戎谷徹也: 2009年6月アーカイブ

2009年6月27日

定款変更

 

今日は 「稲作体験2009」 の第1回草取りの日なんだけど、

立場上のプレッシャーも受けて、株式会社大地を守る会の株主総会に

出席することになってしまった。

早々に委任状 (正確には 「議決権行使書」 ) を出していたのに、ちぇ!

 

今日は田んぼの写真が撮れないので、自分の放置田の写真を撮ってみた。

放置田? 耕作放棄という意味じゃなく、放ったらかしているプランターのこと。

5月17日の田植えで余った苗を持ち帰って、二つのプランターに植えたのだが、

一つのほうが水漏れ防止が弱くて貯まらないもんだから、畑状態になってしまう。 

そこで途中から実験気分になって、水だけは補給しながら放置してみた。

 

常に水がひたひたの田んぼ。 草取りもしていない。

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こちらは、水が抜けてしまう田んぼ。

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想像以上に、えらい差が出てしまった。

苗も弱く、株数も少ない。

 

実はこれぞ、田んぼの要諦 (ようてい) なんだよね。

 


田んぼの草取りはしんどい作業だけど、それでも畑より草の種類は少ないのだ。

水を張ることによって陸生の雑草は生えなくさせることができる。

水生雑草は繁茂するけど、泥水状態だから草は抜きやすい。

豊富な水と一緒に生きてきた人々が、自然をちょっと変えて作り上げた

最高の食糧生産装置だと思うのである。

 

これに、苗を育てた後に移植する技術 (田植え) を加えると、

これから伸びてくる草よりは土壌の栄養吸収の競争力を優位にさせる。

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上の右の写真ですら、勢い (=生産力) は弱いけど、

決して草に負けているわけではない。

 

さて-

体験田で、みんながワイワイガヤガヤと楽しく (しんどく) 草取りに熱中している間、

僕は幕張の会議室で、淡々と過ぎる株主総会の議題に付き合っている。

でも今回は、つまらない、なんて言ってはいけないこともあったので、

稲作体験のスタッフ諸君には許してほしい。

会社としての重要な意味を持つ定款変更が、議案として提出されていたのだから。

 

会社の定款に、以下の前文を新設する。

 

  株式会社大地を守る会は、「大地を守る会」 の理念と理想である

  「自然環境に調和した、生命を大切にする社会の実現」 をめざす社会的企業として、

  株式会社としてのあらゆる事業活動を、「日本の第一次産業を守り育てること」、

  「人々の生命と健康を守ること」、そして 「持続可能な社会を創造すること」、

  という社会的使命を果たすために展開する。

 

一年前、会社名を (株)大地から (株)大地を守る会 に変更して

迎えた最初の株主総会で、憲法の前文に相当する文章を定款に加えた。

かなり異色の定款ができたと思う。

これから、わが社のすべての事業はこの " 縛り " を受けることになる。

この仕掛けの意味を、職員諸君は肝に銘ずるべし。

この会社を、ゼッタイにヘタらせない決意の表明なんだからね。

 

今回はもうひとつ、「優先株主」 なるものの新設が提起され、

これも承認されて、株主総会は大きな問題なく終了することができた。

 

でもまあ、田んぼのほうが好きだな、やっぱし。

昨日の、米の生産者会議の解散前に立ち寄った公園には、

紫陽花が咲き誇っていた。

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あ~あ、今年は小金井の阪本吉五郎さん宅のあじさい鑑賞会にも行けなかったなあ。

急いた気分で生きていると、思わぬ失敗もするぞ、とか

花を見つめながら思うのだった。

 



2009年6月26日

有機農業は進化する -米の生産者会議から

 

昨日から2日間、今年で13回目となった 「全国米生産者会議」 を開催する。

大地を守る会の米の生産者たちによる、年に一回の技術研修と交流を兼ねた集まり。

今回の開催地は福島。 幹事はやまろく米出荷協議会さん。

まずは郡山にある福島県農業総合センターという県の研究拠点に集合する。

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「金かけてるなあ...」 といった声もあがるほど立派な研究施設だ。

福島は有機農産物の認証費用を助成する制度をいち早くつくった県で、

このセンターにも 「有機農業推進室」 というどっかで聞いたような部署ができ

 (ウチに挨拶もなく・・・ )、

有機農業の先進県たらんとする意気込みは出ている。

 

幹事団体として挨拶する、やまろく米出荷協議会会長、加藤和雄さん。 

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やまろくさんとのお付き合いも20年近くなる。

" 平成の大冷害 " と言われた1993年。 米の価格が一気に暴騰した時、

これまで支えてくれた取引先や消費者こそ大事だと、

周りの価格に惑わされず我々に米を出し続けてくれた気骨ある団体。

そういう意味では、大地の生産者はみんな強いポリシーの持ち主たちで、

これは我々の誇りでもある。

 


今回は、お二人の研究者に発表をお願いした。

一人は、福島県農業総合センターの主任研究員、二瓶直登さん。 

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テーマは、「アミノ酸を中心とした有機態窒素の養分供給過程」。

 

植物生長に欠かせない成分であるチッソは、硝酸やアンモニアなど無機態チッソ

となって吸収される、というのがこれまでの一般的な理論である。

有機栽培で投入される有機質肥料は、土壌中で微生物によって分解されるが、

多くは腐植物質やタンパク質、アミノ酸態となって存在していて、

これらは無機態チッソへと進まないと植物には吸収されない、と思われがちだった。

化学肥料 (化学的に合成された無機肥料) なら速攻で必要な養分供給ができる。

と考えるなら、化学肥料でよいではないか、となるのだが、

では化学肥料より有機栽培の方が強健に育つという現象があるのは、何によるのか。

実は作物は有機態チッソも直接吸収しているわけなんだけど、

二瓶氏はこの実態をきちんと突き止めようとしたのである。

 

二瓶氏は、有機態チッソの最小単位である20種類のアミノ酸を使って、

それぞれの吸収過程を解析することで、

「アミノ酸は作物の根から、たしかに吸われている」 ことを証明して見せたのだ。

特にグルタミンの吸収がよく、無機態チッソ以上の生育を示したという。

 

これは、これまで有機の世界で語られていた次の理論を裏づける

一つの研究成果となった。

すなわち、植物は、光合成によってつくられた炭水化物と根から吸収された無機態チッソ

を使ってアミノ酸を合成するが、アミノ酸そのものが根から吸収されているとすれば、

植物体内でアミノ酸をつくるエネルギー消費が省略でき、

それによって生育が旺盛になると考えられる。 

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この研究は、これまで農家の経験の積み重ねをベースに進んできた

有機農業の理論を、確実に後押しするものと言える。

そんなことも分かってなかったのか、と思われる方もおられようが、

「植物は基本的に無機物を吸収して育つ」 という原理を

リービッヒというドイツの化学者が見つけて以来、約170年にわたって、

農業科学は無機の研究と化学肥料の開発に力点が注がれてきたのである。

 

ともすると観念論的に見られた有機農業の深~い世界が、

研究者たちが参画してきたことによって、ようやく謎が解かれ始めている。

有機農業理論は、これから本格的に花が開く段階に来たんだと言えるだろうか。

二瓶氏は、「この研究成果は、科学的根拠に基づいた有機質肥料の施用法に向けての、

まだ端緒でしかない」 と語る。

さらなる研究に期待したいところである。

 

続いては、東北農業研究センターの長谷川浩さん。

専門家たちが中心になって結成した 「有機農業学会」 の事務局長も務める研究者だ。

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テーマは、「水稲有機栽培における抑草技術について」。

 

健康な作物づくり、安定した生態系の構築、を土台として

有機栽培技術の基本構成要素を整理して、それぞれでの研究を進め、

自然を生かす総合技術体系として確立させたい。

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湿田では湿田の、乾田では乾田の管理の考え方と技術がある。

これまで様々な対策理論や民間技術が生まれてきたが、

それらをきちんと検証しながら、多様な気象、土壌、地形、水利条件に対応した

抑草技術にしていかなければならない。

雑草対策だけの話ではなく、有機農業の総合理論の中で考えるという、大きな話になった。

 

4年前に有機農業推進法ができてから、

全国で100人を超す研究者が有機の研究に入ったと言われる。

今回のお二人の講演は、有機農業学がこれから一気に深化するという勢いを

感じさせてくれるものだった。

オーガニック革命は、いまも目の前で進んでいるのだ。 

研究者諸君、税金の無駄遣いとか言うのはしばらく控えるので、頑張ってくれたまえ。

 

続いて現場に、なんだけど、講演の話を予想外に長く書いてしまった。

疲れたので、この項続く、とさせていただき、今日はここまで。

 



2009年6月23日

八百屋塾

 

6月21日(日)は、キャンドルナイトの前に、

午前中もうひとつの集まりに参加した。 

「八百屋塾」 という。

都内の八百屋さんたちが有志で結成した野菜の勉強会。

事務局は秋葉原の 「東京都青果物商業協同組合」 のビルの中にあり、

月一回開かれる勉強会もこのビルの会議室で行なわれる。

 

いつもは我が農産グループの職員が勉強がてら参加しているのだが、

今回はみんな都合が悪いとかいうので、自分が参加することにした。

まるでグループ長が一番ヒマみたいな話だけど、

一度出てみたいと思ってはいたのだ。

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今月のテーマは、茄子(ナス) 。

いろんな茄子とともに、時節柄、これから入荷が増えてくるハウスみかんなどが

部屋に並べられている。

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今回の参加者は約60人くらいか。

ほとんどが、八百屋で働く店主さんや店員さんだが、

スーパーのバイヤーさんや野菜ソムリエの女性なども参加しているようだ。

 

この塾を仕掛けたのは、野菜の先生の先生、八百屋の師匠

といわれた故・江澤正平さんである。

野菜の消費が減っているのは、野菜を売る連中が野菜を知らなくなったためだ。

見た目や値段や薄っぺらな栄養学知識だけで野菜を売るのでなく、

野菜ひとつひとつに秘められた文化や魅力、食べ方を語れなければならない。

量販店ではできない、街の八百屋こそ野菜の魅力を伝える使命がある。

江澤さんはよくそんなことを言っていた。

ここは江澤さんの遺志をついで勉強を続ける八百屋さんたちの集まりである。

 

八百屋塾実行委員長の杉本氏から、ナスについての講義が始まる。

 

野菜がどんどん画一化されているなかにあって、

ナスは各地に数多くの品種が残っている面白い野菜である。

ナスは大きく分けて長ナス、丸ナス、その中間の卵型ナスがあるが、

その他にも、青ナス、白ナス、ヨーロッパ・ナスがある。

ナスは1300~1400年前に中国から渡来した。

台湾から九州に入ったのは長ナス系統、朝鮮経由で東北に流れたのが丸ナス系統。

原産はインド東部からバングラデシュあたりで、したがって高温多湿を好む。

西洋にも流れたが、乾燥地帯では定着せず、アジアで品種が多様化しながら育ってきた。

まさにアジアの野菜なのである。

 

長ナスには、熊本の大長ナスや赤ナスがある。

大長ナスは皮が薄く、焼きナスに適している。 赤ナスも柔らかい。

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写真の左が赤ナス (品種名=肥後むらさき)、右が大長ナス (同=黒紫)。 

大長ナスは輪切りにしてドレッシングで食べる。

しかし棚持ちが悪いので、売るには気合いが必要だ。

フランスパンみたいに並べて、「何、これ?」 と聞かれたら、こっちの勝ち。

ホットプレートを置いて、オイル焼きして食べてもらえば、ゼッタイに買ってくれる。

 

丸ナスは、新潟の長岡と山形が品種の宝庫だ。 伝統ナスが残っている。

長岡にはナスを蒸す食文化がある。

梵天丸という品種があって、非常にウマい。

味噌炒めがいい、と言ってピーマンやパプリカも一緒に売ろう。

山形には伝統品種、固定種が残っている。 こういうのも売ってやりたいね。

 

奈良の大和丸ナスは、京都に流れて賀茂ナスになった。

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賀茂ナスは京野菜のブランドになったが、こっちのほうが断然ウマい。

 

泉州(大阪)の水ナスは浅漬け。

朝に漬けて夕方には漬け上がるので、店頭に出して食べてもらう。

 

今はまだハウスなので価格は高めだが、ナスは成り始めると止まらない。

" 親の意見とナスの花は無駄がない "

と言いますよね (すみません。知りませんでした)。

八百屋の腕の見せ所はこれからだってワケだ。

 

見た目だけで売っていては、いいものが来なくなる。

味が伝えられなくなる。

俺たちが卸しにプレシャーをかけないとだめなんだ。

関東の主流は皮の固い卵形。 これは黙っていても売れる。

もっと個性的な売り方を考えないと、こんなに魅力的な野菜を八百屋がダメにしてしまう。

 

・・・・・こんな感じで講義とやり取りが続く。

野菜が好きで、野菜をもっと食べてもらおうと勉強する八百屋さんがいる町は

かなり楽しいはずだ。 ただ有機についての知識はイマイチの感がした。

いつか、こういう人たちとも繋がっていきたいものだと思う。

 

後半は、食べ比べ。

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実は、僕はこれが苦手なのである。

匂い・肉質・味・総合評価、こういう感じで微妙な差異を表すのは難しい。

実際に参加者の感想も、全く逆の意見が出たりする。

きっと、それぞれの育った食環境の影響なのだろう。 それは自然なことである。

僕の今回の最高点は、山形の小ナスの塩もみ。

皮が柔らかく、シャキシャキ感があって香りもよく、美味しかった。

次は愛媛の絹皮ナスってのが印象に残った。

大和丸ナスが試食できなかったのが残念。

 

ハウスみかんについては割愛するが、ひとつだけ面白い質疑があった。

「みかんのワックスって何なんですか?」

「ワックスはワックスだろ。 ・・・油だよ。」

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写真を撮ってみたが、照り加減の違いがお分かりいただけるだろうか。

左がワックスがけしたもの。

これはフルーツワックスと言って、食品添加物である。

鮮度保持被膜剤とか、フルーツコーティング剤として、お菓子 (チョコレートなど) や

錠剤医薬品などのコーティングに使われているものである。

こういう知識だけは八百屋さんより詳しいというのも、

いびつな生き方をしているようで、なんだかヤだね。

 

みかんの皮自体にもワックス成分はあるのだが、

選果の過程で洗ったり、ブラッシングされて天然のワックスが剥がれ、

水分が蒸発して、瑞々しさが失われる。

八百屋さん曰く - ワックスがけしたミカンは萎びない。 しなびる前に傷むんだよね。

そんなレベルで終わっていいのか、と思うが。

 

大地のみかんはもちろんワックスがけなどしていないが、

それは一般市場出しのような作業を必要としないからでもある。

しかし選果は甘くなる。 この辺をちゃんと語る必要があるということか。

いろいろ考えさせられ、勉強になりました。

 

ま、それはそれとして、失礼ながら最後に興味を引いたのが、

このビルである。

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ヨドバシAkiba ビルにへばりつくように建っている。

このビルの中に全国中央市場青果卸協会や全国青果卸売市場協会の本部がある。

 

ここは1989年に太田市場ができるまで、神田青果市場があった場所である。

神田市場跡地とJA (旧国鉄) 所有地の再開発計画の過程では、

第2東京タワー建設の案も出たところだ。

そこにヨドバシカメラ進出の話が出て、電気街が騒然となったという歴史がある。

もしかしてこの建物は、地上げに一人で対抗する地権者のような

八百屋のたたかいがあったのではないか・・・・・

なんて勝手に物語を想像しながら、増上寺に向かうこととする。

今日は長い一日になるんだよね、雨なのに、とか思いつつ。

 



2009年6月22日

100万人のキャンドルナイト in 増上寺

 

電気を消してスローな夜を-

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6月21日、夏至。

地球から見ると太陽が最も北になって、北半球の昼が一番長くなる一日。

この日を中心に、今や全国津々浦々で色んな形で催されるようになった

 100万人のキャンドルナイト

環境省や農水省もバックアップして、たった数年の間に、

100万人どころではない巨大イベントに膨れ上がった。

 

大地を守る会は今年も、東京タワーの消灯カウントダウンを演出するイベント、

「東京八百夜灯2009」 を担当する。

今年の会場は、4年ぶりに帰って参りました、徳川家の菩提寺-港区芝 「増上寺」 。

4年間開催できなかったのは、1回目のときに故忌野清志郎さんが

「ボーズ」 のカツラを被って登場したのがお寺の逆鱗に触れたからとか、

キャンドルのロウがいっぱい境内に残されて出入り禁止になったからだ、

とかの噂があるが、そんなことはなく (まったくない訳ではないが)、

たんにお寺の事情によるものである。

- ということがこれで立証できたか。

 

あいにくの雨にも拘らず、集まってくる人々。

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境内でブース出展していただいた方々。 

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大地を守る会は、フードマイレージのPR。

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まだ明るい午後5時30分、開会。 

オープニングは、恒例となった明星学園の和太鼓演奏から。

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スタッフの控え室にも勇壮な太鼓の響きが伝わってきて、

自然と気持ちも高揚して飛び出してきた。

 

大地を守る会国際局の顧問、小松光一さんと出くわす。

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フィンランドだったかのご友人を連れて、ワインで夏至の夜を楽しもうという寸法だ。

いいですね。

 

だんだんと日も暮れてきて、

ライトアップされた東京タワーと厳粛なお寺のコントラストが映えてくる。

楽しく会話を弾ませていた人々も不思議と沈思するようになり、

あるいはファンタジックな幻想に誘われたりする。

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我々スタッフは、会場全体の警備やら進行補助やらゲストの方々のお世話やらで、

実は舞台を眺めることはほとんどない。

Yae さんの透き通った歌声が控え室まで届くのに、しばし聞き入る程度か。

元総合格闘家の須藤元気さんがギターの弾き語りを披露し、

木原健太郎さんのピアノと宮崎隆睦さんのサックスのセッションがあり、

中嶋朋子さんが詩を朗読し、会場全体が優しさに包まれてくる。

 

オイラはと言えば、ひたすら控え室にて全体の進行につつがないことを確認する。

何かあったら何でもする、いわば非常時の予備要員のようなものだ。

途中からは、酒が入ってしまった某事務局長を

「この部屋から一歩も出すな」 という会長の特命を受けて、仲間の見張り役も引き受ける。

俺たちにスローな夜は許されないのだった。

 

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断続的に降り続ける小雨の中、ずっと立ってライトダウンを待つ人々。。

 

5、4、3、2・・・・・午後8時ジャスト。 消灯。

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全体にどよめきが起こり、少し感動する。

そう、素直に感動するものなのだ。

 

たった2時間、電気を消したからといってなんだっつうのよ、

という声もあることは知っている。

しかし、たった2時間といえども、全国いたるところで、

いろんな建物が同時刻に一斉にライトダウンする、という仕掛けが " 実現 " したことに、

何かを感じた人たちが大勢いたことはたしかである。

環境省が後押ししたことももちろんあるけれど、

それをアリバイ的と揶揄する向きもあるけれど、

辻信一さん (明治学院大学教授) はじめたくさんの著名人が賛同し、

かなりのマンパワーが動いたからこそ、東京タワーも消えた、いや、消したのだ。

これは紛れもなく力だろう。

行動することで何かを変えることはできる、それを " 実感 " する、

という実験 (イベント) は成功した、と思いたい。

 

木原健太郎さんのピアノが静かに語る。 

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ロウソクの灯には、愛がある? 

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去年のイベントの記憶がないのは、どうしてだろう・・・

そうだった、山形の斉藤健一さんの葬儀に出かけたのだ。

東京まで帰ってきて、人が恋しくなって、イベントも終わる頃だというのに、

芝公園に向かったのだった。 香典返しの包みを持ったまま・・・

 

「キャンドルの灯りの中で、熊谷和徳さんのタップダンスを見ながら

 中嶋朋子さんの絵本の朗読を聞くのが、こんなにも幻想的なものとは

 思いもよりませんでした」 という感想があった。

 

たった2時間でも、電気を消して、スローな夜を、愛する人と。

これはいつ実験しても、毎日実践されてもいいことです。

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2009年6月19日

自家採種で食文化と自立を守る

 

はて、軒下にぐるぐると巻かれてある、これは・・・・・・ 

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大根の種です。

 

こんな感じで保存、いえ莢ごと乾燥させているところですね。 

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ここは埼玉県桶川市、中村三善さん宅の倉庫。

中村さんは 「秀明自然農法ネットワーク」 という団体の役員をされている生産者で、

お母さんが自家用に栽培している野菜以外は、すべて種を採っている。

つまり種を買って、野菜を全部出荷するのでなく、

良い個体を残し、花を咲かせ、実を成らせるのだ。

秀明自然農法ネットワークは、「自然農法」 の創始者、岡田茂吉師 (1882~1955) の

教えを受け継ぐ団体のひとつ (自然農法を標榜する団体は複数ある) で、

無農薬・無肥料を原則とする。

そこは家畜糞尿の健全な (の一語は入れておかなければならない) 循環を

是とする有機農業とは技術体系が異なる。

 

しかし今日はべつに自然農法を論ずるために来たのではなくて、

種取り技術を学ぶために、全国から生産者が集まったのだった。

『 第2回 自家採種生産者会議 』 。

中村さんも喜んで受け入れてくれて、小川町の金子美登さんまでやって来てくれた。

 


この人が中村三善さん。

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自然農法のイメージとは違って、リアルに農業経営を語ったりする感じがいい。

僕的には、おもしろ農民 (この用語は大地を守る会顧問・小松光一さんのものだが)

の一人である。

それでもって、種取りに関しては徹底している。

 

そこにこの人の登場。 金子美登さん。

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全国有機農業推進協議会会長。 この人もまた種にこだわり続けている方だ。

大地を守る会の20数年に及ぶ生産者会議の歴史にあって、

今回の集まりは、もしかしてかなり意味のある会議になったのではないだろうか。

テレビ局も2社、取材に入った。

 

中村さんの大根の種取り現場。

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大根は実は多年草で、放っておけばでっかい樹になるんだそうだ。

威勢の良い大根を残し、植え直し、花を咲かせ、種を着かせる。

経済効率から言えば、とてもできない作業である。

 

こちらは玉ねぎ。

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玉ねぎは最も採種の難しい作物だと言う。

「ようやく玉ねぎも採れるようになりました」 と。

ってことは、長年 「札幌黄」 という品種を残してきた北海道の大作幸一さんという人は、

恐るべき玉ねぎの達人なんだと、改めて思うのだった。

 

種を採る -農民の本能は、相当にくすぐられたのではないだろうか。

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これは-

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キャベツが割れ、茎が伸び、種をつけた姿です。

 

見学の後は、座学。

次の登場人物は、野口種苗研究所の野口勲さん。

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固定種 (特性が安定し種が取れる品種) の販売を専門とする種屋さん。

生命の誕生から説き起こし、多様に分化しながら進化してきた生命の奥深さと、

いま進んでいるタネの独占の危うさが語られる。

 

生きる上での根源にあるタネの世界を、僕らはあまりに知らないでいる。

正確に言えば、知らないうちに変質してきているのだ。

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その究極の世界が遺伝子組み換えである。

 

この地球という星のあらゆる場所で、その地域の気象や土壌条件に合った生物が土着し、

それをもとにヒトも含めた生命連鎖が成り立っているはずなのだけれど、

いつの間にか多国籍企業という巨大資本に支配されつつある。

これは人々の自立が奪われることに等しくはないか・・・・・

いや、この星の生命力が失われてゆくことではないか、と言いたい。

 

有機農業というのは、結果として得られた食べ物の安全性を謳っているだけでなくて、

農民が地域の風土とともに生きて、

それによって地域の自立 (自分たちの意思で生きられる権利) や

その土地の食文化を守ろうとするものである。

だからこの地に根づいたタネというものを、自分たちの手で守りたいと思う。

 

少なくとも、植物が交配 (セックス) することを特許の侵害だと訴えるような、

そんな者どもにはゼッタイに支配されたくない、とだけは言わせてほしい。

風や蝶やミツバチたちが花粉を運んでくれることを喜ばずして、どうするよ。

 

世界は " 遺伝子組み換え Vs.有機農業 " の様相を呈してきているような気がする。

タネは、死守しなければならない。

 



2009年6月18日

ハマダぁ! 今度オレとやろう!

 

「ブログは苦行だ」 なんて台詞を吐くことが多くなった。

でも、そんなときに反応があると、嬉しくなって、「やっぱ続けよう」 と思う。

コメント投稿でも、直接の感想やメールでの励ましでも、嬉しい。

仲間とのつながりを実感すると力が湧く。

ヒトであろうが他の動物であろうが、これだけは普遍的にある性の本能なのだろうか。

・・・・・とか言いつつ、お詫びの本題に入るのは、かなり卑怯な手法だ。。。

では、「すみませ~ん」 を挨拶代わりにする種族らしく-

 

てん様、あやこん様、それから花咲農園の戸澤様。

コメントを頂戴しながら、この間、まったくお返事ができておりませんでした。

この場を借りてお詫び申し上げます。

とりあえず直近の 「総会後の弱音」 に対するコメントにはお返事を書かせていただきましたが、

それ以前は、今さら感もあり、このお詫びにてお許しを願うものであります。

 

で、お詫びがてらに、と言ってしまうと失礼な話ですが、

今日はお二人の生産者のブログを紹介させていただきます。

 


まずは、花咲農園・戸澤藤彦様。

戸澤さんのブログも時々は拝見させていただいております。

アファス認証センターによる有機と特栽の監査も無事終了したようで、お疲れ様でした。

それにしても " 天下無敵 " のタイトルは、天下を怖れぬ面の皮の厚さ、と言えます。

僕以上にやり続けるしかありませんので、どうかへこたれないように。

まだ見たことのない方は、どうぞ下記をクリックして、励ましてやってください。

 ⇒ http://www.hanasaka-nouen.com/

 

それから、ここでもう一人、ご紹介させていただきます。

茨城県行方市の平飼卵の生産者、濱田幸生さん。

大地を守る会の機関誌 『NEWS大地を守る』 で、減反問題について書いたところ、

「さすが大地を守る会!」 と、エールのブログを書いてくれました。

 ⇒ 「農と島のありんくりん」 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/

 

5月13日の日記なので、アーカイブで検索してもらうことになりますが、

その前から、そしてその後も、実に熱く減反政策を語っておられる。

僕も時々 「熱いですね」 とか言われることがあるけど、

濱田氏のブログを読むと、その称号は返上しなければならないと思う。

「熱い」 を通り越して、執念のような凄みすら感じさせるブログなのであります。

しかも、この方にはブログなんて苦行でもなんでもないようで、

その筆力たるや・・・・それにしても、長すぎるよ。 俺が言うのもなんだけど。

 

濱田さん。

この場を借りて、格闘技でよくやる挑戦状の手法で返礼とさせていただきます。

8月22日(土)に、六本木で減反問題の勉強会をやるので、ぜひご乱入願いたい。

リングの上から先輩に向かって、人差し指立てて、

 「ハマダぁ! 今度、俺とやろう! かかって来い!」

 -ちゅう感じで、どうでしょう。

 

ところで、濱田さんはロック歌手・忌野清志郎さんとも交流があったんですね。

「私は今日、キヨシローという最良の同時代人を失った」 (5月4日付)

 -ちょっとグッときました。

大地の休憩スペースには、5年前のキャンドルナイトの増上寺のイベントで、

清志郎さんが大地を守る会・おさかな喰楽部の法被を着て、

歌ってくれた写真が飾られています。

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                                 (撮影:大地のカイザー兄)

 

そして今日、随分以前に多少のお付き合いをさせていただいた出版社のK氏が

お見えになられ、一冊の本をプレゼントしてくれました。

『忌(いまわ) -忌野清志郎は生きている!』  (第三書館編集部編)。

たくさんの人たちの、清志郎さんへのメッセージ集です。

一ヶ月で仕上げた、できたてのホヤホヤ。 これから読みます。

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濱田さんなら、こんな軽い言葉を並べて -と言うのかもしれない。

 

ぼくら夢を見たのさ

とってもよく似た夢を (『スローバラード』)

 

そうじゃない。 ぶっ飛ばそうよ、こんな夜。

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来るよね、8月22日。

 

 



2009年6月12日

コモンズ -小さな出版社に伝統の賞

 

コモンズ」という名の出版社がある。

1996年創業で、12年間に発行した書籍は150点というから、

まだ若い小さな出版社である。

代表は大江正章さん。

コモンズを設立する前には 「学陽書房」 という出版社に勤めていて、

15年くらい前だったか、大地を守る会の歴史と活動をまとめた

『 いのちと暮らしを守る株式会社 』 を出版していただいた。

それ以来のお付き合いである。

コモンズの本は当会でも何点か販売してきたので、馴染みの方も多いかと思う。

 

そのコモンズが、「第24回梓会出版文化賞」 の特別賞を受賞した。

といっても出版業界に縁のない方には、ほとんど知られてないのではないかと推察する。

梓会は専門書系の出版社100数社で運営されている社団法人で、

「出版ダイジェスト」 という情報紙を発行している。

今でも気の利いた本屋さんでは無料で配布しているんじゃないかな (-ちょっと自信ない)。

その梓会が、文化的に価値のある出版活動を行なっている出版社を表彰するのが

「梓会出版文化賞」 というわけ。

作家や作品を表彰する賞はいくつもあるが、これは日本で唯一、出版社を表彰するものである。

綱渡り的な経営で生き延びている中小出版社にとって、この受賞は誉れなのだ。

 

ということで、昨日の夜、関係者が集まって、ささやかな祝賀会が開かれた。

秋葉原の居酒屋で、というのが、この人たちの日頃の生態を表しているように思う。

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参加者の多くは同業者たちだが、著者や市民運動関係者の顔もある。

環境・食・農・アジア・自治、をテーマに、腰をすえて一点一点大切に本を出してきた

大江さんの姿勢を尊敬する人たちだ。 

みんなで大江さんを称える。

同種の出版活動を行なっている人たちにとっても嬉しいことであり、

かつ相当な励みになったようだ。

 

大江正章。

編集者でありながら、古くから有機農業運動に関わり、

自らも茨城県八郷町で田んぼを耕している。

昨年自ら著した岩波新書の 『地域の力』 がけっこう売れていて、

講演依頼も増えていると聞く。

照れ屋のくせに、喋りだすと意外と饒舌で、熱い男である。

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彼と僕とは同世代で、学部は違うが同じ大学出身で、

何と、かなりご近所に下宿していたことが、昨日飲んでいて初めて判明した。

西早稲田の、神田川にかかる面影橋の近くの、あの銭湯、あの質屋・・・・・

分かる、分かる、エビちゃんがいた下宿屋、ほぼ分かる。

あの運動、あの集会・・・・・え? エビちゃんは〇〇派だったの?

いや、周りはそう思っていたようだけど、俺はただ学生の自治を守ろうとしただけだ。

そんな話で盛り上がる。

すみません、ワタクシ事でした。

 

大江さんが皆さんに僕を紹介してくれる。

「この人が、かつて 『大地を守る出版社の会』 をつくったエビちゃんです。」

すっかり忘れていた。 そうだ、そんな会をつくったことがあった。

大地も伸び盛りになって、いろんな出版社の営業を受けるようになって、

僕はただ良書を紹介して売る、というのが面白くなくて、

あるとき、出版社の方々に集まってもらって、

" 同じ思いを持った出版社であることを表現したい "  という提案をしたのだった。

今はもう取引先の数はそれどころではなく、時代も変わったけど、

「大地を守る出版社の会」 が、大江さんにとっての戎谷であることに、

僕は絶句し、静かに反省した。

 

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大江さんにエールを送っているのは、『大地を守る手帖』 を出していただいた、

築地書館の土井二郎さん。 一昨年の宇根豊さんの集まりで会って以来か。

「手帳ではお世話になりました。 けっこう (制作上) 厄介な注文だったんじゃないですか」

「いや、それはプロですから。 それに苦労したのは印刷・製本屋さんですから。

 それより、あの手帳で使った写真。 何点か大胆なのがあって気になりましたけど、

 会員さんからハレーションは起きなかったですか?」

さすが編集者である。

「ありましたよ。 違和感を感じた方からは強い拒絶反応を頂きました。

 ただあの手帳のコンセプトに統一感を持たせる以上、我々の既成感覚では手を入れない、

 ということに担当は徹したようです。 僕らの感覚であれやこれやと切り刻むと、

 本来の狙いも成果の検証も不透明になってしまうことが過去には随分とあってね。

 これも挑戦だと思ってます。 不愉快な思いをさせてしまった方には申し訳ないですが。」

隣で聞いていた女性のライターの方が、そこらへんは本当に難しいところですね、

と相槌を売ってくれて、ちょっと救われる。

 

あ、また脱線してしまった。

脱線ついでに言うと、僕は大地を守る会に就職する前は、

実はこの業界、しかも同じようにこだわりだけは強い弱小出版社にいたもんで、

いろんな人と懐かしい昔話などもできたのだった。

 

業界内では 「本が売れない」 というのが挨拶代わりなんだそうだ。

しかしそんな話は、僕がいた時からあった。

実際には、膨大な量の新刊本が発行されて、あっという間に消えてゆく様を見ていると、

「売れない本」 を作りすぎる、というほうが真実だろう。

そこには出版流通業界の危険な商慣習に依存する体質も見え隠れしている。

その洪水の中で、本当に読みたい本は駅前の本屋さんにはなかったりする。

その辺が課題だと、僕がいた頃も言われていた。

四半世紀経っても、何だかあまり変わってないようだ。

いや、それでもこいつら生き延びているんだからスゴイ、とも言える。

 

ここに来た人たちのつくった本が続々と売れていくような現象が生まれたら、

それはそれで怖い社会のような気もするしね。

だから大江さん、および志を同じくする皆さん。

貧しく、粘り強く、信念に従って、頑張ってください。

引き続き (できる範囲で) 応援しますので。

貧しい仲間同士で意地を張って生きていくのは、楽しい。 また飲みましょう。

 



2009年6月 8日

有機農業推進委員会

 

東京・九段下にある農水省の分庁舎まで出かける。

ここで農水省が主催する第4回 「全国有機農業推進委員会」 が開かれる。

大地を守る会会長の藤田が委員になっている会議だが、

この日は出られず、また代理出席の予定だった野田専務理事も出られなくなり、

代理の代理というお役目。

官庁はクールビズだろうと思ったけど、普段する機会があんまりないこちらは、

逆に気分を変えて、ネクタイを締めて行く。

 

農水省の生産局農業環境対策課や消費・安全局の方々に、

大臣官房審議官が事務局として出席し、

生産者、消費者、流通者、学者、認証団体などから選出された委員が15名。

座長は茨城大学の中島紀一教授。

埼玉県小川町の金子美登さん、茨城県八郷町の魚住道郎さん、

高知・土佐自然塾の山下一穂さん、ノンフィクション作家の島村菜津さんらの顔ぶれが並ぶ。

かつてアウトサイダーと言われ、存在さえ無視された有機農業者や我々のような団体を、

国が招いて有機農業の推進を謳う時代になった。

去年は有機JAS制度の見直しの検討委員会に出させていただいたが、

今回席に座って、顔ぶれを眺めながら、改めて時代の変化を感じさせる。

 


まずは事務局 (農水省) からの報告を聞く。

農水省が立てた有機農業推進の政策目標によれば、

平成23年までに全都道府県で推進計画が策定されることになっているが、

現時点で策定されているのは30都道県。

残りの17府県も、23年度までには策定予定で進められているとのこと。

さらに市町村レベルでは、50%以上で推進体制がつくられることを掲げているが、

23年度までに推進体制を設立する予定にあるのは、

すでに設立済みを含めて148で、全市町村の8%という厳しい数字である。

そこで農水省は新たに、有機農業推進のモデルタウン地区の増設や

技術支援の拠点整備のために2億円の予算を追加した。

 

また昨年度から始まったモデルタウン事業で助成を受けた45地区を対象に

アンケートを実施したところ、有機農業者数は18%増加。

慣行栽培からの転換は顕著に進んだが、

新規就農者の伸びは前年比+24名に留まっている。

有機栽培面積は40地区で増えたが、減少した地区が2件あった。

有機農産物の地元学校給食への導入は18件で増え(2件で減少)、

モデルタウンの一定の効果が見て取れる。

学校給食への導入推進については、第2回の検討会議で野田代理が主張している。

子どもたちに安全な食材を供給するだけでなく、食育の推進や、

地域の理解を深める、あるいは自給率の向上にもつながるものだ。

そして爆発的に増えているのが、新規参入に関する相談件数と研修参加者である。

これは今の閉塞した社会情勢も影響しているのだろう。

 

委員からの意見は多岐にわたった。

新規就農支援は、入口はできつつあるが出口が整備できていない (山下委員)。

つまり研修生を育てても、就農先が見つからない、あるいは条件の悪いところに限られる。

村の閉鎖性に縛られるなど、簡単に就農できない仕組みがある。

しかも先達が成功して地元から信頼されていることが鍵になっている、

という状態は変わっていない。

加えて、せっかく就農できても販路が見つからなくて苦しんでいる。

有機農業の技術の確立も急がれる。

各地に有機農業の普及員を養成する必要がある (魚住委員)。

 

流通側からは、有機農産物を増やせない生々しい実情が語られた。

小売店での消費動向は、安全性よりも価格、という潮流に一気に変わってきている。

外食では、品質の安定が優先だ、と。

 

僕は3つのことを主張させていただいた。

モデルタウンは有機農業団体に自治体やJAなども含めた地域での協議会の設立

が条件になっているが (たとえば千葉・山武では、さんぶ野菜ネットワークを中心に、

山武市・山武郡市農協・ワタミファーム・大地を守る会で構成されている)、

協議会を作れない個人や団体への支援の仕組みも必要ではないか。

僕がイメージするのは、喜多方市山都の小川光さんと若者たちである。

山間地に暮らし、水路 (=水源) を守り、子どもを産んで活性化の役割も果たしている。

彼らには有機農業推進事業からの助成は一切ない。

なくったってやることはやるのだが、制度の課題ではあるだろう。

 

もうひとつは、有機農業の持っている社会的価値 (外部経済) の整理が必要だ。

有機農業の拡大とともに販路が求められるが、流通・小売の現場は価格圧力が厳しい。

地域で有機農業が広がることによって支えられる価値、貢献しているものがある。

それは環境や水系の保全であったり、生物多様性の安定であったり、

食育や健康や自給力への貢献であったりする。

それらを含めての  " 値段 "  というものを、

説得力のある形で消費者に伝えられなければならないと思う。

(僕の本音は、そういう貢献が認められるものには消費税を免除しろ=その分の

 税金は消費者が負担している、なんだけど・・・まだ言えないでいる。)

 

三つ目は、遊休地 (耕作放棄地) 対策と就農支援のリンクである。

時間がなくて本意をちゃんと話せなかったが、

農水省内には、有機農業推進事業とは別に、

耕作放棄地対策、農村活性化人材育成派遣事業 (『田舎で働き隊』 事業という)、

里地環境づくり、農地・水・環境向上対策事業、などがそれぞれに動いている。

農林水産省生物多様性戦略なるものもあって、こちらは環境省が全体をとりまとめる

形になっている。

これらをもっとうまくつなげて、総合的な施策・ヴィジョンとしてまとめてはどうか

と思うのだが、いかがなものだろうか。

現状では、それぞれの部署が同じような理念を掲げて予算を奪い合っている

(結果として膨れ上がっている) としか思えないのだ。

国の財政はすっかり破綻しているというのに。

 

ついでに言えば、

経済産業省には 「農商工等連携対策支援事業」 というのがある。

その目的は、「企業と農林漁業者が有機的に連携し、それぞれの経営資源を

有効に活用して、中小企業の経営の向上および農林漁業経営の改善を図る」

というものだ。

農村の活性化や環境対策にいったい全部でいくらの税金が投入されているのだろう。

それらは本当に効果を上げているのだろうか。

 

有機農業の推進はよしだが、

使うなら最も有効な形で使ってもらいたいと願うばかりである。

 



2009年6月 7日

総会後の弱音

 

6月6日(土)、大地を守る会総会終了。

今年の活動計画・予算の承認を受け、ひとまず安堵する。

参加された会員からの質問や意見はどれも現状への苛立ちのようなものに感じられ、

私たちの課題や限界点が浮き彫りにされた一方で、

問題の根本を伝えることの難しさを感じさせてくれた。

 

エネルギー消費の大きいハウス栽培の問題。

  -CO排出を削減する栽培技術は、生産者の経営問題にとっても焦眉の課題である。

    いろんな情報を収集し、できる技術はチャレンジしてゆきたい。

フードマイレージのキャンペーンをやりながら、

(国内といえども) 遠方から野菜を運んでくるのはいかがなものか。

  -地方農業を支えているのは都市 (の胃袋) という現実がある。

    社会の仕組みを変えなければ、関東地域だけで皆さんの食卓は支えられないし、

    地方の一次産業を都市住民が支えないと、この国の環境は守れない。

    私たちが今訴えているのは、国産のものを食べようということ。

    そこからつながりを修復していきたい、というレベルなのである。

 

などなど。

東北から参加された生産者は、その夜、飲みながら僕の目を睨んで言った。

「 自給率が1%しかない東京に運んで、なおかつ 「高い」 とか言われてしまう

  俺たちの思いを、もっと伝えてくれよ。 」

右からも左からも、何から何まで求められると、心がささくれ立ってくる時もある。

正直、しんどいよ。 でも、やらないといけないのだろう。

そんな時は、弱気なセリフも出てしまう。

責めてばっかりじゃなくて、頼むよ、パワーをくれ!

 

流通者のモラルとポリシーは捨ててはいない。

いや、モラルとポリシーを持った流通は可能なのだ、ということに挑戦し続けてきた。

ニッチ (すき間) とか言われながら、年商160億レベルまで築いてきた。

それだけ食える人を増やしてきたつもりなのだが、

でもまだまだ先は長く、ムチは打たれるのだ。

もっともっと、僕たちは語り合わなければならない・・・・・

 

総会を終えたたまさかの開放感と、未達成感とで、酔い潰れる。

 



2009年6月 4日

トマトを究めよう。

 

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第3回全国施設園芸生産者会議 を開催する。

 

謹啓。

若草色の幼葉が透き通った風に吹かれるたびに色を変えていくように見えます。

毎年春は駆け足で過ぎてゆくように感じられます。

生産者の皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

金融資本主義と新自由主義がもたらした世界的不況は、

底を打ったまま新たな展望を見いだせず閉塞感の漂う時代状況が続いています。

この状況を打破する道は、従来の価値観から脱皮した新たなベクトルで

経済の枠組みを構築する必要があると思います。

そのなかで小さな希望の光を見い出しているのは第一次産業への視線です。

・・・・・

 

生産者会議の案内文は、大地を守る会理事・長谷川満が書く。

広報上がりの僕は、つい赤を入れたくなったりした時期もあったのだけど、

今はもう、彼の文調こそがいいのだと思うようになった。

長谷川さんの最初の2行は、いつも温かくて、気を込めようとする意思を感じさせる。

やっぱり大先輩なのである。

 

しかし今回は、そんな前置きとは裏腹に、けっこう厳しい。

「施設園芸」 と銘打ってはいるが、臨んだテーマはトマト一本である。

もっと美味しくて安全なトマトを作ろう。

講師は、例によって西出隆一さん。

彼の理論で土を蘇らせた生産者からは、師と呼ばれているカリスマ。

理論 (科学) である以上、誰ともまっとうな会話ができなければならない。

それができるんだから、トコトン突き止めようではないか。

「西出さんが元気なうちに吸収し切ってほしい」

なんて、藤田会長まで本人の前で挨拶する。

 


会場は福島。 受け入れ団体は福島わかば会。

全国から約60名の生産者が集まった。

 

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事前に行なわれていた視察ほ場の土壌分析値を元に、

トマトの樹の状態を観察しながら、西出氏の分析とアドバイスが語られる。

「まだ分かっとらんな、こりゃ」 などと辛口批評は相変わらずである。 

 

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細かい説明は面倒なので省くが (と言って逃げる)、

とにかくすべては理に基づいていて、なぜ病気になるのか、なぜ虫が発生するのか、

それらは微妙な栄養バランスの問題なのである。

チッソの過不足で花粉の粘性まで変わり、蜂の働きにまで影響するとか聞かされると、

もうオイラはとても農家にはなれないと思う。

 

どの世界も、プロの道は厳しい。

自分は、彼らに相応しい仕事ができているか、自問自答の世界に陥る。

そうならないヤツは、己れのプロ意識そのものが怪しい、とすら思う。

 

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生産者の皆様。

詳細はわが部署から送らせていただく 『今月のお知らせ』 での報告をお読みください。

西出さんも推奨してくれた有機農業推進室作成の 『土壌分析のすすめ』 も、

お手元にない方にはお送りしますので、お申し出ください。

 

西出さんは、具体的な病害虫に対する処方箋もテキパキと答える。

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1936(昭和11) 年、金沢の米農家に生まれる。

中学時代から農業を目指し、東京大学農学部を卒業すると同時に、

実家に戻り農業に従事する。 1988年、能登半島の穴水町に入植して今日に至る。

トマトの施設園芸の他、露地栽培ではキャベツ、ブロッコリィ、カリフラワー、大根、

白菜などを栽培するが、本人曰く、「ワシの専門は稲や」 。

 

この口の悪い、しかし誰よりも勉強したという先達を、

一回呼んでみてみようか、という方がおられたなら、名乗り上げられよ。

 

自分のまったく与り知らない事由で消費が冷え込んでいく時代にあって、

もう一歩、まだ一歩、と研鑽を重ねてくれる生産者を、有り難いと思う。

トマトという作物。 美味かったり、味が乗ってなかったり、ホントに難しいと思う。

この人たちにどうタイアップできるのか。

毒舌の西出師からは、

「あんたらのトマトを買ってくれる大地っつうところは奇特な団体や」

とか言われてしまうが、

生産者が栽培をまだまだ究めたいと励んでくれるなら、

こっちはこっちで奇特の極みまで行ってみてやろうか、とか思うのだった。

 



2009年6月 1日

「太陽の会」 の田植え -耕せるか、生物多様性

 

昨日は、5月1日の日記で紹介したNPO 「太陽の会」 の田植えの日。

千葉県佐原(現香取市) の篠塚守さんに受け入れをお願いした手前、

放っておけず、付き合うことにした。

5月に2度目の田植えだ -まあ、嫌いじゃない。

 

大学生から中学生まで、24人の若者たちが集まった。

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どういうネットワークで集まってきたのかはよく分からないけど、

実に屈託のない最近の若者ども。

生意気な口をきくかと思えば、それでいて行儀はいい。 

 


初顔合わせの人たちも多いようで、まずは輪になって自己紹介。

A大学、M大学、K大学、〇〇高校、××中学・・・・・

今年卒業して大学院を目指しているという女性もいた。

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ここでもまた秋の稲刈りまでの体験シリーズが始まった。

今回のテーマは、「 耕そう、生物多様性 」 だと。

 

4月に入ってからの依頼にもかかわらず、快く田を提供していただいた

篠塚守さん。

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1993(平成5)年、"平成の大冷害" とか言われて米パニックの起きた年、

篠塚さんは周りの方に米を配ってあげて感謝された。

それを機に、勤めを辞め専業になった。

専門でやるからには有機・無農薬でいこうと決めた、という。

有機JASの認証もいち早く取得した。

 

田植えの手ほどきをする篠塚さん。

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一列に並んで、田植えの開始。

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みんな田植えは初めてだという。

驚かされたのは、オタマジャクシを見るのも初めてという大学生がいたことだ。

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オタマジャクシやカエルに感激し、ヒルに怯え、

田んぼのヌルヌルに歓声を上げ、キャーキャー言いながら、

それでも真面目に植える青少年たち。

 

作業はスムーズに終わり、楽しくお昼を食べる。

篠塚さんの奥さんが握ってくれた黒米のおにぎりの美味しかったこと。

ご馳走様でした。

 

さて第二部は、みんなで感想を出し合い、

篠塚先生のお話を聞く。

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田植えもオタマジャクシも初めてという若者たちが、

生物多様性や減反や自給率についての質問をしてくるんだから、面白い。

 

たくさんの生き物のつながりが暮らしの基盤である環境を支え、食料生産を安定させます。

有機農業の思想と技術は、食の安全から環境、そして生物多様性を育むものとして

発展してきました。 それは害虫を " 有害な (殺してよい・無用な) 虫 " でなくさせる

 「平和の思想」 でもあるのです。

 - とついつい自分も得意の一席をぶってしまう。

でも事務局長の岩切勝平くんも喜んでくれたので、よかったことにしたい。

 

「ここの集落でも、専業農家は2軒になっちゃった」

地域の高齢化を心配する篠塚さん。

たった1時間弱の農作業に感激して、「ワタシ、農家の人と結婚したい!」

などと能天気に気勢を上げる女子学生たちを眺め、嬉しそうに笑ってくれた。

農家と結婚するかどうかは別として、

やっぱり若いうちのこういう体験は、ゼッタイ必要なことなのだ。

食と農業と環境のつながりを、ちょっとでもいいから体で感じてもらう。

改めて篠塚さんに感謝する。

 

話し合いのあと、今日感じたことを、絵日記に描く。

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テレることなく、取り組む。

 

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みんななかなか上手なんで、感心してしまう。

 

次は田んぼの生物多様性をもっと実感できる、

草取りと生き物調査だよ。

植えてしまった以上は、最後まで責任を持つこと。

 

さあ、君たちに耕せるか、生物多様性という世界を。

 

 



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