2013年8月10日

原発 23 kmでの医療支援から(Ⅲ)

 

坪倉正治医師の話-その3。

 

スーパーで産地を気にして買い物をしている人とそうでない人の間に、

内部被ばくの差はなかった。

これが坪倉さんがやったアンケート調査とHBC(ホールボディカウンター) 検査の

結果である。 

どっちの子供でも、HBCでは同じだった。

ただし検出限界値以下での違いまでは分からない。

ここが聞いているほうには微妙に悩ましいところではあるけれども、

まあ顕著な差はなかったということだ。

 

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現状においてハッキリ言えることは、

食品から均等に放射性物質を摂取しているワケではないこと。

どこどこ産という問題でもない。

むしろどういう類のものを食べたか、が問題である。

内部被ばく線量の高い人に特徴的なのは、

野生の獣肉(イノシシなど) や山菜を好んで食べた人。

内部被ばくは、毎日ちょっとずつ蓄積、というより、何かでポンと上がっている。

ポンと上がって、徐々に減り、ある時ポンと上がる、というような傾向。

 

チェルノブイリでは、トナカイと野生のキノコが大きな要因と言われている。

トナカイはコケを、イノシシはミミズを食べる。

 


坪倉さんの話を聞いていて、

イノシシなんてそう食べないよね、機会もないし、と思われたことだろう。

まったくその通りなんだけど、食べる人にとっては

" 殺めた以上、多少のリスクがあっても、食べる "  相手なのである。

今でも関東以北では調査用に捕獲されているが、

猟をする人の気持ちは、ただ検査するためだけに殺す手伝いはしたくない、

という感じらしい。

獲ったら食べる、美味しくいただく、が基本精神で、

3.11以降、狩猟をする人がめっきり減っている。

おかげで獣害も増えてきている。

原発事故は、いろんな悪循環を生み出しているということである。

しかも  " 食べる "  という生命の根源的営みから、喜びや楽しみや

生に対する敬虔の心根まで奪った。

それらはけっして賠償の対象にはならない。

 

坪倉さんの話に戻る。

内部被ばくは食べ物が主因だが、リスクが万遍なく分散しているワケではない。

特定のもの避ければ、大きく減らすことができる。

大事なのは産地ではなく、種類である。

出荷制限がかかっている食べ物を、しかも未検査のままで、

継続的に食べないこと。

逆に言えば、それくらい大胆に食べないと (線量は)上がらない、

というのが現状である。

もちろん、すべてが収束したわけではないし、

メカニズムがすべて明らかになったワケではない。

食品の検査はまだまだ継続してやっていく必要はある。

 

水も、限りなくゼロに近いけれども、ゼロではない。

しかし問題は水が運ぶ泥であって、水ではない。

ガラスバッジでの線量も明らかに下がってきている。

 

外部被ばくを避けるポイントは、ホットスポットを避けることより、

長時間生活する場所の線量を下げること (必要な場所の除染)。

皮肉な事例を挙げれば、

早期除染された学校の中にいたほうが、(除染していない) 家庭に留まっているより

子供の線量は下がる。

 

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医療の現場にいる者として、伝えておきたいことがある。

( 坪倉さんはむしろこっちを問題にしたいと思っているのではないか、

 と僕には感じられた。)

血圧、コレステロール、糖尿、肥満、それらのリスクが上がると、

心筋梗塞、脳梗塞の可能性が高まる。

心筋梗塞になると、3分の1は病院に辿りつけず亡くなる。

3分の1は病院から帰れなくなる。

残りの3分の1は、薬に頼って生きていかなければならなくなる。

 

仮設住宅で暮らす人の間で、

肥満が+10%、高血圧が+10%、糖尿病は2倍に増えている。

何が大事なのだろうか。

内部被ばく検査も食品検査も大事なことだけれども、

食生活のバランスを崩すことのほうが、よっぽど問題ではないか、と思う。

こういうことを言うと、「内部被ばくを隠すのか」 と言われちゃったりするんだけれど・・・

 

たとえば、ビタミンD という栄養素は骨を作るのに貢献している。

日本人はカルシウム摂取量が低いと言われるが、骨折率は低い。

貢献しているのはビタミンD であり、

その供給源はキノコと魚である。

内部被ばくと必要な栄養摂取のバランスをどう考えたらいいのか・・・

ひと言では言えない、と坪倉さんは口をつぐむ。。。

 

震災後、南相馬の老人ホームでは、

(一定期間内での) 亡くなる人の数が通常の6倍に増えた。

その方々には被ばくの症状はない。

家族の体調の変化は、家族でないと分からないことが多い。

それはとても重要な情報なのだけれども、

環境が変わったことで、キャッチできなくなる。

人間は環境変化にメチャクチャ弱い。。。

 

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今、HBC など検査への関心がとても薄れてきているのが心配だ。

あれだけ殺到してきていたのに、なんで来なくなったのか。

アンケートをとると、土日にやってくれないから、という声が多くあった。

でも、日曜日に開けても、来る人は増えなかった。

 

いかに現場の人たちに情報を伝え、継続的な検査の必要性を理解してもらえるか

が課題である。

そのためにも、と思って、坪倉さんは、

放射線の説明会や子供たち向けの授業を、こまめに積み重ねている。

子供を守ることは、検査の継続と、結果を正しく(冷静に) 解釈できる力を

子供たちに与えることだと考えている。

 

ま、そんなところで、少しでも何かお手伝いできれば、と思って、

ボチボチやってます。

今日は聞いていただいて有り難うございました。

 

・・・講演はピッタリ90分で終了。

すみません、本日はここまで。

 

あと一回、いくつか追記して、

坪倉講座レポートを終わりたい。

 



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