2011年2月 9日

大作さんの玉ねぎ

 

2週前の1月24日~28日、

宅配会員の方々に1枚のチラシを入れさせていただいた。 

「 緊急入荷 大作さんの玉ねぎ (慣行栽培) の販売について

 

北海道の玉ねぎの大不作によって、春までの玉ねぎがショートする。

北海道の作柄が概ね見えてきた晩秋に入った頃の、ぞっとするような報告。

それなりの余裕も持って総量で約250トンの玉ねぎを道内7産地と契約していたのだが、

はじき出された供給見込みは170トンという数字になった。

流通者の使命としては当然、肩を落としている場合ではなく、

各産地に対して契約分以上の出荷のお願いや新規の産地開拓にもあたるのだが、

僕ら(農産グループ) は、もうひとつの選択を社内に諮った。

「大作(おおさく) 幸一さんの減農薬の玉ねぎを仕入れたい。」

 

大作さんとのお付き合いは大地を守る会設立時代にまで遡る。

じゃが芋の金井正さんとは義理の兄弟で、35年より前に、

二人は互いに明かすことなく無農薬栽培に挑戦し始めた。

入社当時に聞かせてもらった話。

 

  ・・・だってね、戎谷くん。 無農薬で野菜を作るなんて言ったら、周りから何言われるか。

  そんな時代だったんだ。 だけどこんなに農薬かけてちゃいずれダメになるんじゃないか、

  と思ってね。 誰にも言えずに、こっそり一人で始めたわけさ。

  兄 (金井さん) にも言えなかったな。

  それがある日、金井から 「実は・・・」 て聞かされて、オレもだよ! となってね。

  それで大地を紹介してもらったっていきさつさ。

 

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                         (大作幸一さんと息子の淳史さん) 

 

ただ北海道の大面積をすべて無農薬でやるのは厳しい。

大作さんは耕作面積の半分を無農薬で栽培するが、

除草にかかる人手の確保や家族労働の限界から、

その半分はいわゆる減農薬栽培という形で営んできた。

しかし除草剤の使用もあって、当会の生産基準には適合しないため、

大地を守る会で仕入れることは、これまでなかった。

にもかかわらず大作さんは、たとえ他と同じ 「北海道産玉ねぎ」 として一般市場に流れる

ものであっても、できるだけ農薬を減らしたいという努力を惜しまなかった。

今は北海道の慣行栽培の約7割減である。

この姿勢は立派なものだと、僕は心底から思っている。

しかも、これによって大作さんの経営の半分が支えられてきたということは、

大作さんの無農薬玉ねぎを維持させてきた 「弟分」 のようなものではないだろうか。

 

数年前に奥様 (金井さんの妹さん) が亡くなられた時、大作さんは伝えてきた。

「少し無農薬の作付を減らしてもらってもいいかい。」

除草作業のパートさんたちを上手に仕切ってくれていた奥さんの力は大きかったのだ。

肯定も否定もできなくて、つらかった。

 

この期に及んで新規の産地をかけずり回るより (それもするのだけど)、

大作さんのこの玉ねぎを会員に問いたい。

 

しかし、、、生産基準とはイコール取り扱い基準であって、これまではどんなときでも、

足りなくなったからといって基準外のものを仕入れたことはなかった。

これは禁じ手ではないか・・・

 

迷いはなかなか吹っ切れなかったが、ここで素直に告白すれば、

この判断を下したのは単純な自問自答だった。

もしも基準内の玉ねぎがなくなったら、

もし我慢できずに次を選択するのなら、食べるべきは、

大作さんの経営を陰で支えてきたこの玉ねぎだと、お前は思っているのだろう。

仮に有機JASの玉ねぎがスーパーで手に入ろうが、

大作さんの玉ねぎを食べることが自分の果たすべき仁義だと思っているのだろう。

 

会員には欠品にして、陰で取り寄せることはただしい行ないではない。

「皆さんも、この玉ねぎを一緒に食べてくれないだろうか」 と言うべきだろう、と思った。

無農薬玉ねぎを支えるためにも。

選択の権利が残っているときに 「基準外です」 と宣言して扱おう。

無農薬の玉ねぎをできるだけ長く引っ張るためにも、

僕は大作さんの減農薬玉ねぎを食べることを明らかにしておきたい。

他の減農薬のものと区別する必要もあり、化学肥料の問題もあるので、

ここは潔く、大作さんの普段の言い方に倣って 「慣行栽培」 とした。

 

それにもうひとつ、僕をつき動かした世の中の流れがあった。

このまま自社基準の高みから眺めている場合じゃないんじゃないか、

という焦りのようなものか。

 


 

天候不順で北海道産の玉ねぎが2年連続の大不作となって、 

相場も高騰しているのだが (1月の情報で前年比35%高)、

こういうときには決まって輸入が急増する (それによって価格が安定?する)、

というのが近年の動向である。

昨年11月ですでに、前年の年間輸入量を42%上回った。

前年も不作で、その前の年に対して13%増だったので、

2年前に比べて60%輸入が増えている計算になる。

国内流通に占める割合は20%を超えたようだ。

不作を輸入で補っているうちに、世間は関税撤廃!TPP!ときた。

農協はTPP反対を唱えながら、商社と提携関係を強化している。

 

「厳しい基準」 は守りながらも、それではすまない事態が進行している。

水面下で進む土台の崩壊を、対岸の火事にしてはならない。

いや、これは対岸の話ではないワケで、大作さんには笑われるかもしれないけど、

大作さんの経営を全面的に支えるくらいの行動を起こしたい。

 

この選択と提案は、「大地を守る会の生産基準」 に胸を張ってきた者としては、

禁断の果実に手をつけたのかもしれない。

よってチラシは、戎谷の署名でお願いした。

仕入の責任者として首をかけるくらいの構えでいきたいと思ったので。

 

チラシに書いた  " セカンド・ベストの提案 "  というのも、

流通者としては当然の義務と言われるような話なのだが、

僕らにとっては初めての表現である。 狡猾と言われれば返す言葉もないけど、

大地を守る会としての 「農業を守る」 ためのひとつの提案とさせていただいた。

会社の定款である 「一次産業を守る」 に従ったとか言ってしまうと、

開き直りも過ぎるだろうか。。。

今回の提案を "考える素材" として受け止めていただけたなら、 本望としたい。

 

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札幌黄(さっぽろき) という貴重な品種を、種を採りながら守り続ける大作さんの

生き方を、食べることでもっと深くつながり、支援したい。

正しかったかどうかは、我々のこれからの仕事で証明するしかないと思っている。

ご批判はすべて甘んじて受けたい。

 


Comment:

初めまして 高橋と申します。
宮城県に住み、農業や農家を支援することをしていますが、この頃の方向が日本の農業を支えてきた人々の生活そのものを揺るがしており、安心して周囲の農家さんと話せる話題でもなくなってきています。
普通の何でもない地域の住民が地域に有る有機栽培農家や農産物を紹介しても、外国産の圧倒的な量の農産物の前ではどうしようもなくオロオロとするばかりです。
宮城県の農家では周囲の農家から反発を配慮してか、毎日草取りに費やし続けたおいしい煮豆用の大豆「みやぎしろめ」を農協出荷価格で出荷し続けている農家、アレルギーを押さえる「ササニシキ」を自家播種で苗作りをし毎日田に入り草取りして出荷する農家・・・
そういう人々の暮らしが今以上に立ちゆかなくなっている現状に、高品質を求める消費者サイドにある生協等の方々の活動に歯がゆさを感じているのです。
「国内で私たちの基準が得られないなら、jasの有機栽培の農産物を輸入し提供できる業者を探そう」となります。
ますます国内農地の荒廃は避けられない方向に追いやられていくようで、怖いです。一軒の農家を支える事は地域に埋もれる良質な農業者を支える力になっていくことだと信じてます。
私がこの国で生まれてきたのはこの国の食べ物、水、空気が清浄だったからではと日々思います。
会員の方々が戎谷様の思いと一になっていっらしゃいますようお願いいたします。


苦渋の選択だったんだと思います。
でも、小さい子供がいる消費者としては助かりました。
なくなったからといって、スーパーのは抵抗があるし、近所に有機JASのたまねぎを扱っているところはありません。
近所の大地友達も同じ意見でした。

がんばっても作れない、収穫できない、農家さんの苦しみもほんとうにどうしたらいいのでしょうか。

大作さんに、ありがとうとお伝えください。

from "てん" at 2011年2月15日 23:58

大地基準には、反しますが
戎谷基準? 我が家も大作さんにも
お世話になっておりますので
農業を守る に一票。
今期は、雪で剪定が追いつかず
上京をあきらめました・・・
また一年頑張って、来年上京したいと思っております。

from "yata" at 2011年2月16日 09:10

みなさん、温かいコメントで、ホント嬉しいです。
高橋さんからは生産地での悩みが伝わってきます。
てんさんには、いつも励まされます。
yataさん、「戎谷基準」はやめてください。滅相もない。社内的に合意を得たものですので。
会員さんからの連絡便では3:1くらいの割合でご賛同いただけているようです。しかし「基準外のものを扱うことには納得できない」というご批判もあって、そのお気持ちは真剣に受け止めるつもりです。
今まで通り、なくなったら欠品にして過ごせば、ないことへの批判はあっても、こんなに波風は立たなかったのかもしれません。ただ、スーパーに外国産玉ねぎが増えていくことを手をこまねいて見てられない、その中に大作さんの玉ねぎが埋もれるくらいなら…という切迫感があって、ここは、と思いきって提案させて頂きました。それでも大地が「慣行栽培」を扱うことは「やめてほしかった」あるいは「堕落につながる」という視線は厳しくもあり、また有り難いものでもあります。
正解だったのか失敗だったのかは、今もってよく分かりません。これからの行動の質で判定を頂くしかありません。ただ、外国産有機JASより顔の見える国産、はこれからも貫くつもりです。そのためには、もっと大きな動きも、面倒でも、食い付きが悪くても、伝えなければいけないかと思うところです。
分かりあうというのは実に難しい作業ですね。

from "戎谷徹也" at 2011年2月19日 17:30

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