2014年2月21日

ジェイラップ3年間の思いをぶつける、新春講座

 

昨日は朝日新聞の雑誌 『アエラ』 から、

今日は朝日新聞千葉総局から、取材を受けた。

当会が実施してきた放射能対策について、また現在の状況や

今後の展望などについてお聞きしたいと。

久しぶりの放射能系での取材、しかも続けざまにやってきた。

さらには今日の取材の直後、福島大学の先生から、

朝日の記者を紹介したいのだが、とのメールが飛び込んできた。 

どうやら別な記者さんも同様の取材をして回っているようだ。 

戸惑いつつ、 「さっき1時間半、お話ししたところですが」 とメールを返した次第。


おそらくは、「3.11から 3年~」 の特集でも組まれるのだろうかと察する。

メディアのパターンとして、だいたい  " あの日(その日) "  近くなると 

「あれから〇〇年、忘れまじ」 といった特集が組まれたりする。

それ自体を悪く言うつもりは毛頭ないけれど、

直前になって集まって来られると、やっぱちょっとね。

もっと普段に歩かないと掘り下げられないんじゃないの、とは言ってみたくなる。

「記念日扱い」 で済ますと、アリバイづくりにも見えてくるし。

(『アエラ』 の記者さんはかなり粘り強く福島を歩いている方ではあった。)


当事者にとってそれは、切り離されたおとといの話ではない。

今も日々続くたたかいの核にところに、

" 私の3.11 " (あるいは原発事故と放射能汚染) は脈打っている。

たとえば、この人たちの取り組みをずっとフォーカスし続けてみれば、

希望はどこにあるのかが垣間見えてくるはずだ。


 - と、ジャーナリズムへの苦言を前置きにして、

   アップできてなかったレポートの続きにつなげたい。


1 月 25日(土)、米プロジェクト21主催 『新春講座』 の報告を、遅まきながら。

テーマは、「ジェイラップ2013年の取り組みから学ぶ」。

講師は、ジェイラップ代表・伊藤俊彦さん。

場所は、大地を守る会六本木会議室。

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僕らがずっと大事にしてきたアイテム、「大地を守る会の備蓄米」。

作ってくれている生産者団体である 「稲田稲作研究会」 と、

彼らの米づくりを全面的に支え、集荷から貯蔵-精米-販売まで一手に引き受ける

(株)ジェイラップが一体となって進めてきた除染対策は、

この 3 年間ではたしてどこまで到達したか。


昨年(2013年) 産の備蓄米は、我々の通常の測定で

検出限界値(3Bq) 未満まで下がってきているのだが、

ジェイラップではさらに精密な長時間測定を検査機関に依頼し、

炊いたご飯にして 0.2 Bq未満というレベルまで確認している。

これは被ばくの基準とされる年間 1mSv の 10 万分の 1 に相当する。

さすがにここまでくれば、「西の方が安全」 とは言わせないぞ、

という思いが伊藤さんにはある。


福島、いや日本の農産物では、今はもう

食べて内部被ばくを心配するレベルではないだろう、と伊藤さんは考えている。

ただし、継続して測ることが重要である。

また、どういった知識や理解をもって(出荷等の) 判断をしているのか

を見ておくこと(=見える相手であること) が大切である、

も付け加えた。

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さらに、ちゃんと繊維質を摂ることが大事だと、食べ方を語ることも忘れない。

チェルノブィリ後のウクライナでも、黒いパン(全粒粉のパン) を食べよ、

という食事指導がされた。

玄麦のほうが濃度が高くても、排出力と免疫力強化において勝る、

という判断からである。

消化しないものの中にデトックス効果がある。

心配し過ぎて食事のバランスが乱れることのほうが危ない、は正しい。

伊藤さんは、こういった対策の基礎知識を、

小児科医の 菅谷昭さん(現松本市長) や、チェルノブイリ救援・中部の河田昌東さんなど

多くの識者にぶつかりながら吸収してきた。


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さらに伊藤さんやジェイラップ、稲作研究会の人たちのすごいところは、

得た知見や仮説をすぐに実験や実践に結びつけていったことだろう。

とにかく家族を守るために、やれるだけのことをやる。 あとで後悔しないためにも。

一生懸命やって無駄なことはない、と信じて仲間とやってきた。

・・・伊藤節が炸裂し始める。


ジェイラップは、2011年秋の収穫が終わってから、

田んぼの反転耕(天地返し) に取り組み始めた。

有効土層(表土) 15センチと下層土 15センチをひっくり返す作業である。

周りからは、そんなことをしたらコメが作れなくなるとか機械が入らなくなる

といった批判もあったようだが、伊藤さんたちはひるまなかった。

それまでの様々な実験や調査によって、科学的根拠を獲得していたのだ。


水田土壌は畑と違い、耕起作業で放射性セシウムが平均的に分散されない。

セシウムは比重の軽い粒子に付着しやすく、代かきをした際には、

表層の懸濁水のほうが高い濃度になる。

何度やったとしても、水に浮く軽い土壌粒子とともに上に移動する。

そのセシウムはやがて沈降し表土に堆積する。

したがって田んぼでは、表層10センチに9割のセシウムが集積することになる。

この事実を、彼らは自分たちの実験で立証していたのである。


天地返しすることによって、確実に線量は下がる。

そのあと、ゆるくなった田んぼは踏み固めればよい。

その確信のもと、

2011年秋から冬にかけて、まずは仲間の水田 30ha で実施した。

線量の低下を証明し、さらに翌年にちゃんと美味い米が獲れたことで、

地元の農家たちを唸らせた。

2012年秋は 120ha までに拡大した。

そして、「伊藤たちの言っているほうがまともじゃないか」 「ジェイラップにやってほしい」

という住民の声の高まりとともに、行政も認めざるを得なくなった。

2013年の秋には、行政が窓口になり、反転耕の申し込みを受け付け、

ジェイラップに作業を委託するという形にまで発展した。

今では、須賀川市や福島県の除染マニュアルに反映されるまでに至っている。


彼らをここまで動かせたのは、自分たちの農地は自分たちの手で守る、

という矜持のようなものだ。

「 よそから来たゼネコン任せでは、こんなことはやれないですよ。

 彼らは証明されてないことはできませんから。

 でも私たちが示したのは、表土を剥いで仮置き場を作って、なんていう対策は

 不要だということです。」


反転耕によって、空間線量が 40% 減少した。

これは、米の安全性を守るだけでなく、住民の健康を守る(=吸入による被ばくを防ぐ)

ことにもつながっている。

「 空間線量が高くなるのは、春一番が吹く頃と風の通り道。

 通学する子どもたちの被ばくを防ぐためにも、やってよかったと思いますね。」

そういえば、伊藤さんは前に語っていた。

「 いつか孫やその孫に、よくやったと褒めてもらえるだけのことを、やっておきたい。

 なんであの時やらなかったんだ、なんて言われたら、

 オレは死んでも死にきれない。」

彼にはおそらく、先祖から子孫につながる鎖が見えているのだろう。

 " 今はたすべき責任 "  とは、命のつながりを守ることなのだ。


反転耕は地下水の汚染を招く、と批判する学者がおられた。

それに対しても、伊藤さんの反論は説得力がある。

土壌粒子に付着した放射性セシウムは、1年に 1センチずつ、

壊変(崩壊、30年に半減-60年に4分の1~) しながら沈降していく。

300年で100分の1 になった時点で、3メートル沈んだ計算である。

そんな浅い井戸は、そうない。

むしろ 1000分の1 の濃度に下がるまで、がっちりと土の力で封じ込める。

この方法が最も確実でコストもかからないやり方ではないか。

これはまた、土を守り続ける農業をちゃんと持続させることが大切だ、

ということでもある。


行政の後押しを得て、伊藤さんは、あと2年で

 1,100ha の反転耕を達成させる計画である。

点々とやるのでなく、「片っぱしから、面的な展開」 で進めると。

そうすることで上流からの移染もなくなる。

放射性物質を運ぶのは、風と水である。

対策は地域全体で、面的に取り組むことで有効度が飛躍的に高まる。


反転耕を進めるために、ジェイラップでは欧米の大型トラクターを購入した。

タイヤの直径が 1m80cm もあるデカいやつだ。

チェルノブイリ後の除染にも使われたタイプで、キャビンのドアを閉めると

空気圧が高まって外からの埃が入ってこないように作られている。

オペレーターの健康にも配慮した仕様である。

日本には残念ながらそういうものがない。

1台 1200万円、これを 6台 購入した。

誰もが無謀な投資だと指摘した、あるいは笑った。

しかし、伊藤さんの計算はこうである。

日本のトラクターは軽量化が進んでいるため、

だいたい 2,500時間でエンジンの交換が必要になる。

だけどこいつは、25,000時間持つ。

また北海道の畜産農家だと、このクラスの機械を使う。

北海道の牧場に人気のある機種にして、

3年後に半額で売却する買い手を見つけておけば、何とかなる。。。

そして実際に、そうしたのである。

この話には、会場からも感嘆の声と拍手が沸いた。


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問題は、やる覚悟があるか、である。

界で初めて、水田が放射性物質に汚染されるという事態に遭った。

しかしその対策では、世界に貢献できるものをつくったという自負はある。

(活かされる、という事態はあってはならないけれども-)

・・・こう言えるだけの研究者が、日本にいるだろうか。


ジェイラップは、この一連の取り組みが高く評価され、

昨年、全国農業コンクールで名誉賞に輝いた。

福島に伊藤俊彦という人物がいたことは、日本にとって幸いであった。

僕は腹の底から、そう思っている。


「こんなに元気になった私を見てほしい、そう思ってやってきました。」

「私が大地を守る会が好きなのは、ただのモノの関係だけでなく、

 しっかりした学び合いがあって、つながっていることです。」

そして最後に、こんなふうに結ばれた。


いま巷では、TPP やら減反政策見直しやらで騒がしいが、

農家もさすがに赤字になってまで米を作り続ける人はいない。

しかしその後は、モノが足りなくなって値上がりしていくことになる。

一次産業をダメにして、最後にしっぺ返しを食うのは消費者ということになる。

食べ物は、ある日突然なくなる。 だんだんに、ということではない。

しかし 「備蓄米」 は、買っていただける分は必ず作り続けます。

作る責任と買う責任が一体になったら、モノづくりはなくならない。

約束を守り合う 1 対 1 の関係があれば、そのつながりは生き残る。

仕組みより、生き方のように思う。

つながってよかったと思える、そう信じ合える関係の中で脈々と生き続ければ、

それはきっと次の時代のマニュアルになる。

そういうところに身を置き続けたいと思う。

「備蓄米」(の申し込み数)は事故によって減ってしまったけれど、

稲田のイノベーションは進んでいます。

もっとイイ産地に、ゼッタイにしてみせます。

これからのたたかいっぷりを、どうか見ていてほしい。


いまジェイラップの倉庫の屋根には、太陽光パネルが貼られている。

さらにもっと多様な自然エネルギーの活用を、伊藤さんは模索している。


この国の未来をどう築き直すのか。

この問いに対して、諦める、という言葉はあり得ない。

明日に希望を渡すためにも、「備蓄米」 は人をつなぎ続けたい。

今年の秋には、去年台風でできなかったぶんも含めて、

盛大に収穫を祝い合いたいと思う。




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