2012年9月18日

肥田舜太郎の " 生きる力 " -連続講座・第5回(Ⅱ)

 

『大地を守る会の放射能連続講座』 第5回。

肥田舜太郎医師との質疑応答の録音を改めて聴いて、

ヒロシマを医者として経験したことから生まれた強い使命感が、

この方を生きさせたのだと、強く感じた。

ピックアップして記しておきたい。

僕の解釈で要約したりしているので、ポイントがずれている可能性もある。

文責は、あくまでも戎谷であることをお断りしてきたい。

 

コーディネーターは吉度日央里(よしど・ひおり) さん。

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【質問】

子どもに被ばくの影響が出ないか心配している。

今の段階で子どもに出るとしたら、どんな症状があるのか。

【肥田】

広島・長崎では、原爆の力があまりに強大だったために、多くは死んだ。

遠くにいた人や後から爆心地に入った人の間で内部被ばくの影響は出たが、

大人への対応が精一杯で、子どもを対象にした組織的な調査ができなかった。

しかも子どもの健康への影響は放射線だけでなく、その後の生活状態も関係する。

したがって小児科の医学的知見として明解な答えはない。

 

福島でも医療相談などにあたってきた経験も含めて言えることは、

直後から1ヶ月の間でよく見られた症状は、下痢・鼻血・口内炎。

これらは今はだいたい治まってきていると思う。

これらは (放射線影響による) 急性症状のごく軽い症状として出るものではあるが、

これが子どもに定型的に現われるという知見はまとまってないし、

特に子どもの場合は、他の要因も考えられるので、

その子のその症状が放射線の影響であると断定することは難しい。

 

放射線による影響は千差万別で、〇〇病とか決まって出るものではない。

学童期に成績が悪くなる、というデータもアメリカにはあって、

頭脳の発育に何らかの悪影響があることも考えられる。

 

心配だと思う方は、どんな軽い症状でも医者に相談し、医者の目を通して記録すること。

専門の小児科医に診てもらい、日常の変化を記録していくことが、

子どもの健康を守る上で大切なことであり、将来につながる。

 


【質問】

血小板数値が下がって血が止まりにくくなったという人がいるが、放射線の影響か。

【肥田】

その現象は (広島でも) たくさんの大人に発生した。

放射線影響の特徴の一つだが、

医者としてそれがすべて 「放射線の影響だ」 と断定することはできない。

 

【質問】

(放射線に対する) 感受性が高いとか低いとか、免疫力が強いとか弱いとか言われるが、

どう考えればいいのか。

【肥田】

同じ条件下でも、ある人は長生きし、ある人はすぐに死んでしまう、

という例をたくさん見てきた。

放射線による被害というのは、そこにいた人の健康状態と、放射線の質と量の兼ね合いで、

一人一人違ってくる。

 

【質問】

先生ご自身が被ばくしながらも、とても健康で元気でおられる。 その秘訣は?

食事はどんなものを?

【肥田】

親が丈夫な体に産んでくれた、ということがあるかもしれない。 長命の家系だったし。

被ばく影響でいうと、何回か死にそうになったが、

いい助言をしてくれた人(医者?奥様?・・・不明) がそばにいたことも幸いした。

しかし何より、僕の仕事は 「被ばく者を長生きさせることだ」 と思ってやってきた。

それができれば勝利だと、自分に強く言いきかせて生きてきた。

自分は誰かのために生きなければならない、

ニッポンの医者として世界から笑われないようにしなければならない、

という使命感で生きてきた。

それが今の結果につながったのではないかと思う。

 

食事はほとんど和食。 肉はたまに食べる。 魚では、サンマやイワシは大好き。

平凡な家庭料理です。

 

【質問】

米では放射性物質はヌカ部分に溜まると聞いた。 ぬか床は作らない方がいいか?

【肥田】

私は気にしないで食べている。 ぬか漬けは大好き。

醗酵するものは特によい。

ジイさんしか食べなくなったようなものは、だいたい体にイイものです。

(戎谷の感想・・・玄米でも検出されてない米を選べばよいのでは。)

 

【質問】

日本食ではないが、醗酵食品であるヨーグルトなどは?

【肥田】

よいと思う。 チェルノブイリでも薦められたものである。

 

【質問】

水やミネラルウォーターは大丈夫か?

【肥田】

今は問題ないと思っている。 むしろ(放射線よりも) 化学的な処理のほうが問題だ。

 

【質問】

親族に、背中の皮膚がエクボのようにへこんだ人がいるが、放射線の影響か?

【肥田】

見てないので分からない。

皮膚にもいろんな症状が出るが、ひどくなるものは少ない。

皮膚病は、放射線の影響であろうが別な原因であろうが、甘く見ると慢性になる。

皮膚の病気は本人の暮らし方が大きく影響する。

途中で治療をやめる人が多いが、バカにしないできちっと治すこと。

長引かせると、一生もんになる。

 

【質問】

3歳半の息子。 よく外で遊んでいたが、咳き込むようになり、一時北海道に移った。

そこで回復したので戻ってきたら、また咳き込み始めた。どうすればいいか。

【肥田】

うまい方法はない。

離れてみるのはひとつの方法だが、「ねばならない」 とは思わない。

経済的な負担もあるし、それによって生活が不便することも、よくない。

(戎谷の感想・・・最初の質問に対する答えに尽きるような気がします。)

 

【質問】

職場で色々と苦しんでいるが、先生はどうやって自分の気持ちを支えてこられたのか。

【肥田】

放射線とたたかう、という一心で生きてきた。

よく、自然放射線と比較して 「同じ」 という人がいるが、

自然放射線と人工放射線はけっして同じではない。 惑わされないこと。

 

【質問】

「核」 は何のためにあるのでしょうか?

【肥田】

「核」 を持って何らいいことはない。

「核の抑止力」 という論があるが、大きな間違い。

こちらも持てば相手も持つ。 両方が研究すればするほど、新しいものがつくられ、

核が増えていく。

それによってウランの採掘から始まり、あらゆる行程で被ばくが生まれる。

" 持っている "  ことで人を殺しているのが、「核」 である。

全部、止めましょう。

 

肥田さんの主張や論は、科学的視点からは、ときに乱暴に聞こえるものがある。

危険性を煽っていると批判する科学者もいることだろう。

しかし、「どこに逃げたって同じ」 と言われながら、

僕らは肥田さんの言葉から  " 勇気 "  をもらうのである。

安心させようとして 「大丈夫」 と言われて不安になるのとは逆に。

リスク・コミュニケーションとは、テクニックではないのだ。

 

肥田さんは、「大丈夫、大丈夫」 と言って批判されたある医師を、

政治的な立場や判断によるものだと指弾された。

その背景には巨大な権力構造があり、奥で控えているのはアメリカであるとも言った。

発言の腹の底には、戦後の調査によるデータや資料が日本側には秘され、

患者を救うために使われることなく、つまり見殺しにされたまま、

自国の核兵器開発のために利用されていったことへの

絶対的反発があるように思えた。

政治的判断で語る医者への嫌悪も、その文脈で理解したい。

 

「僕は殺されても被ばく者の立場に立って追求していきたい」

という執念とも言える使命感が、肥田舜太郎の全身を貫いている。

それだけたくさんの命を背負って、生きてきたのだ。

僕らが肥田さんから勇気を与えられるのは、そこに倫理の筋が通っているからだと思う。

多少乱暴な言質はむしろ、我々を冷静な判断へと指向させてくれる。

 

講演終了後も、海外メディアからの取材を受け、

また 「どうしてもお聞きしたいことが・・」 といって残られた方からの質問に答え、

握手だけでもという要望にも笑顔で応える肥田舜太郎、95歳。

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生きる力をもらった、という感想をいただいたことに、

今回の目的が何であったのかを、我ながら気づかされたのだった。

 

最後に、無事自宅まで送り届けたことを報告しておきたい。

 ↓ 証拠写真。 

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左は、送迎の助っ人を引き受けてくれた業務部長・奥田健司。

 

連続講座の流れ的には、違和感を持たれた方も多かったけど、

これは必要な一歩だった。 

僕としては、よかったでしょ、と言いたい気持ち。

 

なお、農林水産省に勤める中田哲也さんが参加されていて、

ご自身が運営されているブログ・サイト (フード・マイレージ資料室)

でもレポートしてくれたので、紹介しておきたい

 ⇒ http://foodmileage1.blog.fc2.com/blog-entry-116.html

こういうつながりは大事にしたいと思う。

有り難うございました。

 

次回は10月6日(土)、最終回。

テーマはまさに 「低線量内部被ばくを考える」。

このリスクを厳しく見ながらも、放射線治療の最前線でたたかう

北海道がんセンター院長の西尾正道氏をお迎えします。

場所は、水道橋・YMCAアジア青少年センター 。

9階の国際ホールを予約していたところ、定員を大幅に超える申し込みが来て、

急きょ、もうひと回り大きい地下の 「Yホール」 に借り換えた次第です。

そのホールが空いていたこと自体が超ラッキー! で、

この講座には運があるのかも・・・

 

最終回で、予算も尽きたので、コーディネーターはお招きせず、

戎谷が最後まで進行させていただきます。

どうかご了承ください。

 

《 9月21日・追記 》

肥田舜太郎さんのスタッフの方から、

大地を守る会HPでの動画アップの許可をいただきました。 感謝します。

中継を見れなかった、もう一度聞いてみたい、友達にも聞かせたい、などなど、

ご要望に応えてアップです。

こちらをどうぞ ⇒ http://www.daichi-m.co.jp/cp/renzokukouza/

 



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