2013年4月29日

児玉龍彦さんが語る、放射能対策と科学者の責任(Ⅲ)

 

前回の補足をひとつ、しておかねばと思う。

パリンドローム (回文的) 増幅 がなぜ起きるのか、について。

その鍵は、切断されたDNAを修復させる際にはたらく酵素が、

通常の細胞増殖ではたらく者たちとは違っていて、

コピーのエラーが起きる確率が100倍くらい高い、ということのようだ。

その酵素が切断されたDNAを修復しようとしたときに、

" たけやぶやけた "  のどっちの方向でコピーしていいのか分からず、

コピー数を増やしておこうとする。

その挙動によって、エラー・コピーの増殖が起きてしまう。

(さらにその細胞がコピーされていくことになる。)

それらがすべてガンにつながるものではないが (そこはまだ確かめられていない)、

いずれにしても  " 修復力が活性化されるから、切れても問題ないのだ " 

などという理屈はもはや成立しなくなった。

これがゲノム解析によって見えてきた世界であり、

議論は不確かな確率論ではなくなってきている、ということである。

 

ウクライナやベラルーシの子どもたちの検査から、

かなりの割合で上記のような甲状腺がん細胞のゲノム異常が見つかったのだが、

しかし他のガンについては、今もって科学全体でコンセンサスは得られないままである。

統計学(疫学)的調査に基づいたエビデンスがない、から。

 

アメリカ学士院会報に報告されたコンセンサスに関する論文によれば、

20 mSv 未満での被ばくでガンが増えるかどうかは、

百万人近い住民をフォローアップしなければ結論は出せない、とされている。

広島や長崎でも数十万人の調査であり、

それでも有効なデータとして使われているが、

低線量被ばくというレベルの問題となると、

いかに統計学的に議論することが困難なことであるか、この数字が物語っている。

その意味においても、チェルノブイリの調査データは

今後さらに重要な意味を持ってくるだろう、と児玉さんは考えている。

 

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人工の放射性物質であるセシウム137 が生まれたのが1945年。

核実験によって初めて環境に放出された。

半減期30年の核種が生まれて、まだ 68年しか経ってないわけで、

健康被害をどうこう結論づけるには、まだまだ時間がかかる。

人類は、本当にとんでもないものを産み落としてしまった。

 


坪倉正治さん(東大医科学研) たちによって進められた健康調査によれば、

継続的に検査した住民のほとんどは、

時間とともにセシウム137 の値は減少した。

しかし一部に、変わらないあるいは増加した人がいて、

原因は食べ物だと推定された。

 (エビ注・・ 野生のキノコや自家用野菜を食べていた人に高い値が出た、というデータ。 

  昨年の講座でも早野龍五さんが指摘したことだが、あの時に

  「家庭菜園の野菜はアブナイのか」 と勘違いされた方がいた。

  問題は家庭菜園ではなくて 「測らずに食べていた野菜」 、

  つまり安全性を確かめずに食べていたということで、

  事実を知ることが防護のたしかな第一歩である、という証しでもある。)

 

さて、食べ物で一番検査実績が多いのが米だが、

調査していく中で、土壌と米のセシウム量に相関関係がない、

という不思議な結果が出てきた。

そこで分かってきたことは、土壌に降ったセシウムは粘土に吸着されたこと

(米には移行しにくくなっている)、

そして落ち葉や雑草などの有機物にくっついてきたものが、

夏になって分解とともにイネに吸収された可能性があること。

- ということは、2012年秋の収穫の米は相当に減るだろうと推測されて、

実際にそのような結果になってきている。

 

年齢別では、年齢が高くなるほど検出割合が高くなっている。

それは高齢になるほど、今まで食べてきたものや食生活を変えない傾向がある

からだと思われる。

 

柿が高く検出されることが分かってきているが、

イメージングプレートで見てみると種に集まっているようだ。 

栗も高い傾向がある。 

セシウムを集める性質の強いものでは、コケやキノコがある。

チェルノブイリでは、事故後数年経ってキノコの数値が上がったという事例もある。

またキノコでも野外で栽培されたものと施設内で作られたものでは、

当然のことながら違うし、施設内でも原木が汚染されていれば高く出る。

このように、どういうものが高く出るのか、まだどう推移するかは、

ひとつひとつ調べていかないと分からない。

 

魚では、淡水で生きる川魚は塩分を体内に溜めようとするので高くなる。

特にコケなどを食べる魚は、長期にわたって高く出る可能性がある。

塩分濃度の高い海に棲む魚は、塩分を排出して調節するため、低くなる。

特に水表面にいる魚や回遊魚はすでにまったく検出されない。

セシウムの移動とともに影響も変わってゆき、

現在での問題は海底に棲む魚、ということになる。

 

昨年設定された100ベクレル(一般食品) という基準は

国際的に見ても厳しい基準であるが、

放射線審議会でこの議論をした際に、

100ベクレルを(連続的に) 検査できる機械があるワケがない

と反論される方がいてビックリした、と児玉さんは振り返る。

児玉さんは事故直後から、BGO検査器(※) を改良すればできることを

主張されてきた経緯がある(例の国会発言でも述べている)。

しかし放射線審議会では、児玉さんの説明が理解されなかった。

政府関係の機関には、先端技術や環境技術を理解する人がいないのだ。

これは実に驚きの話である。

 

そして実際に、昨年1月、30㎏のコメ袋を従来の400倍のスピードで検査できる

検査器が島津製作所によって開発され、

昨年秋には福島全県に配備され、1000万袋を越える全品検査が実現した。

こうして民間でも、1円の補助ももらわずに開発できたことを、忘れないでほしい。

 (※ BGO検査器・・・

    ガンの検診などに用いる医療画像診断用PET装置の技術を応用したもの。

    コメ袋をそのままベルトコンベアーに載せて、流れ作業で検査する。

    測定下限値は、5秒測定で20Bq/㎏、15秒で10Bq/㎏。

    225秒かければ5Bqの測定が可能とされている。

    設定した基準値以下であるかどうかを 〇 X で表示する仕組み。

    ただし形状が一本化されているコメだから可能となるもので、

    その他の食品で全品検査できるものは、まだない。)

 

コメの全袋検査によって、99.8% の米で ND(検出下限値以下) の結果が得られ、

100Bq を超えたものは 0.0007% しか発生しなかったことが確認された。

よく風評被害という言葉が使われるが、それは適切ではない。

検査してないから事実が分からず、不安が広がるのではないか。

BSEの時も、全頭検査を実施したことによって、

牛肉の安全性が確かめられる体制ができ、価格が戻ったという事例がある。

 

全袋検査によって、私たちは全体の概要を知ることができる。

しかしそれができるのは今はまだ福島だけという、

逆転した現象になってしまっている。

 

本日はここまで。

あと一回、最後に除染の必要性について考えたい。

参加者の多くは、いま食べている食品からの影響度を

明解に解説してもらいたかったのかもしれない。

しかし、食べ物はすべての環境条件と人の所作の結果を受け取るものだから、

環境に放出された放射性物質の片づけ方、

この問題をクリアしないと本当の解決にはならない、

と児玉さんは考えるのだ。

 



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