2013年2月アーカイブ

2013年2月28日

「放射能連続講座」 第Ⅱクールのスタート

 

35年にわたって欠かさず続けてきた 「大地を守る東京集会」。

僕らはどこまで辿りつけたのだろうか・・・

「食」 や地球の健康はよくなったのだろうか。

世の流れを見ると疑問符がつくばかりだけれど、

食の安全と環境を守ろうとする人々の輪が広がったことは確かだ。

 

1日目(2/23) の夜は、

その輪を形成する人たちによる大交流会が開かれた。 

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「種蒔人」 もこの20数年、この場に欠かせない脇役として

和を醸し続けてきた。

僕もできることならば、こういう生き方をしたいものだ。

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交流は2時間では終わらず、解散後もさらに盛り上がる。。。

翌朝目覚めれば、メガネがなくなっていた。

今回の僕の役割は二日目が主だというのに。

 

ぼんやりした風景に包まれたまま

2月24日(日)午前10時、

「大地を守る会のオーガニックフェスタ」 開幕。

 

一階メイン会場では 「オーガニックマルシェ」 や 「復興屋台」 に

人が群がり始めていることだろうと想像しながら、

こちらは4階コンベンションホールで準備を進める。

10時半、「放射能連続講座Ⅱ」 シリーズのスタート。

第1回は 『放射の汚染の現状と課題』 と題し、

NPO法人市民科学研究室代表の上田昌文さんに講演をお願いした。

 

原発事故からほぼ2年が経ち、

食品での放射能汚染はどこまできたか。

何が分かり、何が分からないままなのか。

暮らしのなかで気をつけるべきことは何か。

残っている課題に対して、私たちはどう対処してゆくべきか。。。

上田さんには、この2年間で公開された膨大なデータを解析していただき、

現時点での傾向と対策を整理していただいた。

もちろん大地を守る会の測定データもずべてお渡ししてある。

 

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上田さんの話を整理すれば、こういうことになるか。

・食品に関しては、全体的にはほぼ問題ないレベルに落ち着いてきている

 と言ってもよいだろう。

 (微量レベルも含めて今も検出されているのは、

  米、大豆、キノコ類、山菜、一部の果樹、それに時々野菜といった感じだが、

  食べる量で勘案すれば心配するレベルではないと言える。)

・気になるのは魚。 今も高い値が出るケースがあり、まだ不確かな点が多い。

 データを引き続き注意しながら選ぶ必要がある。

 表層にいる魚はほとんど検出されない。

 イカ、サンマ、サケなどはまったく出ていない。

 昆布や若布などの海藻も安心して食べていい。

 しかし原発周辺では今も汚染が続いている現実は忘れてはいけない。

 

・今の状況では、スーパーなどで普通に食品を買って食べたとしても、

 ほとんどは年間 1mSv (ミリシーベルト) 未満に収まると思われる。

・福島での調査では、尿中の濃度が減ってない23歳・男性のデータもあったが、

 食事に気をつけている家庭の子供は確実に減少している、

 という結果が得られてきている。

 

上田さんは一枚のペーパーを配り、面白いテストを試みてくれた。

「 ここに米から始まって、大豆、魚、野菜、牛乳、卵、肉、果物・・・・・と

 48種類の食材があります。

 この中から、10種類の食べ物を買って子どもの夕食を作ってください。

 そしてその10種類が、それぞれ今までで検出された最も高い数値のものと仮定します。

 つまり最悪の食材を選んでしまったとして、

 子どもの摂取量からベクレル数を計算してみます。

 さて、いくらになるでしょう。 今から30秒で選んでください。 さあ、どうぞ。」

 

僕もやってみる。

ゼロだと分かっているトマトやキュウリや卵やサンマなどは外して、

やや意識的に出ていそうなものを選んでみる。

上田さんがそれぞれの食材で数値を発表する。

それを足し算した結果、会場で10ベクレルを超えた方は一人のみ。

5~10の間の方が3分の1くらいか。 あとは5ベクレル未満。

僕の意図的選択では、9.8ベクレルと出た。

そしてこの  " 現実に出回っているものの中で最も高いレベル " 

ばかりを選び続けたとして、年間の内部被ばく量は

0.1mSv (国の基準の10分の1レベル) くらいの計算になる。

だから大丈夫、と言いたいワケではない。

食事による内部被曝のリスクは、

ちょっとした工夫、少しの注意で乗り切れる。 それを意識しようということだ。

大まかにでも傾向を知っておくことが大切。

「今はもう、福島産だから食べない、というような時期ではありません。

 データを見て、冷静に選んでほしい。」

 

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ここで安心できないのは、放射性物質は均等に降り注いだワケではない、

ということだ。

ホットスポット、ミニ・ホットスポットと呼ばれる場所が広範囲に存在している。

時にホウレンソウなどで微量とはいえ検出されたりするのも、

畑の場所によって濃度が違っていることを表していると思われる。

 

研究者と住民が協力し合って、きめ細かい測定とマップづくりを実施した

二本松や南相馬のような調査を、もっと各地で進める必要がある。

そして徹底した除染。

これは住民合意と安全性の確保を前提として

国の責任でやらなければならないことだが、不充分と言わざるを得ない。

またこれからは、食品を測ればいい、ということではすまない。

水・飲料水は安心して飲んでよいと言えるが、

下水処理場の汚泥には蓄積されていっている。

焼却灰など環境への影響はきちんとチェックしていかなければならないが、

国の対策には疑問が残る。

 

野菜でも、ただ県・市町村と品目で判断するのでなく、

ほ場ごとにデータを取ることが、(大変なことだが) 本当は必要である。

この畑では ND でも隣の畑では高めに出たりすることがある。

そういう意味でも、大地を守る会がとってきたほ場ごとの管理は役に立つ。

また福島の米の生産者たちが取り組んだ対策は、優れた先行事例である。

昨年実施された1000万袋を超える全袋検査では、

99.8% が検出下限値の 25ベクレル 以下だった。

ゼオライトやカリ施肥、反転耕などの成果を、きっちり活かしてほしい。

 

当初は、堆肥などを使う有機農業のほうが怖いと言われ、打撃を受けた。

しかし筋の通った対処を取ったのは彼らである。

事実を知ること、対策を考え実行すること、結果をただしく発信すること。

この3つを、生産者は実践していってほしい。

 

これからの課題としては、

環境 (森林や水系など) からの影響を受けそうな品目に関して、

土壌濃度の継続調査などによって、早めの対策を打てるようにしたい。

(上田さんとは、そのための

 今後の測定品目の  " 選択と集中 "  について話し合っているところである。)

 

最も気になることは、福島の子どもたちの健康調査が徹底されてないことだ。

原発事故から26年経ったチェルノブイリでは、

今も深刻な健康への影響が続いている。

いろんな臓器での病気が増えている。

ウクライナでは事故から10年後に厳しい食品の基準を設定したが、

内部被ばくのコントロールは難しい。

EUでは、改めて健康調査の見直しと孫の代までの徹底した継続調査が

プロジェクトとして進められている。

それに比べて- 福島でのケアはまったく不充分だと言わざるを得ない。

 

・・・・・・・・・・

話の順番は違うけど、だいたいこんなところか。

上田さんには、1時間という短い時間で網羅的な整理を、

という無理難題をお願いしたのだが、

ポンポンと話を進め、ぴったり一時間で収めていただいた。

さすが、である。 改めて感謝々々。

 

現在、中継映像のアーカイブが

大地を守る会のHPからアクセスできない状態になっていて、

改善を管理人さんにお願いしています。

見れるようになったら、改めてご案内いたします。

 

さて、続いてゲストにお招きした二人の生産者の発言を。

 

続く

 



2013年2月27日

『2013 大地を守る東京集会』 無事終了

 

2日間にわたって開催された 「大地を守る東京集会」 が終了した。

23日(土) も 24日(日) も、終わった後で生産者たちと飲み、

帰れなくなって、某カプセルホテルに潜り込む始末。 

懲りないヤツ、と言われたりもするけど、生産者がいる以上、

先に帰るワケにいかない。 とまあ、そういう性分なのだ。

 

最後の最後まで付き合ったのが、

岡山県倉敷市・庄地区無農薬研究会の 山崎正人さん と、

秋田県大潟村・ライスロッヂ大潟の 黒瀬友基さん (ともに米の生産者)。

二人はこの展開を織り込み済みで、しっかり蒲田に宿を確保していた。

  (※ 上の名前をクリックすると、米の仕入担当が昨年取材した映像が見れます。)

 

ま、そんなことはともかく、

まずは、全国からお集まりいただいた生産者会員、消費者会員の皆様。

有り難うございました。

お陰さまで盛会裏に終えることができました。

この場を借りて、深く感謝申し上げます。

 

よる年波のせいか、まだ疲れをひきずっている感が否めず。

でも取り急ぎ、自分が回ったところだけでもアップしておかねば。。。

今年の 「東京集会」 はあまり全体を見れなかったけど。

 

2月23日(土)、12:20 の開会時には、

すでにあらかたの椅子が埋まる感じになった。 嬉しいね。

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代表取締役・藤田和芳の挨拶から始まり、

行動派の社会学者・宮台真司さん(首都団学東京教授) の記念講演がある。

テーマは、『食とエネルギーの共同体自治』。 

 

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宮台さんは、原発の是非は国民投票で決めようとキャンペーン活動を展開する

みんなで決めよう  「原発」 国民投票』 の共同代表も務めている。

 

「 これは脱原発を進めるための運動ではありません。

 原発を推進するための運動でもありません」

と宮台さんは説明する。

 


つまり、単純に投票による多数決での決済を求めているのではなく、

この国の在り方に対する判断力と決定権を国民が持つことの意味を、

国民に問いかけているのだ。

 

判断するための情報や決定権を専門家や役人に任せず、

自らが " 判断 " し、決定に " 参加 " するためには、

投票に至るまでのプロセスが必要になる。

住民主体によるワークショップや対立する専門家同士での公開討論会

などを重ね、国や自治体や企業に必要な情報を開示させてゆく。

この作業を宮台さんは  " 熟議 "  と表現する。

そして熟議を経た上での、世論調査としての住民投票が行われる。

こういった作業(経験) の積み重ねによって、

巨大なフィクション (いわゆる  " 神話 "  ) の繭を破壊し、

都市や地域や社会を我々のものにすることができる。

 

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「参加と熟議」 によって、分断された個々を包摂する 「自立した共同体」 の確立。

それによって民主主義をバージョンアップさせよう。

でなければ、私たちは生き残れない。

 

公共性を定義するのは市民である。

市民が定義しないから、役人が定義するしかなくなる。

国に  " 頼る "  のではなく、地域を守る主体を取り戻す必要がある。

これが3.11と原発事故が私たちに教えたことではないだろうか。。。

 

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宮台さんは戦後を代表した政治思想家、丸山真男の民主主義論を

批判的に検証しつつ、それを乗り越える 「共同体」 の再構築を説いた。

そのあたりは大学の政治思想か社会学講義のような展開だったので、

生産者の方々にとってはどんなふうに受け止められただろうか。

また若い世代に丸山真男って通じるのだろうか・・・と少し気になった。

本意が伝わったなら幸いである。

大学で社会学を学んだ者として個人的な感想を言えば、

当時強迫のように説かれていた 「個の確立」 といった主張の危うさは、

大いに共感するところだった。

(僕のゼミ論テーマは 「現代社会における人間疎外の構造」 という、

 斜に構えたものだった。)

 

さて、講演と並行して各会場では、

生産者とのおしゃべり会や映画上映会などが始まっている。

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いろんなところを覗いたり話の輪に加わったりしたかったのだが、

立場上、生産者向けに企画された 「自然エネルギー説明会」 に顔を出す。

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「大地を守る会 顔の見えるエネルギーコンペ」 ・・・って何だ?

 

要は、生産地での新たな自然エネルギーへの取り組みに対して、

大地を守る会として支援しますよ、という案内である。

ただし、地域の特性を活かし、地域社会とつながった (できれば広がりのある)

取り組みであること。

そのために必要な設備投資資金や調査研究費などを助成する。

ただし原資の都合もあるため、応募いただいた企画から選考し最大5件まで、

かつ1件あたり上限300万円まで。

 

この企画は、手を挙げた若手社員たちのアイディアで生まれたものである。

いや正確に言うと、これという企画にまとまらなかった結果が、コンペだった。

 

原発や化石燃料に頼らない、自然エネルギーを活用した持続可能な社会づくりに向けて、

新しい発想でチャレンジする産地を応援します。 奮ってご応募ください。

詳しくは、こちらを ⇒ http://www.daichi-m.co.jp/cp/d-energy/ 

 

先進事例のひとつとして、

熊本県 「肥後あゆみの会」 代表の澤村輝彦さんが取り組む

木材チップを利用したトマトハウスの暖房設備が紹介された。

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通常ハウス栽培の暖房には重油が使われるが、

澤村さんは地域で産出される廃木材のチップを利用してハウスを温めている。

すべて手作りで、3年に及ぶ試行錯誤の上、ほぼ完成形にまで近づけてきた。

大学も注目して効果検証に協力してくれているとのこと。

 

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木材チップも重油もコストはほぼ同じだが、

チップのほうが灰の描き出しなどの手間がかかる。

「まだまだ改良の余地がある」

「竹も活用できると考えている」

と語る澤村さん。

ちなみに、澤村さんのトマトは

有機JAS認証を受けた 「有機トマト」 である。

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地域の未利用資源の活用と安全な食生産がつながり、

循環型で持続可能な社会システムの萌芽が各地でつくられていく。

その動きを少しでも後押しできる 「コンペ」 になることを願いたい。

 

「2013 東京集会」 編、続く。

 



2013年2月22日

「会津自然エネルギー機構」 設立!

 

「SEED FREEDOM」 ~ " 種子を守り抜こう "  と

バンダナ・シバ博士の講演を聞いて、記念写真の光栄に浸っている頃、

会津若松では、「一般社団法人 会津自然エネルギー機構」 の

設立記念講演会が開かれていた。

会場となった 「会津稽古堂」 には人があふれたようである。

同機構の代表に就任した大和川酒造9代目・佐藤弥右衛門さんが facebook で

その模様を報告されているので、ぜひ覗いてみてほしい。

http://www.facebook.com/yauemon

 

思いから始まり、ハッタリもかましながら人をつなげ、

形にしてきた弥右衛門さんの力技には、感服するしかない。

これからいろんな難問や高い壁がいくつも立ちはだかってくることだろう。

頑張ってほしい。

大和川交流会で、弥右衛門さんから

「エビちゃん。 自然エネルギー機構東京支店、よろしく!」

と言われ、やや腰を引きながら

「は。。。 ま、出来る範囲で~」 とヤな返事をしている自分が恥ずかしい。

せめて 「出来ることはすべて~」 だろう。

これはゼッタイに結果を出さなければならない挑戦なのだから。

 

さて今日は、農林水産省の 「地域食文化活性化マニュアル検討会」 の

最終回に臨んだ。

最終回と言っても、まだ仮称 「マニュアル」 は完成していない。

仕上げまであと少し。

この報告は、またのちほど。

 



2013年2月20日

「種」 を守れ -とバンダナ・シバ博士が迫る

 

今日は、全有協 (全国有機農業推進協議会) などで一緒に活動する

自然農法の団体 「NPO法人 秀明自然農法ネットワーク」

の方からお誘いを受け、

SEED FREEDOM 未来へつなぐ 種・土・食 』

と題した講演会に出席した。

主催は秀明さんの国際組織 「NPO法人 秀明インターナショナル」 と

インドの 「ナブダーニャ財団」。

会場は渋谷・表参道にある国連大学の 「ウ・タント国際会議場」。

 

ナブダーニャ財団は、環境活動家として世界に名を馳せる物理学者、

バンダナ・シバ博士によって、1987年に設立された。

ナブダーニャとは 「9つの種子」 という意味だそうで、

「種」 は生物と文化の多様性を象徴するものとしてあり、

人々が共有する (=独占しない) 普遍的財産としての 「種」 を

自家採種(自分たちで種を採り、その品種を残していくこと) して伝えていく

「新しいプレゼント」 という意味も込められている。

自家採種する農家をネットワークし、有機農業を支援するこの活動は、

インド17州に広がり、111地区でシードバンク (種子銀行) が設立されている。

 

講演会では、最初に

福島県二本松の菅野正寿さん(福島有機農業ネットワーク代表)

同県石川町で自然農法を営む小豆畑 守さんの発表があった。

菅野さんのお話は、1月20日に立教大学で開催された 公開討論会

での話とも重複するので、ここでは省きたい。

小豆畑 守(あずはた・まもる) さん。

まるで 農業をやるために生まれてきたような お名前。

自然農法の提唱者、岡田茂吉師の教え-「すべては自然が教えている」

にしたがって、 自然順応・自然尊重をモットーに

年間100種類以上の野菜を栽培する。

「いのちのつながりが、種。それこそが生命力の根源」 と語り、

100%自家採種を実践されている。

ユーモアも交えながら、いろんな生き物を育む農業の美しさや楽しさが語られた。

 

メインとなる記念講演では、二人の海外ゲストが招かれた。

アメリカ・ペンシルベニア州で135ヘクタールのオーガニック実験農園を有する

「ロデール研究所」 の主任研究員、イレイン・イングハム博士。

そして 「ナブダーニャ財団」 代表、バンダナ・シバ博士。

 


世界的に著名な土壌生物学者でもあるイレイン・イングハム博士の話は、

「ソイルフードウェブ (土中食物網)」 の世界。

僕らが 「生態系」 と呼んでいる  " 生命のつながり "  が

土中においても重要な役割を果たしているということだ。

植物残さや動物の排泄物、いわゆる有機物を分解する微生物や菌から始まり、

バクテリア・菌類を食べる生物-節足動物そして肉食生物と

生命の連鎖がバランスよく保たれた土壌から、健全な作物が育つこと。

そのために、それぞれの役割を正しく理解することが必要であること。

オーガニック農産物はまた、栄養価も高いことが証明されてきていること。

 

イングハム博士が各種データに基づいて有機の優位性を語れば、

シバ博士は、企業による 「バイオパイラシー(生物資源の略奪)」 を激しく糾弾した。

種子は我々の存在の根源である。

しかし遺伝子組み換え作物と種子の特許は、

生物多様性と文化の多様性と、食料の安全保障の基盤を揺るがすものである。

世界中で種の単一化が進んでいる。

単一文化は、病気に弱い、環境変化に弱い、脆弱な社会につながる。

多様性を大切にするとは、人々と共生することであり、共存社会を築くことである。

民主主義と自由には、多様性が必要なのだ。

種子の支配 (種子に対する暴力) は、精神のモノカルチャー化につながっている。

 

● 農民は多様性のために品種改良するが、企業は画一性のために品種改良する。

● 農民は復活力のために品種改良するが、企業は脆弱性のために品種改良する。

● 農民は味、質と栄養のために品種改良するが、

  産業はグローバル化した食糧システムにおける工業的加工と

  長距離輸送のために品種改良する。

 

農民が種の保持と供給をやめ、

特許権によって守られた遺伝子組み換え種子に頼った結果として

得たものは、「負債」 である。

そのためにインドの綿花生産者たちは自殺に追い込まれた。

(15万人! が自殺した、という。)

多国籍企業による種子の支配とは、私たちの大切な食(=いのち)

を支配しようというものである・・・・・・・・・・

 

迫力のある語りに圧倒される。

バンダナ・シバ博士の生の講演を聴くという貴重な時間をいただいたことに

感謝したい。

 

講演会終了後にレセプションがあり、

思いがけず、バンダナさんと記念写真を撮る機会までいただいた。 

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講演会では写真禁止だったので、実に嬉しいお土産となった。

 

伝えたいバンダナさんの言葉はたくさんあるが、

数年前にも紹介したこの一節を再び-

 

   遺伝子組み換え作物と食糧をめぐる対立は、「文化」 と 「科学」 の間での対立ではない。

   それは二つの科学文化の間の対立である。

   ひとつは透明性と公的説明責任と環境と人々に対する責任に基づく科学であり、

   もうひとつは利潤の問題と、透明性と説明責任と環境と人々に対する責任の欠如に

   基づいている科学である。

 

   遺伝子工学が解決策を提示している多くの問題に対する答えは、

   すでに生物多様性が提供している。

 

   農民は何を栽培するかを選択する自由を奪われ、

   消費者は何を食べるかを選択する自由を奪われる。

   農民が、生産者から、企業が持つ農業製品の消費者に変身させられる。

                               (『食糧テロリズム』/明石書店刊より) 

 

秀明インターナショナルとナブダーニャ財団はパートナーシップを結み、

「SEED FREEDAM 希望のガーデン」

キャンペーンを世界的に展開すると宣言した。 

「一つの種は、生命の源であり、私たちの生命に繋がっている」 と。

届いた招待状は、連帯への呼びかけだったのね。

 

もちろん、種は守らなければならない。

そのためには、生産と消費のネットワークが強化されなければならない。

100%異論はない。

しかしこのたたかいは、理念だけではすまない。

とてつもない大きなハードルに向かって、長い戦略が必要だ。

 

今週は忙しい。

レセプションの途中で退席させていただき、

国連大学の前で上田昌文さん (NPO法人市民科学研究室代表) と落ち合って

近くのカフェに入り、オーガニック・コーヒーを飲みながら、

日曜日にさし迫ってきた放射能連続講座の打合せをする。

上田さんには、講演をお願いするにあたって、

大地を守る会の放射能測定結果をすべてお渡ししてある。

そこから見えてきた世界を語ってほしい。

微妙な問題は残っているけれど、隠すワケにはいかないことだから、と

すべて前向きに進む決意をお伝えした。

「分かりました。やりましょう」 と上田さんも言ってくれた。

1時間という短い時間で2年間の総括をお願いするなんて無理だよね、

とは分かりつつ無理なお願いをするのだった。

 



2013年2月16日

「放射能連続講座 Ⅱ」 予告(続)

 

「大地を守る会の 放射能連続講座 Ⅱ」 シリーズ。

第1回と第2回の内容 については予告済みですが、

第3回と第4回も決定しましたので、ここでお知らせしておきます。

 

-第3回-

『未来のために、つながりを取り戻そう』

講師=河田昌東さん (「チェルノブイリ救援・中部」 理事)

河田さんはチェルノブイリ原発事故後、継続的に子どもたちの健康回復や

土壌汚染対策を、様々な形で支援してこられました。

福島では、事故直後から調査に入り、稲田稲作研究会はじめ

各地の生産者の取り組みを支援されてきています。

その河田さんの目に、事故後2年の状況はどのように映っているのでしょう。

取り組みの成果や現状での課題・問題点とともに、

人や環境とのつながりを取り戻すための道筋を考えます。

日時は、5月18日(土)、13:30~16:00

会場は、YMCAアジア青少年センター・国際ホール

(JR水道橋駅から5分、御茶ノ水駅から8分)。

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≪河田昌東(かわた・まさはる) さん:プロフィール≫

分子生物学者。 「NPO法人チェルノブイリ救援・中部」 理事。

遺伝子組み換え情報室代表。 

在職中は名古屋大学理学部、四日市大学環境情報学部などで教鞭をとる。

四日市公害、チェルノブイリや福島の原発事故被災地の支援など、

多くの社会運動に関わる。

著書(共著)に、『遺伝子の分子生物学』(化学同人)、『遺伝子組み換えナタネ汚染』

(緑風出版)、『チェルノブイリの菜の花畑から』(創森社)、

『チェルノブイリと福島』(創森社)、など。

 

-第4回-

『食べて克つ!毎日の食生活で免疫力を整える』

講師=高橋 弘さん (麻布医院 院長/ファイトケミカル研究家)

第4回は、健康な暮らしを維持するために、何をどう食べるか、について考えます。

講師はファイトケミカル(植物の機能成分) の研究で著名な

麻布医院 院長、高橋弘さん。

「食」 の持っている奥深い力によって 「内部被ばく」 に対処する。

そのキーワードは 「免疫力」 です。

免疫力を強化する (整える) ための食生活のあり方、

特に野菜の力について学びます。

それは放射能に限らない、様々なリスクとたたかうための

" 総合力 "  の獲得にもつながっています。

日時は、6月9日(日)、13:30~16:00。

会場は、千代田区立日比谷図書文化館・コンベンションホール

(地下鉄・内幸町駅、霞ヶ関駅から3~5分、JR新橋駅から10分、日比谷公園内)。

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≪高橋 弘 さん:プロフィール≫

麻布医院・院長、ファイトケミカル研究家。

医療法人社団ヴェリタス・メディカル・パートナーズ理事長。

日本肝臓学会東部会はじめ、日本消化器学会関東支部、日本臨床分子医学会、

日本レーザー医学会、米国消化器病学医師会の各評議員を務める。

米国癌学会会員。 東京慈恵医科大学卒業。

マサチューセッツ総合病院消化器内科、MGH癌センター、

ハーバード大学内科准教授、セレンクリニック診療部長などを歴任。

著書に、『ガンにならない3つの習慣 ファイトケミカルで健康になる』(ソフトバンククリエイター)、

『免疫を整えるレシピ(エビデンス社、監修)、など。

 

会員の方には、毎月発行の 『NEWS 大地を守る』 のイベント欄で

告知・募集しますので、お見逃しなく。

会員外の方には、大地を守る会のHP からお申し込みください。

予告をアップした段階で、再度お知らせいたします。

とりあえず手帳にチェックを。

参加費はいずれも、会員=無料、非会員=500円となります。

 

「本来の食と、人と社会の健康を取り戻す」 ために、

「誰とつながり、何を、どう食べるか」、

そして 「未来のために行動する」 指針を、このシリーズの中から

つかみ取りたいと願っています。

たくさんの方のご参加をお待ち申し上げます。

 



2013年2月13日

再生は、自立と自給から!-「種蒔人」で連帯する

 

第17回 大和川酒造交流会、後編。

 

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夕方からの懇親会は、

昔の蔵を見学・イベント用に改造した 「北方風土館」 に移動し、

その中にある 「昭和蔵」 にて開催。

1990 (平成2) 年に現在の 「飯豊蔵」 ができるまでは、

ここに樽が所狭しと並べられ、昔ながらの酒造りが営まれていた。

漆喰が塗り直され、温度湿度の調節だけでなく音響効果も良いため、

今ではコンサートなどにも利用されている。

 

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歓迎の挨拶は、大和川酒造店9代目代表社員、佐藤弥右衛門(やえもん) さん。 

 会津電力構想 の話をお伝えしたのは12月だったが、

2ヶ月を経て、「社団法人 会津自然エネルギー機構」 を設立させるまでに至った。

酒蔵の親分というよりは、ここまでくると

会津の自立に賭ける  " 志士 "  の趣である。

 

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 「 これまでの会津は、まるで東京の植民地だった。

  しかしここ会津は、食料自給率 1,000% はあるであろう豊かな地である。

  東京にモノを送るばかりの時代から、自立を目指す時が来た。

  足元を見れば、エネルギー資源は満ち満ちている。

 

  福島県(議会) は脱原発を選択した。

  「 原子力に依存しない安全で持続的に発展可能な社会づくりを目指し、

  新しい福島を創る」 と謳った以上、私たちが果たす責任は重い。

  少なくとも10年以内に、県内のエネルギーを再生可能エネルギーで供給する

  体制を創りあげたい。

  会津の持つ水資源、地熱、太陽光、森林資源、風力や雪の利用研究を促進し、

  投資を行ない、地域に安全で安価なエネルギーを供給することで

  地場産業の活性化や産業の振興に寄与したい。

 

  16万人の 「原発難民」 を生んだ福島に、原発との共存はあり得ない。

  東電と福島県の 「契約」 は破綻した。

  東京電力さんには撤退していただくしかない。

  猪苗代湖を東京電力から取り戻してみせよう。

  会津の自立と独立の精神を持って

  「一般社団法人会津自然エネルギー機構」 を設立し、

  会津から福島、そしてこの国の再生に臨む。」

 

2月20日には、記者会見と設立記念講演会を開催する段取りになっている。

ゲストには、末吉竹二郎氏 (国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問)、

赤坂憲雄氏 (福島県立博物館長、学習院大学教授)、

飯田哲也氏 (NPO環境エネルギー政策研究所所長) が名を連ねている。

この方々には顧問に就任してもらう策略である。

 

清酒 「種蒔人」 の原料米生産者である、稲田稲作研究会から

代表して伊藤俊彦さんが挨拶に立つ。

こちらは福島県の中通り、須賀川の地で

やはりエネルギー自給構想を練っているところだ。

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昨年10月に開催した 自然エネルギーの生産者会議 に参加した伊藤さんは、

その後改めて仲間を連れて、那須野ヶ原土地改良区の視察に行っている。

やるしかない、前に進むしかない、その思いは弥右衛門さんにも負けてない。

 

「種蒔人」 は人と人、人と環境をつなげ、「前 (未来)」 へと進む。

蒔かれた種が芽を出し、花を咲かせて、実を結ぶまで、

僕らも一緒に歩み続けなければならない。

 

今年は、喜多方で会津料理づくしの店を営む 「田舎屋」 さんが

出張って来てくれて、絶品の料理が並べられた。 

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そして新酒 「種蒔人」。 

 

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" この世の天国 "  の役者が揃ったところで、乾杯! 

 

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あとはもう、写真など撮っている場合ではなく、

飲み、食べ、語りあい、、、 

良い酒と良い食は、人を良くつなげる。 

イイ仲間との語らいは、明日の活力を生む。

「種蒔人」 はつねに人の和を醸す酒でありたい。 

 

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最後は熱塩温泉 -「山形屋」 で仕上げ。

極楽。

 

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この国の再生を、福島から。

みんなが立つなら、「種蒔人」 も、連帯に迷いはない。

 



2013年2月11日

今年も 「天国はここに」 -大和川酒造交流会

 

2月9日(土)。

今年もやってきた会津・喜多方、大和川酒造店・飯豊(いいで) 蔵。

第17回となる 「大和川酒造交流会」 の開催。

最初の頃に参加されたおじ様のひと言から、

「この世の天国ツアー」 という冠をいただいた至福のイベント。

いつの頃からか 「極楽ツアー」 とも呼ばれるようになった。

 

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今年もバッチリ、大地を守る会オリジナル日本酒 「種蒔人(たねまきびと)」 の

搾(しぼ) りに合わせることができた。

挨拶もそこそこに、

「今ちょうど搾ってますので、まずは試飲といきましょう」

と佐藤和典工場長に誘(いざな) われる一行。 

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まだ炭酸ガスがピンピンと跳ねている、いわゆる 「荒ばしり」。

雑味のない芳醇な香りに包まれ、酒客にはたまらない感激の一瞬。

淡麗とは違う、パンチの利いた辛口。

「うん、イイすね、今年も!」

- このひと言を聞けただけで、予は満足でござる。

 

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「種蒔人」 タンクに貼られた、仕込み24番の数字。

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秋の後半からその年の酒造りが始まって、

水がもっともピュアになる厳寒期に仕込む(寒造り) のが、

吟醸・大吟醸といったその蔵にとっての勝負の酒だ。

2 トンの原料米が投入されたが、その米は 55% まで削られている。

玄米に換算し直すと約 3,600 ㎏ (60俵)。

稲田稲作研究会(須賀川市) が無農薬で育てた酒造好適米 「美山錦」 を

惜しげもなく削って、純米吟醸 「種蒔人」 は完成する。

 


タンクの上(2階) で、まさに搾り中のモロミを味わう初参加の男性。

ご夫婦で申し込まれた会員さんについてきた息子さんだ。 

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真剣そのもの。 いい顔してる。

日本酒文化がこうして受け継がれてゆく。 素晴らしいではないか。

 

大吟醸の香りを楽しむ。 

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吟醸香は、米ではなく酵母によって創りだされる。

しかも酵母の種類によって、バナナ香とかリンゴ香などと微妙に香りが異なる。

どういう大吟醸酒をつくるか、に蔵の個性が見えてくる。

ただ、たまに香りを強調し過ぎるような酒に出会うことがあるが、

あれはいただけない、と個人的には思う。

最初の一杯でいい、という感じになるんだよね。

 

さらに参加者を唸らせたのが、こちら。

" 袋吊り "  と呼ばれる手法で搾っている。

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木綿の酒袋にモロミを入れ、自然にゆっくりと滴り落ちてくるのを待つ。

圧力をかけないからなのか、とても綺麗で品のあるお酒になる。

 

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これはもう、大吟醸以上に贅沢な酒だ。

「雫(しずく)酒」 と銘打って販売している蔵もある

(「金寶(きんぽう) 自然酒」 でお馴染みの 仁井田本家 さん)。 

 

「大地さんでこの造りを体験する会員を募って、やってみませんか」

と工場長にそそのかされ、すっかりその気になった参加者が数名。

小さな樽でやるとして、さて、いくらの酒を何本買い取ることになるか......

ちょっと真面目に計算してみようか、とまんざらでもない自分がいたりして。

 

蔵人3人衆。

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左から、社長の次男・哲野(てつや) さん、浅見彰宏さん、板橋大さん。

浅見さんはご存知、山都町に就農した次世代リーダー。

板橋さんは U ターンで山都に戻って農業を始めた。

二人は夏に野菜セットを届けてくれる 「あいづ耕人会たべらんしょ」

の主力メンバーである。

 

自著のPRも忘れない浅見彰宏。 

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来週開催の 「大地を守る東京集会-オーガニックフェスタ」 では、

放射能連続講座でスピーチをお願いしている。  

 

飯豊蔵をバックに、記念撮影。 

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みんなの後ろに積まれた雪の中には、

「雪室貯蔵」 の純米酒が眠っている。

 

さあ、いざ交流会に。 

すみません、続く。 

 



2013年2月 7日

陸前高田で復興にかける八木澤商店、"魂" を語る

 

引き続き、こちらの報告も遅ればせながら。

 

1月22日(火)、大地を守る会の幕張本社に、

岩手県陸前高田市から老舗の醤油メーカー

 (株)八木澤商店の九代目社長、河野通洋さんが来社された。

せっかくの機会だから、ということで

夜に社員向けに河野さんの話を聞く場が設けられた。

 

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1807(文化4) 年、八木澤酒造として創業。 以来205年の歴史を誇る。

全国しょうゆ品評会で何度も農林水産大臣賞を受賞した、

東北一の哲学のある醤油メーカーと称えられてきた。

しかし2011年3月11日の震災で蔵も工場も全壊。

この難局を乗り切るにあたって、

先代の和義さんは息子の通洋さんに再建を託した。

 

絶望的な状況の中で、敢然と 「再建する!」 宣言をした若社長。

いよいよ新工場でのしょうゆ製造開始、まで漕ぎつけた。

快活さの中に気骨を感じさせる青年。

ジョークも飛ばしながら、歯切れのよい語り口で、

八木澤商店復活の物語を語ってくれた。 

 


僕は15分ほど遅れて席に着いたのだが、

通洋さんはちょうど八木澤商店の経営理念を語っていた。 

一.私たちは、食を通して感謝する心を広げ、

   地域の自然と共にすこやかに暮らせる社会をつくります。

一.私たちは、和の心を持って共に学び、

   誠実で優しい食の匠を目指します。

一.私たちは、醤(ひしお) の醸造文化を進化させ伝承することで

   命の環(わ) を未来につないでゆきます。

 

この経営理念に沿って、

まずは自分たち(地域) の自給率を上げることをモットーとして営んできた。

70代の生産者も一緒になって米をつくり、

それを地元の飲食店でも活用し、食育活動にも活かす。

地域丸ごとになって子どもたちを育てることで、後継者が育ち文化が継承されてきた。

それが地域に付加価値を与えることにもつながった。

 

地方にとって厳しい経済情勢の中でも、地域の経営者が集まって、

" 一社も潰さず、一社でも新しい雇用を生み出してゆこう "  と

皆で決算書を持ち寄って話し合ったりしてきた。

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3.11によって、2万4千人の人口の町で1800人が亡くなったが、

皆で助け合って、子どもたちは守りぬいた。

八木澤商店のある地区は 99% が壊滅したが、

3月14日には、「生命の存続 (生きる、暮らしを守る)」 を基本方針に掲げ、

まずは地域の生命維持のための物資の配給ボランティア活動から再出発した。

残った自動車学校をベースキャンプにして、

救援物資を配りながら、教室を使って勉強会を開いた。

官も民もなく、銀行も一緒になって

地域の事業所の倒産防止と雇用の確保のために奔走した。

 

八木澤商店としては、自動車学校に仮住まいをしながら、

4月1日から仲間の同業者に依頼しての委託製造を始め、

5月2日には4アイテムの製品を初出荷することができた。

順次製造アイテムを増やしつつ、商品がそろう前に東京に営業に出た。

 

ミュージシャンを救うことを目的に設立された

ミュージックセキュリティーズという復興ファンドから声がかかり、

半分は義援金・半分はファンドという形で再建のための出資を募り、

目標とした金額を3ヶ月で集めることができた。

 

2011年の12月には一関市花泉町につゆとたれの製造工場を借り、

自社での醤油加工品の製造を再開。

12年5月には同市大東町の小学校跡地を買い取り、新工場の建設に着手。

同年8月、陸前高田市矢作町に残っていた廃業した旅館を改築して

新本社(店舗) をオープンさせた。

外装は土蔵の壁に漆喰を塗った 「なまこ壁」 を再現させた。

 ( 左官屋さんは 「これが人生最後の漆喰塗りの仕事だ」 と語っていたが、

  それが新聞に紹介されたことで、注文が殺到したそうだ。)

小学校の校舎が残ったままの新工場は12月に完成し、

いよいよ念願の新しい仕込みが始まる。

 

震災から半年後の9月、

河野さんたち陸前高田の経営者が集まって、

復興のためのまちづくりの会社 「なつかしい未来創造 株式会社」 を設立した。

復興の先にある 「なつかしい未来」 に向かって、

50年で500人の雇用を生み出す新事業を展開させるのだと言う。

" 私たちは、みんながニコニコできる地域をつくるため、

  人々が共感する事業をたくさん生み出します。 "  と謳う。 

この会社の設立には、大地を守る会代表の藤田和芳が代表理事を務める

社団法人 ソーシャル・ビジネス・ネットワーク」 も協力している。

 

「 被災地は暗い顔して暮らしてると思ってませんか?

 そんなことはありません。 むしろ都会の人より明るく前を向いてます」

と言い切る河野通洋さん。

彼が言う岩手県人のポリシーは、

宮沢賢治が 「農民芸術概論綱要」 で謳った  " 全体幸福論 " 

(「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」) である。

たしかに、昨年10月に紹介した 山形村のバッタリー村 にも掲げられていた。

 

また、いま抱いている思いとして、彼は新渡戸稲造の言葉を挙げた。

「 逆境にある人は常に もう少しだ と言って進むといい。

 やがて必ず前途に光がさしてくる。」

 

「 もう少しだ、もう少しだ、と言い聞かせながら前に進んでいきたい。

 そして今年には、売上を採算分岐点まで回復させます。」

そう明言して胸を張る河野通洋さん。 輝いてるね。

この若きリーダーと彼を信じる仲間たちなら、やり遂げるに違いない。

そういえば昨年の9月、学生のインターンシップを受け入れた際に、

復興支援の一環で八木澤商店の若い女性社員が一人、研修で参加されていた。

あの子もきっと目を輝かせながら今日も働いていることだろう。

 

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八木澤商店の HP はこちらから

 ⇒ http://www.yagisawa-s.co.jp/ 

3.11直後の生々しい様子、そして復興にかける意気込みが伝わってきます。

 

なお、大地を守る会のウェブストア では、

「八木澤商店のしょうゆドレッシング」 をご紹介中です。

ご利用いいただければ嬉しいです。

 



2013年2月 6日

未来を食い尽さない 「地球食」-海洋編

 

順番が逆になって、日も経ってしまったけど、

この報告もアップしておきたい。

ニホンウナギがついに環境省のレッド・リストで絶滅危惧種に指定され、

ロシアでは生きたカニの輸出を禁止するという、

漁業資源存亡の危機がいよいよ目に見えてきた昨今の情勢もあるし。

 

1月21日(月)、丸の内・新丸ビル 「エコッツェリア」 にて開かれた

地球大学アドバンス [ 食の大学 ] シリーズ第5回。

未来を食い尽さない 「地球食」 デザイン

 -世界の海洋の現状と水産資源保全への取り組み-

 

70億に膨らんだ人類の海洋資源利用は、持続不能な形で進行している。

マグロをはじめ大型魚の 90% がすでに消滅し、

トロールや衛星技術で魚群を追跡する現代漁業は、

まさに地球の資本金を食いつぶす両刃の剣でもある。

海洋生態系のゆりかごである世界のサンゴ礁やマングローブも

乱開発で危機に瀕している。

また地球温暖化の影響か、水産資源の最も豊かなベーリング海でも

食物連鎖の底辺を支える植物プランクトンの増殖に異変が報告されるなど、

海洋資源の再生能力そのものの脆弱化も懸念されている。

 

未来を消し費やすような20世紀型の 「地球食」 のパターンを

いかにリセットしうるか?

" sushi "  などの魚食文化をグローバル・スタンダードに広めた日本が、

そして国際的な食のハブである TOKYO が、

そこにどんな新たなベクトルを提示できるか?

 (以上、今回のイントロダクションより)

 

今回のゲストは、

● WWF(世界自然保護基金) ジャパン・水産プロジェクトリーダー、山内愛子さん。

● MSC(海洋管理協議会) 日本事務所・漁業認証担当マネージャー、大元鈴子さん。

● 味の素(株) 環境・安全部兼CSR部専任部長、杉本信幸さん。

司会は例によって、竹村真一さん(京都造形芸術大学教授)。

 

海とのつながり、海洋資源とのつながりをどう再構築(回復)させるか。

地球を食い尽さない魚食文化のあり方を、今日は考えたい。

 - 竹村さんのリードで、3名の方からの報告を受ける。

 


まずは山内愛子さん。

WWF(World Wide Fund for Nature) は世界100ヶ国以上に支部を持つ

世界最大の自然保護団体で、1961年に設立された。

日本支部の設立は10年後の71年。 本部はスイスにある。

世界中に5,000人以上のスタッフを抱え、

500万人以上のサポーターによって支えられている。

 

世界では30億の人々が魚を動物性たんぱく源として暮らしているのだが、

漁獲量上位10種の魚がおしなべて枯渇に向かっている。

しかもその 28% が乱獲されている状態で、

いま水産資源の状況は分岐点に直面している。

減っている理由は、乱獲(過剰漁獲) に加え、

混獲(目的外の魚も一緒に獲ってしまう) による目的外魚種の海洋投棄、

そして IUU 漁業 (違法、無報告、無規制) がある。

養殖の分野では、南半球には存在しなかったサーモンが

チリのパタゴニア地方で養殖されるようになり、

逃げた魚からすでに10世代にわたって生息するまでになった。

それらの結果として生態系へのダメージが破局的に進んでいるのだが、

消費者は正確な情報が伝わらず、南米で養殖されたサーモンや

違法漁業による魚を食べさせられている。

 

そんななかで、WWF が取り組んできた事例として、

ロシア・カムチャッカ半島、オゼルナヤ川のベニザケ漁での

MSC 認証の取得を、財政面や技術面から支援してきたことが紹介された。

MSC とは、適切に資源管理された持続可能な漁業であることを認定する制度で、

認証された魚は、「海のエコラベル」 と言われる青いラベルを貼付して

販売することができる。

MSC によって認証されたシーフードは、環境に配慮された製品であるだけでなく、

トレース(原料の追跡) ができるという意味でも評価が広がれば、

そのぶん違法操業などを市場から締め出すことができる。

 

カムチャッカ半島で漁獲されたサーモンの 8割 は日本に輸出されている。

日本人にはぜひ、このMSC認証のベニザケを選んで食べてほしい。

(ちなみに大地を守る会の姿勢は、まずはちゃんと確認された国産を選ぼう、である。)

 

山内さんの話を受ける形で、大元鈴子さんが

MSC 認証についての説明を行なう。

詳細はこちらから ⇒ www.msc.org/jp

すでにヨーロッパを中心に80ヶ国で MSC エコラベルが採用され、

ドイツでは何と販売される水産品の半分が MSC 認証品だとか。 

その波は鮮魚や水産加工品だけでなく、ペットフード業界にまで及んでいる。

今年の1月24日には、米国マクドナルド社が、

国内すべての店舗で MSC 認証水産品を提供すると発表した。

日本では 250~300 の製品が流通されているが、

まだ一般的に認知されたとは言い難く、遅れている感は否めない。

 

味の素(株) の環境・安全部長、杉本信幸さんが取り組んでいるのは、

主力商品である 「ほんだし」 の原料となるカツオの資源調査である。

(独)水産総合研究センター・国際水産資源研究所とタイアップして、

「太平洋沿岸カツオ標識放流共同調査」 を進めている。

釣ったカツオに記録型電子標識(タグ) を付けて海に返し、

遊泳行動や移動経路の調査を進める、というものだ。

今はまだ 169 尾に装着して 7 尾を再捕獲できた段階。

記録型タグはかなり高価なため(1本10万円) 大量に付けることはできないが、

粘り強く継続させることによって、カツオの資源管理や

未解明な部分の多い生態の把握に貢献したいとのこと。

 

3名の報告の後は、ワールドカフェ と呼ばれる

グループに分かれての対話。

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テーブルごとに感想を出し合い、

持続可能な漁業に向けて何が必要なのかを語りあって、

模造紙に書き込んでいく。

最初はけっこう気恥ずかしかったのだが、最近は慣れてきた。

 

話を深めようとしたあたりでメンバー・チェンジが告げられ、

先のテーブルで話し合ったことなどをシェアし、

最後にテーブルごとに、話し合った結果をキャッチフレーズにまとめる。

 

僕のテーブルでは、最後に若者がふと漏らした言葉で

「それでいこう!」 と決めた。

『 食べる人も 育てている 』。

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「食べる」 とは、ただ 「消費」 しているだけではないのだ。

「食べる」 ことは、浪費にも、資源を育てることにも、貢献している。

他にも解釈可能なコピーっぽくて、短時間のわりにはイイ出来かも。

 

ハートのマークでひと言

 - 『 LOVE(愛) 』 とまとめたグループも。

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まあ人はそれぞれにいろんな視点で考えるんだね、という発見がある。

それにしても圧倒的に情報が少ない、いや、届いてないことに気づかされる。

ここに集う人は、多少 「食」 や 「環境」 に対してアンテナの高い人たちだと思うのだが、

普段食べているフツーの食材に関することなのに、

「海や魚のことについてまったく知らなかった」 という人が多かった。

たしかに、東京で普段暮らしていて、漁師さんに会う機会なんて、、、ないか。

 

日本人に、海が遠くなっていってる。。。

食の現場との距離感・・・ これこそ危機の本質的問題だろうか。

 



2013年2月 2日

次世代のために耕し、たたかう -福島新年会から

 

今年の産地新年会シリーズ 「福島編」 は、1月31日から一泊で開催。

今回の幹事となったジェイラップさん(須賀川市) が用意してくれた会場は、

磐梯熱海温泉。 

参加者は9団体から22名+1名(個人契約)、計23名の生産者が参加された。

 

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昨年 は原発事故の影響をモロに受けてきての新年会となり、

河田昌東さん(チェルノブィリ救援・中部) や野中法昌さん(新潟大学) を招いての

対策会議を兼ねたものになったが、

今年もやっぱりこのテーマは外せず、学習会が組まれた。

お呼びしたのは、福島県農業総合センター生産環境部長、吉岡邦雄さん。

農地における放射性物質除去・低減技術の研究・開発に関する

最新の動向を報告いただいた。

 

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東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第1原子力発電所の爆発事故は、

県内の農業生産にとって甚大な影響を与えることになることを予感させた。

そこで県農業総合センターでは、

農地での放射能対策の知見がまったくない中で、

各部署からメンバーを選抜して対策チームを結成し、7本の柱を立てて、

調査・研究と技術開発を進めてきた。

 

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詳細な報告は省かせていただくこととするが、

「県内農用地土壌の放射性物質の分布状況の把握」 では、

事故のあった 3 月末から 8 月まで

県内 371 地点の農地を 8 回にわたって調査し、

続いて 10 月から 2012 年 2 月までに 2,247 地点の調査を行ない、

それぞれ農水省のマップ作成に貢献した。

放射性物質の垂直分布では、耕耘(こううん) することによって、

根からの吸収を低減させることができることを判明させた。

 

「放射性物質の簡易測定法の開発」 では、

NaI シンチレーションカウンターを使っての測定法を開発して

県内 14 ヶ所の農林事務所に配備し、地域の詳細なマップ作りを進めた。

(現在ではガンマ線スペクトロメーターが各市町村・JA に配備され、

 シンチレーションカウンターの役割は終えた。)

 

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収穫された農産物の検査では、ただ作物別の結果を分類するだけでなく、

土壌性質との関係性や肥料成分による効果の違いなどを調べ、

一定の知見を得てきている。

今では定説のように言われている交換性カリウムの有効性も確かめられ、

稲に対するカリを与える適期なども見えてきている。

除去技術では効率的な装置の開発をすすめ一部では実用化に至った。

 - などなど、まだ研究途上のものも含めて網羅的な報告をいただいた。

 

講演後の質疑では、質問は時間をオーバーして続いたのだが、

吉岡さんはひとつひとつ丁寧に答えてくれて、

「いつでも連絡いただければ、できる限りお手伝いいたしますので-」

とも言ってくれた。 

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それぞれのグループからも、報告をいただく。

いわき市の福島有機倶楽部の生産者たちは、津波の被害が甚大で、

残ったメンバーは2軒になってしまった。

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阿部拓さん(写真右端) は宮城で農地を取得し、新たな活路を見出そうとしている。

いわきの農地は今、息子の哲弥さん(左端) が守っている。

小林勝弥さん(中央) も 「苦戦してますが、微生物の力を信じて、頑張ります」。 

 

二本松有機農業研究会、大内信一さん。 

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「耕しながら、放射能とたたかっていく」 と力を込めた。

「 福島をもう一度、安全な農産物の供給基地にしたい。

 次世代につなぐために、安全性を立証させる責任が俺たちにはある 。」

大内さんは仲間らと 『福島百年未来塾』 を立ち上げ、

勉強会を重ねている。

 

福島わかば会(本部は福島市)、大野寛市郎さん。 

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メンバーの住む地域の範囲が広く、バラつきがあるのが悩みだが、

とにかく全員で取り組んできた。

「 今の消費者の気持ちは、安全は分かっても安心ができない、という

 感じのような気がする。

 これからは 「安心」 を取り戻せるよう、消費者とも積極的に会話していきたい。

 オレらも頑張っているので、大地の職員も頑張ってほしい。」(事務局・佐藤泉さん)

 

やまろく米出荷協議会、佐藤正夫さん。

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原発事故によって、長年かけて築いてきたブランドが崩壊した気分である。

特に、有機や特別栽培米が苦戦している。

価格への圧力も厳しい。

農家の経営を守るためにも、肥料設計も見直しながら、

減収させないように支援していきたい。

 

今回の幹事、ジェイラップ (稲田稲作研究会) は5人で参加。

代表で挨拶するのは、常松義彰さん。 

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自分たちだけでなく、須賀川全体の信頼を獲得するために、

徹底的に除染作業に取り組んできた。

ちゃんと安心して食べられる米が作れるのだということを、

周りに伝えていくことが使命だと考えている。

岩崎晃久さん(左端) のひと言。

「いま一歳の子が、元気に育っていく姿を、皆さんに見せます。」

 

そして、喜多方から 「会津電力」 構想をぶち上げた、

大和川酒造店・佐藤弥右衛門さん。

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福島県議会は、脱原発を宣言した。

しかし自然エネルギーの方向性を、県はまだ示せないでいる。

それを形にしていく責任が、我々にはある。

自分たちの手でエネルギーを創出していこう。

 

弥右衛門さんは 「ホラ吹いてたら、あとに引けなくなっちゃったよ」

と笑いながらも、すでに

『社団法人 会津電力』 の設立文書を書き上げている。

2月23日には設立総会が開かれる段取りだ。

 

皆で学び、励まし合い、最後は楽しく飲んだ一夜。

もっとも厳しい、茨の道になっちゃったけれども、

福島の有機農業者たちは、必死で己を鼓吹しながら前に進もうとしている。

共通する思いは、次世代に何を残すか、だ。

福島だからこその希望を発信しよう❢

 

僕も、この場に立ち会った者であることを忘れずに、

今年も歩かなければならない。

 

今年の新年会、これにて終了。

 



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