2012年3月31日アーカイブ

2012年3月31日

ニッポンのリグビタートル -無名の英雄たちよ

 

強風の一日。

出かける予定だったのが電車が止まり、お陰で仕事をいくつか処理した。

悩みの種は、底なし沼にはまったようなこのブログ。

この間、アップしたいネタも溜まり続けているのだけど、

その前に重かった、実に重かった東北レポートを終えなければならない。

 

3月24日(土)、「福島視察・全国集会」。 

前回、伊藤俊彦の決め台詞まで書いた。

「 この難局を乗り越えられたら、

 福島は日本一、いや世界一優秀な農民たちの地域になれる!」

この確認ができただけでも、今日の一日は価値がある。

 

シンポジウム終了後は、交流会。

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福島の地産地消をリードしてきた 「ホテル・ヴィライナワシロ」元料理長・山際博美氏と、

「ホテル華の湯」料理長・斉藤正大氏が技を競った、

福島産&有機をベースにした食材の数々に皆感激しつつ舌鼓を打つ。

お酒は、大地を守る会でもおなじみの金寶(きんぽう)酒造に大和川酒造ときた。

 

「どこよりも美しい村づくり」 に取り組んできた福島県飯館村をPRする

" までい大使 "  の一人、大和川酒造店代表・佐藤弥右衛門さん。

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「原発はもうやめにしましょう。

 新しいエネルギー時代を、福島から発信したいし、福島にはその力がある!」

とハッパをかける。

福島の意地をかけたような交流会だった。

 

二日目(25日) は、2コースに分かれての現地視察。

僕は 「放射能とたたかう農業者」 視察コースを希望する。

 


福島市にある果樹園での除染作業を見る。

まず、ぶどうの樹の粗皮(そひ) 削りの様子。 

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もともと梨・ブドウ・リンゴなどでは、

病虫害対策のために表皮を削ることは、前からあった方法である。

加えて今回は、放射性物質は表皮に付着していることが分かってきているため、

この時期に徹底的に削ることが推奨されている。

 

続いて、高圧洗浄機による水洗い作業。 

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皮を剥ぐわけにいかない桃やサクランボでは、この方法を徹底する。

降り注いだ放射性物質は枝の背中(上部) に多く付着しているため、

上からの洗浄となる。

これらの作業により、樹体に付着した放射性物質の9割以上を取り除くことができる、

というのがこれまでの試験によって実証されてきたことだ。

 

これらは、平成23年度産の果実や土壌の検査から、

放射性物質は土壌の表層0~3cmにほとんど留まっていることが判明していて、

根域に達していないことで、根からの吸収は考えられず、

樹体からの移行と判断されての対策である。

土の中でセシウムをがっちりとつかまえているのは粘土粒子である。

 

しかし、言葉の正しき意味においては、この作業は  " 除染 "  ではない。

食べ物である果実に移行させないための抑制対策である。

洗浄により地面に落ちた放射性物質は、土壌の粘土粒子によってつかまえさせる。

削られた粗皮は土に還すことはできず、まだ処分方法が定まっていない。

おそらくはチップや粉にして容積を小さくして、然るべき処理施設で燃やすか

埋める・・・ ということになろうかと思う。

 

対策の結果は秋に判明する。 まだまだ予断を許さない、というところか。

まあ、それでも

「福島市の前年度産の桃やリンゴ、梨は、新基準値(100ベクレル) を下回ってます」

というのが福島県の農業振興普及部からの説明である。

100以下、しかも低い水準のものがほとんど、とのデータを見せられる。

 

次の視察先は、二本松市東和地区。 

菅野正寿さんの田んぼでの反転耕起作業を見る。

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今、ジェイラップ(稲田稲作研究会) でもやっている作業だ。

しかもこちらは、天ぷら油を再精製したVDF燃料でトラクターを動かしている。

 

水の入口にはゼオライトを敷き、セシウムを吸着させる。 

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食の安全と安心を取り戻すために、

皆で 「やれることはやり切ろう」 と必死である。

人工放射能という魔の兵器に、体を張った総力戦で対峙する農民たち。

泣けてくる。。。

 

視察団一行と途中で分かれ、

僕は大地を守る会がリンゴで契約している二本松の生産者団体

「羽山園芸組合」 に回る。

こちらでも同様の作業の真っ最中である。

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これはサクランボでの洗浄風景。

 

リンゴは脚立に上っての作業。

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粗皮削りを終えたリンゴの樹。 

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羽山園芸組合の3名。 

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左から、熊谷耕一さん、武藤喜三さん、武藤善朗さん。

 

「羽山 (という地元の山) が遮ってくれて、ここいらは (線量は)低い方」

だと言いながら、彼らの不安は、まだまだ消えない。

何度となく聞かされた言葉 - 「とにかくやるだけのことはやりますから」(喜三さん)。

ドキドキしながら秋まで過ごすことになるのだろう。

 

羽山園芸組合を最後に、東北をあとにする。

 

思えば、、、世界には今も432基のゲンパツが存在し、

放射性物質の影響はグローバルであり、

かつすでに 「管理」 という名での付き合いは永遠(十万年以上) である。 

私たちがこの宇宙船地球号をどのような形で次世代に継承するにせよ、

彼ら生産者たちの悪戦苦闘は、

  " 二度と起きてはならない、その時のためのマニュアル "  として

残さなければならない。

アフリカ大陸の原発だって、いざとなれば救わなければならないワケだし。

 

彼ら生産者たちは、

ニッポンのリグビタートル (チェルノブイリの事故処理に当たった消防士たち) だ。

たくさんの無名の英雄たちが福島を、そして未来を支えようとしている。

地球市民の一人として見過ごすわけにはいかない。

 

だって、いつか孫やその孫たちから

" どうしてマニュアルを残してくれなかったんですか "  なんて、

言われたくない。

でもそのためには、付き合ってくれる(食べる) 人が必要となる。。。

 

21世紀は、哲学の世紀になるかもしれないね。

いや、ならなければならないのかも。

 

いま福島原発で闘っている文字通りのリグビタートルは、

いつか、チェルノブイリのように英雄として称えられるのだろうか。

それとも歴史に埋もれるだけなのだろうか。

 

顔も名前も分からない原発現場でたたかう人たち、

再興に挑みながら助け合う三陸の人々、必死で土を耕す農民たち、

そして、、、結果を受け止め、食べる人々。

たくさんの無名の英雄たちがいることに深く感謝して、

変えよう、日本を!

- この言葉をもって、東北レポートを終えたい。

 



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