2012年6月アーカイブ

2012年6月30日

それぞれのポジションから、ひとつの目標に向かって

 

みんな集まれ!! 6月29日

電車に飛び乗れ!

首相官邸前だ・・・

 

6月29日。 今日も産地に向かうとするか、、、というお出かけの直前。

こんな呼びかけがネットから入ってくる。

作家・広瀬隆さんからのメッセージだ。

 


大飯原発の再稼動に反対する声が、どんどん広がっている。

" あじさい革命 "  なる言葉まで生まれたらしい。

先週金曜日の首相官邸前のデモには、5万人の人々が集まったという。

そして今夜、さらに大きな輪で首相官邸を取り囲もうと、

ネットでの呼びかけが、どんどん広がっている。

 

この首相官邸前デモをまともに報道しようとしないマスコミに業を煮やした

広瀬さんは、ついに100万円でヘリコプターをチャーターした。

俳優とサラリーマンの兼業となった山本太郎さんが空からレポートするという。

この計画の実行をカンパで賄いたい、と呼びかけている。

カンパ第1号は、カンパの管理を引き受けられた城南信用金庫の理事長、

吉原毅さん。 この方も、哲学を感じさせる人物である。

 

う~む・・・ 行かねば。 行かねばだけど、これから僕はある地方に向かう。

産地での放射能対策を支援することが、僕の本来の任務である。

運動はまだまだ続く。 今日で終わるわけではない。

ここはカンパで、と決めて産地に走る。

それぞれのポジションで、最大限できることをする。

その力をネットワークして、新しい時代を創出してゆくのだ。

若い頃、コワい先輩たちがよく使っていた言葉が、蘇る。

" それぞれの砲座から、ひとつの目標を撃て! " (レーニン)

 

夜帰ってから報道やネットをチェックすれば、

集まった群衆の数は、15万とも20万とも言われている。

1万7千という警察発表だって、スゴい数字だ。

 

とにかく、大飯原発再稼働は、暴挙である。

民意も踏みにじって、なりふり構わず稼働の実績づくりに突っ走っている。

いろんな意味で熱い " 夏の陣 "  になりそうだ。

 

既存報道がアテにならない今、みんなの力でヘリを出し、

空から全国に巨大デモの全景を伝えよう。

そうか。 100万円集めれば、ヘリが出せるのか。

そう思った方も多いのでは。

 

このヘリ・カンパにご協力いただける方は、下記へ。

  ◆城南信用金庫 営業部本店

    普通預金口座 822068

    口座名: 正しい報道ヘリの会 (命名者は吉原毅さん)

当日の様子をまだ見ていない方は、こちらからどうぞ。

⇒ http://www.youtube.com/watch?v=-ooBV4Lrg-k

 

来週は・・・ 行くしかないか。

 



2012年6月27日

日本人の たたかう体をつくる!

 

25日(月)、福島から帰ってきたその足で、丸の内に向かう。

「Daichi & keats」 で 丸の内地球環境新聞 の取材を受け、

夜は 「地球大学」 のコア・メンバーによる会議に出席する。

ここで前からお会いしたいと思っていた方の話を聞く機会を得た。

 

予防医療コンサルタント ・ 細川モモ さん。

アメリカで最先端の栄養学を学び、

日米の医師・臨床栄養士などをメンバーとした予防医療プロジェクトチーム

「Luvtelli  ( ラブテリ,love+intelligence から命名)」 を発足、

企業や各種機関ともコラボしながら健康増進プロジェクトを推進している。

また健康計測機器メーカー 「タニタ」 と提携して、

プロのアスリートやミス・ユニバース・ジャパン出場者への

 「美と健康」 アドバイザーとして活躍していたり、

今年1月にオープンした 「丸の内タニタ食堂」 では

カウンセリングルームを設置し栄養指導を始めたことは、

各メディアからも注目を浴びた。

 

「たたかう日本人の体をつくる!」 と彼女は言う。

そのための健康管理のサポートをするのだと。

 


ミス・ユニバースを目指す女性たちに

" ちゃんと食べることで 美しくなる "  ことを教える。

「 世界一の美女を目指す女性たちのサポートを通じて、

 日本女性に向け健康をそこなうようなダイエットではなく、

 光り輝く健康美のつくり方を発信する」 ( 『タニタとつくる美人の習慣』 より)

 

いやいや、オッサンが聞くには、あまりにも眩し過ぎるお話。。。

しかし、ホンモノの美女づくりの話より驚かされたのは、

低体重での出生児の増加と女性の 「痩せ志向」 の関連、

そしてそれによって重大な問題が現われてきていることだった。

 

日本では、低体重で生まれる子供がこの30年で倍になっている。

これは世界でも異常な現象として見られている。

その背景に、日本女性の 「痩せすぎ」 傾向と高齢出産化がある。

日本の20代女性の30%が「痩せすぎ」、かたや肥満は20%。

摂取カロリーはなんと、終戦直後より低下している。

しかも最新のデータから、

「生活習慣病は、生活習慣によるだけではない」 とも言われるようになってきた。

原因は、胎児期のストレスだと。 「成人病胎児発症説」 と言うらしい。

この現象に、女性の 「痩せ」 願望が関連している。

迂闊にも、知らなかった。。。

 

日本では、妊婦は太ってはいけないと指導されてきた経緯があるが、

それは間違いだとも、モモさんは断言する。

「ちゃんと食べて、適度に太る必要があります。 それが当たり前。」

 

体脂肪率も低いが、筋肉もなく、ビタミン・ミネラル特に鉄欠乏症

になっている若い女性たち。

" 食べないダイエット " は間違いであるばかりでなく、危険ですらある。

「このままでは、日本は滅びます!」

強烈なプレゼン力というか、説得力である。

 

細川モモさんに挨拶した際、

「ああ~ 大地を守る会 さん!」 と驚かれた。

なんと! お母さんが大地を守る会の会員だったんだと。

マクロビオティックの実践者だったらしい。

「生まれた時から、食の大切さについて刷り込まれて育ってきました。」

思いもかけない、感激の出会いだった。

 

太るのはカロリーのせいじゃない。

痩せすぎると、老化する。

あなたのブリリアント・ボディ度をチェック!

美人の食卓の秘訣は 「3つの  " 抗(アンチ) " 」

低すぎる中性脂肪で喜んではいけない ・・・・・

 

今度、モモさんのお話しを聞いていただける機会を設けたいと思っている。

モモさんも 「喜んで!」 と言ってくれた。

「人」 と 「環境」 を、「食」 を通じてつなげたいと。

 



2012年6月26日

科学者国際会議と現場の知

 

23日(土) から昨日まで、二泊三日で福島を回ってきた。 

23~24日は、猪苗代にある 「ヴィラ イナワシロ」 にて、

『市民科学者国際会議』 に参加。

でもってその帰りの足で、須賀川の「ジェイラップ」を訪問。

代表の伊藤俊彦さんと、米の対策の現状確認と、これからの作戦会議。 

秘密の会議とか言いながら、所はばからず、お互いでかい声で

深夜まで語り合った。

 

「ヴィラ イナワシロ」 - ここに来るのは2年ぶり。

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2年前の 『有機農業フォーラム』 では、総料理長・山際博美さんの手による

地産地消の料理に感動したのだったが、山際さんは昨年独立されて、

あの美しい料理に出会うことができなかった。

それどころか無残にも変貌していて、正直言ってがっかり、のレベル。

今回は特に海外からたくさんのゲストが来られたのだから、

自然豊かな猪苗代の風景とともに、和の料理を堪能してもらいたかった。

短期間で準備を進めた実行委員会を責めるつもりは毛頭ない。

哲学を持った一人の料理人、こういう人の存在の大きさを、

改めて実感した次第である。

 

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さて、『市民科学者国際会議』 。 

3.11以降、放射能汚染と被曝の影響を最小限にすべく取り組んできた

科学者と市民が一堂に会し、内部被曝の知見を持ちより、

放射線防護のあり方や今後の方向性について語り合う。

科学を市民の手に、市民のための科学を、そんな視点を共有する人々が

ヨーロッパ各国から、そして日本から集まった。

 

会場内での撮影や録音は禁じられたので、写真はなし。

丸二日間の会議内容は多岐にわたり、ここではとても整理し切れない。

いずれ細切れにでも触れてゆくことで、ご容赦願いたい。

概要は特設WEBサイトにて ⇒ www.csrp.jp

 


ここで僕の勝手な印象に基づく全体的な共通認識をまとめてみれば、

1.「(生涯被ばく量が) 100ミリシーベルト以下であれば人体への影響はない」

  という国際基準は、内部被曝の影響を極めて過小評価しており、

  核や原発を推進する立場からの、政治的な判断である。

2.低線量被曝の影響の大きさを示唆するデータはいくつも出てきているが、

  科学的エビデンス(因果関係の立証) を求められているうちに、

  たくさんの被害が抹殺されていっている。

3.放射能による健康危害はガンだけでなく、

  様々な疾病との関連から精神的影響まで、幅広く考えなければならない。

4.福島での国の対策は非常にお粗末なものであり、今も遅れたままである。

  救いは、民間レベルで必死の対策が取られてきたこと。

  医療や健康相談などでもたくさんの医師がボランティア的に支えていること。

  (その裏返しとして、国への厳しい批判や怒りの言動となって表われる。)

 

今回の座長を務められた

ドイツ放射線防護協会のセバスチャン・プフルークバイル博士が、

最後のまとめで語った言葉。

「(内部被曝に対する) 過大評価と過小評価の、両極端を乗り越える

 新しい方向に向かわなければならない。」

 

過小評価には 「そうしたいから」 という意図があり、

それが真実であったとするなら、「それはよかったですね」 ですむのだが、

逆の結果が明らかになってきた場合に対処できない恐れがある。

被害や影響は多少過大に見積もって、そこから対策を考えることで、

被害を抑えることができる。

ここに 「予防原則」 の意味がある。

 

福島県内から参加された方、あるいは福島から避難したという方々には、

科学者の厳密な論争はストレス以外の何物でもなかったようだ。

「あなた方は (福島の現状を前に) いったい何を議論しているのか!」

といった声が上がった。

手弁当でここまで来られた科学者や医者に向かって失礼な罵声だとは思ったが、

行政の対応などにイラ立ちながら暮らす人々からの、

切実な期待なんだと受け止めてもらうしかない。

 

科学と市民は、いつだって彼岸で対峙しているわけではない。

科学者が対立している間にも、その狭間で日々判断しながら暮らしている。

長い時間をかけて立証される疫学調査の、

結果が出るまで思考を停止しているわけでもなく、

疫学的思考は科学者だけが行なっているわけでもない。

市民は市民なりに  " 科学している "  のである。

科学者はそのレベルをよく理解して、知の橋渡しをする必要がある。

科学の言う  " リスクコミュニケーション "  がうまくいかない時というのは、

だいたい初動から相手を理解できていないことが多い。

 

報告の中で驚いたことは、

フランスで福島由来と判断されたヨウ素131が検出されていたという事実。

私たちが思っているよりずっと、外国は事態を冷静に分析していて、

僕らは本当に事実がちゃんと知らされているのだろうか、

という不安が捨てきれない。 このことこそが問題だ。

 

かたや、徹底的に事実を自分たちのモノにしたいと、

測定器を届けた途端に、何から何まで測り始めたジェイラップの生産者たち。

彼らは今、自分たちの土地の状態を、誰よりも把握している。

 

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学者も舌を巻いた、汚染MAP。

これをもとに対策を立て、今年はもっと高みを目指す。

 

本邦初公開。 田んぼごとの土質のマッピング。 

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土質の違いによる養分吸収力も把握し、適正な施肥設計を立ててゆく、

というのが本来の目的だったはずだが、

これが放射能対策にも活かされることになる。

 

考えられるだけ考え抜いて、とにかく、実践する。

結果は何らかの形で、その行為に反応してくる。

伊藤さんはほとんど仮説に基づいて動く実践主義者なのだが、

僕はこれこそ科学者の資質だと思ったりするのである。

 

一人田んぼを見つめる伊藤俊彦がいる(左端の畦の上)。

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今年の成果が、思った通り! となるかどうかは、まだ判らない。

 

伊藤さんとの秘密会議の内容は、秘密です。

 



2012年6月21日

GM作物をめぐる攻防について

 

5月20日の日記 で、

映画 『フード・インク』 のロバート・ケナー監督の講演について報告した際に、

遺伝子組み換え(GM) 食品の表示を求める運動が

アメリカ国内で活発化していることについて触れたところ、

読まれた方から

「アメリカでそんな運動が起きているというのは、本当か?」

という驚きの声を頂戴した。

たしかに、ほとんど報道されてないので、驚かれるのも無理はないと思う。

 

そこで改めて、この間の動きを紹介しておきたい。

「市民バイオテクノロジー情報室」 が諸外国の関連報道をウォッチして

月刊で紹介している 「バイオジャーナル」 から、いくつか抜粋する。

 

GM食品表示を求める米国市民

 米国上下院両議会の55名の議員を始め、農業、保健、消費者、環境問題などに

 関わる約400の組織が署名した文書が米国食品医薬品局(FDA) に送られた。

 消費者団体の食品安全センターが2011年10月に提出したGM食品表示を求める

 請願書に賛同するもので、表示に賛成するコメントはこの間に85万件以上

 寄せられている。 文書では、自分たちが食べるものについて充分な情報を知った上で

 選択する消費者の権利や、すでに世界50カ国以上が義務化しているGM表示を

 米国でも実現するよう求めている。

  (Center for Food Safety 2012/3/12)

 


 米国では現在、18州でGM食品表示法案が準備されている。

 この取り組みは、昨秋500を超える消費者団体などが始めたもので、

 ニューヨークからワシントンへのデモも行なわれた。

  (St.Louis Post-Dispatch 2012/3/3)

 

 米国の消費者団体が、アンケート調査結果などを公表し、

 国民の圧倒的多数がGM食品への表示に賛同している、と訴えた。

 先月行なわれた市民1000人を対象にした調査では、91%が表示に賛成、

 5%が反対で、民主党、共和党、無党派の割合はほぼ均等だったという。

 GM表示を求める請願をFDAが却下すれば、次は法的対応も検討する、

 と消費者団体等は述べている。

  (ロイター 2012/3/27)

 

GM作物栽培農家、米国政府へ 「危険な」 除草剤の分析を求める

 4月18日、2000を超える農民と食品加工業者、食品大手セネカなどで

 結成された団体(SOCC) は、GM作物とそれに用いる除草剤散布によって

 もたらされる被害について、連邦規制当局に分析を求める法的措置を

 講じると発表した。 モンサント社やダウ社は新しい除草剤を開発しているが、

 対象だけに効かせることは難しく、逆にさまざまなものへの被害拡大が

 懸念されている。 SOCCはGM作物を支持する農民が多く参加しており、

 GM作物反対ではなく、化学物質の危険性を訴えている。

  (Thomson Reuters 2012/4/18)

 

2,4-D耐性トウモロコシ承認反対の声広がる

 米ダウ・ケミカル社が開発し、承認が間近と見られる除草剤

 2,4-D耐性トウモロコシに対する反対運動が強まっている。

 農薬2,4-Dは、ベトナム戦争時に2,4,5-Tと組み合わせて

 「枯葉剤・オレンジ剤」として用いられ、ベトナム市民や米兵に

 多くの健康被害を発生させた。 反対する市民は、発癌性に加えて、

 環境ホルモンとして作用する毒性をもち、健康障害をもたらす危険性があるとして、

 農務省に対して承認しないよう求めた。

  (The New York Times 2012/4/26)

 

 米国農務省は、2,4-D耐性トウモロコシの承認に反対するパブリック・コメントを

 36万5000通受け取ったことを明らかにした。

  (Center for Food Safety 2012/4/26)

 

米州議会委員会がGM食品表示法案を可決

 4月20日、米国バーモント州議会下院農業委員会は、GM食品表示法案を可決した。

 法案が施行されるには、さらに下院司法委員会、下院本会議、上院、知事の

 承認が必要なため、法律として成立するかどうかは不透明である。

  (Burlington Free Press 2012/4/20)

 

住民提案のGM食品表示法案、州民投票へ

 米国カリフォルニア州では、11月6日の大統領選と同時に行なわれる

 市民発議の州民投票に、GM食品表示法案がかけられることになりそうだ。

 これまで発議に必要な署名運動がすすめられてきたが、

 最低限必要な55万5236筆を超え、97万1126筆が集まった。

 10週間で100万に近い数が集まり、表示制度成立に向けた動きに

 はずみがついている。

  (Food Freedom News 2012/5/3)

 

その他にも、除草剤ラウンドアップが両生類に形態変化をもたらすという

研究結果がピッツバーグ大学で発表された、とか、

モンサント社がようやくスーパー雑草(除草剤に耐性をもった雑草) の存在を認めた、

とかの記事がある。

もちろん推進する国の動きもあって、GM作物をめぐる世界の動きは

なかなかに予断を許さない状況ではあるけど、

アメリカの市民運動は、日本より活発であることは間違いないようだ。

 

よく言われていることだが、

原発と遺伝子組み換え食品(GMO) は構造がよく似ている。

国と業界を牛耳る企業が一体となって推進していること。

その企業に富が集まる仕組みが用意されていること。

環境やヒトの健康への影響についての科学的データは、

推進を妨げない範囲でのエビデンス(証明) によって固められ、

マイナスのデータやリスク情報はだいたい抹殺されるか、

無視され、科学者には研究予算がつかなくなるなど、圧力が加えられる。

結果的にある種の神話が形成されてゆく。

 

しかし実のところは、激しい攻防戦が繰り広げられているのである。

なかでも、GM作物と有機農業(オーガニック) は対立の両極にあって、

GM作物が広がる一方で、オーガニック市場も伸びている。

 

映画 『フード・インク』 の中で、

スーパーマーケットへのオーガニックの進出に積極的な農家と、

否定的な有機農家が登場するが、それはけっして対立するものではない。

消費者がオーガニックにアクセスできるチャンスは拡大されるべきであり、

理解者が増えることによって生産者と消費者をつなげる形は多様になり、

 " 地産地消 "  の活動なども発展するはずだ。

- というのが僕のスタンスであることも、表明しておきたい。

 

大変な事態となって、見直された時には取り返しのつかないことになっている、

という可能性を孕む点でも、原発とGMは似ている。

原発を乗り越える道が自然エネルギーなら、

GMの対案は有機農業である。

目の前の利益より持続可能性を、という点でも両者は酷似している。

 

つながりましょう、世界じゅうの  " 種と人権を守る人々 "  と。

 



2012年6月17日

原田正純先生に

 

産地を回りながら、改めて思う。

というか、、、ようやくこんなふうにも書ける気がしてきた。

 

昨年 3.11の後、関東・東北の産地を回っては、

切迫した状況が訴えられたり、販売不振を責められたりしてきた。

7月に西日本の野菜セットを企画した時には、

「大地と組む (=契約する) のはやめる」 と宣告してきた生産者もいた。

俺たちを切り捨てるのか、

どうして福島や北関東の野菜を食べるよう説得してくれないのか、と迫られた。

彼らにとっては、「福島&北関東がんばろう」 のセットは、

やっぱりフツーの売り方ではないわけだし。

 

しかし・・・「食べろ」 と言って素直に食べてくれるほど事態は甘くはなく、

「(国の)基準値以下なんだから・・・」 という生産者の要求には、

そんなんではダメなんだよ! と声高に怒鳴ってしまったこともある。

現地の苦しみを差し置いて。。。

 

現実の問題として吐露すれば、

消費者の切実な思いに答えられない流通は失格、なのである。

西のもので揃えようと思えば、それなりに可能なのだし・・・

この狭間で揺れ続けた一年だった。

 

思えば、

この溝を埋めるために、「特命担当」 が生まれたようなものだ。

 


産地との確執は、正直言って公開の日記では簡単に書けない。

2月に放射能の自主基準を設定する時にもハレーションはあって、

対話に出かけたりしたのだが、腹を決めて

 「流通基準とは食べる人を守るためにある」 と言い放ったこともある。

したがって、それを通過する生産物をつくることに尽力してほしい。

その産地を、僕らは必死で支援する、と。

消費者との信頼関係は、この行為によって修復される。

そう思うしかなかったし、今もそれしかないと思っている。

 

こういう話は、生では書けなかった。

 

ただ、いつだって変わらない確信がある。

この国土を回復させるためには、そこに生産者がいる必要がある、ゼッタイに。

現場でたたかう人がいて、浄化・再生・復興の道が開けるのだ。

僕はそれを、行く先々で確かめている。

 

実を言うと、「現場主義」 という言葉は、あまり好きではない。

仕事というのは、現場に出られない人たちもいてくれているから

成立しているものであって(管理者も含めて)、それを無視して動いても

思ったような成果は上げられず、逆効果になることのほうが多い。

 

でも 「現場」 を回っている人は、ついつい 「その現場」 偏重になる。

大事なことは、つなげること、なのだけど。

 

ここで唐突かもしれないけど、やっぱり、書き残しておきたい。

 

6月11日、勝手に師と仰いでいた方が逝ってしまわれた。

水俣病患者とともに闘い続けた医師、原田正純さん。 

それまで 「あり得ない」 とされていた科学的常識を、

患者さんとの対話とたくさんの臨床から覆した。 

 -化学物質が胎盤を通過する、という事実を立証したのだ。

水俣病という悲しい事象から。

 

水俣との関わりが、さほどあるわけではない。

ただ似たような漁師町に生きた人間にとって水俣は、

少年時代からの根強い  "引っかかり "  であり、

生き方を縛るという意味では、トラウマ的影響力を与えられてしまった。

四国のど田舎で遊んでいた、ぼんやりした少年に

「勉強が必要だ」 という目覚めを与えたのは、ミナマタに他ならない。

4年前、大地を守る会の職員として 水俣を訪問 できたことは、

僕にとってちょっとした罪滅ぼしとして、ある。

 

原田先生との出会いは、学生時代に読んだ 『水俣病』(岩波新書) からで、

ただ遠くから眺めたり、ご活躍の様子を報道で知るだけだったが、

常に厳しく、かつ優しい眼差しで、ただしい 「現場主義」 を伝えてくれた。

いつか御礼をと思っていたのだが、もう叶わない。

遠くから、心衷よりご冥福をお祈りしたい。

「現場」 は違うけど、僕の中で原田正純は生きています。

 

ただ後進として、どれだけの希望を残せたのか。

3.11の経験をもってしても変われない状況は、

あまりにもやり切れない。

引き受けなければならない宿題である。

原田さんの教えにはまだ程遠い、今の僕の心境。

 

  コカコーラの壜の中のトカゲ、

  おまえにゃ、壜を割って出てくる力なんかあるまい、

  そうだろう? 日本! ~

  身を捨てるに値すべきか祖国よ。

   (寺山修司 劇中朗読詩 「孤独の叫び 時代はサーカスの像にのって」 より)

 

とりとめない、日曜日の繰り言になってしまったみたい。

僕なりに、一週間遅れの、合掌の日としたい。

 



2012年6月16日

エネルギーを語る 梅

 

『 キャンドルナイト @ 増上寺 』 の日。

大飯原発再稼動決定の報道をカーラジオで聴きながら、

群馬・高崎へと走る。 いや、榛名町へ、と本当は言いたい。

市町村合併は、どうも日本人から土地感覚を奪っていくような気がしてならない。

住所から榛名の文字は消えたけど、

やっぱ僕としては、高崎ではなく、榛名に向かっている、と言いたい。

 

榛名で訪ねたのは、梅の湯浅農園さん(代表:湯浅直樹さん) 。

無農薬で梅を栽培し、加工まで行なう。

かつ湯浅さんの自慢は、

太陽光発電をベースにしたエネルギー自給率の高さである。

 

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湯浅太陽光 「発電所」 と掲げるところに、湯浅さんの哲学がある。

太陽光発電によってハウス照明や保冷庫の電気を自給し、

電気自動車やフォークリフトを走らせている。

電力会社への売電では、昨年45万円の収益があった。

太陽熱温水システムでお風呂のお湯をまかなっている。

梅の剪定枝や間伐材などを利用した薪ボイラーによって冬の暖房を乗り切る。

バイオマスならぬ  " バイオモス (燃す) "  と湯浅さんは名づけている。

 

その上にある 「榛名町きのこ生産組合 上神支部」 は、

昨年、地域内のシイタケから基準値を超える放射能が検出されたことによって

地域全体が出荷自粛となり、ついに解散となった。

この問題の厄介なところは、今年たとえ 「不検出」 の結果を得たところで、

販売が元に戻る保証がない、という闇の中に置かれることだ。

この地域に対する評価を挽回するのにどれだけの時間がかかるのか、

誰にも見えない中、それに耐えるだけの体力 (経済力) が続かない、

と判断されての解散・・・ と聞かされた。

 

中山間地農業の経営における重要な柱がひとつ、折れてしまった。

電力会社からの補償は、シイタケ販売での1年の損失補てんだけ。

当地のシイタケの原木は、今も放置されたままだ。

地域資源の循環回復にこそ、

国や電力会社は責任を持たなければならないのではないだろうか。

まるで補償金という名の手切れ金みたいで、腹の底から怒りがこみ上げてくる。

 

シイタケでの出荷規制についても、僕は言いたいことがある。

昨年の事故直後での汚染による影響はともかくとして、

今そしてこれからは原木の除染が鍵となるだろう。 由来は原木なのだ。

基準を超えたシイタケが発生した地域をまるごと出荷停止にするという

「地域」 を単位にした隔離政策のような対症療法ではなく、

徹底した原木のトレース(出自を明確にし検査を徹底する) と浄化を実施し、

その安全性を確かめた原木で栽培されたものを供給する、

というシステムづくりに向かうことが、適切な施策というものではないか。

 

ナラ・クヌギなどのホダ木をシイタケ栽培の原木として使用する際には、

一度水に漬ける(浸漬) 工程がある。

ここでセシウムの除去試験をいろんな形で実施することを提唱したい。

(高圧洗浄機での洗浄では、40%程度セシウムが低減することが分かっている。)

 

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湯浅さんが太陽光発電システムを導入したのは、

阪神淡路大震災の翌年、96年からである。

震災の時、湯浅さんは

自身が理事を務める 「日本青年団協議会」 の視察団メンバーとして韓国にいた。

「食糧もエネルギーも輸入に頼っている日本の危うさ」 を、

外国にいて強く感じたという。

 

今日、湯浅さんを訪ねることになったのは、

梅の収穫までに訪問するという約束を果たしておきたかったことに加えて、

この日にひと組の消費者が千葉から梅の収穫のお手伝いに来る、

ということもあった。

一緒に話を聞かせてもらえば湯浅さんの手間も省けるだろう。

合わせて、湯浅さんが心待ちにしている一枚の紙、

放射能検査結果の通知書を持参した。

測定結果は 「 ND (不検出/検出限界値10Bq)」。

まずはひと安心。 湯浅さんの安堵した顔が見れて、こちらもホッとする。

 

収穫作業を楽しむ親子。 

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収穫した梅を、キズものを取り除きながら、

サイズによって選別する。 

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この日の梅酒用青梅の出荷先は有機野菜の宅配会社、

業界では老舗と言われる 「大地を守る会」 というところに、40 ㎏。

まだ昨年からの影響が残っている。 厳しい数字だ。

( なお、袋の口を閉じるテーピングが下手なのが届きましたら、

 それは大地を守る会のエビスダニという人のせいだそうです。)

 

お昼を食べた後しばし、湯浅さんの栽培へのこだわりや、

自然エネルギーへの取り組みなどを聞かせてもらう。 

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湯浅さんのテーマは、徹底した自給自足。

電気機器メーカーに16年勤めて家業を継いだ時から築いてきた。

有機農業によって 「食」 を自給する。

深井戸を掘り 「水」 を自給する。

そして 「エネルギー」 の自給を達成させる。

それは自ずと自然を汚染させない生き方とリンクするものとなる。

 

原発事故は、彼の目指す体系の糸を断ち切るものに他ならなかった。

怒りや悔しさは収まるものではないが、敗北はもっと悔しい。

完全自給システムの完成に向けて、湯浅さんの挑戦は続く。

 

大地を守る会でも、自然再生エネルギー社会の建設に向けて

提案型のプランを模索している。

湯浅さんの挑戦は、僕らにとっても一つのモデルとなる。

何かしら支援の形を考えたいと思う。

 

自然塩にもこだわる湯浅農園の梅はしょっぱい、昔梅干しの味がする。

夢への意思がぎゅうぎゅうに詰まった梅だね。

春の低温がたたり、今年の梅の収穫量は平年の半分くらい。

彼の心中は、去年からずっと梅雨の真っただ中にある。

 

いつか、梅雨は明ける。

その時に歓喜の雄叫びを上げるためには、ただ待つのでなく、

意思を持って進まなければならない。

耐えるんじゃない、鍛えるんだ。

 

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2012年6月15日

レンコン産地を守る " 7人の侍 " に

 

今日は、茨城は土浦にやってきた。

大地を守る会が契約しているレンコンの生産者たちに集まってもらって、

放射能対策の会議を開く。

 

レンコンは田んぼでの栽培だから、当然水が入る、しかもたっぷりと。

川は山からいろんな養分を運んできてくれるが、

いま気をつけなければならないのは放射性物質の移動である。

どう推移するかは予断を許さない。

漠とした不安を抱きながら過ごすより、しっかり現実を捉えながら、

できれば先手を打ってガードしておきたい。

 

古くからのお付き合いである 「常総センター」 の加工施設 「北斗の会」 事務所に、

レンコン契約農家7名全員が集まってくれた。

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我が方からは、これからの経過観察で協力をお願いした上田昌文さん

(NPO法人市民科学研究室代表)と、

対策資材の検討をお願いした資材メーカーの方をお連れした。

 


昨年の測定では、セシウムが微量ながらも検出された所と、

まったくされなかった所がある。

どうも水系や場所によって違いがある。

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そこで、全員の蓮田の位置を確認し、昨年のデータを突き合わせて、

これからの継続的測定を実施する場所を検討する。

そこで土と水の状態を確かめ、入ってくる水を継続的に測定する。

またセシウムを吸着する資材を選択し、施用して、比較試験を行なう。

合い言葉は、「今年のレンコンからはゼッタイに検出させない」。

 

 

人によっては、こういう対策や測定を行なうこと自体、

まるで汚染されているみたいに映って、また風評被害を生む、

という懸念を示す生産者もいる。 

しかし、現実をベールにくるんで 「安全」 を標ぼうすることはできないし、

ひとたび予想を超える事実が発覚した際に (それは想定外ではないはずだが)、

" 対策がとられていない "  ということのほうがずっとヤバイ。

それは昨年の経験で痛いほど感じたはずだ。

 

食べる人の健康に責任を持ちたい、

そう願う生産者であれば、現実に立ち向かっていくしかない。

声をかければ、「待ってたよ~、エビスダニ君」 と言って

一斉に集まってくれる生産者を持っていることは、誇りにしたい。

 

「よし、やろう。 良いもんなら試してみよう。 もっとデータがほしいな」

と常総センター代表・桜井義男さんは反応し、みんなにハッパをかけてくれる。

僕も、ゼッタイに成果を上げて見せたい、と決意を新たにするのである。

 

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この対策は、7人の農家のためだけではない。

秋になって、この一大産地に悲劇が起きてはならないのだ。

この地域を守る  " 7人の侍 "  になったくらいの気分でいきましょう。

人智を尽くし、胸を張って、美味しいレンコンの収穫を迎えたいと、切に思う。

 



2012年6月14日

映画 『フードインク』 とTPPを語る

 

6月3日(日)。 この日の記録を終わらせておきたい。

 

田んぼの草取りを追え、シャワーして着替えて渋谷に向かい、

17時前には何とか会場である 「アップリンク」 に到着。

映画 『フードインク』 はすでに上映が始まっていて、

スタッフと打ち合わせをして、頭の中を TPP モードに切り替える。

「基本的なところからひも解いていただけると~」 という要望をもらって、

かえって緊張した、というのが本音。

 

映画が終わり、18時20分、会場に入りトークを開始。

ミニシアターなので客席は一杯だが、100人弱といったところか。

司会はアップリンクの松下加奈さん。僕に質問する形で進められる。 

前日の講座よりは静かに話せたように思うのだが、よくわからない。

 

どうも流れに任せてしまった感じなので、正確に報告できない。

構成を考えながら記しておいたメモに沿って羅列してみたい。

(この通りに話せたワケではない、ということです。)

 

TPP -環太平洋経済連携協定。

シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヶ国によって2006年に発足した

FTA(自由貿易協定) に端を発する。

≪ ここで 「ブルネイの位置を知っている人?」 と会場に問うつもりだったのだが、忘れた。

  「ブルネイ・ダルサラーム国」 -ボルネオ島にある人口40万人の国。 ≫

元々が経済構造の違う4国による自由貿易協定の話し合いだったのだが、

ここに08年9月、アメリカが全分野での交渉参加を表明、割り込んできた。

11月にオーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナムが参加表明して、現在9カ国。

 

交渉分野は物品の貿易から、原産地規制、検疫、知的財産権、投資、金融、

サービス、環境、労働、などなど24分野にわたり、

あらゆる部門で徹底した経済活動の障壁を取り除こうとするもの。

これに日本も早く入れ、と言う。 すべてアメリカの戦略である。

 

★ ともに意識するのは、中国の存在。 中国・韓国はTPPには参加せず。

  アメリカの市場戦略 ~ 狙っているのは日本の市場と金融資産

  オバマの発言- 「TPPで (米国の)失業者を減らす!」

  これは公正・平等な取引をコントロールするものではなく、

  明確に、激しく (自由な) 競争の海に投げ出されることを意味する。

 

すでにいろんな場面でアメリカは圧力をかけてきている。

車では軽自動車の税率にまで口をはさんできた。

民営化によって、国民の汗の結晶である郵貯資産まで狙われる。

医療でも格差が生まれる。 日本の優れた国民皆保険制度が揺らぐ。

高度な医療が (貧しい人にも) 等しく受けられなくなる可能性があるとして、

お医者さんたちも反対している。

労働環境でも、臨時雇用の自由度が広げられ  " アメリカ化 "  していく。

つまりは格差が拡大していく、というとである。

 


民主主義の根本である 「国民主権」 に関わるほどの大ごとであるにも拘らず、

交渉の中身はまだよく分からず、議論がかみ合わないまま進んでしまっている。

これでは、反対せざるを得ない、というのが今の自分の立ち位置である。

 

「すべてを自由な市場取引に委ねれば、世界の経済的利益は最大化される」

という経済思想に基づくものだが、TPPは誰のための利益となるか。

ひと握りの人、一部の輸出産業に集中していくことが、「国益」 だろうか。

仮に利益が平等に分配されたとしても、一人当たり年収が3千円程度増えるだけ、

という試算がある。

これによって失われるものをちゃんと理解した上で判断したい。

 

「アジアの成長を取りこむ」 なんて、ごまかしの呪文のようなものだと思う。

農業について言えば、日本にも海外市場でたたかいたい農民はいる。

しかしそのターゲットは中国を中心とした富裕層であり、TPPとはほぼ関係ない。

彼らは国内の  " 守らなければ敗北する "  論に苛立っているんだと思う。

日本農政の歴史で見れば、「保護」 とは 「縛り」 でもあったりするから。

米価維持のためと言い、「米を作らせない」 ために国家予算が使われ、

農村は荒れ、消費者との乖離も進んだ。

「補助金はもういいから、自由に経営させてくれ!」 というやる気のある農民は多い。

しかし、だから  " TPPに乗ろう "  ではアブナイと思う。

この国の、国づくりの青写真(ビジョン) がないこと、こそが問題なのだ。

どこ行きのバスなのか、真逆の予想が提示される状態の中で、

" 乗り遅れるな "  という脅迫は、一部の利害関係者を代表するものでしかない。

 

日本の農業は保護され過ぎているか。

農業産出額に占める農業予算 (国による支援) の割合を見てほしい。

アメリカは65%、ドイツ62%、フランス44%、イギリス42%。

みんな守っている、守りながら攻め合っている。

かたや日本は27%。

ことは単純な  " モノの生産 "  に係るコストや競争力の問題ではない。

 

日本は自由化しては自給率を落とし、農業予算も削られてきた。

問題の根本は、農産物を 「物品」 としてしか見ていないことにある、と思う。

農業政策が日々の暮らしとつながっている感がないのはどういうことなのだろうか。

暮らしの安定のための農業政策になってないからだ。

だから、生産と消費がいともたやすく対立する。

( 以前に、「消費税を上げるなら、農業予算を投入してでも国産食材は据え置くべきだ。

 " 国産食材は消費者を守る "  関係を見える化しよう」 と主張したけど、

 誰も相手にしてくれなかった。。。)

やる気のある生産者がTPP推進を唱えるのは、国への怒りに他ならない。

 

その国の保護政策を貿易障壁とみなして撤廃を求めてくるのが、アメリカのTPP戦略。

そのためには日本の安全基準や環境政策もお構いなしだ。

「世界共通化」 という名目で、「アメリカ並み」 を要求してくる。

ここで映画 「フードインク」 にもつながってくる。

 

BSEでは、「日本の全頭検査は異常である」 と言われる。

米国での牛の検査は1%しかできてない。 それでもBSEが発見される。

アメリカ並みでいいとは、僕は思わない。

GMOでは、「日本の表示義務は無用なものである」 と言われる。

しかし米国では、100万人の表示要求署名が出されている。

表示義務化を求める法案が準備されている州もあると聞く。

遺伝子組み換え技術による環境や種への影響は、より慎重に見なければならない。

また消費者には選択権が与えられる (表示がある) べきである。

 

安全基準では、農薬の残留基準にも圧力がかけられる。

「日本の農薬ポジティブリスト制度は、米国産イチゴ輸出の妨げになっている」

というわけだ。

農薬が残っているから問題なのではなくて、

「規制がおかしいから損をさせられている」 という圧力に、

あなたは何と答えますか。

 

守るべきものは守る、という思想と戦略なく、完全な自由化に走ろうとしている。

誰のためなのか、しっかり考えたい。

完全な自由化とは、利益がひと握りの集団に集中化していくこと。

必然的に格差は広がる。 不平等社会が進む。

極めて不安定な社会に進んでいる現在、

 「食」 については、その生産基盤は守っておく必要がある。

これは社会の安定と国民の健康を維持する上で必須の要件だから。

 

貧しいからウェルマート (全米1の安売りスーパー) でしか買えないのか、

ウォルマートで買うから貧しくなり健康も損ねる (医療費がかかる) のか、

映画 『フードインク』 は問いかけている。

 

英国の有機農業指導者、アルバート・ハワード卿が、

著書 『有機農業』 で残した言葉を、紹介させていただきたい。

 「 国民が健康であることは、平凡な業績ではない」

 「 民主主義の真の温床は肥沃な大地であり、その新鮮な生産物こそ

  民族の生得権(生存権) なのである」

 

生物多様性も、持続可能な社会も、野田さんの言う 「国民生活の安定」 も、

その土台は、肥沃な大地から、である。

米は輸入できても、田んぼは輸入できない。

ボトル・ウォーターや木材は輸入できても、水や木を育てる森は輸入できない。

暮らしの安定を保証する環境(の土台) は、貿易の対象ではあり得ない。

 

ロバート・ケナー監督が映画に残したメッセージ

 - 私たちには、日に3回の投票行動が与えられている。

 

忙しい毎日、日々妥協もあるのだけれど、

この意味は忘れないで暮らしていきましょう。

 



2012年6月12日

復興未来ゆき @ 増上寺

 

【予告】

"でんきを消して、スローな夜を!"

100万人のキャンドルナイト@増上寺

6月16日(土),16:00~21:00/入場無料

 

ついに今年で10回目となりました。

東京タワーの消灯に皆さんの祈りを重ね、スローな夜のひと時を。

大地を守る会は、今年も三陸復興屋台を出します。

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三陸復興募金=一口300円。

ご協力いただいた方には、感謝を込めてこの切符をプレゼント。

募金は三陸鉄道に寄付されます。

(この切符でご乗車はできません、念のため。)

 

ライブあり、トークあり、たくさんの仲間あり。 

詳細はこちらから ⇒ http://www.daichi-m.co.jp/cp/candlenight2012/

 



2012年6月 5日

田んぼは草と格闘の季節

 

麦秋の季節。 

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一方、田んぼは緑一色。

田植えから3週間が経ち、草との生存競争が始まっている。 

 

森も含めて、20数年変わらない風景。

それは人の手入れが欠かさず続いている証拠だ。

まだまだニッポンは、美しい。

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米は輸入できても、風景や環境は輸入できない。

もちろん田んぼという装置も。

これは夕方のTPPトークでも用意しているキーワードでもある。

 

6月3日、日曜日。

「稲作体験 2012」 の米づくりも、段々と佳境に入ってくる。

草との格闘、米づくりの最大のハードルである。

 


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地主の佐藤秀雄さんがデモっているのが、伝統の「田車」(たぐるま)。

ゴロゴロ押しながら草を根っこから浮かせていく。

 

田に水を蓄えるのは、稲が水を要求する湿性の植物だからだけど、

水を張ることによって陸生植物 (表面が乾燥状態にある陸地に生える草) の発生を防ぎ、

また草を抜きやすくしてくれるメリットがある。

実は草取りを楽にするためでもあるのだ。

水とは、ほんまに有り難い。

 

いつも指導にあたってくれる綿貫直樹さんが今回用意したのは、熊手。 

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直樹さんは地元小学校の米づくり体験にも田んぼを解放していて、

そこでも使っているとのこと。

 

では、いざ。 

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人がワイワイ言いながら田に入ることで、根に酸素が送られ、

稲も元気になる。

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みんなの会話は理解できなくても、イネは気を感じ取っている。

科学的には立証されてないけど、これは農の世界では真実である。

冷害のときは 「頑張って」 と励まして回る篤農家を、僕は知っている。

それは伝統技術なのである。

 

たくさんの虫たちとも出会い、田んぼの総合力の一面を感じ取ってもらう。

米づくりを通じて、メンタリティも育まれる。

 

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みんな見過ごしている害虫がいる。 

稲はこの時期、ドロオイムシに散々チューチュー吸われているのだ。

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有機稲作では農薬は使わない。

こいつは梅雨が明ければいなくなる。

それまで負けないだけの苗にしたはずだ。

「我慢」 の季節でもある。

 

作業終了後の、お昼と交流のひと時。

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皆様、お疲れ様でした。

 

佐藤つや子さんが用意してくれた、本日のメニュー。

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陶ハカセの生き物講座が始まる前に、

あとは実行委員諸君に任せて、渋谷に向かうこととする。

 

次回は4週後に2回目の草取り。

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イネは草や害虫とたたかいながら成長し、株を増やしていく。

しかも人の手作業だと、虫も草も適度に生き残る。

けっして一網打尽にはできない。

でも無農薬の田んぼにはいろんな生き物がやってきて、害虫は益虫の餌になり、

" この世に無用な生き物はいない "  世界が生まれる。

前にも書いたけど、僕は有機農業を 「平和の思想」 と呼んでいる。

この思想は、お金に換算できない。

だってこれは、命と同義だから。

 

この米づくりはもちろんプロの作業ではない。

でも田んぼの価値を伝えるには、田んぼに入って、

田の世界を体感してもらうのが一番なんだよね。

頭で理解しなくても、無意識の記憶の中に 「いのち」 への愛が生まれるのが、

草取りのシーズンだと思う。

 

今夜はマイクに口を近づけ過ぎないようにしなければ・・・

 



2012年6月 4日

「放射能連続講座」スタート。 壁を見せつけられた第1回。

 

この土日(2日・3日) は結構ハードな週末だった。 

2日は、「放射能連続講座」 第1回の開催。

3日は午前中、千葉・山武で 「稲作体験」 田の草取りをやって、

夕方には渋谷・アップリンクで 「フード・インク」 上映後のトーク出演。 テーマはTPP。

頭を切り替えながら、何とかやり終えたって感じ。

では順次報告を。

 

6月2日(土)、

「大地を守る会の 放射能連続講座 ~『食品と放射能:毎日の安心のために』~」

第1回のテーマは、まずは入り口として、

「今後の影響をどう予測し、どう心構えをするか」。

講師は、NPO法人市民科学研究室・代表、上田昌文(あきふみ)さん。

質疑のコーディネーターは、 " やまけん "  こと山本謙治さんにお願いした。

会場は、杉並区立産業商工会館。

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会場キャパは160席のところ予約満杯となり、椅子の増設も許されず、

お断りせざるを得なかった方々には申し訳ありません。

 


上田さんのお話しは、

原発事故による放射能汚染によってもたらされた事態の重さから始まった。

放射能汚染によって地域の自然資源が利用できなくなったこと、

畜産と農業の連携で廃棄物=資源とする  " 循環 "  を断ち切ってしまったこと、

そして地域社会の絆の分断。

 

かつてないほど広範囲で長期の環境汚染によって、

ありとあらゆる食品が多少なりとも汚染されてしまった。

この実態をどう把握し、生産者の立ち直りと消費者の安全を確保するか。

しかも消費者にとっての守りの綱である 「食品基準」 自体に

深い疑義が生まれてしまっている状況において。

 

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汚染の実態や放射性物質の挙動の 「把握」 と 「対策」 を

適切に関連させながら並行して進めていく必要がある。

様々な測定データを集め考察しながら、問題点を洗い出し、

低減化対策に活用し、また検査の実態や課題も冷静に判断しながら、

個々の農産物の計測の濃淡を合理的につけて、

それを消費者にきちんと知らせていくことによって

「風評被害」 と言われるような事態を乗り越える道筋が見えるのではないだろうか。

 

リスク管理の観点で見るならば、例えば発がんを恐れるあまり、

セシウムだけゼロを求めて他のリスク因子を摂り入れては意味がなくなる。

リスク因子は多様にある。

しかし今の放射能汚染が、他の化学物質や例えば「塩」(ゼロでも摂り過ぎても危険)

などのリスクと決定的に異なることは、

状況が正確に見えず、したがって 「危険度」 も見えない、

という不安が先行していること。

また低線量曝露の影響についての科学的見地が分かれていることもあって、

「曝露ゼロ」 が 「安全」 を確保する唯一明確な防護手段だととらえられてしまう

傾向になってしまうこと。

 

上田さんは、各種のデータを紹介しながら、

まずはこの間出されている測定データや、農地での低減化対策を検証し、

今の状況をできるだけ正確に把握することを勧める。

その上で、汚染食品の内部被曝リスクの低減化に向けての課題を上げる。

・汚染状況と流通状況に応じた 「低減化のためのガイドライン」 が必要。

・合理的な計測体制 -やみくもな測定から、状況を踏まえた選択と集中へ。

・給食への特別な対応 -地域内の学校同士のデータ共有など。

・妊婦と乳幼児のための厳しめの摂取制限の設定。

・海産物検査態勢の強化 (ストロンチウム含め) と全データの公開。

・内部被曝評価では、「平均」 で見るのではなく、例外的に高くなっている場合の究明が肝心。

 

「風評被害」 的状況を乗り越える取り組みでは、

とにかく、個々の食品の計測によって汚染の濃淡を合理的につけていき、

それを消費者にきちんと知らせていくこと、

そして生産者や消費者といつでも対話できる状態を築くこと。

 

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時々裏方にいたりしたので、断片的な整理でご容赦願いたい。

詳しくは USTREAM の録画 をアップしてますのでご覧ください。

 

後半は、やまけん にバトンタッチ。

大地を守る会の測定の現状なども説明する必要があるのでは、

という彼のアドバイスも受けて僕も壇上に上がり、上田さんと3人でのディスカッション、

そして質疑応答、と進めた。

 

しかし僕が登壇したことで、 上田さんの講演内容に対してより、

大地を守る会への質問が増えてしまったように思う。

僕も必死で答えようとして、話が長くなってしまったりして。

また説明しようとすればするほど、

こちらの考えを押し付けようとしていると受け止めた方もいたようだ。

コミュニケーションとは、実に難しい。 

 

今回はネットで中継して、ツイッター等で視聴者からの声を拾う、という手法も試みた。

そこで仕掛け的に、ひとつの同じ質問を冒頭と最後に用意した。 

 「検査して、ND(検出限界値以下)が確かめられたものであれば、

 福島県産の野菜を購入しますか? YES、NOでお願いします。」

講座開始冒頭での回答は、両者互角、 5:5 という感じ。

最後での回答は、YES=5.5、NO=4.5 、いやもっと僅差、10:9 という感じ。

放射能という問題の根の深さを思い知らされた格好になった。

 

ツイッターでこんな声が届いた。

「 " 食べられない "  という人を、責めないでほしい」

責めてなんかいない。

ただ、頑張っている生産者を支援してほしい、と訴えているのだけど、

これも押しつけのように聞こえてしまっているのだろうか。

難しい、いや実に。

 

つながりの修復を目指して、模索を続けたい。

次回は、7月7日(土)、時間は同じ午後1時半から。

場所はタワーホール船堀。

講師は白石久二雄さん。 コーディネーターは鈴木菜央さん。

テーマは、「正しい食事こそ最大の防護」 。

詳細はHPにて ⇒ http://www.daichi-m.co.jp/cp/renzokukouza/

 

最後に、アンケートの中に、次の一文を発見。

「戎谷氏、マイクに口近づけ過ぎ。」

つい一生懸命になっちゃう性(さが)。 反省・・・・・

 



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