2011年9月 8日

有機農業のニーズとソーシャルビジネス・・・

 

北海道に降り続いた大雨で、富良野は3年続きの水害。

またしてもニンジンが大打撃。

札幌・大作幸一さんの玉ねぎも雨続きで収穫に入れないとの連絡。

今年も大不作となること必至の状況。

物流は延々と綱渡りの日々が続く。。。。。

 

そんな穏やかならぬ心境を押さえながら、今日はつくば(茨城) まで出かけた。

農水省が主催する 「平成23年度農政課題研修-有機農業普及支援研修」 で

講師を依頼されたのだ。

3ヶ月前に約束してしまったものなので、行くしかない。

 

対象は、各地の農業改良普及センター等から集まった普及指導員の方々。

つまり農業指導を仕事とする公務員の方たちである。

与えられた課題は、

「有機農産物の消費者ニーズとソーシャルビジネスの展開」。

3泊4日のカリキュラムで、10講座の一コマを与えられた。

 

20年前ちょっとには有機農業そのものを認めなかったお国から、

このテーマでお声掛けいただける時代になったとは、実に感慨深いです。

-と冒頭でお礼を申し上げる。

 

しかし、こういうタイトル自体に、私は違和感を感じるものである。

-と続いてジャブを打たせてもらう。

 

僕らは消費者ニーズをつかんで有機農産物の流通を始めたわけではない。

「こういう食べ物こそ当たり前に流通されなければならない」

という思いからスタートしたものである。

有機農業の生産者と出会い、彼らの生産物を街に運ぼう、

東京のど真ん中で 「有機農業」 の存在とその意味を  " 可視化 "  させよう。

これは1960年代から急激に進みだした生産現場の変容が、

食の安全 (=人の健康) を脅かしつつあることを伝えることでもあり、

「食」 から社会を見つめ直す作業にもなった。

 

そして大地を守る会の活動は、幸か不幸か 「仕事」 として成立してしまった。

 


「ソーシャルビジネス」(社会的企業) なる言葉は

ここ数年で広がってきた概念のように思うが、

我々にとっては、1975年に誕生した時点から、

「仕事を通じてどう社会に貢献するか」 は生きる前提のテーマだった。

そもそも、およそすべての仕事はソーシャルビジネスの側面がある筈で、

そうでなかったら存在価値がないと思うのですが。。。

「皆さんの仕事だってそうですよね」 と問うてみれば、多くの方が頷いてくれる。

それだけ 「お金」 を生むことのみを追い求める世の中になったってこと

なんでしょうかね。

 

そんなワケで、僕の話は必然的に大地を守る会の歴史から始まる。

ニーズをつかむではなく、「発見」 を伝え、「喜び」 を届けたいと

ひたすら歩き回ってきたこと。

「食の安全」 という当たり前の価値を守るために、

やらなければならないと思ったことをやってきたこと。

「お金」 がついてこないことも、随分とやってきた。

大地を守る会が自らに課したミッション(使命・任務) について、

歴史を辿りながら、テーマの本質に向かう。

 

僕らが考える流通とは何か。

そして現在の、有機農産物をめぐる制度や市場(マーケット) の動向を、

どう眺めているかについての私見を述べさせていただく。

要するに  " 有機農業 "  はいまだ未成熟なのである。

農業技術を指導する人たちに求められている社会的使命が、

すでに見えてこないだろうか。

 

いま目の前に直面している事態をひとつの事例として出させていただく。

原発事故と放射能汚染に対して取ってきた行動について。

生産現場に300万円の放射能測定器を貸し出した意味から

次のステップをどう考えているか、などについて。

 

最後に、大地を守る会が進めている挑戦について。

CSR (企業の社会貢献) を事業の本業に明確に位置づけたこと、

投資社会の姿を変えたいと、夢のようなことを考えていること、など。

「ソーシャルビジネス」 なんて言葉は、早く死語にしたい。

 

有機JASマークを超えるのか、それとも進化させるのか。 

この問いはいずれみんなの手で決着させなければならないことだが、

有機農業が社会に広がり育ってきた背景を理解して、

それぞれの立場に与えられたミッションを忠実に 「仕事」 とすることで、

社会は変わってゆくのだと僕は信じていて、

制度も含めた到着点は、

私たちの仕事をどういう質で積み重ねていくかにかかっている。

 

例によって喋りまくった1時間半。

学校みたいにチャイムが鳴っても質疑応答が続き、教官を困らせてしまった。

 

もしかして多分に自慢話に聞こえたかもしれない。

ただ僕は、「大地を守る会」 という組織が、現代という社会を語るに、

いろんな意味でとても面白い題材であることに、夢中になってしまうのである。

けっしてサクセス・ストーリーではなく、チャレンジ・ストーリーとして。

 

普及員の方々が、有機農業を始める若者たちに向かって、

JASマークに頼る前に自分の言葉で自分の農業を語ることが大切だと、

伝えてくれることを願っている。

 



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