2013年11月24日アーカイブ

2013年11月24日

農家と環境に優しい持続的農業を目指して

 

福島の再生、新しい福島づくりをオーガニックの力で!

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11月23日(土)、

「ふくしまオーガニックフェスタ 2013」 に集まったエネルギーに

未来への手ごたえを感じ取り、

閉会後は、 東京からバスを連ねてやってきた

『農と食のあたらしい未来を探る バスツアー』 に合流した。

夜にはそのツアー御一行とともに再び二本松東和地区に舞い戻って

交流会と農家民宿を満喫した。

そんでもって今日は、南相馬まで回って有機農家の取り組みを見させていただき、

渋滞に遭いながらバスに揺られて返ってきた。 東京駅着21時過ぎ。

なんとも濃いい4日間の福島巡りだった。

これをまとめるには、少し熱を冷まさなければならない。

 

  とまあそんな言い訳をして、溜まったメモの整理を急ぎたい。

  11月9日(土)、京橋にある中央区立環境情報センター研修室にて、

  「ネオニコチノイド系農薬を使わない病虫害防除を探るフォーラム」

  が開かれたので参加する。

  主催は 「一般社団法人 アクト・ビヨンド・トラスト」(abt) 。

 

  ネオニコ系農薬については、 以前よりミツバチへの悪影響が指摘されていて、

  EUではこの12月から 3 種類のネオニコ農薬について

  2 年間の暫定禁止措置を決めている。

日本 国内でもこの農薬に対する批判は厳しくなってきているのだが、

  国は逆に使用の拡大、基準の緩和に向けて動いている。

  農家のためと標榜しつつ、実は企業のためだろう。

  現在の僕のスタンスはと言うと、

  生産者が納得できる技術提案をしていかないと変えられない、

  ただ批判だけしてもダメ、という考えだ。

  有機リン系など人体への影響の強い農薬から低毒性農薬

  (ヒトへの影響で言えばネオニコも低毒性に位置づけられる) に

  切り替えてきた 減農薬栽培農家の経過も知っている立場としては、

  農家とともに代替技術を見つけ出していかないと

  現実的な対策にはならないと思うのである。

  批判派と農民がいたずらに対立を深めても何ら得るものはない。

 

  この点については abt さんも同じ認識に立たれていて

まず は農薬に頼らない農業技術を学ぼうということになった。

  生産現場での研究の積み重ねが現在どのレベルにあるのか。

  消費サイドも理解して、ともに歩みたいと思うのである。

  そこで今回推薦したのが、宮崎大学農学部准教授の大野和朗さん。

  大野さんは快く受けてくれた。

  付けたタイトルが、

  「農家が楽になる減農薬農業:天敵を利用した IPM について」。

 " 農家が楽になる " と入れるあたりが現場実証主義者らしい。

 

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IPM (Integrated Pest Management)。

総合的病害虫管理と呼ばれ、

病害虫に対し様々な防除技術を組み合わせて対処することで

人の健康と環境へのリスクを最小限にとどめようという考え方。

ここでは農薬の使用もその一つとして認められるが、

それはあくまでも最終手段となる。

この総合防除の考え方も半世紀におよぶ歴史があるのだが、

残念ながら日本ではまだ普及できているとは言い難い。

例えば、かつて農薬・化学肥料に過度に依存していたオランダが、

IPM に基づいた環境に優しい農業に転換して輸出大国になったのとは

天と地の開きがある。

今もって日本は、単位面積当たりの農薬使用量世界一の座を

韓国と争っている。

 

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IPM 技術の重要な柱が天敵の活用である。 

例えばナスにつく害虫・ミナミキイロアザミウマ。

1979年に東南アジアから侵入した難敵で、農薬に強い。

抵抗性の発達が早く、農薬がすぐに効かなくなるので、

どんどん強力な農薬に頼っていくことになる。

 (農産物の輸入は病原菌や害虫も一緒にやってくる、ということも忘れたくない。

  輸入の拡大は国内農産物の安全性確保も脅かす。)

このアザミウマを食べるのが、ヒメハナカメムシという小さなカメムシだ。

しかし農薬に弱い。

 

ここで大野さんはナス畑での実験結果を披露する。

普通の農薬 ( " 普通 "  とは言いたくないけど・・・) を使った畑と、

天敵に影響の少ない農薬に切り替えた畑の比較。

 

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上の赤い線を見ていただきたい。

農薬を使用するたびにアザミウマの個体数が一時的に減るのだが、

しかし徐々に増えていって、10月から一気に増殖している。

天敵のいないナス畑はアザミウマの天下となり、

結果的に農薬使用量も増える(計20回)。

かたや天敵を保護した畑では、アザミウマはほぼ一定数を保っている。

この間のアザミウマを狙った農薬散布は0、多い畑で2回。

ここまでくるとアザミウマはすでに害虫ではない、

と言ってもいいんじゃないか、とすら思えてくる。

つまり、アザミウマはヒメハナカメムシの餌として適度に存在していて、

両者がバランスを取っているとするなら、

天敵と共存する、居てもよい虫ということだ。

 

害虫を防除するために農薬を散布していたはずが、

天敵がいなくなり、やがて害虫だけが復活して、天下となる。

これを誘導多発生 (リサージェンス) という。

散布回数を増やせば抵抗性の獲得も早まる。

より強力な農薬が必要になる。

ハモグリバエ類、タバココナジラミなども、1990年代から

農薬に高度の抵抗性を発達させた害虫として世界中で問題となった。 

こいつらは、ウィルスも持っている。

 

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さて、天敵を保護するだけでなく、

次には天敵が活躍できる環境づくりを考えたい。 

天敵が必要とする餌(花粉、花蜜など)、代替餌(代替寄主)、越冬場所を

提供するためのインセクタリープラント(天敵温存植物) を植えるなど、

農業景観の植生を多様化する必要がある。

インセクタリープラントには、バジル類やスィートアリッサム、オクラ、

ハゼリンソウ、ソバ、といった名前が挙げられた。

天敵の登場を待つのでなく、

天敵を呼び込む、ほ場にとどめる、能力を高める。

これを保全的生物的防除 (Conservation Biological Control) という。

 

天敵が働かないから農薬が必要、なのではない。

天敵を排除するから化学農薬に依存しなければならなくなる。

また日本はモノカルチャー(単植栽培、一種類の作物だけを植える)

に特化し過ぎてきた。

モノカルチャーでは生態系が貧弱となり、害虫が多発しやすくなる。

保全的生物的防除の視点と対応技術をもっと進化させたい。

 

果菜類(トマト・キュウリ等) では、害虫が媒介する新型ウィルスが現われてきて、

ネオニコチノイド系農薬の使用も増えている。

農家にしてみれば、ウィルスを放置するわけにはいかない。

農薬使用への非難に対しては、

ウィルス蔓延で打撃を被るのは俺たちだ、野菜の値段が上がってもいいのか、

といった消耗な議論が始まる。

 

決め手は、ウィルスではなく媒介する害虫のコントロールだろう。

彼らを、害虫ではなく、ただの虫にしてあげるのだ。

 



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