2010年11月 4日

『有機農業の技術と考え方』 出版記念シンポジウム

 

11月3日は文化の日。

明治天皇の誕生日(昔の明治節) で、日本国憲法が公布された日。

(参考情報・・・ 憲法の施行は翌年の5月3日。 憲法記念日はこの日に設定。

 ちなみに昭和天皇の誕生日である4月29日はいったん 「みどりの日」 として設定されたが、

 2005年から 「昭和の日」 となり、「みどりの日」 は5月4日に移動。

 GWを充実させることは、お金がたくさん動くために、いやモトイ! 国民の憩いのために

 政治的にご配慮いただいたものなのです。 おウチでゴロゴロしてはいけません。)

 

日本国憲法の精神を尊び、「自由と平和を愛し、文化を薦める」 この日は、

僕にとっては 「ブナを植える日」 になっている。

しかし、、、「仕事」 という現実は、個人の憲法精神など容赦しない。

このブログで 「今年は行かなくちゃ」 宣言をしたにも拘らず、

前日のうちに現地 (秋田県大潟村) に入ること叶わず、

ついに3年連続での 「エビちゃん、欠品」 となってしまった。

「ライスロッヂ大潟」 代表・黒瀬正さんも残念がってくれながら

「仕事か。 ほら、しゃあないなぁ。 まあ無理せんと・・・」 と慰めてくれた。

しかし本音は 「もうちっと働いて、米売ってよ」 に違いない。 

 

でもお陰で、空けてあった3日は別のほうに無理を働かせて、

参加を断念していた都心でのシンポジウムに出ることにした。

この夏、出版社 「コモンズ」 から上梓された

『有機農業の技術と考え方』 の出版記念シンポジウム

 - 「生命(いのち) を紡ぐ農の技術(わざ) -第Ⅱ世紀有機農業技術の展望-」

 

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有機農業推進法が成立して4年。 待望の書、である。

編者は中島紀一・金子美登・西村和雄の各氏。 編集協力=有機農業技術会議

17人の執筆者による、有機農業の初の体系的技術書と銘打たれている。 

 

シンポジウムの会場は神田・総評会館。

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100席ばかりの会議室が定員オーバーとなって、椅子席が追加された。

「こんなに来てくれるとは思わず・・・」

と、コモンズ代表の大江正章さんが頭をかいている。

それだけ本書の刊行は喜ばれたともいえるし、

期待が高かったぶん実践者からは手厳しい不満も提出されるという、

期待以上にエッセンスの効いたセッションになった。

 


この本を料理するのは難しい。

編者および大江さんの力量がなければまとめられないだろう、かなりイイ

 「有機農業の総合的入門書」 になっている。

有機農業が創り出してきた、そして未来への豊かな可能性も執筆陣から伝わってくる。

中島紀一さんが当初目指した 「スタンダードなテキスト」 としても

一定の成功を果たしていると思う。

 

ただ・・・・まだ 「有機農業の体系」 には至っていない、というのが率直な感想である。

これはけっして批判ではなく。

 

各論に噛みついたのはこの人である。

福島県喜多方市山都町、 「チャルジョウ農場」 小川光 。

まったく遠慮を知らない、直球しか投げられない実証主義者。

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今の食生活を現実的に支えている施設栽培について、まったく触れられていない。

ハウス栽培での有機農業は可能だし、トマトの連作も可能である。

私はそれを実践によって証明してきた。

栽培技術もまだ近代農業の理論や考え方を引きずっているところがある・・・・・

 

そして、僕にはこの人の言葉がこたえた。

福岡から参加された八尋幸隆さん。

- 有機農業の社会的側面をもっと表現すべきである。

  有機農業推進法が制定されたことは画期的なことではあるが、

  有機農業が真に社会に受け入れられるためには、そのための具体的な働きかけが必要である。

  「有機農業に対するニーズは増大しているのに生産現場がそれに対応しきれていない

  ではないか、もっと頑張れ」 と尻をたたかれても、中央ではいざ知らず、

  地方では 「どこにそんなニーズがあるの」 という感じである。

  消費の現場での建前と本音があまりにかけ離れた現状で有機農業生産のみ推進すれば、

  地方では小さなパイを奪い合うことになりかねない。

  社会にどう働きかけてそのパイを大きくしていくのかについての

  方法論が必要なのではないかと考える。

  これから参入しようとする若い新規就農者のためにも。

 

有機農業推進法で加速された生産促進は、

あっという間に生産と消費のアンバランスを露見させた、ということである。

でもそこに入り込むと技術論をはみだして編者が気の毒にも思うのだが、

有機農業は必然的に社会の価値観 (流通のあり方から食べ方、ライフスタイルまで)

の転換も求めるものである以上、流通論は避けて通れないテーマではあるのである。

「有機農業運動」 論はずっと、その生々しい現実論を避けてきた。

 

そこで想定外に発言を求められたりするのだが、

「有機農業第Ⅱ世紀」 を展望するなら、単に 「流通」 という枠ではなく、

「社会ビジョンづくり」 の一環として構想したいもんだと思う。

「我々にはその用意がある!」 と肝心なことを言うのを忘れた。

 

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シンポジウムの後の懇親会で僕が漏らした不満は、

果樹栽培へのアプローチがまったくないこと、だった。

 

ま、そんなこんなも含めて、『有機農業の技術と考え方』 として、

構想から5年にしてまとまった労作に、ひとまず拍手を送りたい。

栽培者でなくても、安全な食べものを求める人には、ぜひ読んでほしいと思う。

有機農業が到達した地平の 「今」 が語られているから。

細かい話は頭に入らなくてもいい。 現場での技術論はもっともっと多様なので。

その多様な世界をまとめるのは、次の課題である。

 



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