2013年10月16日

連続講座最終回-鎌田實さんが語る " 希望 "

 

台風26号来襲。

電車も止まり、交通網は大混乱の様子。

職場は就業時間になっても人はまばらで、土曜日のようだった。

(それでも物流は止まることなく走ってくれている。)

今日は、農水省で予定されていた

「第2回 日本食文化ナビ活用推進検討会」 も中止の連絡が入る。

 

甚大な被害を受けた地域の方々には、一人でも多くの方の無事と

一日も早い暮らしの復興を祈るしか今の僕には術がない。

一方、北海道・帯広では平年より22日早く積雪を記録したとの報道。

十勝や富良野あたりの生産者の顔が浮かぶ。

どこか狂った自然のリズムだ。

すべてが平衡に向かってのダイナミズムなんだけど。。。

 

暴風とともに凄まじい量の水が太平洋から運ばれてきて、

やられてもやられても、自然の力を受け止めて生きてきた民族。

こんな日、決まって浮かぶ言葉が哲学者・和辻哲郎の 「湿潤」 である。

 

  湿気は最も堪え難く、また最も防ぎ難いものである。

  にもかかわらず、湿気は人間の内に 「自然への対抗」 を呼びさまさない。

  その理由の一つは、

  陸に住む人間にとって、湿潤が自然の恵みを意味するからである。

  洋上において堪え難いモンスーンは、

  実は太陽が海の水を陸に運ぶ車にほかならぬ。

  この水ゆえに夏の太陽の真下にある暑い国土は、

  旺盛なる植物によって覆われる。

  特に暑熱と湿気とを条件とする種々の草木が、この時期に生い、育ち、成熟する。

  大地は至るところ植物的なる 「生」 を現わし、

  従って動物的なる生をも繁栄させるのである。

  かくして人間の世界は、植物的・動物的なる生の充満し横溢せる場所となる。

    (和辻哲郎著 『風土 -人間学的考察-』/岩波文庫より)

 

" 耐える "  とは、ただ我慢することではない。

我々は日々" 鍛え "  られているのだ。

そう思いたい。

 

さて、そろそろこの宿題をまとめなければならない。

10月4日(金)に開催した、

「大地を守る会の 放射能連続講座Ⅱ」 シリーズの最終回(第7回)。

お願いしたのは長野・諏訪中央病院名誉院長で、

日本チェルノブイリ連帯基金 理事長の 鎌田實 さん。

" がんばらない "  けど  " あきらめない "  の人。

 

タイトルは、

『鎌田實さんが語る、希望 ~子供たちの未来のために~』。

" 子供たちの未来のために "  は、

大地を守る会が設立された 38年前から掲げてきたスローガンだ。

あえてこの副題をつけて、鎌田さんにお願いした。

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 (会場は、日比谷図書文化館・コンベンションホール)

 


鎌田さんが語ってくれた話を要約してみる。

 

大地を守る会は、僕に希望を語れという。

しかし、未来への希望を語るためには、

いま様々な局面で起きている  " 分断 "  を乗り越えなければならない。

避難した人たちと残らざるを得なかった人たち、

数値を冷静に読み取り判断しようとする人と 「ゼロでないとダメ」 という人、

帰りたいと願う人と新天地で生きようとする人・・・・・

みんな被害者なのに、いたる所で対立と分断が生まれている。

これを乗り越える道筋を見つけ出さないと、希望は語れない。

被害者は連帯が必要。

スクラムを組んで、政府や東電に要求を続けることが大事である。

 

そのためには、わずかな違いで人を非難したり否定したりしないで、

それぞれの考え方を理解し、接点を見つけ出す努力をしなければならない。

〇か × かではなく、〇に近い△を見つけ出す作業、

それが民主主義の姿だと思う。

 

いま福島の子どもたちのために必要なことは、

健康診断のスピーディな実施、それも継続的にやり続けること。

次に  " 放射能の見える化 " 、そのための徹底した測定と情報公開。

そして保養、できれば一年に1ヶ月程度の期間で。

(代謝の早い子どもは、それだけで劇的に減る。)

低線量内部被ばくの影響についてはまだ分からないことが多い。

だからこそ、徹底した検査でデータを積み上げていくことが必要なのに、

国はまったくやろうとしない。

忘れられていくことを待っているかのようだ。

将来、差別的な  " 分断 "  が起きないためにも、

今やれることをしっかりやっていくことが重要なことだ。

 

最大限やれることをやる、

それが27年間に渡ってチェルノブイリを支援してきた経験で掴んだことだった。

何もやらずに 「大丈夫だ」 と言ったり、

わずかな妥協も許せないと批判し続ける態度は、

現場感覚に合わない。

「(事故が)起きてしまった中で、どうやって子どもの命を守るのか」

という目の前の現実に対しては、

たくさんの考え方があるなかで、〇にできるだけ近い△を探すしかない。

 

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長年地域医療に取り組んできて、長野県は日本一の長寿県になった。

粘り強く生活習慣を変えていく努力をしたが、

例えば減塩の味噌汁を徹底させるより効果的だったのが、

野菜をふんだんに使った具沢山の味噌汁だった。 野菜の力は大きい。

 

しかしもっと興味深いのは、ハーバード大学の研究グループが

日本の長寿の要因を調査して導き出した見解である。

それは 「社会的格差が少ない。 そして人と人の絆・つながりがある」

というものだった。

なぜ長野県が長寿で、医療費が少ないのか。

鎌田の考えは、高齢者の就業率が日本一だということだ。

高齢者が生きがいを持って仕事 (その多くは小さな農業) をし、

助け合って生きている。

お金はたくさんなくても幸せ、これが長寿の秘訣だった。

しかし小さな農も、国民皆保険という素晴らしい医療制度も、

TPPによって崩されようとしている、たいした議論もないまま・・・。

みんなもっと声を上げないといけない。

 

動脈硬化やガン化を起こすフリーラジカルの中に、

活性酸素、農薬、放射線などがあるが、

フリーラジカルを暴れさせないために、抗酸化力のある色素が大切。

野菜を摂ることは、実は放射線防護にも大変有効である。

加えて醗酵食品が挙げられる。

食によって免疫システムを強化することを忘れないようにしたい。

そして自分なりの数値基準を持つことだ。

その判断力を得るためにも、

データを取り続けること、そして見える化が必要なのである。。。

 

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この連続講座も昨年の 6月に始めてから延べ 13回、

12人の専門家と 4人の生産者を招いて

放射能とどう向き合うかを模索してきたけど、

ほぼ鎌田さんの話に集約されたような気がする。

 

しかし、希望を語るためには乗り越えなければならないことがある、

と鎌田さんは強調される。

僕らにはまだ、希望は語れないのか。

どうすれば乗り越えられるのか・・・

いや、答えは、鎌田さんがスライドを映しながら語ったエピソードの中に

見事に示されてあるように思えた。

それは、みんなの中にあるものだ。 

この答え、間違ってないと思う。

長くなったので、次回に。

 



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