2013年8月 8日
原発 23 kmでの医療支援から(Ⅱ)
放射能連続講座Ⅱ-第5回、
坪倉正治さんの話を続ける。
放射線は、ゼロか1か、といった問題ではなく、あくまでも量の問題である、
と坪倉さんは力説する。
たしかに、ゼロということはあり得ない。
地球自体が大きな原子炉とも言えるし、宇宙からも飛んでくる。
60年代には大気圏核実験が頻繁に行なわれ、
世界中の人々が被ばくしている。
その影響はまだゼロにはなっていない。
今もフクイチからは汚染水が垂れ流されているし、
空中にも放出されているようである。
しかし、幸いなことに、
今のところ南相馬市内で空間線量が上がったり、
HBC(ホールボディカウンター) でヨウ素131 が新たに検出されるということは
起きていない。
つまり今のところ (あくまでも " 今のところ " )
リスクが上がっているという状況ではない、ということは言えるだろう。
もちろん、モニタリングの強化と検査の継続が必要なことは
言うまでもないことである。
内部被ばくも、その量や推移が問題になる。
そこで内部被ばく量を測るのに、一番手っ取り早いのが HBC である。
測定時間によって検出限界値が変わるのは他の測定器と同じ。
「ここまで測ることができますよ」 ということであって、
機械は完全無欠ではない。
ちなみに坪倉さんたちが行なっている検査は、
測定時間 2 分、検出限界値は 250Bq(ベクレル)/Body。
/Body(パー・ボディ) であることに注意してほしい。
数字を自分の体重で割って、/㎏ の数字になる。
仮に体重 60㎏ の人で 300Bq の数値が出たなら、
300 ÷ 60 = 5 Bq/㎏、ということになる。
2011年9月に、ようやく最新の機械が入った。
1台5千万円クラスのもの。
現在では福島県内に HBC が 40~50台配備されている。
今まで 30万人の検査が終わっている段階だが、
残念ながら、その結果が充分に伝わっているとは言えない。
検査をすれば、結果を伝えることになる。
当然、数字はゼロではないので、継続的な検査が必要だとか、
食べものに気をつけるように、といった話を家族にする。
一人(1家族) 20分くらい使っていただろうか。
しかし予約が殺到するようになって、翌年の3月まで埋まってパンクした。
話をする時間がなくなり、紙だけで伝える方法に変えたところ、
今度はクレームの嵐となった。
外来でつかみかかられたり、東京から送りこまれたエージェントだと罵られたり、
何のためにやっているのか分からなくなって、外来に出るのが嫌になった。
胃が痛くなって薬を飲んだり、顔面神経麻痺も経験した。
何とか1年で1万人の検査を終えた。
高性能の機械で測った大人8千人のデータでは、
5千人強が ND(検出限界値以下) という結果だった。
そこでチェルノブイリと比較したり、シーベルトに換算し直したりしながら、
リスクの程度を考えてみると、
例えば、大気中核実験が行なわれていた時代の日本人の
セシウム137の平均値が 10~15 Bq/㎏ である。
幸いなことに、南相馬で測定した 95% の人たちは、その数値を下回っていた。
例えば、年間1ミリシーベルトという基準値をベクレルに換算すると、
350~400Bq/㎏ になる。 それに比べればはるかに低い。
だから大丈夫、と言いたいのではない。
少なくとも、いきなり健康被害が起きるような事態ではない、
とは言えるのではないだろうか。
しかしデータを公表すればしたで、マスコミの餌食にされた。
「内部被ばくしている!」 と大々的に騒がれたのだ。
こういう事例を語る時の坪倉さんの話しぶりは、やや投げやりである。
「まあまあ、そんなこともあったというだけのことで・・・」
みたいな。
その後も検査を続けていくなかで、検出率はさらに下がっていく。
今では検出する大人が一部に残る、という程度である。
仮に、検出限界ギリギリの 249Bq/ボディ の人が
この数値のままで1年間過ごした場合の被ばく量は 0.01mSv/年、
程度となる。
リスクがゼロという意味ではない。
レントゲン写真1枚の 3分の1~4分の1 レベルのリスク、
と理解してほしい。
現在は、99.9%の子ども、96~97%の大人が、
そのリスク以下のレベルを維持している、ということである。
250Bq 以下の被ばくを見逃しているのではないか、と問われれば、
答えは YES と言うしかない。
放射性セシウムは体から排出される。
大人だと約4ヶ月で半分くらいになる (生物学的半減期)。
子どもの場合、6歳で1ヶ月、1歳だと10日で半分になる。
ということは、子どもを測って検出されたら、
それは新しい被ばく (今も受けている)、ということになる。
食べて、飲んで、吸って、おしっこで出して、を繰り返しながら、
測定した子どもの 99.9% は検出しない。 ということは、
この3ヶ月で以前より高く摂取している状況ではない。
逆に言えば、事故当時の被ばく量(その時の影響度)は、
今となっては調べられない、ということでもある。
家族全員を調べることの意味がここにある (大人から類推する)。
調べられない最たる物質がヨウ素131 である。
2011年7月には、消えていた。
ただ HBC で測定を開始した事故後4カ月時点での量から、
最大値を推測することは可能である。
そこから類推して、当時の人でも
ほぼ全員が 1mSv 以下だっただろうとは推測できる。
もちろん、この数値をどうリスク評価するかは別である。
少なくともデータが示していることは、
そのレベルのリスク未満にはおさまっている、ということである。
日常生活では、内部被ばくは少なくなっている。
しかし中に、下がらない人、時に上がる人、がパラパラと存在する。
この人たちは何を食べてきたのか。
それもほぼハッキリしてきている。
すみません。 今日はここまで。