2013年5月20日

福島の農業再生を支える研究者の使命

 

「特販課」 論議はまあ、これからの行動で語るしかないので、

とりあえず脇に置かせていただき、

福島報告はしておかねばならない。

18日は連続講座、19日は自然エネルギー・コンペ・・・と

どんどんネタが滞留してきているので、端折らせてもらうしかないけど。

 

5月15日(水)、

この2年間、農産物での放射能対策に挑んできた研究者たちの

成果発表と討議が行なわれた。

「福島の農業再生を支える放射性物質対策研究シンポジウム」。

主催は 「独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)」。

共催 「独立行政法人 農業環境技術研究所(農環研)」。

 

会場は、福島駅前にある 「コラッセふくしま多目的ホール」。 

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「原子力災害の克服は国家の課題だ」 と主催者は語る。

しかし 「克服」 とは、どういう状態を指すのだろう。

大地に降った放射性物質が消える、あるいは完全に封じ込められた状態か。

放射能に対する食の安全が達成された、と宣言できることか。

すべての農地で営農が再開され、

農産物が以前と同じように普通に売れようになることか。

15万人におよぶ避難者が帰還でき、あるいは新天地で、希望を取り戻すことか。

そしてみんなが放射能を恐れることなく、笑顔で暮らせるようになることか・・・

言葉の意味においては、それやこれやすべてだろう。

加えて、国民を欺き通してきた原子力政策を乗り越えること、

も忘れずに付け加えておきたい。

「克服」 には、気の遠くなるような時間と営為の積み重ねが必要である。

その代償がどれほどのものになるかは、誰にも分からない。

 

シンポジウムで発表された研究成果は、

だいたいこれまで聞き及んでいた内容だった。

上記の問いに照らし合わせるなら、

土壌や環境下での放射性物質の挙動について、

我々はようやくその原理を掴みかけてきた、というレベルか。

これはもちろん研究者を揶揄しているのではない。

みんな頑張ってきたなぁ、と敬意を表するものである。

研究者の社会的使命を強く自覚する人たちにも、たくさん出合った2年間だった。

国の研究機関に勤めているからといって、いわゆる御用学者ばかりではない。

善人と悪人がいるのではなくて、

みんなその間で悩み、判断を選択し、試行錯誤してきた、と言うべきか-

放射能に対して、科学はかくも不確かなものだった。

 

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講演は、以下の3題。

◆ 「農地における放射性物質の動態解明」

  - 農環研・研究コーディネーター 谷山一郎氏。

◆ 「農地除染及び農作物への放射性物質の移行低減技術」

  - 農研機構・震災復興研究統括監 木村武氏。

◆ 「福島県における水稲の放射性物質吸収抑制対策確立の取組と今後の研究について」

  - 福島県農業総合センター生産環境部長 吉岡邦雄氏。

 

吉岡さんについては、今年の 福島での生産者新年会 でもお呼びしたので、

ご参照いただければありがたい。

 

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パネルディスカッションを前に、

ゲストで招かれた飯舘村村長、菅野典雄さんが語る。 

 

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   どこよりも美しい村をつくろうと、

   誇りを持って築いてきた人口6000人の村が、全村避難となった。

   私たちは、放射能に対してまったく無知だった。

   放射能対策は、他の災害とはまったく違う。

   ゼロからの再出発なら頑張れる。

   しかしこれは、長い時間をかけてゼロに向かっていくたたかいである。

 

   何より心の分断がつらい。

   家族が分断される、離婚するケースもある、 わずかの差で賠償の有無が分かれる。

   戻って農業をやれるのか不安が消えず、勤労意欲が減退している。

   精神戦争をやっているような気持ちである。

 

   どうせなら除染の先進モデルになりたい。

   やれば間違いなく線量は下がる。

   栽培した(耕した) ほうが低くなるという結果も得られている。

   村を追われたものにとっては " 除染なくして帰村なし "  である。

   「対費用効果を考えれば除染は意味がない」 というのは、

   我々を冒とくする意見である。

   世界の笑いものにならないか。

 

   避難した先でも、農業の現場に入って頑張っている若手が20数人いる。

   どうか意欲をもって取り組んでほしいと願っている。

 

   毎日、いろんな対応に追われている。

   原発災害から私たちは何を学ばなければいけないのか。

   それは経済や  " 金しだい "  からの転換ではないか。

   成熟社会のありようを考え直したい。

   そして、世界から尊敬される国になりたい・・・

 

パネルディスカッションで事例提供をしたのは以下の3名。

◆ 「被災地の営農再開・農業再生に向けた研究をどう進めるか?」

  - 新潟大学農学部教授 野中昌法氏。

◆ 「小国地区における稲の試験栽培」

  - 東京大学大学院・農学生命科学研究科教授 根本圭介氏。

◆ 「水稲への放射性セシウム吸収抑制対策」

  - 東京農業大学応用生物科学部教授 後藤逸男氏。

 

二本松で詳細な測定を実施して対策を支援してきた

新潟大学・野中昌法さん。

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他の大学の研究者とも共同で、現場重視・住民主導の復興プログラム

に取り組んできた。

困難と言われてきた森林除染についても、

伐採した樹木をウッドチップにして敷き詰め、菌糸の力でセシウムを吸収させるという、

新たなバイオレメディエーションの実験を計画している。

 

土壌分析では第一人者といわれる東京農大・後藤逸男教授。

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後藤さんには、生産者会議や弊社の分析室職員の研修などで

お世話になった経緯がある。

 

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後藤さんもまた、農地再生と復興に向けた取り組みで最も重要なことは、

農家の営農意欲の復活と向上であると語る。 

 

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パネルディスカッションでは、

農林水産省の方が、復興に向けて先端技術の導入とか

農地の集約化(規模拡大) とかを語った際に

菅野村長が釘を刺したのが印象に残った。 

「 それは経済の発想であって、地域再生ではない。

 人口が半分になったところで地域を守っていけるのか。

 中山間地の環境保全につながる方向を検討してもらいたい。」

 

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人のための、地域のための、環境のための政策を、

小さなモデルでもいいから実践していく。

僕らはひたすら民から提起し続けるのみである。

それが強靭で柔軟性のある社会につながっていることを信じて、やるしかない。

社会的使命を自覚する研究者を育てるのも、

官や政治を変えるのも、民度にかかっている。

 



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