2012年9月 2日

有機の種は増やせられるのか-

 

気を取り直して、

8月24日の報告を記しておかなければ。

 

アイフォーム (IFOAM/国際有機農業運動連盟)・ジャパンのセミナー。

永田町の憲政記念館にて。

テーマは、有機種苗をどう広めるか。

一見地味な話のようで、とても重要な課題なのである。

 

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有機農業の基本精神に則れば、

種や苗そのものが有機栽培されたものであることが望ましい。

法律である有機JAS規格においても、それは規定されている。

ただし、「有機栽培された種の入手が困難なときは」、

やむを得ないものとして一般栽培の種を使うことも許容される。

現状は・・・・・今の有機農産物のほとんどは

「やむを得ない」 状況になってしまっている。

しかしこれが、なかなかに高いハードルなのである。

 


 

基調講演は、市民バイオテクノロジー情報室代表・天笠啓祐さんによる

「種子メーカーの世界戦略」。

 

いまスーパーやホームセンターで売られている種のほとんどは

海外で生産されている。

京野菜の種子はニュージーランド産、大根は米国産、という具合。

日本独自の野菜と思われているものでも、

種の生産は海外に頼っているのが現状なのだ。

 

理由の一つは、種子の生産では、その品種の形質を守るために、

他の品種の花粉が飛んで来ない場所が求められること。

それを種子会社にとって必要な量を安定的に (+低価格で) 確保するためには、

条件の合う一定の面積を確保もしくは農家と契約することが必要となり、

必然的に海外に生産基地を求めるようになる。

 

このウラには、企業による種子生産が主流になったという構造的変化がある。

種を自身で採る農家はすでに稀少な存在になってしまった。

この変化を牽引してきたのが、F1(雑種一代) と言われる品種開発である。

病気に強いとか、収量が多いとか、味の特徴とか、

それぞれの特徴を持った親同士を掛け合わせると、

一代目の子は両親の強い特質を受け継いだ形で現われる。

しかしその品種で種を採った場合、孫以降は形質がバラけてくる。

このメンデルの法則を利用して、

企業は優れた品種をもたらしてくれる親をしっかり確保して、

掛け合わせ続けることで、ある優位性を持った品種を独占することができる。

これによって農家は毎年企業から種を買うようになっていった。

 

その上に、企業の多国籍化と寡占化 (大手企業による種子会社の買収等)

が進んできたのが今日の様相であり、

GM(遺伝子組み換え)作物が開発されるに至って、

その種子は 「特許品」 となり、独占がさらに進むこととなる。

現在すでに、世界の種子の半分近くが

米国・モンサント社、米国・デュポン社、スイス・シンジェンタ社の

GM種子開発企業3社によって占められるまでになった。

 

タネとは、生命の土台である。

そのタネがわずかの多国籍企業に独占されるという状況は、極めて危険なことだ。

しかしこの状況をもって、農家を責めるわけにはいかない。

土地土地の気候風土に適応し、農家が種採り更新していくことで

種の多様性が維持され、暮らしの安定を支えてきた筈なのだが、

今では農家の経営も市場の価値観に縛られているのである。

花を咲かせ、種を育てる時間的・空間的余裕も失われてきている。

 

かつてあった世界を取り戻す可能性があるとしたら、

それは有機農業が引っ張るしかない。

とはいえ、このハードルは高い。

 

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パネルディスカッションでは、

一貫して自家採種を続けてきた千葉県佐倉市の有機農家・林重孝さんや、

自然農法国際研究開発センター(長野県松本市) の品種育成の取り組み、

自家採種できる伝統品種を守ろうとしている野口勲さん(埼玉県飯能市・野口種苗研究所)

からの問題提起などが語られた。

司会は、大地を守る会の取締役であり、

埼玉県秩父市で有機農業を実践する長谷川満が務めた。

 

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今回の特徴は、「サカタのタネ」 と 「タキイ種苗」 という日本の2大種苗会社が

パネリストとして参加したことか。

両社は世界のトップ・テンに名を連ねる種子企業である。

種子生産は海外に依存しているが、

天笠さんはこの2社にも、GM作物に対抗するポジションにある存在として

エールを送ることを忘れないのだった。

 

GM作物も、殺虫成分に対する耐性を持った虫が現われるなど、

生物の生き残り戦略とのイタチごっこの世界に入っている。

除草剤耐性を持った大豆というのは、

モンサント社のラウンドアップをかけても枯れないということだが、

それはラウンドアップという除草剤の使用を前提とするもので、

単一の薬剤に依存しては、いずれ雑草に乗り越えられる。

GM作物の開発は、すでに8種類の遺伝子を組み込むまでに進化(?)

してきている。 いや、せざるを得なくなっている。

どんどんスピードアップする開発コストを回収するには、

モンサント・ポリスと言われる調査員を駆使して、

勝手に種を採って播いた農家だけでなく、

自然に花粉交配した畑の持ち主まで、特許侵害として訴える。

これはもはやファシズムと言わざるを得ない。

 

幸い日本では、まだGM作物は商業栽培まで至っていない。

スーパーで売られているお豆腐などに 「有機大豆使用」 と謳われたものがあるけど、

それらの多くは外国産のオーガニック大豆が原料として使用されている。

しかし僕としては、海外産オーガニックより、「国産大豆」 を選択することをお願いしたい。

食材の選択は、投票と同じ行為なのです。

願わくば、大地を守る会で地方品種や自家採種野菜をライン・アップさせた

とくたろうさん」 にもご支援を。

 

さて、セミナー終了後、懇親会に誘われたのだが、

この日の夜は以前から高校時代の仲間と飲む約束をしてあって、

辞退して引き上げた。

地下鉄に向かう途中、毎週金曜日の恒例となった

首相官邸前デモに集まってくる人たちに遭遇する。 

警備もバッチリ?

 

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(交差点の向こうにあるのが首相官邸。)

 

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僕は 「地下鉄に乗る」 と言っているのに、なぜかお巡りさんがついて来る。 

問い質せば、「いえ、駅もいろいろ分かれてまして、間違えないかと思って・・・」 と、

実に優しいのだった。

地下鉄に乗って、ハタと気づいた。

僕はこの日、ゲバラ (キューバの革命家) のTシャツを着ていたのだった。

 


Comment:

重要な情報です。FBにコピペして 大丈夫でしょうか?


樋口さま

有り難うございます。
当方は問題ございません。アップした時点で腹決めてますから。
価値があると思っていただけただけでも光栄です。

それにしても暑いですね。
お体大切に。ではまた。

from "戎谷徹也" at 2012年9月16日 12:31

はじめまして。
有機種子のことをブログに書いたのですが、詳細は、専門家の方の記事を引用させていただこうと思い、リンクさせていただきました。
http://clearingmd.exblog.jp/21162183/
トラックバックの方法がよく分からず、アドレスからのリンクです。
何か問題があれば、お知らせ下さいませ。


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