2012年6月21日

GM作物をめぐる攻防について

 

5月20日の日記 で、

映画 『フード・インク』 のロバート・ケナー監督の講演について報告した際に、

遺伝子組み換え(GM) 食品の表示を求める運動が

アメリカ国内で活発化していることについて触れたところ、

読まれた方から

「アメリカでそんな運動が起きているというのは、本当か?」

という驚きの声を頂戴した。

たしかに、ほとんど報道されてないので、驚かれるのも無理はないと思う。

 

そこで改めて、この間の動きを紹介しておきたい。

「市民バイオテクノロジー情報室」 が諸外国の関連報道をウォッチして

月刊で紹介している 「バイオジャーナル」 から、いくつか抜粋する。

 

GM食品表示を求める米国市民

 米国上下院両議会の55名の議員を始め、農業、保健、消費者、環境問題などに

 関わる約400の組織が署名した文書が米国食品医薬品局(FDA) に送られた。

 消費者団体の食品安全センターが2011年10月に提出したGM食品表示を求める

 請願書に賛同するもので、表示に賛成するコメントはこの間に85万件以上

 寄せられている。 文書では、自分たちが食べるものについて充分な情報を知った上で

 選択する消費者の権利や、すでに世界50カ国以上が義務化しているGM表示を

 米国でも実現するよう求めている。

  (Center for Food Safety 2012/3/12)

 


 米国では現在、18州でGM食品表示法案が準備されている。

 この取り組みは、昨秋500を超える消費者団体などが始めたもので、

 ニューヨークからワシントンへのデモも行なわれた。

  (St.Louis Post-Dispatch 2012/3/3)

 

 米国の消費者団体が、アンケート調査結果などを公表し、

 国民の圧倒的多数がGM食品への表示に賛同している、と訴えた。

 先月行なわれた市民1000人を対象にした調査では、91%が表示に賛成、

 5%が反対で、民主党、共和党、無党派の割合はほぼ均等だったという。

 GM表示を求める請願をFDAが却下すれば、次は法的対応も検討する、

 と消費者団体等は述べている。

  (ロイター 2012/3/27)

 

GM作物栽培農家、米国政府へ 「危険な」 除草剤の分析を求める

 4月18日、2000を超える農民と食品加工業者、食品大手セネカなどで

 結成された団体(SOCC) は、GM作物とそれに用いる除草剤散布によって

 もたらされる被害について、連邦規制当局に分析を求める法的措置を

 講じると発表した。 モンサント社やダウ社は新しい除草剤を開発しているが、

 対象だけに効かせることは難しく、逆にさまざまなものへの被害拡大が

 懸念されている。 SOCCはGM作物を支持する農民が多く参加しており、

 GM作物反対ではなく、化学物質の危険性を訴えている。

  (Thomson Reuters 2012/4/18)

 

2,4-D耐性トウモロコシ承認反対の声広がる

 米ダウ・ケミカル社が開発し、承認が間近と見られる除草剤

 2,4-D耐性トウモロコシに対する反対運動が強まっている。

 農薬2,4-Dは、ベトナム戦争時に2,4,5-Tと組み合わせて

 「枯葉剤・オレンジ剤」として用いられ、ベトナム市民や米兵に

 多くの健康被害を発生させた。 反対する市民は、発癌性に加えて、

 環境ホルモンとして作用する毒性をもち、健康障害をもたらす危険性があるとして、

 農務省に対して承認しないよう求めた。

  (The New York Times 2012/4/26)

 

 米国農務省は、2,4-D耐性トウモロコシの承認に反対するパブリック・コメントを

 36万5000通受け取ったことを明らかにした。

  (Center for Food Safety 2012/4/26)

 

米州議会委員会がGM食品表示法案を可決

 4月20日、米国バーモント州議会下院農業委員会は、GM食品表示法案を可決した。

 法案が施行されるには、さらに下院司法委員会、下院本会議、上院、知事の

 承認が必要なため、法律として成立するかどうかは不透明である。

  (Burlington Free Press 2012/4/20)

 

住民提案のGM食品表示法案、州民投票へ

 米国カリフォルニア州では、11月6日の大統領選と同時に行なわれる

 市民発議の州民投票に、GM食品表示法案がかけられることになりそうだ。

 これまで発議に必要な署名運動がすすめられてきたが、

 最低限必要な55万5236筆を超え、97万1126筆が集まった。

 10週間で100万に近い数が集まり、表示制度成立に向けた動きに

 はずみがついている。

  (Food Freedom News 2012/5/3)

 

その他にも、除草剤ラウンドアップが両生類に形態変化をもたらすという

研究結果がピッツバーグ大学で発表された、とか、

モンサント社がようやくスーパー雑草(除草剤に耐性をもった雑草) の存在を認めた、

とかの記事がある。

もちろん推進する国の動きもあって、GM作物をめぐる世界の動きは

なかなかに予断を許さない状況ではあるけど、

アメリカの市民運動は、日本より活発であることは間違いないようだ。

 

よく言われていることだが、

原発と遺伝子組み換え食品(GMO) は構造がよく似ている。

国と業界を牛耳る企業が一体となって推進していること。

その企業に富が集まる仕組みが用意されていること。

環境やヒトの健康への影響についての科学的データは、

推進を妨げない範囲でのエビデンス(証明) によって固められ、

マイナスのデータやリスク情報はだいたい抹殺されるか、

無視され、科学者には研究予算がつかなくなるなど、圧力が加えられる。

結果的にある種の神話が形成されてゆく。

 

しかし実のところは、激しい攻防戦が繰り広げられているのである。

なかでも、GM作物と有機農業(オーガニック) は対立の両極にあって、

GM作物が広がる一方で、オーガニック市場も伸びている。

 

映画 『フード・インク』 の中で、

スーパーマーケットへのオーガニックの進出に積極的な農家と、

否定的な有機農家が登場するが、それはけっして対立するものではない。

消費者がオーガニックにアクセスできるチャンスは拡大されるべきであり、

理解者が増えることによって生産者と消費者をつなげる形は多様になり、

 " 地産地消 "  の活動なども発展するはずだ。

- というのが僕のスタンスであることも、表明しておきたい。

 

大変な事態となって、見直された時には取り返しのつかないことになっている、

という可能性を孕む点でも、原発とGMは似ている。

原発を乗り越える道が自然エネルギーなら、

GMの対案は有機農業である。

目の前の利益より持続可能性を、という点でも両者は酷似している。

 

つながりましょう、世界じゅうの  " 種と人権を守る人々 "  と。

 


Comment:

先日も、消費アドバイザーの更新講座で、GM作物の消費大国の一つは日本、というなんとも脱力する内容を聞いてきました。
農協出身の講師の方でしたが、内容はGM推進でした。(現在はある大学で教鞭をとっていらっしゃるようです)
沢山楽に取れるからええじゃないか、という理屈でした。それに、そうしなければ、世界中に飢餓が蔓延するといわんばかりでした。
農業を担う一端にいる人がそういう意識じゃ、どんどん入ってくるよなぁ〜と思わずにはいられませんでした。
できることなら農協もGMのタネを取り扱って、一緒に農薬バンバン売りたい、そんな心の声が聞こえてきそうな話に、気分が悪くなってしまいました。
アメリカの消費者が声を上げたことは大変大きいと思います。
私たちも、引き続き、Non GMを訴え続けたいです。
(でも、へっぽこ政府がなぁ〜と思ってしまう私)

from "てん" at 2012年7月 1日 16:10

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