2012年11月 9日
「小水力発電」 を学ぶ生産者会議
備蓄米収穫祭での感動の余韻にとっぷりとひたっている余裕もなく、
10月30日は那須塩原に。
塩原温泉の老舗、多くの文人が愛したという 「和泉屋旅館」 にて、
生産者会議 「小水力発電研修会」 を開催する。
この地を選んだのは、農業用水路を利用した小水力発電の先進モデルが
ここにあるからに他ならない。
お呼びした講師は、茨城大学教授の小林久氏と、
那須野ヶ原土地改良区で小水力開発を牽引してきた星野美恵子参事。
集まった生産者は、青森から長野までの14団体の方々。
まずは小林久教授の講義から。
エネルギーを考える上での最初の基本は 「節電」 である、
と小林教授は切り出す。
「節電」 はある意味で電力を生み出すのと同じ、という発想である。
小林家では、昨年の3.11以降、(苦労せず) ちょっと意識して
電気を使う (=節約する) ようにしただけで、電気代が半分になった。
「どんな家庭でも、少なくとも2~3割は減らせるのではないでしょうか。」
次に、電気はかなりの部分が熱利用 (暖房や湯沸かし等) に回っている
という事実を頭に入れること。
それらを踏まえた上で、自然再生エネルギーを考えるようにしたい。
<エビ注>
「小水力発電」 の厳密な定義はなく、
だいたい1万kw 以下の発電規模のものを指して語られていることが多い。
一方で、新エネ法 (新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)
など日本の法律では1,000kw 以下を 「新エネルギー」 と分類していて、
今年7月からスタートした再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度 (FIT) では、
3万kw 未満 ~ 1,000kw のものに対して 25.2円/kw
(1,000kw 未満 ~ 200kw =30.45円、200kw 未満 =35.7円)
の買い取り価格が設定された。
これらの法律事情によって、1,000kw 未満を 「小水力」 と区分する場合もある。
小水力発電は、上から下へと落ちてゆく " 水の流れ " を利用することになるので、
必然的にその水系に関わる地域全体の問題になる。
つまり水は地域のエネルギー資源であり、
したがって地域内に事業体をつくることが、
公益上望ましい (地域に利益が還元されるようにすること)。
小水力発電の特徴と、メリット・デメリットは次の通り。
日本は水大国である (降水量は世界平均の倍近くある) が、
降った水はいったん山に蓄えられ、沢などを伝って集まりながら密度を高めてくる。
したがって山がしっかり管理されれば (という条件付きであるが)、
その 「変動」 幅が緩和(=調整) される。
また稼働時間が長い(風まかせ、お天と様まかせではない)。
CO2 を排出することがないので、温暖化対策の切り札でもある。
設備の寿命が長い(50年持っているのがザラにある)。
ただしその原理ゆえに適地が限定される。
また上に挙げたように関係者が多くなるため、合意形成や調整に手間取る。
そして開発量に限界がある。
小林教授の試算では、日本では100万kw くらいが限界だろうとのこと。
しかし 「小規模分散型」 にならざるを得ないなら、
むしろ日本はその地形上、まだまだそのポテンシャルは大きいとも言える。
都市でいえばビル内の循環水を使う方法も考えられる。
先進国ドイツでは水力発電所が8千ヶ所あるが、そのうち
実に 7,300ヶ所が 1,000kw 以下のものだ。
それでも発電で飯を食っている人もいる。
現在日本では化石燃料に頼ってしまっているが、
海外から購入している石油代がなんと23兆円。
これは日本からの 「富」 の流出以外の何物でもない。
自然エネルギーで地域の電力需要を賄えば、
そのぶん富が地域に返ってくる (=回ってくる) 格好になる。
たとえば1万世帯の小都市で、仮に100%エネルギー自給が達成できたなら、
電気代の世帯平均10万円/年 で計算すると、
10億円の収入が地域内で循環することになる。
自給率を上げれば上げるほど地域が潤うことになるワケだ。
小水力発電はまた、あらゆる分野の人が関われるので、
地域の人々の意識も変えることになるだろう。
エネルギー生産と消費が 「我が事」 になって、
地域を作り直す作業に発展する可能性を秘めている。
水資源の維持は、必然的に森や生態系も含めた環境の保全との調和を求める。
持続可能な社会の仕組みをもたらす力が、水の 「発電」 にはある。
小水力発電はまた、地場産業の発展(仕事づくり) にも貢献できる。
ふたたびドイツの数字を上げれば、
フライツブルグという都市では、チェルノブイリ後、
自然エネルギーの拠点づくりを目指して研究施設などを誘致してきた結果、
新たなエネルギー関連の仕事が生まれ、
3%の住民が関係する事業で雇用されるまでになっているという。
それは働きがいのある人間らしい仕事 - " グリーンジョブ " と言われる。
日本では、農村の暮らしに若者たちが憧れても、仕事がない。
(残念ながら、有機農業の世界でも、暮らしの受け皿づくりは容易ではない。)
小水力発電は、新しい雇用の創出と、
自慢できる郷土づくりに貢献できるはずだ。
今年7月からスタートした FIT (固定価格買い取り制度) によって、
小水力発電導入の難問であった 「初期投資の壁」 も
クリアできる道筋がつくられた。
これによって経営計画が立案でき、プロジェクト・ファイナンスが可能になった。
すでに多くの銀行が融資の枠を設けてきている。
ちゃんと管理すればするほど利用価値が上がり、
環境保全と持続可能性が高まる。
世界は急カーブで、加速度的に自然再生エネルギーに向かっているのに、
日本は完全に出遅れてしまっていた。
FIT によってようやく政策的なバックボーンが得られた、という流れである。
・・・・・
なかなか気合いの入る話だったが、現実に進めるとなると、事はそう簡単ではない。
ここで様々な抵抗勢力とたたかってきた女傑、いや先達の登場となる。
続く。