2012年2月アーカイブ

2012年2月29日

2月の締めは庄内で

 

2月は逃げる、という言葉があるけれど、

まったくあれよあれよという間に過ぎてしまい、

エネシフ勉強会の話も、

共同テーブルで行なった白石久二雄さんの勉強会の話も、

朝日新聞のシンポジウムの話も書けず、

20日に発表した放射性物質に対する自主基準についてもフォローできないまま、

今月の締めは、山形・庄内から。

 

鶴岡に本拠を置く農事組合法人「庄内協同ファーム」 の 「第12回 生産者集会」

が昨日開かれ、僕は

「3.11後の消費者の動向と大地を守る会の取り組み」 について話をしろ、

というご指名を頂戴したのである。

講演は午後だったのだが、では午前中の会議から聞かせてもらいましょうか、

というお願いをして、 

早朝の庄内空港行きの飛行機に乗って、10時からの会議に間に合わせた。

しかし・・・ 軽い傍聴のつもりだったのだが、そこは敵もさるもの、

「来賓」 とかに仕立て上げられて挨拶をする羽目になってしまった。

 

でも午前の会議から出たいと思ったのにはワケがある。

1999年、僕は庄内協同ファームが最初にこの会合を開いた際に呼ばれていて、

有機の認証制度をどう評価し乗り越えていくか、

なんて話を偉そうにしたのだった。

80年代、協同ファームとお付き合いが始まった頃

(当時は 「庄内農民レポート」 という、たたかう農民集団だった)、

「無農薬を求めるのは、消費者のエゴだ!」 とか言い放っていた彼らが、

敢然と  " 自分たちの営農の証明 "  としてのシステム認証に取り組んだのが

2000年からだった。

99年の生産者集会は、言わばその出発点となった会議だった。

 

システム認証とは、有機JAS認証のように、ひとつの規格基準に基づいて

結果を認証するだけでなく、営農全体のプロセスも含めて、

環境対策という視点をもって認証するいうもの。

大地を守る会の初代会長である故・藤本敏夫さんが提唱し、

当時、多くの生産団体が取り組んだ。

 

しかし、書類の煩雑さや認証コストの問題に加えて、

日々の変化に追われてしまう農業という仕事の宿命もあってか、

数年で  " 精根尽きる "  人たちが続出した。

それでも、この経験は活かそうと、環境対策への基本方針やプログラムは

しっかりと自主的に継続させている人たちがいる。

庄内協同ファームもそのひとつである。

その今を確かめたい、と思って朝から参加させてもらった次第である。

 

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あれからいろんな紆余曲折があったことと思うが、

地道に発展させてきたことが読み取れる。

生産品目別に 『生産・環境プログラム』 が策定されていて、

掲げた目標に対する反省点や課題とともに、今年のプログラムが確認される。

「安心農産物生産委員会」 では、

水稲の有機栽培技術の安定に向けて各技術の検証が行なわれ、

新たな実験への取り組み計画が提案された。

また、原発問題に取り組むことが改めて提起され、

組織の 「環境方針」 に新たに 「自然再生エネルギーの活用」 という一文

を加えることが承認された。

有機JASの監査では、細かい指摘も受けたようだが、

いや実にきっちりと積み上げてきた、という印象である。

 

午後は、ふたつの講演。 

まずは茨城大学教授・中島紀一さんから、

「大震災・原発事故後の有機農業の取り組み」と題してのお話。

 

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実は99年の 「第1回 生産者集会」 も、中島先生と一緒だった。

きしくも干支が一巡したところで同じ顔ぶれになって、

新たな課題への取り組みが話し合われるという、何だかヘンな縁まで感じるのだった。 

 

中島先生はこの1年を振り返りながら、

「有機農業者たちは、本当によく頑張った」 と評価した。

当初は 「有機農産物のほうが危いのではないか」 と囁かれるなかで、

正確な現状把握と対策を立て、実験を繰り返しては新たな知見を獲得し、

逆に有機農業の力を立証させてきた。

幸い、農産物での残留はかなり低いレベルに落ち着いてきた。

有機農業の世界こそ、農の営みを再建する道を指し示すものではないか。

 

 続いて、二本松市東和地区に何度も入って

農家の声を聞き取りしてきた茨城大学・博士特別研究員の飯塚理恵子さんからの報告。

 

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丹念な聞き取り記録から、そこで暮らす農家の深い葛藤が伝わってくる。

その上でなお地域で生きることを選んだ人たちの声から、

再生への道もまた浮かび上がってくるのだった。 

 

第二部の最後は、戎谷から。

大地を守る会が行なってきた放射能対策の概要と、

新たに設定した基準についての考え方を中心にお話しさせていただいた。

一見たいそう厳しい基準を設定したかに見えるけれど、

これまでの測定データをもとに、

生産者とともに達成できるであろう指標として設定したこと。

何よりも 「子どもたちの未来を、未来の子どもたちを守ろう」 という、

大地を守る会が設立時に掲げた原点に立って考えたこと。

その上で、自主基準値を超えるもの(もちろん国の基準範囲内) が発生した場合には、

そのリスクを大人たちで引き受けることを提案することもある、

という姿勢に立ちたいと思っていること。

 

僕の結論は以下に尽きる。

「(国の)基準値未満なんだから食べてくれ」 よりも

「子どもたちの未来を守ってみせる!」 という気概を示そうではないか。

その姿勢と努力によって、つながりを再生させたい。

 

夜は、しつこい連中と飲み、議論する。

議論がいつまでも終わらないのは、ネタの問題ではなくて、

お酒の力でもなくて、人による。

 

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1日の福島での生産者会議に始まって、29日の庄内で締めた2月。

今年の東北は雪が多い。

「大雪の年は豊作になる」 という言い伝えがあるけれど、

希望よりも、雪解け後の不安が頭をよぎる。

陰鬱な陰とのたたかいは、まだまだ続くね。

 

朝日新聞の朝刊に、

2月18日に行なわれたシンポジウムの記録が掲載されたのをチェックして

庄内を後にする。

 

週末には年に一回の一大イベント

「大地を守る東京集会 (今年は「大地を守る会のオーガニックフェスタ」)」 が待っている。

 



2012年2月21日

絆に感謝! 大和川酒造交流会

 

とにかく、これはなんとしてもアップしておきたい。

2月11日(土)、第16回 「大和川酒造交流会」。

 

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1994年2月、前年の大冷害を乗り越えて、

大地を守る会オリジナル純米酒第一号が完成した。

会員から名称を募り、そのお酒は 「夢醸」(むじょう) と名づけられた。

みんなの夢を丹念に醸(かも) してゆこう、という思いが込められている。

西暦2000年。 21世紀を迎え、「夢醸」 は 「種蒔人」(たねまきびと) と改名した。

 

どんなにつらいときも、たとえ絶望の淵にあっても、明日のために種をまく。

そんな農民の魂に学びながら、希望の種をまき続けよう。

 

そして今年。

数えて19回目の酒造りは、初年度以来の大ピンチの年となった。

震災に加えて原発事故。

原料米をつくる福島県須賀川市・稲田稲作研究会(ジェイラップ) では、

ダムの決壊まであって(現在も行方不明の方がいる)、

4月に入った時点でまだどれだけの作付ができるのか、読めない状態になっていた。

放射能の不安もあった。

酒米どころではない、というのが正直なところだったと思う。

 

それでも彼らは、「種蒔人」 は途絶えさせるわけにはいかないっすよね、

と踏ん張ってくれた。

つらく厳しいなかで、産地リレーが行なわれた。

苗作りまでは稲作研究会で行ない、その苗を会津・喜多方までトラックで運んで、

大和川酒造の自社田(大和川ファーム) で栽培を行なってくれたのだ。

18年間、淡々と続いてきた  " 育て、醸し、飲む "  リレー。

 - この絆こそが、今年の 「種蒔人」 を完成させたのだ。

今年の酒は、忘れない。 一本は死ぬまで取っておくと決めた。

 

発酵途上の吟醸酒、大吟醸酒・・・を試飲させていただく。

至福のひと時。 

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今年の 「種蒔人」 は、二日前に絞られていた。

いつもこの交流会の日に絞れるように仕込みに入るのだが、

そこは  " 醗酵 "  という世界。 いつもいつも計算通りにいくとは限らない。

 

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今年の 「種蒔人」 は、いつもより優しい感じか。

こういう年だから? 酵母も気をきかして・・・ そうね、すべて愛の力だ、ウン。

すべての  " つながり "  に感謝して飲みたいと思う。

 


飯豊蔵(いいでくら、現在の工場の名称) で新酒をたしかめたあとは、

今は見学やイベント用に改装された旧蔵 「北方風土館」 を見学。

 

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そして待ちに待った交流会。

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" 会津づくし "  の料理の数々。

純米吟醸、大吟醸、金賞受賞酒、種蒔人・・・ と居並ぶ酒たち。

 

そして、いい仲間たち。

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稲田稲作研究会(ジェイラップ) の面々。

 

大和川酒造店代表、九代目・佐藤弥右衛門。

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役者がすべてそろったところで、

ジェイラップ・関根政一さんが音頭をとる。

 

「希望の酒に、乾杯!」

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お式のお決まりの台詞ではないけれど、

楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく。

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冬は蔵人、浅見彰宏さん。

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夏になれば、「会津の若者たちの野菜セット」 の生産者

(「あいづ耕人会たべらんしょ」 のメンバー) として登場する。

春のGWには、また 山都の堰さらい が待っているね。

村の労働力は年々衰えていくけど、先人が営々と守ってきた貴重な水路だ。

やれる間は守っていかねば、と浅見さんは泰然と構えている。

僕らもお手伝いの人足を少しずつ増やしながら、応援を続けるつもりである。

 

「種蒔人」  - 本当にシアワセなお酒だと思う。

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2002年から始めた 「種蒔人基金」 も、ついに200万円に到達した。

「この酒が飲まれるたびに、森が守られ、水が守られ、田が守られ、人が育つ」

を合い言葉に、一本につき100円を貯金してきたものだ。

 

堰さらい後の交流会用にお酒 (もちろん 「種蒔人」) をカンパしたり、

仕込み水の源流である霊峰・飯豊山の清掃などに活用しつつ、

それでも200万円が蓄えられた。 飲みも飲んだり2万本!

言っちゃってもいいすか。 言わせてもらいます。

「飲んべえだって、飲むことで、田んぼや水を守っているのだ!」

まったく、命がけだね・・・

 

これから1年、僕はこの希望の酒に励まされながら過ごすことになる。

そして来年は、いよいよ20回目の仕込みだ。

記念すべき交流会にしたいと思う。

「夢醸」 を、そして 「種蒔人」 を愛してくれたみんなに集ってもらって、

基金の使いみちを語り合うというのはどうだろうか。

みんなで飲み続けながら貯めたお金に、命を吹き込みたい。

 

それまで、どうか変わらずに。

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命がけの飲兵衛たち。

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お疲れ様でした。 

 



2012年2月20日

あっという間の10日間

 

やれやれ・・・まったくブログに手が回らない状態でした。

もう立春、とか言ってたと思ったら、

すでに季節は 「雨水」(うすい。雪が解けだし草木が芽吹き始める頃) へと移ろっている。

実際はまだまだ寒いのだけど、どうも昔の人はきざしのようなもので季節を感じ取り、

気持ちを前に向かわせたのかもしれない、なんて思ったりして。

春が近づいている・・・・・

僕はどんな思いで今年の春を迎えることになるのだろうか。

 

報告したいことがいろいろと溜まっているのだけど、

事ここに至っては一つ一つ振り返る余裕もなく、

でもとりあえず(未練がましく)、この間の動きを駆け足で拾ってみると-

 

8日に宮城から帰ってきてエネシフ・ジャパンの勉強会に参加。

実はここで一番感激したことは、秘かなファンである冒険家・関野吉晴さん

お会いできたことだった。

関野さんは現在、多摩美術大学で文化人類学を教えておられ、

この日は教え子と思しき若者を連れて聞きに来てくれた。 嬉しかったな~

 

10日(金)は、有機JAS認証機関であるアファス認証センターによる年次監査を受ける。

農産グループ長の任は解かれても、年に一回の事ゆえ、

引き継ぎもかねて立ち会うことにした (前半戦だけだったけど)。

この一年間の産地への内部監査業務は不充分なところがあって、少々ばつが悪い。

指摘されたことは認めざるを得ない。

でも腹の中は、" 今年はそれどころではなかったんすよ "  が偽らざる本音である。

監査とは自分たちの仕事の検証であることを、後任の方々に知ってもらえばいい。

O山部長、監査をなめていると、いずれ痛い目にあうかもしれないので、

気をつけるように。 

 

11日(土)~12日(日) は、

" これはオレの生きがい "  と言ってはばからない 「大和川交流会」。

大地を守る会オリジナル純米酒 「種蒔人」(たねまきびと) の故郷、

会津・喜多方 「大和川酒造店」 での新酒完成を祝う、

誰が名づけたか  " この世の天国ツアー " 、その第16回めの開催である。

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今年もいい酒ができた (例年より少しソフトな感じか)。

しかも原料米の栽培にあたっては、苗までジェイラップ(稲田稲作研究会) で作り、

その苗を大和川酒造の自社田(大和川ファーム) に移して田植えをするという

産地リレーで乗り越えた。

「種蒔人」 の物語がまたひとつ生まれたことを、皆で喜び合ったのだった。

写真とかは改めてアップさせていただきたい。

 

続いて、ちょっと飛んで17日(金)、

「食品と放射能問題検討共同テーブル」による勉強会を実施。

お招きしたのは、元放射線医学総合研究所の白石久二雄さん。

こちらも詳細、後日。

 

翌18日(土)は、以前予告した朝日新聞のシンポジウム 「放射線と向き合う」

にパネラー参加する。

いつものように早口でとちりながら、忙しなく喋ってしまった。

反省しきりなのだが、何人かの方から好評やお褒めの言葉を頂戴して、

少し安堵しているところ。

これもレポートしたいところだけど、手が回らないかも・・・。

シンポの概要が29日付の朝刊に掲載されるようなので、もしよかったらご一読を。

 

そして今日、

食品における放射性物質に対する大地を守る会の 「自主基準」 を発表した。

(HPでのリリース参照 ⇒ http://www.daichi-m.co.jp/info/press/2012/02/1518110220.html

 会員の皆様には来週配布いたします。)

内部被ばくについての明確な答えはなく、

放射性物質の動向も見定められない中での検討は、けっこうつらいものだった。

産地側からは厳しい反応も出ることかと思う。

覚悟してコミュニケーションに努めなければならない。

 

・・・・・とまあ、そんな流れで、あっという間の10日間でした。

溜まったレポートは書けるかどうか自信がないですが、

自主基準のほうはスルーさせて逃げるわけにはいかないので、

少しずつでも書き綴りたく思います。

 



2012年2月10日

宮城からエネシフ勉強会へ

 

今週は頭から宮城に出張した。

予定していた用務は7日(火)の宮城県生産者の新年会への参加だったのだが、

前日に仙台まで移動し、厚生労働省による

「食品に関するリスクコミュニケーション  ~食品中の放射性物質対策に関する説明会~」

に参加することにした。

これは昨年末に発表された新基準案に関する説明の場として設定されたもので、

1月16日の東京での開催を皮切りに2月いっぱいまでかけて全国7ヵ所で開催されている。

実は東京での開催に申し込む前に先着200名様が埋まってしまったので、

いったんは諦めたのだが、前日入りすれば仙台で聴けるかと思い申し込んだ次第。

 

ご説明は以下の4項目に分かれて行なわれた。

1.食品中の放射性物質による健康影響について

  内閣府食品安全委員会事務局勧告広報課より。

2.食品中の放射性物質の新たな基準値について

  厚生労働省医薬食品局食品安全部

  基準審査課新開発食品保健対策室バイオ食品専門官より。

3.食品中の放射性物質の検査について

  厚生労働省医薬食品局食品安全部

  監視安全課輸出食品安全対策官より。

4.農業生産現場における対応について

  農林水産省生産局農産部穀物課より。

 

特段の新しい情報はなかったけど、

基準運用の方針や詳細部分での見解がいくつか確かめられた。

新基準値案に対する当方の見解は 「共同テーブル」 で提出した 「提言」 に

集約されるが、やはり根本的な争点は以下に尽きそうだ。

 - まだ未解明な 「食品による内部被ばくの影響」 をどういう視点で捉えるか。

 


説明された基準設定や各種政策は間違いなく前進したと思う。

それは認めるところではあるが、

「充分な安全係数をかけて設定した」 という説明に終始しつつ、

「基準値(案) が緩和されることはないのか」 の質問に対して、

「できるだけ低減させていく方向性である」 (ホント?) と答えたところは、

ある種の使い分け的な印象が拭えなかった。

リスク・コミュニケーションというわりには、

お上からの  " 説明あるいは回答 "  の枠である。

もう少し社会的議論を深めるというセンスがほしいものだ。

民間の力ですでに前に行っている部分だってある。

 

ま、こちらも基準の設定を迫られている立場である。

予防原則の観点と生産者との連帯をどう折り合いつけるか。

どうも 「特命担当」 はいま極度のプレッシャーで、

ストレスもピークを迎えている様子だが (身体のあちこちから反応があって)、

腹をくくるまでもう一歩二歩、生産者との対話を続けなければならない。

 

夜は最安値のビジネスホテルに潜り込み、

7日、新年会会場である松島海岸に向かう。 

景色を眺める余裕もなく (復興途上の風景を電車でちらちら見つつ)、

午前中から会場であるホテルに入って、翌日に発生してしまった講演の準備をする。

 

午後3時頃から生産者が集まり始め、

まずは会議室で藤田社長はじめ、新任部長の挨拶など。

戎谷からは、国の新しい基準値と当社の考え方について説明させていただく。

 

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夜の宴会は割愛。

仙台黒豚会、仙台みどり会、ライスネット仙台、蕪栗米生産組合、同野菜部会の皆さん、

N.O.Aの高橋伸さん、無農薬生産組合の石井稔さん、卵の若竹智司さん、

遠藤蒲鉾店の遠藤栄治・由美さん夫妻、高橋徳治商店の高橋英雄さん、

マミヤプランの間宮恵津子さん、奥松島水産振興会の二宮義政・貴美子さん夫妻、

みんな元気な顔を見せてくれたことを報告しておきたい。

 

「操業が一部でも再開できたのは、

 お付き合いいただいている団体の皆さんの支援があったから」

と語る高橋英雄さん。

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震災による深い傷を胸に秘めて、

「みんな、本当に変わらなきゃいかんです」

の言葉が、こたえた。

 

翌8日は、担当の生産者とともに散っていく職員を横目に、

寂しく東京へと引き返す。

夕方から、衆議院第一議員会館で開かれた

「エネシフ・ジャパン 第16回勉強会」 にパネラーとして参加。

テーマは、『 " 3.11後 "  の 「食のリスク」 とどう向き合うか 』。

詳細は・・・・・

もう一人のパネラーである神里達博さん (東京大学大学院工学系研究科)

の話は紹介したいところだが、息が切れてきた。

当日の様子がすでに Ustream でアップされたようなので、

エネ・シフの HP  でご確認いただければ、有り難いです。

自分は恥ずかしくて見れないけど。。。

 



2012年2月 5日

点から面へ進もう -福島会議(Ⅱ)

 

寒い寒いと言っているうちに、暦は立春に入っていた。

春に向けて、急がなければならない。

2月1日、福島県生産者会議のレポートを続けます。

 

ジェイラップ(稲田稲作研究会、福島県須賀川市) の報告。 

この日、伊藤俊彦代表は農水省に呼ばれて欠席となり、

報告するのは常松義彰さん。

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ジェイラップの取り組みについてはこれまで何度か書いてきたが

(直近では昨年 12月25日 の日記参照)、

改めて 「田んぼ341枚のデータベース」 の価値を実感させられる。

 

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全ほ場にわたって、土と米との相関関係を測定したことによって、 

地形や水系との関係、耕作放棄地との関係なども見えてきて、

地域全体の対策の方向性まで示唆するものになった。

須賀川市、いや福島県にとっても貴重な先駆的データになるはずだ。

水田内での放射性物質の動態も調べ、今年の対策もほぼ固めた。

すでに土の反転耕起の作業に入っている。

 

ジェイラップの取り組みをずっとフォローしてくれたのが、河田昌東(まさはる) さん。

元名古屋大学教授で、現在 「チェルノブイリ救援・中部」理事。

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河田さんは、ジェイラップをサポートしただけでなく、相馬でも詳細なデータを取ってきた。

それらの結果から、地勢をよく見て対策を取る必要があることを説いた。

民間の力で進めてきたデータ蓄積と対策の共有が、大きな力になることを

期待を込めて語ってくれた。

 

佐藤守さん、野中昌法さん、河田昌東さんを助言者として、

参加された生産者グループごとに取り組み報告を行ない、

また疑問点などを提出してもらう。

 

福島わかば会は畑を12区に分け、

薬師(モンモリロナイト系の土壌改良材、有機JAS適合資材)、コフナ、ぼかし肥料、

地枸有機エキス(麦焼酎のもろみ副産物、有機JAS適合資材)、

硫酸カリなどの各種組み合わせによる試験を実施した。

結果は間もなく見えてくる。

 

二本松有機農業研究会、大内信一さん。

                                     (以下、写真撮影=市川泰仙)

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こちらには法政大学のグループがデータ取りで協力している。

 

やまろく米出荷協議会からは、佐藤正夫さん。

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佐藤さんが採用したのはソフトシリカ (これもモンモリロナイト系の粘土鉱物)。

これを水田の水口に置くよう指導したところ、施した田んぼはセシウム濃度が低く出た。

今年はさらに徹底してより安全性を高めていくことを総会で確認し合ったとのことである。

 

いわき市から参加された福島有機倶楽部の阿部拓(ひらく) さん。

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地震、津波、原発事故による放射能汚染・・・未曽有の災禍に見舞われ、

当地を去った仲間もいる。

しかし阿部さんは息子さんとともに 「農業を続ける」 意思を捨てない。

ハウス栽培で、野菜からの放射性物質の検出は殆どなかったのだが、

放射性物質が大地に降ったことには変わらない。

菌の利用や除染作物の活用など、阿部さんの試行錯誤は続いている。

 

質問に応える佐藤さん、野中さん。

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質疑応答は、時間を大幅に超過して終了。

成果や課題をがっちりと共有して全体の対策を強化するには、

一回の会議では足りない感が残った。

情報のネットワークを強化して、" 点から面へ " と進まなければならない。

 

春から取り組んでいる 「福島&北関東の農家がんばろうセット」 には、

今も粘り強い支持が寄せられている。

これまで会員から寄せられた応援メッセージを冊子に綴じて、

生産者たちにお渡しした。

 

「地震が起きた日から3カ月が過ぎました。

 被災地におられる皆さんの心と体の疲れのことを考えると、とても胸が痛みます。

 少ししか手助けすることはできないのですが、" がんばろうセット "  を食べて

 心をつなげていきたいです。 少しずつ皆さんの置かれている状況が良くなりますよう

 願っています。 体調を崩さぬようご自愛ください。」

「この時期、私と夫はわかば会のきゅうりとトマトなしには過ごせません。

 暑い中ですが、よろしくお願いします。」

「いつも美味しい野菜を有り難うございます。

 皆さんがずっと農業を続けていけるよう、応援しながらおいしくいただいています。

 皆さんに支えられて、私たちの食生活は充実したものになってます。」

「新年おめでとうございます。

 今年は穏やかな年になりますよう祈っております。

 がんばろうセットがある限り続けてゆきますので、皆さんもお体大切に。」

・・・・・・・・・・

こんな言葉が続いている。

 

ゆっくりと読みながらページをめくっている生産者の姿は、

それだけで胸に迫ってくるものがあって、

この苦難が喜びに変わるまで負けるわけにはいかない、

何としても最短で走りたい、と思う。

希望の春を迎えるためにも。

 



2012年2月 4日

点から面へ進もう! -福島会議

 

さて、2月1日、福島で生産者との会議を行なってきたので、

その報告を。

 

例年、1月に入ると関東から東北1都7県、8ヵ所で生産者との新年会が開かれる。

農産の仕入部署では  " 死のロード "  と呼ばれる産地行脚である。

昨年までは僕も農産グループ長として、

やんごとない業務以外は体の続く限り回ったものだが、

今年は立場も変わり、また火急の課題山積ということもあって、

1月はパスさせていただいた。

 

しかし福島に限っては、このタイミングでやらなければならないことがあった。

昨年から各産地で取り組んだ放射能対策の成果や課題を共有し、

連携を強化して、より効率的な対策を各産地で目指すことを確認したい。

僕の中で今年のテーマは決まっている。 " 点から面へ "  だ。

しかもこれは、大地を守る会の生産者だけの話では終わらせない。

美しい福島を取り戻すための牽引的な役割も果たそうではないか。

 - そんなわけで、昼間はそのための会議に設定させていただいた。

 

場所は、福島市・穴原温泉。 

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発表者は3名、加えて2名の専門家を助言者として招いた。

 

まずは福島県農業総合センター果樹研究所、佐藤守専門研究員。

本来は果樹の育種 (品種改良) が専門なのだが、

昨年3.11以降、除染問題は 「お前がやれ」 と言われて、猛勉強した。

「人生でこんなに働いたことはない」 と言う。

 

たしかな科学的知見の少ないなかで、現場調査や比較試験を蓄積しながら、

現場で使える除染対策に取り組んできた。

「納得できない情報や指令には従わない」 と言い切る。

これまでの行政からの対策指導に対しても、歯に衣着せず批評する。

昨年の3月12日、研究所の果樹園から 「屋内に戻るよう」 に指示された際も、

「公務員に避難しろというなら、先に住民に知らせるべきだ」 と言い放ったらしい。

それは小気味良いのだが、職場内の立場がとても心配になる。

「はい。 変人扱いです」 と表情も変えず言う。

(こんなこと書いちゃっていいのだろうか・・・いや心配だ。)

 

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土壌中の放射性物質の垂直分布、水平分布、経時的推移など、

果樹園地での様々な調査や試験で見えてきた汚染状況と除染対策は、

まだ仮説や私見の枠とことわりつつも、

ある程度の確信を持って具体的な方法論を示唆された。

生産者を前に 「いつでも連絡してくれていい」 と伝える姿勢も嬉しい。

 

次に、二つの生産現場から報告をいただく。

二本松市 「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」 から、佐藤佐市さん。

 

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東和地区での取り組み-「災害復興プログラム」 は

ホームページでも概要が出ているので、そちらをご覧いただければと思う。

  http://www.touwanosato.net/kyougikai.html

 

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新潟大学や茨城大学などの支援を得て、

4つの水源と山林2400ヵ所の放射能調査を行ない、

農地では100mメッシュでのデジタル・マップを作成した。

じいちゃんやばあちゃんの野菜を子や孫に食べさせたいの一心で

測定を行ない、情報を公開してきた。

その上で、道の駅では、地元産の野菜を優先する、を貫徹してきた。

課題は、田畑の線量別対策、そして 「心の除染」 だと語る。

「土を剥ぐなんて、可哀想でできない」 の言葉が切ない。

 

佐藤さんが紹介された若者、アリマ・タカフミさん。 

東和で農業研修を続けて、いざ独立という段になって3.11に見舞われた。

 

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相当な悩みもあっただろうが、ここで就農すると決意してくれた。

佐市さんたちにとっては、その存在自体が希望だったかもしれない。

 

生産者の報告をフォローする形で専門家に登場いただく。

それが今回の手法である。

お呼びしたのは東和での取り組みをサポートした

新潟大学教授・野中昌法(まさのり) さん。

 

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野中さんは、「除染という言葉はもう使う必要はないんじゃないか」 と言う。

耕しながら対策を打っていくことだと。

農の営みを継続することで放射能に打ち勝つことができる。

キーとなるのは、粘土と腐植。 つまり総合的土づくりだ。

まだ時間がかかることだが、この裏づけをしっかり獲得できれば、

有機農業の確実な前進にもつながると思う。

 

次は須賀川・ジェイラップの番なのだが、

例によって 「続く」 で、すみません。

 



2012年2月 1日

厚労省「新基準値(案)」への提言

 

福島に来ています。

その報告は帰ってからとして、本日、

大地を守る会他4団体で構成する 「食品と放射能問題 検討共同テーブル」 は、

昨年12月に厚生労働省より発表された

「食品中の放射性物質に係る基準値の設定(案)」 に対し、

「提言」 を提出しましたので、その概要につき、要約して報告いたします。

原文(全文) については、大地を守る会の下記HPにてご確認ください。

→ http://www.daichi-m.co.jp/info/news/2012/0201_3405.html

 

厚生労働省

「食品中の放射性物質に係る基準値の設定()

に対する提言

 

1.原子力発電および低線量被曝に対する共同テーブルの基本的な考え方

1)原子力発電所の速やかな全面廃炉をめざすべきです

2)長期的な低線量被曝が人体に与える影響はほとんど判っていません

 

2.規制値の設定にあたって考慮すべき点

1)内部被曝と外部被曝との総量を考慮すべきです

新基準値案では外部被曝分を計算外としたが、内部被曝・外部被曝の総量が規制値を下回ることが当然であり、外部被曝の実態を考慮した内部被曝の規制が必要。

2)日本人の食文化に合わせた細かい食品群の分類が必要です

飲料水・乳児用食品・牛乳以外の食品を「一般食品」として一括したが、食品には日常的に大量に摂取する物、そうでない物があるため、例えば米のように摂取量の多い食品は厳しい規制値を設定するなど、日本人の食文化に合わせた細かい分類と規制値の設定をおこない、内部被曝を少しでも減らすべきである。

 3)規制値や食品群の分類は継続して見直していく必要があります

今回発表された新基準値案は2012年度版の規制値とし、定期的な見直しをおこなっていくべきである。

4)経過措置は設けるべきではありません

「準備期間が必要な食品には、一定の範囲で経過措置期間を設定する」とされたが、新基準値が施行された後も新基準値に適合しない食品が流通し続けることのほうが混乱を招きかねない。経過措置を設けるとしても必要最低限とし、その際は根拠および具体的な品目群を明確にし、国民に周知する必要がある。同時にきめ細かい検査の実施と、超過した場合の賠償制度が必要。

5)セシウム以外の核種の調査を拡大すべきです

ストロンチウムやプルトニウムなどについては、セシウム数値を元に算出するとされているが、存在率が一定の比率であるとの知見が少ないことなどから、計画的調査と情報公開が必要である。

 

3.規制値を担保するための調査・検査のあり方(検査機器/検査方法/公表基準など)

 1)汚染状況の調査について/放射性物質の動態の把握が必要です

市街地・田畑・山林などの土壌、湖沼・河川などの水系を広範囲に調査し、放射性物質の動態を把握して対策を講じていく必要がある。海洋については、海の潮流を考慮した魚種別の長期的な測定が必要。漁業者自身による放射能測定なども拡大していくべきである。

 2)食品の検査について/検査の標準化を図るべきです

  食品の安全性を可能な限り確保するためには、流通規制値の設定だけでなく、それが正しく流通されていることを担保するための測定体制と情報公開が必要。国や行政のほか、民間でも独自の検査が数多く行なわれているが、検査方法が不統一など非常に判りづらい状況にある。標準化を図ることが必要。

 

4.国民への説明ときめ細かな情報提供

 1)検査結果の公開について/検査結果公開の標準化を図るべきです

  検査結果の公開・表示についても標準化する必要がある。今回の新基準値案では、年齢区分を別に設けたのは乳児のみとなっているが、小児期間について十分な配慮がされているとはいえない。親が子供に与える食品を選択できるよう、検査結果のきめ細かい情報提供が不可欠であり、公開・表示についても標準化が必要。標準化にあたっては、検出数値を公開することが望ましい。検出限界値の明示も必要。

 2)暮らしに関する情報提供/放射能から身を守る生活指針を積極的に発信すべきです

放射能・放射線は、調理・食事の仕方や食生活などで影響を減らすことができるとされている。被曝から身を守るための生活指針や情報提供が、多様な専門家の知見を取り入れる形でなされることが望ましい。

 

5.今後の放射能対策の前進のために

 1)外部被曝の低減

 ・緊急の課題は外部被曝を低減させること。除染作業については国の責任において中間貯蔵施設を確保し、高濃度地域を中心に、速やかに作業をすすめなければならない。

2)第一次産業の再生に向けた政策

  食の安全のためには厳しい規制値の設定が必要だが、農業や漁業などを再生させていく政策もセットでなければならない。基準を越えてしまった地域に対する保護策・支援策が必要である。

 3)長期的な医療・検査体制について

  子どもを中心に長期的な検査体制を構築するとともに、必要に応じた対策を講じていくこと。低線量被曝に対する研究の一層の深化、予防対策に反映させていくこと。詳密な疫学的調査の継続を強く望む。

 

以上



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