2013年6月 1日

未来のために -河田講座レポート②

 

まったく書く時間がなくなってきているので、

余計な近況報告や独り言はやめて、先を急ぎたい。

河田昌東さんの話。

 

ゼッタイに起こしてはいけない原発事故だったが、

起きてしまった以上、チェルノブイリの経験をどう生かすか、

私たちに何ができるのかを、河田さんたちは悩み、考えた。

そして原発事故から一ヶ月後、

「チェルノブイリ救援・中部」(以下 「チェル救」 と省略) は

バスを仕立てて南相馬市を回った。

 

南相馬は地震と津波と原発事故という3重苦にあって、

大変な混乱をきたしていた。

市長とも会見するが、市に測定器が一台しかないため

汚染の実態が把握できず、

何からどう手を付けていったらよいのか、つかめずにいた。

そこで依頼を受け河田さんたちが始めたのが、

市内全域の放射線測定と食品や水などの測定サービス、

そして測定器の貸し出し。

測定サービスもするが、

自分たちで身の回りのものを測れるようにすることが大事だと考えた。

 

配布した測定器はウクライナ製。

ずっとチェル救が支援してきたウクライナから、

今度は我々が助ける番だと支援の申し出があって、

測定器がほしいと頼んだところ、

あっという間にカンパが集まって、125台もの測定器が届けられたという。

(この2年、僕らはこういう信頼の輪を築いてこれただろうか・・・

 身を守ることも大切だが、未来のための作業も欠かせない。)

 

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放射線測定では、市内全域を 500m メッシュで区切り、

汚染マップを作成した。

そして同一地点で半年ごとに定点観測を実施し、変化を見るようにした。

測定は現地住民と共同で行なった。

 


測定は2011年6月から開始され、今年4月までに5回行なわれた。

毎回測定ポイントを増やしてきて、4月は 966ヶ所 で実施している。

そこで見えてきた変化は、

物理的半減期より 2 倍以上速いスピードで線量が低下してきていることだった。

最新のデータでは、年間 1mSv 以下の地点が半分以上になった。

5 mSv 以上がまだ約 6% 残っているものの、

こういう現実を知ることは、住民にとって気を落ち着かせる大事な要素であり、

心強い支援になっていることだろうと思う。

 

福一の事故では、セシウム137 と134 はほぼ同じ量が放出されたと見られている。

半減期2年の 134 はすでに半分になっている。

それが総量の減少につながっているわけだが、

しかし半減期が短いということは、

そのぶんエネルギーが大きいということでもあり、けっして良いことではない。

半減期 8 日のヨウ素のエネルギーはさらに高く、

その影響はグレーのまま残っている。

継続的な健康調査がなされなければならない。

 

測定第3期(2012年4月) と 第4期(2012年10月) を比較すると、

低線量域が拡大している。

雨によって流れただけでなく、土壌の遮蔽効果によって

空間線量が低下し、内部被ばくのリスクを下げていることが読み取れる。

(土は偉大だ。 除染の意味もここにある。)

山側をのぞいて、住んでもよいレベルにはなってきている。

 

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食品などの測定サービスでは、2011年6月に

放射能測定センターを立ち上げた。

ポイントは住民が自ら判断できるようにすること。

そのためのアドバイスをするのが我々の役割だと、河田さんは語る。 

測定員は現地ボランティア10名。

これまでで 3200 件くらいの検査を実施してきている。

 

野菜類の測定結果では、87 %が 25 Bq 以下というデータが得られている。

チェルノブイリに比べて相当に低い。

これは土壌の性質による。

できるだけたくさん測ることで、高い(吸収しやすい) もの、低い(吸収しにくい)もの

が分類できるようになる。

栽培の時期や部位によっても濃度は違う (里芋の芋は低いが茎は高い、など)。

こういった解析によって、栽培可能な品目が見えてくる。

 

果物では、柑橘類・栗・柿・キウイ・ブルーベリー類が比較的高く出たが、

飛んで来た時に葉があった常緑樹や樹皮に凹凸がある樹種である。

落葉果樹でもその時に葉があれば高く出る。

汚染の低かった果物は、林檎・桃・梨・スイカ。

しかし落葉果樹でも、今後の土壌からの影響は油断できない。

落ち葉が腐葉土化していくと根からの吸収があり得る。

チェルノブイリでも、森の汚染はなかなか減らなかった。

時間の経過とともに、汚染の循環(葉 → 土 → 根から吸収 → 葉) が始まる。

 

果樹園での除染では、表土剥離試験で有効性が確かめれらている。

すべての園地でできるものではないかもしれないが、

今後の推移次第では、考慮しておかなければならないのではないか。

 

コメについては、この2年でほぼ対策が見えてきている。

高い濃度で検出されたのは、山の水が直接入るところ、カリウム濃度が低い田んぼ。

須賀川市のジェイラップ(稲田稲作研究会) が取った対策は

素晴らしい結果を生んでいる。

玄米から白米にすると、セシウム濃度はほぼ半分になり、

炊飯するとさらに10分の1 程度に下がる。

白米で食べる場合は、すでに問題になるレベルのものはないと考える。

玄米の場合は、測定結果をたしかめて選ぶこと。

 

また、モチ米は非常に低いというデータになっている。

低アミロース米は低いと考えられるが、

断定するにはまだデータを蓄積する必要がある。

これから濃度が上がるような田んぼでは、

水(正確には懸濁水) 対策が必要となる。

ゼオライトの有効性が確かめられているが、もっと良いのはモミ殻である。

モミ殻はゼオライトの 15 倍の吸着能力がある。

(これらの知見や成果の獲得は、

 有機農業者たちの探究と実践の賜物だと僕は思っている。)

 

魚では、淡水魚はまだ高い濃度で検出されている。

南相馬には川魚漁を営んでいた漁師さんたちがいたが、

悲しいことに経営は成り立たなくなってしまった。

 

野草や雑草で高く出るものがあるが、

それはかえって除染植物として使える可能性がある(バイオレメディエーション)。

 

土壌からの除去という点だけで言えば表土剥離が一番なのだろうが、

それが困難な場合でも、汚染しにくい作物を植える、

カリウム施肥やゼオライト投入などで汚染の抑制をはかる、

吸収しやすい作物(植物) で土壌浄化をはかる(菜の花プロジェクトなど)、

非食用作物の栽培でバイオエネルギーを生産する、

などなど、いろんな工夫で地域の復興を目指していきたい。

 

最後に、暮らしの中での被ばく対策について。

すみません。

今日はここまで。

 


Comment:

 籾殻や除染植物の処理はどうなるのでしょうか?埋めるのでしょうか?

from "樋口陽子" at 2013年7月 1日 22:30

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