2011年7月15日

しあわせな食事のための映画たち

 

  -  という名の、映画の連続上映会が開催されている。

しあわせな食事のための映画たち

                                                                                    (イラストは 平尾香さん

主催は NPO法人 アグリアート さん。

神奈川県や逗子市、逗子市教育委員会が後援に名を連ねていて、

大地を守る会も協力している。

 

場所は神奈川県逗子にある 「シネマ・アミーゴ

オーガニックな食事を楽しみながら映画鑑賞ができる シネマ・カフェ 。

夏の日差しを浴びて目も眩むような湘南の、浜辺の通りの一角にある。

 

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先週の土曜日(7月9日)、

この連続上映会のプログラム2 - 「オーガニックの哲学」 の初日に

トークを依頼されたので、出かけてきた。

プログラム2 で上映された映画は、

『根ノ国』 と 『みんな生きなければならない』 の2本。

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住居を改造してつくられたカフェ&ミニ・シアター。

余計な手が入ってないナチュラルな感じの庭。

ぼんやりと眺めながら癒される。

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お客さんは10人ほどで、 まずは2本の映画を観賞する。

 

根ノ国 -1981年、制作:菊地周。

陸上の生物は、特殊な文化で暮らすヒトなど一部をのぞいて、

およそみな土に帰り、土を肥やす。 

その土の中では、無数の虫や微生物が小さな宇宙を織り成している。

1グラムの中に1億ともいわれる生命が互いを食べ合いながら共生し、

豊穣の土が作られていく。

植物の根もそこから養分を吸収し、かつたたかいながら生きている。

そして動物は、太陽エネルギーと土の力で育つ植物に支えられている。

つまるところ、陸上の生命はすべて土の生命力に依存しているのである。

健全な土の中では自然の理が働いていて、独裁者の登場を許さない。

この  " 根の国 " 、ミクロの生命循環を可視化させた作品。

人はなぜ、なんのために、この世界を壊そうとするのか、という問題提起でもある。

 

みんな生きなければならない 』 -1983年、制作:菊地文代。

世田谷区等々力で有機農業を営む大平博四さんの農場を舞台に繰り広げられる

生きものたちとの共生の世界。

農薬の害を自らの病いによって感じ取った大平さんは、

昔ながらの堆肥づくりに還り、土を蘇らせた。

そこではトリもムシも仲間である。 害虫と益虫の区分すら不要になってくる。

そして大平農場の循環を支えるのは、「若葉会」 という消費者組織の存在である。

 

上映終了後、スクリーンが上がり、

お昼前の自然光が部屋を包むように入ってくる。

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ここで30分ほどお話をさせていただく。

主催者であるNPO法人アグリアートの事務局長・畠山順さんからは

「この映画をスタート地点として、どのように話が向かってもよい」

と言われていた。

かえってプレッシャーだよね。 

 

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2本の映画は以前にも観たものだが、改めて一緒に観たことで、

湧いてくる感慨があった。

そこで想定していた話の段取りを変えて、こんなふうに始めさせていただいた。

 

今日の上映会でスピーチをさせていただくことは、

自分にとってとても光栄なことだと感じています。

なぜなら、私が大地を守る会に入社したのが1982年の秋のこと。

 『根ノ国』 がつくられたのがその前年で、入社して早々に、

先輩から、この映画は観ておくようにと勧められました。

また同時に、「生物みなトモダチ」 制作委員会という会から

映画制作へのカンパの要請が入ってきたように覚えています。

その映画が完成したのが翌83年。

この二つの映画は、私の原点に重なるものです。

この場を与えてくれたことに感謝申し上げたい。

 

実は私が有機農業の世界と関わるようになったきっかけは、娘のアトピーでした。

しかし妻が決意を持って始めた食事療法を、私は当初信じていませんでした。

それが食材から調味料まですべて切り替えて続けたところ、

娘の症状がだんだんと改善されていくのが見えたのです。

そしてある日、当時はまだほとんど世に出回っていなかった、

有機米でつくった 「純米酒」 というのを購入して飲んだ時、

私はこの運動は本物だ! と確信し、履歴書を持って大地を守る会を尋ねたのです。

20代半ばの決断でした。

(娘じゃなくて酒かよ・・・・・という視線を感じ)

ま、まあ、え~と、そんな不純な動機は置いといて、

食を生産する世界が消費者の知らないところで変質させられていくなかで、

負の側面が子どもに現われ始め、かたや有機農業の世界では、

生命の土台に対する科学的な解き明かしの作業が始まっていた。

 

その後またたく間に 「アトピー」 という言葉は社会に広がり、

有機農産物もまた数少ない先駆者の運動から

社会的に認知される時代へと飛躍してゆきます。

1980年代の初頭、そんな時代変化の予兆を背負って登場したのが、

このふたつの映画だったように思います。

 

あれから約30年という年月が経ち、

大平博四さんは3年前に亡くなられましたが、

5年前に有機農業推進法の成立という、

国が有機農業の価値を認め、それを推進するための旗を振った、

そんな時代の変化を見せられただけでも、

後進の一人として、よかったかなと思っています。

 

あとは映画の世界と重ね合わせながら、

生命の歴史から見た土の役割やら、生物多様性の意味やら、

舌足らずにお話しさせてもらい、最後に

放射能汚染に対する有機農業の力について、希望を述べさせていただく。

私たちの生命を守ってくれるのは、微生物たちの力をおいて、ないように思う。

土を保全し生命の健全な循環系を育む有機農業こそ、

一縷の、しかし確かな希望だと私は確信するものです。

 

そしてなお、その世界を支える鍵は、「消費」 というつながりです。

大平農場に 「若葉会」 という消費者組織があって支えているように、

消費という行為を通じて、どの生産(者) とつながり、どの環境を支えるのか、

そういう  " つながり "  の意味が、いっそう深く問われてくるように思います。

 

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ま、そんな感じで生意気な話をさせていただいたのだが、 

さて驚いたのが、この会場に映画の制作者、菊地文代さんが登場したことだ。

 

大先輩にひたすら恐縮する若者の図。

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30年近く経っても、まだ観ていただける方がいるだけでも幸せなことだと、

菊地さんは謙虚に語る。

いやいや、充分にその生命力は衰えていないです。

自分の原点であることを、感謝とともに伝えることができて、

想定外の感激の一日になった。

菊地さんは今も若葉会の会員として大平農園を支えている。

 

帰りがけに見た、湘南の海。

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こう見えても海で育った血は、僕のDNAである。

胸をざわめかせながら会社にトンボ帰りするわが身の貧しさが、悲しい。

 

「しあわせな食事のための映画たち  -未来のこどもたちへ- 」

プログラム3は、「都市と農業」。

8月13日に、吉田太郎さんがキューバを語ります。

第2期は9月10日から11月18日。

「森と海と食」 「水はみんなのもの」 「種子と農業」 といったプログラムが続きます。

今度はまったくの客として、寺田本家の 「五人娘」 の生酒など飲みながら

楽しませてもらえたらと思うのであります。

 



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