチノイド系農薬を 「できるだけ使用を控える」 農薬として

指定する方向でまとまりつつある。

  イミダクロプリド(商品名:アドマイヤー)、クロチアニジン(ダントツ)、

  チアメトキサム(アクタラ)、ジノテフラン(スタークル)、ニテンピラム(ベストガード)

それぞれにLD50(半数致死量) や影響日数などのデータをもとにした判断である。

「できるだけ~」 とは、生産者と一緒に代替策を考えながら、

完全に排除できると判断した段階で 「使用禁止」 農薬に設定するというレベルになる。

批判には提案が伴わなければならない。

 - これが僕らの 「対策・その②」 であり、

   同時に 「ネオニコ、ネオニコ」 と批判する方々にぶつけたい 「提案・その②」 である。

 

イネのカメムシ被害への対策は、小林亮さんが語ったように、

有機農業の世界が答えを出してくれることだろう。

加えて周辺環境の整備が求められる。

そこで訴えたいのが、こういった生産者の取り組みを支えるのが他でもない、

「消費の存在」 だということ。

カメムシ斑点米があっても食べろとは、流通サイドからはなかなか言えないことだけど、

少しの理解はお願いしたい。

温暖化の影響で、暖地のカメムシがどんどん北上していたり、越冬するようになって

繁殖力を強めている、という事態もちょっと想像していただけると有り難い。

今年もカメムシが多発した地域では、

ネオニコチノイド系農薬(ダントツ、スタークル) の散布が指導されている。

こういう状況に対する突破口は、有機農業の推進だと、僕は確信している。

ちなみに小林亮さんたちの地元(山形県高畠町) では、

農薬の使用に対する指導が適切にされているということで、

交配用ミツバチの確保に支障はきたしていない、との報告があったことも付記しておきたい。

 - これを 「対策・その③」 および 「提案・その③」 とさせていただく。

 

改めて再度、中村教授の指摘に耳を傾けてみたい。

ハチの採餌エリアが、農産物生産を目的とした農地 (の植物) に依存し過ぎる

ようになってしまったがために、農薬の直接的影響を受けることが多くなった。

背景の一つに林業政策の失敗があるのではないか。

杉山はハチが利用できる山ではない。

農地の植物 (野菜・果物) を餌資源として利用せざるを得ないということは、

(畑地とは目的とする作物に特化している 「用地」 であるために)

多様な植物が咲き競う自然生態系の衰えを示していて、栄養的ストレスももたらしている。

農地の整備、土地開発による餌資源の減少もある。

農業での花粉交配用資材としての需要増の時期 (秋~春) は、

ミツバチの増殖時期とずれているために、季節が逆の南半球からの輸入に頼る

構造になってしまっている。 これは農産物の自給率の見えない脆弱さを示している。

日本でのミツバチ産業を疲弊させたのは、ハチミツの自由化である。

輸入ハチミツとの競争下で養蜂業は斜陽化した歴史がある。

 

ミツバチ 「不足」 の原因は、実は複合的であり、

不足下の悪循環が、「大量死」 や 「CCD」 とも底辺でつながっているのかもしれない。

負のスパイラル的に。

複雑にからんだ構造的問題であるだけに、簡単に処方箋は出せないけど、

ただ二つの視点は提出しておきたい。

その1 - 農家がレンタルしたミツバチを、できるだけ健康を保たせてお返しできるように、

養蜂家から農家への養蜂技術の伝授を進めるべきだと思う。 農家にもメリットになるはずだ。

その2 - 農薬を問題にするだけでなく、みんなの力で出来ることがある。

四季折々に花を咲かせることで交配用昆虫を増やすこと。

食糧危機が叫ばれる中で増える一方の耕作放棄地や、道路沿いや畦道や、

あるいは家庭の庭などを使って、花粉と花蜜源を増やすのだ。

レンゲやヘアリーベッチなど、農業生産にメリットをもたらす植物も活用したい。

 - 以上を 「対策・その④」 として提示したい。

 

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おまけを言えば、もっとミツバチに親しむという意味で、昨今、ニホンミツバチを飼う、

という行為が、俄然人気を博してきている。

ニホンミツバチの世界は、知れば知るほど取り憑かれそうな魅力を感じさせる。

 

ずいぶんとしつこく書いてしまった。

それだけ慎重になってしまったということで、お許し願いたい。

今回のレポートにあたっては、勉強会で得た情報だけでなく、

以下の文献を参考にさせていただいたので、付記しておきたい。

 ・ 『ミツバチの不足と日本農業のこれから』 (吉田忠晴著、飛鳥新社)

 ・ 『ミツバチは本当に消えたか?』 (越中矢住子著、ソフトバンク クリエイティブ)

上記2点は、入門編としておススメ。

この問題をじっくり考えたい方には、次の書を-

 ・ 『ハチはなぜ大量死したのか』 (ローワン・ジェイコブセン著、文芸春秋)

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アメリカで発生したCCDの背景を追究した迫力ある作品である。

オーガニックへの期待も込められている。

福岡伸一さんの解説、ニホンミツバチの魅力に触れた追録もある。

ちなみに、ネオニコチノイド農薬にも切り込んでいるが、そこは慎重に読んで欲しい。

彼が示唆しているのは、農薬の複合的影響だから。

 

考えるほどに骨の折れるテーマだったけど、今回の勉強会は始まりでしかない。

我々の姿勢と現実的対応力が問われ続けることになるだろう。

逃げるつもりはない、という意思の表明で終わりにしたい。

キューバの革命家、エルネスト・チェ・ゲバラが、

「革命兵士とは何なのでしょう」 という若い兵士の質問に対して応えた言葉がある。

「農民こそが花であり、我々はミツバチなのだ」

 

農民が花ならば、オレたちはミツバチになろう! じゃないか。

 



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