2014年5月 9日

" A級グルメの町 " 邑南町訪問記(Ⅱ)

 

邑南町訪問記、後編。

 

実は今回の訪問の目的の一つに、

有機栽培のブルーべりーの存在があった。

そこで園地を視察させていただく。

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ブルーベリーはいま花の季節。

収穫は7月になる。

 

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サウスムーンなど果実の大きい品種が選ばれているが、

それでも一本の成木から採れる実の量は 2㎏ だという。

米の小袋 1袋ぶん。。。 500本植えて約 1トン。。。

農薬を使わないための手間(コスト) もある。

天敵のカイガラムシはブラシでこすって落とす。

コガネムシはトラップを仕掛けて捕殺する。


受粉にはミツバチを使うが、去年はハチがやってきてくれて

買わずに済んだんだそうだ。

どこから来たのか。 リンゴ園から飛んできたのではないかと、

農園主の森脇豊敏さんは推測している。

「リンゴ園の農薬散布が影響だと思うんですが・・」

と森脇さんの心境は複雑なようだ。

「でもそうだとすると、ここに有機栽培のブルーベリー園があることで、

 ハチもリンゴ園主も救われたんじゃないですか」

と返すと、少し笑ってくれた。

 

地元での販売の他、冷凍して加工原料に回したりしてきたが、

この間需要も伸びてきているとのこと。

というわけで、現在の生産量ではちょっと当方との取引は難しい。

増植計画の検討もされているとのこと。

しかしその場合は品種の選定も鍵になる。

風味・粒の大きさ・生産性・保存性・作りやすさなどを勘案して判断しないと、

数年後の経営に響くことになる。

日当りや昼夜の寒暖差、土地の保水性や雨量

(水を欲しがる果物だが水が多いと味がボケる) なども大事な要素だ。

森脇さんは幾つかの品種の名を挙げながら、

次の園地候補を検討中とのことであった。

長いお付き合いに進められるかどうかは、

これからのこちらの姿勢も問われることになる。

 

棚田百選に選ばれた地区があるというので、

案内してもらった。

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農家の高齢化に加えて米価は低水準というこんにち、

生産効率を上げられない棚田を維持するのは大変なことだ。

あちこちの田んぼが耕作されなくなってしまっている。

それでも荒れないようにと、黒マルチを敷いて雑草を防いでいる。

そのカネにならない仕事は、どんな思いでやられているのだろうか。

翻って思うに、山上から 「田ごとの月」 を愛でられる棚田が、

まるで第Ⅰ種絶滅危惧種のように急速に消えていっているというのに、

この国の文化人たちはいったい何を見ているのだろう。

荒れる風景を嘆きながら、グルメ気取りで輸入食品を頬張ったりしてないか。

田を荒らさず、いつか復元できるなら・・・とマルチで保護している農民たちこそ、

文化人の名に値しないか。

 

加えて感じ入ったのは、家々の美しさだ。

漆喰の白壁に蔵のたたずまいが、とてもいい。

どの家も丹精に手入れされている。

美しいと言わせる村には、必ず誇りの香りがするものだ。

 

こちらが、邑南を有名にさせた 「素材香房 ajikura 」。

地元食材を使用したイタリアンのレストラン。

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味噌だったか醤油だったかの蔵を移築した建物の

店内風景。

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ランチでは、パスタコースを選んだ。

でも順番に出される料理の名前を言われても、

覚えられない。 いや、暫くすると忘れてしまうのだ。

僕はまったくもってグルメになる素質がない。

とにかく野菜が美味しかった。 

ま、僕にとってはそれで充分。

 

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ajikura と同じ建物に併設された 「食の研究所」。

 

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ここには 「耕すシェフ」 と銘打った調理師の研修制度がある。

3年間邑南に住んで、直営の農場で野菜作りを体験しながら料理を学び、

食や農に関わる人材として鍛えられる。

また町内唯一の高校である矢上高校の生徒たちと共同で

地元食材を使った商品開発が行なわれていて、

矢上高校は 「スイーツ甲子園」 で中国大会決勝に進出した実績を持つ。

 

観光施設 「香木(こうぼく) の森公園」。

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ハーブ園にクラフト体験工房、カフェ、温泉、バンガロー

などがあって、滞在型で楽しんでもらう工夫が試行錯誤されている。

 

他にも、わざわざ広島から買いに来る客がいるという

道の駅に設営された地産地消の市場や、有機栽培農家、

山地酪農に挑む青年、チョウザメ(&キャビア) の養殖場

などを案内いただいた。

町の公務員の方が一所懸命、次は、次は、と町の産業のPRに努めてくれる。

ここでも知らされる。 鍵は人に尽きる、ということ。


農水省 「食文化ナビ」 で委員をご一緒した日本総研の藻谷浩介さんが

絶賛した邑南町を、駆け足でたどった 2日間。

" 地域 "  というテーマが一層リアリティを持って迫ってきたのだった。

 

「食文化ナビ」 調査によれば、

平成22年度に設定した目標に対しての現在の実績は-

 ・ 観光入込客数 100万人/年に対して、93万人(単年度)。

 ・ 定住人口 200人に対して、72人(23・24年累計)。

 ・ 食と農に関する起業家 5名に対して、8名(同上)。

 

2年間で 72人が移住した町。

少ないでしょうか。

一ヶ月で 3人、新しい人が引っ越してくる中国山地の町。

それを受け入れる懐の深さと、生まれる新たな仕事。

これが何を意味するか、じっくりと考えたい。

 



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