2012年8月22日アーカイブ

2012年8月22日

連続講座・第4回-「海の汚染を考える」

 

海と原発、漁業の衰退と地方の疲弊、食の構造変化と食文化の見直し・・・

それらがまだ頭の中を巡っていて、

気の晴れない状態が続いているのだけど、

連続講座・第4回の報告は終わらせておきたい。

 

8月18日(土)、

大地を守る会の放射能連続講座・第4回 - 「海の汚染を考える」。

漁業の資源管理を専門とする勝川俊雄さんも、

放射能に対する知識は、3.11まではゼロに等しかった、と吐露する。

ちゃんと調べなければ、と思ったのは、

もちろん専門分野との関連もあるだろうが、

「自分の子どもに魚を食べさせてもいいのか」 という自問からだった。

 

しかし海洋汚染の実態を知るには、幅広い知識が必要とされる。

放射能に対する知識から、海流による影響について、

あるいは魚の生体機能との関係について、などなど。

しかもまだ海や魚は未解明の部分が多く、

人々の関心は高いものの、圧倒的に情報が不足していた。

そこで専門家同士のネットワークを活用しながら情報を集め、

ブログやツイッターで情報発信を始めたところ、

予想を超える反響があり、あちこちから声がかかるようになった。

 

講演は、核分裂と放射能についての基礎知識から始まり、

海の汚染についての話へと進んでゆく。

 

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海洋開発機構(JAMSTEC) の試算によれば、

海に直接流れた放射性セシウムの総量は、4200~5600 テラ(兆) ベクレル。

大気中から雨などによって運ばれた量は1200~1500 テラベクレル。

しかしフランスの研究機関の試算ではその5倍という指摘があり、

東電の試算では逆に 6分の1 となっている。

 

海の調査が難しいのは、常に動いているから。

もう一つの経路である川から流れてくる量はまだ分かってなく、

沿岸流も予測不可能で、陸地のような正確な汚染マップが作れないのである。

したがって長期的なモニタリングが必要になる。

 

海洋汚染のメカニズムとしては、

海底に沈降したものは、局所的だが長期化する。

移流・拡散していったものは、範囲は広がるが影響は小さく短期的となる。

福島原発の立地場所は、親潮と黒潮が交差し太平洋に流れていく出口にあたる。

したがって黒潮にぶつかって東に流れ、拡散した。

お陰で今では、関東以南ではほとんど検出されない。

これが九州の原発だったら、

太平洋沿岸の九州から関東まで広く汚染されたかもしれない。

 

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さて、海に放出された放射性物質は生物にどう取り込まれてゆくか。

生物濃縮はするのか?

これらはまだ分からないことだらけなのである。 

水産庁は当初、「海の魚には蓄積されない」 とHPで発表した。

しかしその直後に高濃度のコウナゴが発見された。

今は、「海中濃度の5-100倍」 と修正されている。

( ⇒ http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/Q_A/index.html のQ5 参照)

 

水銀や農薬の濃縮係数は数万倍というケタになるが、

放射性物質はそれに比べれば意外と高くない。

( だから大丈夫という意味ではなく、リスクは放射能だけではないという、

 相対的比較として理解してほしい。 重金属や農薬の問題も忘れてほしくない。)

 

県別・生息地別にデータを見ると、

福島県中心に高く、また淡水魚の方が高い値で検出されている。

海のごく表層や表層の生物(コウナゴやプランクトンなど) 、

海藻類、無脊椎生物(イカ・タコ・エビ・カニ・貝類など) は全般的に低く、

今はもうリスクは少なくなっていると考えてよいだろう。

中層・低層の魚(スズキ・ヒラメなど) は地域によって高めに出ているものがある。

 

よく 「〇〇〇 の 〇〇〇 は大丈夫か?」 と聞かれるが、

これは自分で調べて判断していただくしかない。

水産庁のHPから 「放射性物質の調査結果」 をダウンロードして、

エクセルファイルを開いて、フィルターを使って指定して検索する。

これによって大まかな傾向が分かる。

( ⇒ http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/housyaseibussitutyousakekka/index.html )

 

国が事故直後に発表した食品の暫定規制値は、批判が多かった。

しかし汚染が未知数の状況で、線引きは極めて難しかったと思う。

基準値が高いと内部被ばくのリスクは高まり、低いと供給が困難になってしまう。

4月からの新基準値では、食品による内部被ばく量を

年間1mSv (ミリシーベルト) 未満に抑えるという考えに沿っているが、

この基準値ギリギリの食品を一年間食べ続けたとしても、

1mSv には達しないという設定になっている。

しかも現在はさらに減ってきている、という事実は押えておいてほしい。

 

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「魚は食べていいの?」 - これは自分で決めるしかない。

公的基準は最低限の安全保証として必要なものである。

その上で安全マージンをどこまで取るかは、個人の選択になる。

それは多様な判断があってもいい。

大事なことは、いろんな人の意見を聞くことだと思う。

そしてその人の意見の、結論よりプロセスを理解して判断したい。

自分(勝川氏) の意見も、耳半分で聞いてもらえれば有り難い。

 

総量をどう規制するかについて言うと、

年間 1mSv に相当するベクレル数は、セシウム134 と 137 が 1:1 と仮定して、

大人=60606 Bq、子ども=88106 Bq、乳児=42553 Bq である。

1日1ベクレル摂取し続けたとして、年間 365Bq となる。

 

例えば、ICRP (国際放射線防護委員会) の国際基準を厳しく批判する

ECRR (欧州放射線リスク委員会) は、0.1mSv/年のレベルを主張しているが、

これは大人=6061 Bq という数字に相当する。

参考にしてほしい。

 

また 「被ばく量」 は = 「濃度 × 摂食量」 で見る必要がある。

50 Bq/㎏ のものを 100g 食べれば、5 Bq の摂取となる。

同じ濃度(50 Bq/㎏ ) の銀杏を食べたとしたら、それはごくわずかな量である。

濃度だけ見ないで、米など日常的に多く食べるものに注意することが必要だ。

(以下、続く)

 



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