2013年3月16日

農と医の連携 -さんぶ野菜ネットワーク総会から

 

昨日は成田の某ホテルで、「さんぶ野菜ネットワーク」 の総会に出席した。

2年前の総会は、忘れもしない3月11日。

あの激震は、まさにこの総会の途中で発生した。

会議室から避難して、ホテルのテレビ大画面から見た津波の光景。

これが今起きている現実なのか、、、今でも明瞭に思い出される。

 

そして2年後の3月15日は、安倍首相がついに

TPP (環太平洋連携協定) への交渉参加を表明するという日にぶつかった。

何かが起きる、何かとぶつかるさんぶの総会・・・・

とか言いながら、総会自体は滞りなく終了。

 

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震災よりも原発事故による放射能問題で、

福島だけでなく関東各地の生産地も打撃を受けてきた2年間だった。

それでも 「さんぶ野菜ネットワーク」 では前年を上回る売上実績を果たし、

新規就農者が6名、新たな組合員として迎えられた。

研修生も8名いて、有機農業での自立に向かって頑張っている。

交渉内容が明らかにされないという TPP への不安は拭えず、

詭弁に満ちた開放論に怒りも収まらないが、

ここで後ろ向きになるわけにはいかない。

何とか農地を守りながら、地域を盛り上げていきたい、との決意が語られた。

 

前に呼ばれ、抱負を述べる新組合員の方々。 

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ネットワーク代表の富谷亜喜博さんによれば

「みんなすごい学歴の人たち」 だそう。

頭でっかちにならず、将来の中核になれるよう頑張ってほしい。

 

さて、この日の記念講演に招かれたのは、

北里大学名誉教授で、(財)微生物応用技術研究所長の

陽 捷行(みなみ・かつゆき) さん。

直接お会いするのは初めてだが、北里大学副学長時代に、

藤田社長宛てに送られてくる通信を読ませてもらいながら、

僕はこの方からたくさんのことを学ばせていただいた、そんな経緯がある。

 


陽(みなみ) 先生が一貫して提唱してきたことは、

「環境を基とした農と医の連携」 である。

 

20世紀は、「技術知」(ものをつくる知的能力) の勝利であった。

それによって文明が発達してきたとも言える。

しかし技術知には表と裏、光と影があり、結果的に

様々なかたちでの 「分離の病」 に侵されてきた。

一方で、人類が長い時間を通して生活の場から観察し、獲得してきた知恵がある。

これを陽先生は 「生態知」 と呼ぶ。

生態知は文化の進展をもたらしてきた。

技術知も生態知もともに人間の英知が生み出した貴重な財産である。

これからは、この二つを融合させた 「統合知」 の獲得が求められている。

 

たとえば堆肥などの有機物の施用が作物の増収に役立つ、という知識を

人は経験と観察から獲得したが(生態知)、

技術知に基づく農業生産の増大を目的とした過剰な窒素の使用は、

温室効果ガスの問題や河川の水質汚染、富栄養化などの

環境問題を引き起こしてきた(=分離の病の一形態)。

これからは、作物による窒素吸収効率の向上によって

亜酸化窒素や硝酸態窒素の発生を抑制するといったように、

農業生産と環境保全を健全に調和させる 「統合知」 へと

向かわなければならない。

21世紀は 「分離の病」 を克服する時代となる (でなければ生き残れない)。

 

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ここで忘れられがちなのが、人々の健康の基は何か、ということである。

医療の発達が 「健康」 ではない。

基は、環境と農業(健全な食の生産) である。

かつて農業生産を考える人たちは、よく土壌学を学んだ (陽先生の専門は土壌学である)。

今は環境を考える人たちのほうが土壌学を勉強している。

土の健康(=農) こそ、人の健康(=医) につながっている。

そもそもこの世に境目などないのだが、

学問はすべてを分離させて発展させてきてしまった。

 

農と医と人の健康、この境界をつなぐ言葉は、実は様々にある。

医食同源、身土不二、地産地消・・・そして農医連携だ。

(「農医連携」 は陽先生の造語。 医学の世界には 「医農連携」 という言葉があるが、

 先に病気があるわけではないから、と先生は逆にして使っている。)

 

先生は、農医連携を心した先達の名前を次々と挙げながら話を進める。

何人か挙げると-

・ ヒポクラテス・・・ 「食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか。」

・ シーボルト・・・ 植物の育種から土壌まで研究し、かつ植物の薬効も研究し普及させた。

・ 北里柴三郎・・・ 医の基本は予防にあるとの信念で、環境を通した農と医の連携を説いた。

・ シュタイナー・・・ 宇宙的な生態系の原理に基づくバイオダイナミック農法を提唱。

・ 新渡戸稲造・・・ 「武士道」 の前に、「農業本論」 で 「農業は健康を養う」 と語る。

・ アレキシス・カレル・・・ 「土壌が人間全般の基礎なのであるから、私たちが近代的

  農業経済学のやり方によって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、

  健康な世界がやってくる見込みはない。

  生き物はすべて土壌肥沃度(地力) に応じて健康か不健康になる。」

・ アルバート・ハワード・・・ 有機農業運動の創始者。 「土壌、植物、動物、人間、

  これらの4つの健康は、ひとつの鎖の環で結ばれている。」

・ アンドルー・ワイル・・・ 統合医療の世界的権威。 『医食同源』 『人はなぜ治るのか』 は

  世界的ベストセラー。 「健康な食生活は健康なライフスタイルの礎石である。」

 

日本はこれからの10年、20年で大きく社会構造を変えていく。

防災・地域の再生・医療・介護・農業・・・・・統合した公共政策を築く必要がある。

これに民間としてどう取り組んでいくか、が重要な鍵である。

 

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シャンシャンと総会をやって飲む、んじゃなく、

こうやってしっかり座学も忘れない。

有機農業の人たちは、そういう意味でも、

この国の未来に欠かせない存在なのだと思うのである。 

 

国民の健康は、社会の安定の土台である。

そのためにあるはずのセーフティ・ネットをすべて崩壊させかねない TPP とは、

いったい誰のためか。

自由貿易による 「成長神話」 は、

ひと握りの勝者をつくるために修復を繰り返しながら再構築されてきて、

いよいよ最終のリーグ戦に入ったみたいだ。

恐ろしいのは、このゲームの進行とともに

社会全体が脆弱になっていってるとしか思えないことだ。

このゲームでは、勝者もまた生き残ることはできない。

なぜなら地球の調和(健康) を壊しながら勝ち残ろうとしているワケだから。

その前に、ただアメリカの餌食になるだけのような気もするが。。。

 

陽先生の影響でたくさんの本を読まされたが、

やっぱ僕の中でのベストは、今もってこの一行だね。

『 国民が健康であること、これは平凡な業績ではない。 』

     (アルバート・ハワード  『ハワードの有機農業』 より)

 

さんぶ野菜ネットワークの皆様。

無事総会成立、おめでとうございました。

陽先生とも話ができまして、良い刺激を有り難うございました。

ひるむことなく、前に進みましょう。

 



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