2013年4月28日

児玉龍彦さんが語る、放射能対策と科学者の責任(Ⅱ)

 

放射性物質は人体にどう影響するか。

児玉さんは話を続ける。

(なお、本レポートは、僕が講演から理解した内容として書いているので、

 本稿の文責はすべてエビにあります。 理解に誤りがあればご指摘ください。)

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まずは、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の基本から始まり、

児玉さんが示したデータは、次のようなもの。

 

ヒトのガン細胞をマウスに植えて、抗ガン剤の効果を見た実験がある。

ガンマ線を出す放射性物質を含ませた薬は、診断には使えたが、

治療効果は小さかった。

ベータ線を出す放射性物質をつけた薬は、

薬から2~3ミリの距離までのガン細胞を殺せた。

アルファ線を出す放射性物質をつけた薬は、効果は大きかったが、

その効果は薬から0.04ミリというごく近い距離までしか効かなかった。

 

これによって言えることは、

ベータ線とアルファ線は体内に入らなければ問題は起きないが

(アルファ線は紙一枚で、ベータ線は数cmのプラスチックで遮断できる。

 セシウムやヨウ素から出るガンマ線は突き抜けていく)、

逆に体内に入ると (少量でも) 至近距離の細胞を傷めるため、

内部被ばくのリスクが高まる、ということである。

アルファ線による影響では、トロトラスト(※) の事例が挙げられる。

    (※ Ⅹ線写真を鮮明に撮るために、1920年代にドイツで開発された造影剤。

     二酸化トリウムが使われたが、ほとんど排出されず肝臓に蓄積された。

     トリウムはアルファ線を出す。)

ドイツおよび日本におけるトロトラスト患者のデータによれば、

このアルファ線の影響によって、肝臓ガンが発症し始めたのが20年後。

30年経って急激に増加し始めている。

こういった影響を事前に認識するのは困難である。

 

科学者としての反省として、児玉さんはアスベストを挙げた。

アスベストの問題が指摘され始めたのは80年代からだが、

当時、児玉さんはあまり問題意識を持たなかったと率直に語る。

アスベストによる悪性中皮腫が急増してくるのは、

使用量が増えた時期から40年を経てのことであった。

 

さて、低線量内部被ばくのリスクについての論争は、

実は1950年代から始まっている。

 


かの有名な原爆製造計画 「マンハッタン計画」 に若くして参画し、

プルトニウムの抽出に成功したジョン・ゴフマンという天才化学者が、

その後、放射線影響の疫学的研究によって、低線量被ばくの影響を指摘した。

 (それによってゴフマンは原子力の危険性を訴える活動に転じる。)

 

これに対して、オークリッジ国立研究所とハーウェル原子力研究所が

共同で行なった研究では、ネズミを100万匹使った実験によって、

低い線量ではまず遺伝子の変異は減り、その後高くなるにつれて変異が増加する

傾向があることが示された。

これによって、低い線量による被ばくでは、細胞が刺激され、

傷ついたDNAの修復活動が活発になる (元気になる) と考えられた。

いわゆる 「ホルミシス効果」 の根拠となったものである。

 

この時代にはまだゲノムが解析されてなく、

耳とか尻尾とかの形状の変化で見るようなものだったが、

この研究によって、低線量は問題ないと言われるようになった。

しかし、その説を否定する 「現実」 が発生した。

チェルノブイリ原発事故である。

 

1986年、チェルノブイリで大量の放射性ヨウ素が放出された。

ヨウ素の半減期は8日で、すぐに減少したのだが、

その後、子どもの間で甲状腺ガンが発生してくる。

最初は、診断する数が増えればそのぶん症例も増えるのだろう、

といった反論で否定されたりしたが、

89年あたりから、「今までにないほど甲状腺ガンが増えている」 と言われ出し、

事故10年後の96年にピークを迎え、その後徐々に減少をたどって、

2003年には事故以前のレベルに戻った。

 

この 「現実」 によって、子どもの甲状腺ガン増加の原因は

「チェルノブイリ原発事故」 以外にあり得ない、

とWHO(世界保健機関) が認めたのが2005年。

事故から約20年後のことである。

それまではどんなに指摘がなされても

「エビデンス(証拠) がない」 と否定されてきた。

常にエビデンスが求められるのが科学の世界であるが、

悲劇はその間にも進行する。

 

子どもの甲状腺ガンは元々少なく、

また子どもは細胞増殖が早い (=発症までの時間が短い) ために

ピークが見えて因果関係が証明できたが、

ガンになるまで20~30年かかる大人の場合では、

一時期に多少増えても全体の変動幅に吸収され

(また他の要因も複雑に絡むため)、

低線量被ばくの影響とガンの関係を証明するのは困難である。

 

しかし今では、ゲノムを調べることができる。

ベラルーシの子どもの甲状腺ガン細胞のゲノム異常を調べた結果、

両親から受け継いだ染色体のコピーが、通常 2 コピーのはずなのに、

染色体の 7番の q11 という領域で 3 コピーに増えていた。

 

ゲノム解析から分かってきたことは、

放射線によって切断された染色体の、コピー(細胞増殖) 後の配列で、

回文的増幅(パリンドローム) が起こっている、ということだった。

回文とは、前から読んでも後ろから読んでも同じ言葉、

「たけやぶやけた」 とか、「だんしがしんだ」(とは児玉氏は言ってない)

というやつだ。

切断された配列のそばに、逆向きの繰り返し配列がコピーされ、

それがガンの増殖、悪性化、予後の悪化に関わっている。

  - という理解でいいのだろうか、少々心許ないが。。。

 

とまれ、ベラルーシの子どもたち2万5千人を調べて、

その異常を持つ子が4,000人いたというのである。

DNAは修復される、切れても大丈夫、という話とは真逆の

「仕組みがある」 ということが、ゲノム研究によって解明されてきたのだ。

すべてがガンに発展するわけではないが、

単純に何千人に一人とかいう、ロシアンルーレット的確率論でもない。

少なくとも、コンマ以下の確率のくじを引かされる不安

(引いた私の子にとっては100%のリスク) とは別の、

科学的検証の可能性が見えてきている、と言えるのだろうか。

 

事故直後の被ばく量は、今となっては正確には分からない。

それでも将来への漠とした不安にさいなまれるのでなく、

ちゃんと検査を継続していくことで不安を取り除くことができるのなら、光明である。

そんな希望につながっていることを期待したい。

不幸な社会ではあるけれど。

 

2011年。 本来の環境中にはなかった危険な物質が放出され、

坪倉さん (東大医科学研究所、講座第5回にお呼びする講師) たちの調査で

子どもの体から検出されたと聞かされたときには、本当に悩みました、

と児玉さんは吐露する。

そんなところに住まわせていいのだろうか・・・

 

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それでも一所懸命、食事に気をつけて、除染に取り組んで、

2012年での調査で、ほとんどセシウムが消えたと聞いた時は、

正直ホッとしました、と児玉さんは言う。

ホッとすると同時におそらく、除染を諦めない、と意を新たにしたのだろう。

 

今日はここまで。

こちらも簡単に終われず、続くでスミマセン。

 



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