2012年11月27日

福島の海を考える(Ⅱ)

 

気がつけば、もう11月も最後の週。

車で走れば、4時半にはスモールランプを点灯させる季節になっちゃってる。

 

先週、ワタクシの席からこっそり撮った1枚。

夕日に映える富士山を拝む。

まだ勤務時間内、勝負はこれからという時間なのに、

世間は暮れ始めている・・・

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今日も一日、世は平和に暮れてゆく・・・みたいだ。

いや、誤解なきよう。

窓際に座らせられているからといって、けっしてたそがれているワケではありません。

厳しい現実とたたかう日々であります。

 

さて、気持ちを切り替えて、前回に引き続き、「福島の海を考える」。

日にちが前後してしまったが、11月14日、東大本郷キャンパスで

「フクシマと海」 と題した一般向け講演会が開かれた。

 

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実はこの講演会に先立って、国内外から90名の専門家が集まって

二日間にわたって非公開のシンポジウムが行なわれている。

それを基にしての、一般向けの発表となったものである。 

 


原発事故後の海や魚介類の汚染の推移について、

国際的な共同体制によって様々な計測調査が行われてきた。

研究者たちがチームを組んで、原発沖30km地点内に入って

海域モニタリング調査を開始したのが3月22日。

乗組員はトイレの水(海水を使う) にも不安を感じながら計測を続けた。

海洋放射能汚染では、日本は加害者の立場である。

正確な情報を伝える義務がある、という意識を持って取り組んできた。

 

そんな基調が語られ、続いて5名の研究者から、

海洋での放射線核種の推移や魚の汚染状況、

水産食品の安全性確保に関する施策の問題点、

人への健康への影響、そして報道の役割、について報告が行なわれた。

 

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カリウム40など自然放射性核種が大量に存在する海洋中で、

福島原発事故由来の核種を測定するのは、かなり難しい作業だった。

全体からするとごくわずかであり、60年代の核実験の頃からのものも残っている。

海水の濃度は急激に減少していっている(薄まっている) が、

河川からの流入や原発からの放出は今も続いている。

また多くは海流に沿って拡散していくが、

少量は海底に溜まり、それは希釈されない。

 

魚では稚魚のほうが取り込みが早いが、

エラからの排出(塩分濃度の調節により) と、排泄物と一緒に排出されることで、

セシウムが体から抜けるのは想定していた以上に早いことが分かってきている。

(排泄物は海底に溜まるか、プランクトンに移動する。)

 

マグロが回遊しながら、

日本近海からカリフォルニア沖に到達するまでの時間は1~4ヶ月。

その間の対外排出で10分の1程度に減少したと推測される。

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海水はきれいになってきているが、

なぜか一部の魚で濃度の低下速度が遅いものがあり、

また個体によって高い濃度のものが出たりしている。

原因はよく分からないが、エサに起因していると考えざるを得ない。

 

イカ・タコから放射性物質が検出されないのはなぜか?

 - 分からない。 体の仕組みによるのだろうが、今もって謎である。

 

私たちが食品から受けている自然放射能による内部被ばく量は0.98mSv。

それに対して放射性セシウム(原発事故由来) による内部被ばく量は0.014mSv。

現状ではガン発生リスクはきわめて低いと判断できるが、

追加的曝露はできるだけ避けるべきである。

(事故当初、ヨウ素の高かった所のリスクは上がるが、今それを測ることはできない。)

日本の食品基準は非常に低いレベルだと言える。

(この見解は、ここに集まった専門家たちの共通認識のようであった。)

 

日本政府のリスクコミュニケーションはうまく働かなかった。

ロンドンではリアルタイムで情報が更新されていたのに、

日本では正しく情報が出されず、安全基準が何度も変えられたことで、

政府への不信感を高めた。

国民を守ることが本義であったにもかかわらず、パニックを怖れ、

リスクを過小評価した。

逆にリスクを強調する報道の問題もあり、数値の意味が正確に伝わらず、

独立機関や研究者からの見解も出されなかった。

・・・・・・・などなど。

 

いろいろと参考にはなったが、海洋大学でのワークショップ同様、

特段に新しい情報や知見は得られなかった。

ま、今のところ言えることはここまで、まだまだ時間がかかる、

ということなのだろう。

 

驚かされたのは、以前 「日経エコロジー」 誌で対談 (※) させていただいた

松田裕之さん(横浜国大教授) が、

食品の安全・安心の確保に向けた取り組みの事例として、

大地を守る会を紹介されたことだ。

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突然、大地を守る会のHP画面が映し出されて、目が覚めた。

いや、起きてはいましたけど。。。

 

松田さんから見て、大地を守る会の基準に対する考え方は

「厳し過ぎてかえって風評被害を生み出すおそれがある」 というものだが、

それでも、福島の農産物を積極的に応援しながら、

一方で 「子どもたちへの安心野菜セット」 というのを販売している、

こういうかたちで消費者に  " 安心 "  を提供しようと努力されている団体もあると、

評価していただいた。

一瞬拍手しようかと思ったが、控えた。

松田先生、この場を借りて御礼申し上げます。

 

また今回の報告者の一人で、海洋大学のワークショップでもお話をうかがった

神田穣太さん(東京海洋大学大学院教授) によれば、

前日のクローズドのセッションで、勝川俊雄さん(三重大学) も

大地を守る会の紹介をされていたとのこと。

嬉しくなるとともに、身が引き締まる思いである。

 

ちなみに、外国の方に 「安心」 という感覚を伝えるのは難しいのだそうだ。

松田さんが苦心して用意した言葉は 「peace of mind」 。

たしかに、いま私たちが使っている 「安心」 のニュアンスは、

security とも、ease とも、rest とも、微妙に異なるような気もする。

 

さて、議論の最後は、ここでもリスクコミュニケーションの問題になった。

松田さんは以下のようにコメントされた。

 

リスクはゼロにはできない。

それに対してどうするか、を語る訓練を (国も科学者も) してこなかった。

科学者は、実証されてないことについて語る訓練もできていない。

政府は、安全を強調しようとするあまりに信用されなくなった。

リスクを正確に伝え、冷静に理解される仕組みづくりが必要で、

それには独立系科学者やNGOの役割も重要になる。

 

リスクをどう語り、理解し合い、コミュニケーションするか。

これは科学者だけの問題ではない。

流通や販売の世界は、ともすれば安全あるいは安心の競争に終始しがちである。

松田さんや勝川さんの期待に応えられるよう、

僕ももっと訓練を積み重ねなければならない。

 

(※)松田先生とのやりとりは、7月5日の日記だけでなく、

   8月8日 にも後日談を報告しています。 ご参照ください。

 



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