2012年10月13日

山形村 「物語」Ⅱ - 走る短角牛

 

今日は、 NPO法人農商工連携サポートセンターが主催する

「食農起業塾」 というセミナーに呼ばれ、1時間半の講義を務めてきた。

セミナーには、食や地域起こしで起業を目指す人、農業を夢見ている人など、

年齢もバラバラな25人ほどの男女が参加されていて、

与えられたタイトルは 「大地を守る会が目指す流通」 というものだったが、

勝手に 「大地を守る会が目指す流通とソーシャルビジネスの展開」 と書き加えて、

大地を守る会が誕生した背景から歴史、現在の事業や活動の概要、

そして自分たちに課してきたミッションの意味やこれからの課題などについて

お話しさせていただいた。

 

こういう場で大地を守る会の話をするとなると、必然的に

「食とは何か」 という観点を土台にせざるを得なくなっちゃうのだけど、

食を育む自然や環境とのつながりは、どうしても欠かせない要素となる。

食に関わる人の営みは常に環境にも深く、あるいは間接的に関与していて、

その質によって例えば生物多様性を豊かにすることもあれば、

激しくダメージを与える場合もある。

前者は人の心身も豊かにさせてくれるものとなり、

後者は持続性すら失いかねないものとなる。

どっちに転ぶにせよ、その最大の貢献者は 「食べる」 という行為である。

何を選び、どう食べるかという 「消費」 の質が、

社会の命運を決める最大要素の一つだと言えるのではないか、

とすら僕は思うのである。

 

「 君はどんなものを食べているか言ってみたまえ。

 君がどんな人であるかを言いあててみせよう」

とは、18世紀から19世紀にかけてフランスに生きた美食家、

ブリア・サヴァランの有名すぎるアフォリズムだが、

不思議なことに、その著書 『美味礼讃』 の冒頭で、

上記の一行前に記された言葉が引用されることは少ないように思う。

曰く- 「国民の盛衰は、その食べ方いかんによる。」

この意味において、「食文化」 とは趣味やグルメの話ではない。

 (いや、サヴァラン先生は 「グルマン」 と呼んで真の美食家の意味を説いておられる。)

 

郷土の伝統食を、当たり前のように家庭の味として育んできたということは、

その風土や環境が大切にされてきたことと、いわば同義である。

厳しい東北の気候風土にマッチして、粗飼料で逞しく生きてきた

「日本短角種」 を、何としても守っていきたい、という心が、

輸入濃厚飼料による霜降り牛肉によって淘汰されてしまった時、

この国が失うのは一つの種だけではないだろう。

 

「食文化を地域活性化の材料に」 と考えることはまあ良しとして、

ならばこの風景を、何としても見てもらわなければならないと思ったんだ。 

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山形町荷軽部に開かれた短角牛の基幹牧場、通称 「エリート牧場」。 

この呼び方は個人的には好きじゃないけど、

まあ生産者にとってはこの環境こそがエリートなのだろう

(種牛のエリートが放されているというのが本意らしいが)、

林地も含めて約60ヘクタールの土地に60頭の牛が放牧されている。

それが2ヶ所。 つまり一頭につき1ヘクタール。

欧米でも理想とされる放牧面積だ。

 

田んぼや畑と同様、元はといえば自然を破壊してつくられた

牛肉生産のためのほ場なのではあるけれど、

草を食む牛という動物への配慮をもって開かれたものである。

問題はそれをどう大切に維持させていくかの思想ということになるだろう。

 

牛たちは、厳しい冬季は牛舎内で育てられ、春になると山の放牧地に放たれる。

牛たちは喜んで走り回るという。

思いっきり駆けたあとで子を探す母牛がいたりするらしい。

そして放牧期間中に自然交配され、冬に牛舎で子を産む。

仔牛は母に連れられて放牧され、母乳で育つ。

短角牛の母は子育て上手と言われていて、

よって牛は気だてがよく健強に育つ。

 

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自然のなかで育った短角牛の肉質は、低脂肪で赤身になる。

引き締まった肉には、旨みの源であるグルタミン酸やイノシン酸が豊富で、

噛むほどに味わいが増す。

そもそも脂肪のとり過ぎを気にしながら、筋肉に脂が入った柔らかい牛肉を求めること自体、

極めて不自然な欲求と言える。

サヴァラン先生が現在の日本を見たら、どんな皮肉の言葉を発することだろう。

 

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「いやあ、牛って走るの早いんですわ。」

そんな説明を聞ける場所が、この国の何処にあるだろうか。

 

エリート牧場を視察後、昼食は 「平庭山荘」 という村唯一のホテルで、

短角牛ステーキを注文する。

人間の頭は実に自分に都合よくできているものだ。

彼らの肉を食らうのに抵抗感がない。

まあ農水省の方や調査員の方々にも食べてもらわなければならないし。。。

 

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平庭山荘に注文がある。

美味しかったです。 とても美味しかったけど、

ステーキだけじゃなく、もっとリーズナブルなお値段で短角牛を食べられる

料理も用意してほしい。 せめて、せめて1,000円前後までで。

けっこう懐にもこたえる昼食でした。

領収書を貰ったって、会社が持ってくれるわけないし。。。

皆さんもここは短角牛ステーキを食べるしかないという気分で、

村に貢献した視察にはなったけど。

 

午後は、関係者が集まってきて意見交換会が設定された。

すみません。思い入れが強くて、終わらないね。

さらに続くで。。。

 



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